ジョーは、『なつぞら』の泰樹みたいにかっこいいことをビシッと言えないし、剛男ほど素直でもない。
不器用でアホ。だからこそええ。
そういう哀愁の電話でした。
照子様、偽りの笑顔
それからすぐ、信楽から手紙が届きます。
照子様からです。分厚いじゃないですか。
中身は、いかに楽しい高校生活か、自慢するものでした。
便箋も凝ってる。小道具担当者さんが頑張ってますね。
照子のリア充アピールです。楽しいという文字が36個もありました。かえって嘘くさいな。
照子らしい。そう微笑む喜美子です。
写真も同封されています。わざとらしいほどドヤ顔スマイルや。当時の写真は、もっとおすまししたものが多いと思う。何か、おかしいぞ。
はい、ここで写真撮影秘話へ。大島優子さんがかわいい昭和の高校生だぞ。
そして信作の、諦めたような声音がいい。
「はい……はい……」
林遣都さんって、こういう暗いニュアンスがあるところで本領発揮するかも。いい味が出ています。
目を瞑ったからもう一回撮れだの、わざとらしいポーズをつけて、シャッターを切らせる照子様。現像も信作担当かな。うん、そやろな……。
「笑うほど楽しい高校生活け? 偽りの笑顔や」
信作が文学青年ぽいセンスでそう言います。
おう照子様、やっぱり友達おらんのか。
ナゼここまで演出するの?
どうやら照子は、喜美子に謎の対抗心を持っているようです。
友達でもない人に声をかけて、演出写真まで撮る照子様。パァ〜。そう指示を出しています。信作は、心の底から悟り切った顔なのでした。
信楽の反応がめんどくさい。直子と照子、謎の対抗心を燃やす。
楽しいと言われて、喜ぶどころかなんだかわからん反応をする。なんでや。
陶器のかけらで一儲けや
ここで喜美子は、じっと荒れた指を見つめます。
楽しいといっても、辛くないわけじゃない。
そこへちや子が帰宅。喜美子がお茶漬けを出すと言います。
淀川の溺死体事件で今日も遅くなったようです。
そんなちや子は、写真を見つけて、カメラがあるのかと驚きます。
同級生のカメラだと喜美子が説明します。
「見てもええ?」
許可を取ってから見始めるちや子。
照子の演出した、偽りの楽しい高校生活を眺めています。
喜美子はここで、ラジオはあると言い出します。カメラはないけど、ラジオはあるのだと。そこで喜美子は、対抗心に気づいて「すみません」と謝ります。
淀川の溺死体は身元が判明したそうです。
小さい子もいる男性が、酔っ払って転落死したとか。喜美子は、よく酒を飲む自分の父も気をつけなければと言います。
ちや子は、その父が大阪に出た理由に関係あるのかと推測。
「うち商売やってて、妹も二人いて大変なんで。それに女に学問は必要ないて」
「ひどいなそれ。ごめんな」
ちや子は思わずそう返してから、父を貶したことを謝ります。
女性新聞記者のちや子。理解ある家庭の出なのか、反発してでもやりたいことを貫いたのか。
いずれにせよ、彼女からすればそうなるのでしょう。
「うちはほんまは信楽にいたかった、ほやけどしょうがない」
喜美子は笑います。
最後は納得して来た。旅のお供も連れて。そう自慢げでもあります。
好奇心旺盛なちや子に、そのお供を見せる喜美子です。秘密主義ではないのです。
「これです」
「へえ〜、これがそう」
「夕日が綺麗なところで見つけました」
「綺麗な色やな。信楽焼か?」
ここまではいい。感動的です。
さあしっとりしたBGM流して、戸田恵梨香さんをアップにして、感動的なセリフを入れるんやで。ちょうどそろそろ13分頃やな。
ところが、そうはならないのです。喜美子はちや子の知識に興味を持つのです。
「いっぺんうちの上司に頼んで見てもらうか」
ちや子としては、金銭面よりも歴史的な価値を見出したのかもしれませんが。暇な時に会社で上司に見てもらおうと言い出すわけです。
そんなもん喜美子に通じるはずもなく……。
「お金になるいうことですか?」
「わからんで。けどまあ、ただのかけらかもしれん。えらい価値があるかもしれんし、ないかもしれんし」
ちや子は一応牽制する。
が、喜美子は止まりません。
「ええんですか? えらい価値あったらどないしょ! これ見てください。光に当てると、ほら〜!」
「綺麗やね〜」
「いや〜どないしょ! なんぼるするんやろ? うわ〜これがひぃ〜!」
ええんかこれ?
価値があるのか、ないのか。喜美子が焼き物は金になると覚醒したらしたで、おもろいとは思うけれども。
流石に高額獲得は、厳しいのではないかと思う。
価値がないわけではない。陶片を技術進歩関連を示すものとして保存する美術館もありますが、はたして。
喜美子の陶芸家ロードは、まだまだこれからなんや
本作はめんどくさい。
素直じゃないというか、あげて落とすというか。
大久保がただのイビリ役だと思う人は、もういないはず。
若い女に嫉妬してネチネチいじめて受け狙いをする、そういう悪しき慣習を破ったのだと思います。本作は女性の内田CPが前面に出ております。気持ちはわかる!
「泉ピン子さんの嫁いじめで視聴率固いでぇ〜」(『マッサン』)
みたいな流れに、イライラしていたのかもしれへん。
せやのうて、女性同士の絆を描きたいのかもしれへん。
大久保は「鉄馬の女」(※『マッドマックス怒りのデスロード』で主人公を助ける女性集団)系の猛者です。
ハガキも予想外だった。
届いたら、マツや陽子の反応でいいと思う。それを、直子と照子暴走であげて落とす。
照子は喜美子がいなくても明るく生きていてよさそうなのに。
救うのがイケメン信作でもええのに。
そう素直じゃない。
ジョーもアップダウンが激しい。
飯を食わせる気前の良さ。酔い潰れる残念さを経て、不器用な父親ぶりで泣かせるという。
ここまで連日酔態をさらす朝ドラ父も珍しいと思いますが、これが魅力的なんだからどうしようもない。
喜美子自身も濃くて負けてへん。
あのカケラを拾ったときの表情は美しくて、本作でも重要な場面だと思います。
それなのに、嗚呼、それなのに……あのかけらが、金に見えてくるというしょうもない現金さ。
慶乃川のことと、草間流柔道で精神の目覚めをしたものの、まだまだ途中です。
ここまで芸術より金でギラギラしている喜美子が、いかにして陶芸家になるのか?
成長途上ゆえに伸びしろも大きい――そんな彼女を見守りたいと思います。
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
スカーレット/公式サイト
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