咲太郎のツテで借りたアパートの押入れ。
籠城戦のごとくうずくまる雪次郎は、雪月三人衆に包囲され、絶体絶命のピンチに陥っていた――。
【東:雪月軍 10万】
総大将:とよババア(徳川家康)
猛将:雪之助(本多忠勝)
知将:妙子(本多正信)
そんな有働由美子アナの脳内ナレーションを聞いてから、ドラマの始まりです。
心の飢餓感をどうすればいい?
「黙って出て行ってすいませんでした!」
そう謝るしかない雪次郎。
「すぐ行くべ!」
すかさず父の雪之助が厳しい表情を浮かべます。
「どこに行くんだ?」
「川村屋に決まってる、挨拶しないといかんべ!」
急かす雪之助に対し、雪次郎は落ち着いたら行こうと思っていたと、言うわけですが。
「すぐ行くのが筋だ!」
続いてとよも迫ります。
うーん、この圧倒的な迫力よ。
これも北海道開拓民一世の強さかな。グズグズしていたらいけない世界ですからね。
しかし、雪次郎は訴えるのです。
やりたいことに気づいた、自分の気持ちに素直になった。
そう切々と語るのですが、雪之助からすれば【道を踏み外しただけ】ということになります。
とよも言います。
「役者で食べていけるか!」
これも一般的な説得とはいえ、開拓民一世の言葉だと思うと、重みがあります。
酷寒の地での開拓は、一歩間違えれば生きていけない。食べるものがあることが、どれほど大事なことか。
世代格差なのでしょう。
雪次郎は訴えます。
腹が減ることよりも、我慢する方が辛い。そういうこともあるのだと。
そして雪之助の一喝!
「我慢が足りないだけだ!」
辛いのか、そうでないのか。
その二択以外の、求める心。そんな第三の選択肢がわからない――それが父なのでしょう。
家ではなくて、自分のことを考えたと雪次郎は言います。
店(雪月)も、川村屋も好きだ。でも、それだけじゃない。やりたいことがある。
そう切々と語る雪次郎を、咲太郎は「がんばれ!」と応援します。
「一度だけ、チャンスが欲しい! 自分だけの夢を、追わせて欲しい!」
「よしわかった!」
おっ、雪之助にも通じたのか?
「無理してでも、連れてくべ」
こうして雪之助は、その高い武力を用いる猛将ぶりを発揮するのでした。
たまらず知将・妙子はじめ、周囲が止めに入ります。
なんとか武力ではなく、説得で解決しそうではあるのですが、
「とりあえず、行くべよ」
で、いったんは小康状態。
かくして雪次郎を確保した雪月三人衆は川村屋に向かうのである――。
と、武力解決っぽい流れですが、雪月三人衆の心情も複雑なものがあり、かつ一枚岩でもないのでしょう。
妙子は賢い。
ジッと考えて黙っている時と、はっきりと進言する切り替えがあります。
妙子が何も思わなかったはずもないのです。
それは、母ゆえの優しさとは限りません。
知将ゆえの洞察なんじゃああ!
迷惑かけてもいいじゃねえかと開き直る奴
「申し訳ありませんでした!」
「日曜日の忙しい時に、すみません!」
雪次郎を引き連れた雪月三人衆は頭を下げます。
日曜が忙しいと断るあたり、飲食店経営者らしい気遣いです。
それを職長・杉本はじめ、じっと見つめています。
「お願いがあります、根性を入れ替えるまで、この店に置いてやってください!」
そう雪之助は言い切りました。
しかも、彼も落ち着くまで無給で働くと言うのです。逃亡阻止のためのお目付役ですね。
「マダム、どうか許してください!」
父子で働く――そう言い出す雪之助を、なつと咲太郎も見守るしかありません。
その後、店にいる二人を見かけ、マダムは咲太郎にきつい嫌味を言います。
「あちこちで話をこじらせるのが趣味?」
「うるせえ」
野上がそんなマダムにこう言います。
「反省したら、誰もこんな苦労しません」
この発言は、野上が以前、【マダムと咲太郎は実は似た者同士】と分析したことをふまえると、味わい深いものがあります。
ここで、妙子が弱ったような声で、とよに訴えるのです。
「お義母さん、これからどうしたらいいんですかね」
「情けない声出すな。様子を見に行く!」
決断が早い総大将は、さっさと席を立ってしまいます。
なつも後を追いかけます。
暗い顔をした妙子に、咲太郎は謝るしかありません。
咲太郎は、別に根性が悪いわけじゃない。
マダムや野上のように、挑発的なことをされると突っ張ってしまうけれども。弱っている妙子を責めるほど、悪い奴じゃない。
妙子はむしろ、こう言うのです。
「雪次郎の味方になってくれて、ありがとう……」
とよは妙子には男を見る目がないと言いましたが、いやいや、どうでしょうか。
彼女なりに観察して、そんな咲太郎の優しさと、雪次郎の思いを理解しようと思っているのかもしれません。
ここは私に任せておきな
雪次郎は、厨房ですすり泣きながら仕事をしていました。
とよは孫の姿を見て、こう言い切るのです。
「雪次郎、もう行きな」
そして孫に歩み寄ると、手のひらでその顔を包みます。
「もう二度と、戻ってくるんでないよ。決めたなら、その覚悟を貫け!」
「ばあちゃん、ごめん」
「駄目だ、戻れ!」
雪之助が止めに入ると、今度はその手で息子の頬を叩きます。
「自分の子に、惨めな思いをさせるんでないわ!」
「母ちゃん……ぶつなや」
あの雪之助ですら、そう言うのが精一杯。
そして母子は、雪月の店員たちにお騒がせしましたと謝るのでした。
最強の祖母に励まされ、雪次郎は新宿の街へと飛び出していきます。
※続きは次ページへ
このレビュー、いつも得心しながら見てますが、板場の見立てだけはしっくりきません。彼ほどの計算高さがあれば、どんなに間違っても秋風さんにはならないと思うんですよね。なつの天然と板場の理性(それでいてアニメで何かを表現しようとする方向性は同じ)は、最初のすりあわせに時間を要するとはいえベストな相性だと私は感じます。これからの展開を楽しみにしてます。
毎回存分に楽しんでいるなつぞらファンの一人として、今日は一点だけ苦言を言わせてほしいです。それは北海道と東京の距離感が無さ過ぎるのを私がいつも感じて引っかかる点です。
昭和30年代、北海道は本当にはるかな遠隔の地。しかも札幌ではなく帯広のさらに奥の村だ。まず東京から青森までが夜行列車で長い旅。(庶民は3段ベッド!の時代ですよ)そして津軽海峡冬景色に歌われる通り連絡船に数時間揺られ、函館からさらにまた長い長い列車の旅。片道の旅程を終えてようやく到着した時の疲労感を想像してみて下さい。
しかし本作で東京に着いた柴田牧場の村や帯広の人々のケロッとした姿は、現代の新千歳から羽田に1時間強で飛んで来た人の姿そのまま。昭和感が無さ過ぎです。
本作の登場人物はみんなスーパー元気人間ばかりだから長旅の疲れなんか見せない、というわけですか?いやいや、たとえ人間の中身はそうであっても、衣服や頭髪にくたびれ感が必ず出る時代なはずですよ。現在のように着いてすぐ簡単にシャワーが浴びれるわけじゃなかったんだし。
時代考証のスペシャリストの方々は、街の風景や小道具には細部までとことん精通していても、私の指摘するこういう面は意外に盲点になってるんじゃないでしょうか。いかがでしょう皆さん。
新宿の表通りを駆け出していく雪次郎…
おおっとアブねえ! また「幽霊電車」が写り込むところだった!
やっと写さないようになった。
少しは学んだようだな。
いつもドラマと同時にこちらのレビューを拝見させていただいて楽しんでます。
本日の回を見て、改めてこの脚本家はすごいなあと思いました。
まあ、私が勝手にそんな風に感じたのかもしれませんが。
雪次郎の芝居に対する思いとそれを止める雪之助。
幸之助演ずる安田顕さんは大学卒業後一旦会社員になってそれを辞めて芝居に復帰したと聞いてます。多分家族にも反対されて雪次郎のような気持ちでいたんじゃないかと。その彼に芝居を辞めさせようとするセリフをいわせた。
また、とよばあちゃんの高畑淳子さんはかつて息子も同業でした。当時はかなり推していたと思います。いろいろやらかしましたが、彼女はかなりフォローしてました。
今日の幸之助と雪次郎のような感じだったと思います。そしてあのとよばあちゃんのセリフ。
以前の話では裏方の仕事がどれほど大事かというなつのセリフがありました。
広瀬すずさんは以前バラエティ番組で裏方をディスったことを言ってしまって炎上したことがありました。
上記の事がそんなことを踏まえてのシーンや、あえて役者に言わせてるセリフだと思って見ていると、この脚本家はすごいって思ってしまいます。