一番広い部屋に、一番長く住んでいる住人がいるらしい。
四人目はどうしているのか? 二人は探りに向かいます。
「雄太郎さ〜ん!」
部屋からは無反応。住人・雄太郎はちや子が苦手だから、と圭介は推察します。けど、ちや子は、圭介のことも苦手だという。同じ男として劣等感を刺激されるらしい。めんどくさすぎる。
そこへ喜美子が、洗濯物があるかどうか二人に聞いてきます。
ここで、喜美子に向けて謎の男が紹介されます。
田中雄太郎――元市役所職員で、閉じこもりきりの男らしい。
ご飯も食べたり、食べなかったり。
喜美子が挨拶しますが、返事はない。
ちや子は、あの淀川溺死体だったら……洒落にならんと言います。
朝から溺死体連発……本作の作風、どないなっとんねん!
変わったことをする人だとちや子が言うと、圭介がちや子には言われたくないとボソリと突っ込んでおります。
荒木荘は濃いんだなぁ。
喜美子は慌てて雄太郎に呼びかけます。ここで、襖が開きます。
「おはようございますぅ〜」
メガネの男が顔を出しました。
そしてすぐに部屋の中へ顔を移すと。
「兄さ〜ん? 兄さん、呼んではる」
弟がいるのか。
って、ええの?
弟がずっとここにいるの?
別の男が顔を出します。
「うっす、おお、うっす。雄太郎、お前も挨拶しい。三つ子、うん、うん」
この先、一人がぐずぐずせんと、と急かす声がする。
「殴らんといてぇ!」
そう訴える泣き声がある。女の声までしてくる。どういうこっちゃ!
「どうも、田中雄太郎です」
ちょっとどころか、かなり変わった人、雄太郎。
カツラをつけて笑いを取ります。
「あははははっ、楽し〜!」
喜美子はからかわれたというか、変人行為に巻き込まれても笑い転げます。
驚かないし、怒らない。ええ反応や。相性が良さそうではあります。
でも、一体、田中雄太郎が何なのかわからへん。
演じるのは大阪出身・TKOの木本武宏さん。
お笑いと俳優兼任の関西出身者にとって、このドラマは次なるステップになっていそうです。熱い目線を送っている方がひしめいているのでは? すごいことになってきました。
衣装やメイクスタッフの頑張りもあるのでしょうが、木本さんは昭和のおっちゃんぽさが出ていて実に味があります。楽しみですね。
荒木荘の一日
そんな喜美子の荒木荘での暮らしとは?
荒木荘の朝は早い。
慣れないうちは四時半起床。
それから表の掃き掃除。お廊下の掃き掃除。ホウキは場所やゴミによって使い分けること。
このあたりで大久保がやって来ます。
米を研ぐ。
朝ごはんを作る。
「ちゃちゃっと炊きなはんかいな」
そう言われつつ、喜美子は奮闘します。
この大久保を演じる三林京子さんは、いつも綺麗かついらちな、極上の関西弁を聞かせてくれます。
荒木荘の下宿人は起床時間も出発時間も違います。
頼まれたらお弁当も作る。
そして見送る。
ここで八百屋さんが出てきます。
筍があるというのがいい。春ですね。こういう野菜で季節感を出してこそ。
この手の買い物、御用聞き対応もこなす。
御用聞きとは?
今はすっかり見なくなりましたが、かつては商店が得意先の注文を聞いて回ったのです。『サザエさん』の三河屋さんが典型例ですね。
洗濯は家族ではないので、分けること。
よくわからない時間に起きてくる、そんな雄太郎相手にも食事の用意。私生活詮索は遠慮しなければなりません。
雄太郎が気になるのに、おあずけってことですか!
冷たくなったご飯は、蒸し器で温め直す。
これも面白い。今はレンジでチンですが、かつては手間がかかったのです。
さらには夕ご飯もバラバラ。
好みも違う。その都度用意する。
合間に自分のご飯ですが……。
本作は料理担当者もがんばっております。
味噌の色がちゃんと関西の色! 関東とは違うのです。
どこがどうかと指摘は難しいのですが、関東とは違う、関西の食卓だとチラッと見ても伝わってくるのです。
こういうなにげない家庭料理って、実は難易度が高いかもしれない。
宴会のものならば、記録に残っているもの。ところが、なにげないものだとそうでもない。
さて、そんな生活の中。
覚えること、考えることいっぱいあって、自由時間はほぼない。
ほっとするのは、寝るまえのひととき。
初めてのハガキに、きみちゃんはこう書きました。
「お母ちゃん、楽しいで〜!」
右肩あがりや! もう期待しかない本作
毎朝毎朝、デイリースポーツが阪神を応援するように、熱心に『スカーレット』を応援して来た気がする……すんません、デイリーさんにかなうわけがあらへん。
まぁそれはさておき、個人的に本作のことは猛烈にプッシュしてきました。
だっておもしろいもの。
ちょっと潮目が上向きになってきたかもしれません。
視聴率もあがってきたようだし、記事や感想も反応が良くなってきた気がします。
やったー!
今日だけでも、ものすごくいいネタの宝庫でしたよね。
大阪の人にとって、母なる流れである淀川に溺死体を浮かべて、そのネタで引っ張るわ。
やたらと濃い雄太郎だの。
ツンデレという生易しさではない、大久保の反応だの。
ものすごく開き直って、気取らずに大阪のええところを出してきた気がする。
それでもやっぱり照れていて、感動しそうなことをドーンと前には出せないんやね。
昨日と今日の、大久保シャドウワークがらみのセリフは、ものすごく重要かつ感動的で、意欲あるものでした。
それでもBGMはしっとりとしつつも控えめだし、照れていてボケたような演出もあるし、ベタな感動からするっと逃げるややこしさがある。
BGMも面白いんですよね。
柔道の組討ちでエレキギターをがーっとかけるのに、ああいう感動的なところは控えめ。押し付けがましさがないのです。
本作はおもろくてややこしい。
セリフが多いということだけでなくて、するっと照れて逃げるようなところがあるから、つかみにくいとは思う。
うまく追いつけない。けれども、関西の魅力そのもののようなところがある。
得難いドラマを、NHK大阪が作るようです。
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
スカーレット/公式サイト
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