まずは親の許可を取ること
その夜、絵の練習をしている喜美子に、マツがお礼を言いに来ます。
マツやジョーが行くよりもええ解決法だと感謝しているのです。
喜美子は、草間さんやったら安心できる、直子を任せてくださいと言っていたと伝えます。
ほんまにええ人、頼りになる人や!
元はと言えばジョーカスが闇市で助けたのがキッカケだったんやな……。
喜美子は、手が怠けぬように絵を練習しているとマツに説明します。試作品ができたことも嬉しそうに言います。
初めてのデザインにマツは喜び、もらえるか、安く買えないのかと聞いてきます。
ここで喜美子は、お父ちゃんが絵付け火鉢なんていらん言うやろと却下します。
ジョー……哀しいなぁ。
ジョーはほんまに哀しい。男の意地と誇りのせいで、荒木荘に電話しても無言、切った後で泣くしかない。
マスコットガールの記事も、娘が自ら見せには来ない。
娘の火鉢も買えない。
アホやなぁ、もう……。
情けないと言われると自虐的ながら、妻子と交流し愛される――そんな『なつぞら』柴田剛男とどこで差がついたのか。教育、性格の違いやろか。
ここで喜美子は切り出します。
朝二時間早く、夕二時間遅く帰って来てもええ?
自分の作品を作る十代田さんから習いたい。
面白そうだし、興味湧いてきた。陶芸を学びたい。修行というか見ていたい。今日もそうしてきた。お願いしてみる。
そう言います。その上で奥深い理由も付け加えます。
絵付け火鉢がいつまであるかわからん。絵付け以外も学んで考えていこうと思っている。自分の世界を広げたい!
「あかん?」
「あかんことないよ!」
はい、役立つ関西弁の【あかん】用法ですね。
マツはうちで手が掛かるのはお父ちゃんだけと小声で言います。すでに百合子も立派に育ちました。
「身につくまで何年かかるかわからへんし、つくかもわからん」
喜美子はそう言う。
マツは相手がどんな人か気になる。
「感じのええ人!」
喜美子はそう断言するのです。
学ぶことを八郎に聞いたのか? そこはちょっと引っかかりますが……喜美子は変わることを怖がらないし、学び続けることにしたんですね。
あの歳になっても弟子入りする――そんなフカ先生から、変化を恐れない気持ちを受け継いだのです。
勉強も大好き。
これは幼い頃からそうです。
大発明やビジネスのネタを、差し入れのアンズだの、妻の天ぷらだの、偶然ホテルで見かけたシュリンプカクテルだの、生前葬だの、そうやってテキトーに思いつく。
昨年の放送事故のことやけども、そんなネタばかり繰り返していると、作り手がお勉強大嫌い、企業神話も嘘だとバレるんやで。気ぃつけてな!
強すぎてたまりません! 交際待ったなし!
そして翌朝。
商品開発室には、セーターを着た八郎がおります。
すっかり秋も深まりましたね。本作は服装や細やかなセリフ、小道具やセットで季節の流れを丁寧に演出します。
八郎は、あのカスから作った人形を見ています。
「これでようやく……」
「生き返った!」
喜美子とのそんな会話を思い出しつつ、顔が緩んできます。
うふふ。微笑みながら手に取って、そっと置くのです。
おっ、それが恋やで、八郎!
ここで戸が開き、その喜美子が来ているのです。
「おはようございます!」
ギョッとする八郎。
嬉しそうじゃない!
なんでや、むしろ困っとる!
喜美子はハキハキと説明します。
今日もええですか。今日から毎日見させてもらおうかと思て。図々しいとはわかってる。邪魔せんようにする。
八郎はここでオタオタしてしまう。
「困ります、あきません、あかんのです」
「なんで? なんで?」
「堪忍してください!」
喜美子はこうだ。
「あ、またこんな目してみてきましょうか」
喜美子のギャグは相手へのリラックス効果を狙っているんですね。それでもオタオタしているので、若社長には自分から断ると言うわけです。
「そんなんされたら余計や!」
なにがあかんの? 喜美子はズバリと聞く。
八郎は困惑しつつ返します。
「朝夕、毎日二時間、二人きり。そんなん何て言われるか。周りに知られたら何言われるかわかりませんよ!」
あ、八郎よ。信作から世間の反応を勉強したんやろなぁ。
信作と八郎は初対面で会話が途切れており、どうやって接近したのか気になるところです。
不器用な八郎は、むしろお酒が少し入ったくらいで、一般人レベルになれるのかもしれへんね。そういう酒はよいものです。ジョーは弾けすぎやけども。
喜美子はここでこうこぼします。がっかり、って。
「いま、がっかり言いましたね!」
「何、怒ってんねん」
「怒っているのはそっちです、がっかりしてんのそっち!」
松下洸平さんの演技がものすごくて、ムッとした顔に見えるのです。
これも難しくて、
【怒っているようだけれども、自分で自分の感情が把握できなくなっている】
状態だと思います。
感情がキャパオーバーしてオロオロする。マスコットガールミッコー記事でもそうなっていました。それで反省はしたけれど、繰り返してしまうと。
近年の朝ドラで、感情がキャパオーバーする人物描写は出てきます。
ジョーのちゃぶ台返し。昨年の放送事故ヒロイン夫は、周囲への威圧と影響を踏まえつつキレ散らかす感じ。
一方で、二人きりの場でよくわからんキレ方をするタイプは違うのです。
八郎の場合、ここでパニックを起こしてオタオタしても、交換を抱いている喜美子へのマイナスだけでよいことはありません。
喜美子はストレートにぶつけてきました。
信作とはハチと呼び合うのに。いつまでたっても、何回も会うてようさんおしゃべりしてんのに、そうならない。男と女ということ?
八郎は困惑しつつ返します。
「僕にとって川原さんは女や、今までも、これからもずっと! 僕はつきおうてもない人のことを、気軽に名前では呼べません! そういう古臭いところあるんです! 喜美子なんて、呼びとうても呼ばれへん!」
「ほな、つきあったらええやん。喜美子呼んで、付き合ってください」
ピアノが響く中、きみちゃんの豪速球です。
鳴かぬなら 鳴かせてみせよう 不如帰
そんな大阪らしさを炸裂させるヒロイン、喜美子ぉぉぉぉおおおお!
強すぎてたまりません!
交際待ったなし!
これぞNHK大阪渾身のヒロイン像、女太閤記や!
きみちゃんは王子様だからさ……
『なつぞら』でも指摘した気がする。
【女がすれば当たり前のことを、男がすると革新的になる】
【男がすればちょっとすごいことを、女がすればものすごいことになる】
剛男は富士子が渋る娘の大学進学を応援する。
雪次郎は夕見子にお菓子を作るという。
イッキュウさんは家事育児をして働くなつを支える。
なつは作画監督、マコはマコプロ社長になる。
これは『スカーレット』でも健在でした。当たり前のガチガチした、カリカチュアライズされた男女像の中でやるからこそ、よりギラついているかもしれない。
恋愛において、今日は踏み込ました。
壁ドンもしたし、今日は交際待ったなし宣言。
これが男女逆だとありそうじゃないですか?
「怒ってへんよ……ええから、俺とつきあえって」
俺様系とかドS系とか。
そういう呼ばれ方して、ヒロインを壁ドンしてませんか?
喜美子は意図的に、
【男女双方あるのに、男特有とされる要素を持つヒロイン】
であるとは思っていました。照子への態度の時点で、そういう王子様ぽさはあった。
【きみちゃんは王子様やん!】
・力強いで! 武力高いで! いきなりホウキという武器を持ち出す!
・知略も高い! 解決脳や!
・信楽のプリンセス照子にとって、ファーストキッス相手や!(本人の意図ではないにせよ)
・第8週の人物紹介写真から、腕組みしとるで!
→『なつぞら』のマコも腕組みをよくしていましたが、自信があって男性的とされる典型的なポーズです。
・おっ、これはええアルトや!
→戸田恵梨香さんのアルトは、むしろ意図的になんでしょうね。
なるほど。
いけないことも、壁ドンも、狙って逆転効果を演出しているのかも。手強い作品やな!
女が演じる王子様ね。これも関西の特色や。
関西いうたら、そら、宝塚よ。これはもう、伝統ですわ。
【性的同意】は大事
といっても、ドSで唐突というだけでもなくて。
喜美子なりに根回しというか準備はしております。
【きみちゃん、距離を縮めるで作戦】
・あの裁縫。交際相手おらんし独居やな
・信楽の産業構造が変わる、そのために陶芸を習う。そういう理由もあるしな
・信作調査済み、お母ちゃん経由で家庭内対策もできとるし
・信作と呼び合ってうちとできん理由は? ここから攻めるで!
外堀は全部埋めてあるんや!
圧倒的な知略やで!!
昨年の放送事故では、勤務中にデートを誘ったり。職場の備品を盗難してロックオンした相手に送ったり。業務上のつきあいがあるモデル相手にエロマンボダンスを踊らせたり。
セクハラ悪影響待ったなし案件でした。
今年はそこを踏まえたのか。
【同意を取る・けじめをつける】ことへの誠意はきっちりとアップデートできております。
昭和の世相や人物像、価値観を再現するのはよいこと。
それでも、意識はアップデートできるはず。
『スカーレット』はそのお手本や!
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
スカーレット/公式サイト
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