・何あんな怖い声音&暗い顔しとんねん!
→無駄に心理的な打撃を与えとるやろ。誤解を招きかねんし。ジョーが生きていなくてよかったかもしれん。
・実家「サニー」でプロポーズて、お前……。
→草津の映画館帰りに、ちょっとええ店で奮発しての流れでは、あかんのか?
・指輪も、花束すらないて、お前……。
→まあ、もう、ええんちゃうか。期待せんよ。
こんなん、どんなに顔グラよくても、乙女ゲーならバグキャラやぞ!!
※比較例
ハッピーエンドで、ほっこり癒されたという感想は、想像できるんですけれども。
でも、おかしいとは思いませんか?
百戦錬磨のプロ脚本家なのに、このロマンチックの真逆を突っ走る、不器用セリフとシチュエーション。それに、この無駄な心理的な打撃を与えかねない、信作のよくわからん罠。
敢えてロマンチックの真逆を暴走させていること。これは把握しておきたい!
一応、信作の思考回路を考えてみました。
喜美子のあの言葉、俺の覚悟をみせなあかん! 多数決でええんか? いかんでしょ
↓
あーでも緊張する! まあええ、呼び出したろ!(緊張しすぎて暗い声音)
↓
よっしゃ、ここで決めたる! 三回言って覚悟を見せる。理由もきっちりまとめる!
信作はズレていてめんどくさいだけで、悪い奴ではない。
このズレとめんどくささに、耐え切れるかどうか。そこやで!!
喜美子は、もらわない女
武志が工房にやってきます。
靴下の点検です。喜美子はもう寝ていたと言い、武志は寝ると言っています。
喜美子は手を洗ってから、靴下検品開始です。今度はちゃんとできとるで!
「おおっ! おおっ! よし、ようできたやん、すごいなあ!」
「ほんま?」
「ようできてる。最後まで上手にがんばりました」
「3箇所、全部で36円になります!」
「計算もできてる。合うてる! はい、大事に使て」
ここで母子の明朗会計やで。
本作は、背景にいるだけの人ですら、算盤を弾いてきっちり値段交渉をしておりました。
特殊詐欺被害にもあいにくい、商人のまち・大阪の誇りを感じるで! 幼いころから明朗会系や。NHK大阪らしいなあ。
※大阪府警も認める、関西のおばちゃんパワーや
武志は、お母ちゃんもできたのか?と聞いてきます。
型作りはな。そう喜美子が答えると……。
「次はゆうやくやな!」
「よう知ってるなぁ〜」
喜美子が関心していると「そらそうや!」と武志は元気よく答えます。親の仕事を見て、覚えているわけです。このやりとりからするに、教えたわけではなく勝手に覚えたのでしょう。
「釉薬、何がええかな」
喜美子がこうつぶやくと、こう帰ってきます。
「お父ちゃんに聞いたらええやん」
「お父ちゃんに聞いてもわからんやん」
「同じ陶芸家で、ほんでなかよしやん。なかよしちゃうのん?」
喜美子はハッとした顔になって、こう返します。
「なかよしの夫婦やけどな? お父ちゃんとお母ちゃんは、同じやのうて。お父ちゃんの作品はお父ちゃんの作品。お母ちゃんの作品は、お母ちゃんの作品や。わかった?」
まあ、わかった。武志はそう答えます。
喜美子はもう遅いから寝ると言い、片付けるのを手伝ってくれるよう頼むのです。
三津は、ここには不在です。
ゆらぐ心
さて、三津は?
もう寝る前。寝室で百合子と語り合っています。百合子は友情に感謝しつつ、自分も蹴飛ばしに行くかと語り出します。
うーん、なんやこの、本作女子衆武力と団結力の高さは。そういえば信作のハンドバッグ殴打も、仲間から加勢されていたっけ。
百合子は自分の結婚が破談でないことに、ホッとしております。それをふまえて、内山田さんだが、川崎さんだか、蹴り飛ばしに行くって。
「誰?」
三津はわかってない。
寝言を聞かれたのかな?
百合子の同僚や友人の話と混同したのかな?
「ヒロシさん! ヒロシさんや!」
百合子は思い出す。みっちゃんが前に付き合っていた人。さそり座のヒロシやな。
「もう忘れました。思い出すこともなくなりました」
三津はキッパリとそう言う。
嘘かな?
本当かな?
作中でも言っていませんし、百合子がなかなか出てこなかったということは、確かに口にしなくなった可能性は考えられます。
「蹴飛ばしたい人いいひんの?」
ここで、ちょっと三津の顔が強張る。ほんの少し、そうなる。
「あはっ、いません!」
「誰も気になる人いいひんの?」
「修行しに来ているんですよ!」
三津はそう返しますが、信じてよいものやら。
ヒロシでなくて、今は彼のことが気になる。あんなに頼んでも、銀座に同行させてくれないそんな彼を、ちょっと蹴り飛ばしたい。
気になる人は、いる。いやいや、修行しに来ているのに――。そう自分を説得しているような、そこには揺らぎがあるような。
喜美子の頼まれた絵付け小皿は、順調に完成に向かっています。
明日、東京に行っていた八郎が帰ってきます。
心が変わった人たちのもとへ、帰ってくるのです。
作品も、誇りも、自慢も、覚悟も、喜美子自身のもの
同じものをつくる。
一人で、つくる。
本作は陶芸家というテーマの時点で、明確に独特のものがある。
『半分、青い。』のスパロウリズムによる扇風機にせよ。
『なつぞら』のマコプロによる『大草原の少女 ソラ』にせよ。
役割分担があって、チームで作るものでした。
それが今回は異なる。
同じ分野に夫婦がいると、どうなるか?
実は『なつぞら』では、モデルとなった中に結婚後引退した女性アニメーターも含まれております。
NHK内部では、そこをふまえている。『なつぞら』はそこを回避し、『スカーレット』は突っ込んでゆくのでしょう。
何その、朝ドラ枠で『ゲーム・オブ・スローンズ』。あるいは『天才小説家の妻』?
喜美子は、釉薬も、感情も、夫からはもらわない。
もらい笑いももらい泣きもしない。年間トータルゼロや。そんな喜美子がすごい。作り手もすごい。
喜美子の誇りと自慢と覚悟は、喜美子自身のもんや。
喜美子がそう思えばこそ、鈍感か敏感かようわからん信作も、己の覚悟と向き合ったんやな。
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
スカーレット/公式サイト
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