ジョーはしたり顔で大野夫妻に言います。
「大事に取っといたほうがええんちゃうか。そのうち、一個五万で売れるかもしれんのう」
陽子がジョーの悪い顔をするのがたまらん!
「お父ちゃん、そんなこと……」
喜美子は嘆きます。
短い出番で、安定感のあるカスパフォーマンスを見せるジョー。
どんだけカネに弱いんや。
将来の婿の商品価値に期待しまくっとるやん! 期待しとるやろ! 陶芸家の義父ライフにワクワクしとるやろ!
これも『なつぞら』と比べるとわかるんですけれども。
とよが雪月の包装紙に天陽の絵を使うことで儲かるとホクホクしていたじゃないですか。そんなとよを、妙子がたしなめていたわけです。
芸術で儲けることは恥ずかしいという意識が、あったわけですが……ジョーにはそういう配慮、一切なし!
清々しいほどのカス!
やはり毎朝、このカスっぷりを見ないとあかんなぁ。
ついでに言うと、北村一輝さんの悪役顔を取り上げるこのえげつなさよ。
彼は定期的に吉良吉影(川尻浩作でもよし※『ジョジョの奇妙な冒険』第四部最大の悪役)顔認定されてますよね。
※ローマ皇帝顔でもあるんやで
陽子はここで、こう切り出す。
「せやからというわけではないけど、コーヒー茶碗……」
信楽焼、地元のもので作ったコーヒー茶碗がセールスポイントになるのではないか? そういうことです。
陽子は湯呑みが気に入ったと言います。手に持った感じが好っきゃわぁ。
忠信も、色が好っきゃわぁ。
それを聞いている時の八郎は、顔がこれまた生き生きとして本当にうれしそうなんです。
ハッチー攻略
ポイントその4「隠せない」
八郎は思ったことが顔に出ちゃう。
言いたいこと、考えたことをそのまま割とガーッと喋っちゃう。
それが愛情の深さや豊かな創造性ならばいい。魅力的です。
しかし、怒りやイライラしたところ。マイナス面が出るとめんどくさいことになる。
本音と建前が隠せない。
めんどくさい枠のイッキュウさんは、父の考古学トークに興味がないことを全開にして、ひたすらすき焼きを食べていました。
あれは親子だから理解があるものの、そうでなければトラブルにつながりかねません。
そんなん無理やん! 話聞けや!
こんな感じでコーヒー茶碗を作って欲しい。十、いや十五。仕事の合間にちゃちゃっと、そう大野夫妻が言い出すのです。
「そんなんできるもんちゃうで……」
喜美子は困惑します。
しかし、八郎はこうだ。
「やらせてください! 開店はいつですか?」
正月気分が抜けない十五日あたりだと忠信は言う。
デザインを考えて明日にでも持ってくると八郎は返す。
「そんなん無理やん、時間ないし大変やで」
喜美子はそう言う。そんな大変なものでなくていい、五万のものでなくてもいいと大野夫妻は言うわけですが……これも結構おっとろしい話ですよね。
大野夫妻は、陶芸の工程を理解できない。
だからこそ、八郎ができると言ったら信じてしまう。
喜美子はそうじゃない。
作れますか。作れます。それでええのか? いかんでしょ。そう困り切っております。
忠信はできなければ開店を延ばすと言う。それに八郎は素直に感謝する。
「もうそこまで言うていただいて……やらせていただきます!」
「あーよかったわぁ、お願いします」
喜美子は困り切っている。しかし、信作には通じません。
「ハチがやる言うてんねん。コーヒー全然飲んでへんやんけ。砂糖入れたろ」
八郎ぉぉぉおおお!
予想の斜め下を暴走してないか?
「現実逃避やないで」「せやろか?」
商品開発室に戻りますと、八郎は早速デザインをウキウキワクワクしながら考えています。
コーヒー茶碗だったら作ったことがある。どれがええか見てもらったらええし……と乗り気な八郎に、喜美子は突っ込みます。
「そんなんやってたら作品作りどうすんの? 断ってくる。話せばわかってくれる人や。他の陶工に作らせる!」
強引ですけれども、これもわかります。
喜美子は、なつだけでなくて、マコプロを率いていたマコの風格もある。彼女が厳しくビシッとスケジュール管理をし、発注先との交渉をしていたからこそ、あのスタジオは動いたのです。
喜美子はそういう矢面に立とうとするのですが、通じません。
「ええ言うてるやろ」
「逃げてんのちゃうの? 作品作り思うようにならないから、コーヒー茶碗に逃げてるんちゃうのん?」
ここで八郎は、がんばります。説明をがんばる!
まず、喜美子を隣に座らせます。
「ここ座り。座って、はい。あんな喜美子。絵付けやってる時に思うようにならんことある? あかん言われたこともある?」
喜美子はあると答えます。
悔しいから、もっとがんばろうと思うって。そうそう、幼い頃からそうだった。
「うん、僕は……自分の作品あかん言われたら、自分も全否定されたような気持ちになってまう。今日、湯飲み茶碗、好きや言われて救われた。小さなことだけどな、ものすごぉ大きく救われたんよ。コーヒー茶碗欲しい言われた。作品作りに返せる力もろた! 大丈夫、やるで。作品作りもコーヒー茶碗も!」
うなずく喜美子。デザイン画を見る八郎。
ええんか?
いかんでしょ。
戸田恵梨香さんの魅力が引き出される本作。このラストの顔が素晴らしいと思う。
甘いだけじゃない。疑念と不安が渦巻いている。
夫唱婦随。見守るしかない。そういうタイプだと、この先大惨事や。
喜美子は止められる。
だからこそ、八郎とやっていける!
想像の斜め下を暴走する八郎よ
予告編で、ロマンチックなキスシーンが映る。あざといです。
「八郎のあかんところを見せてもうた。これは甘いところを見せな(アカン)」
飴と鞭ちゃうか?
そう思うほど、八郎はあかんことをしおった。
予想していた嫌な予感の斜め下です。もう一度確認しましょう。
ハッチー攻略
ポイントその5「割り切れない」
めんどくさい枠は精神的にもややこしい。
ひとつ作品を否定されたくらいで、全否定されると思うって、めんどくさいじゃないですか。それはそれ、これはこれ。そう割り切れないのです。
イッキュウさんも、人格者である仲や井戸原にやんわりとダメ出しされると、「嫌われているんじゃないか?」と猜疑心を抱いてへんな方向に突っ込みかけておりました。
八郎は若社長とのやりとりで、かなりめんどくさい負のスパイラルに突っ込んでいったのでしょう。
負のスパイラルを脱出するコーヒー茶碗作りは、彼なりの名案なのです。
しかし、その過程で肝心の何かがすっぽ抜けたわけでして。
ハッチー攻略
ポイントその6「スケジュール管理が苦手を通り越して変」
喜美子は理解している。それはスケジュール管理です。
そんなもん引き受けたら時間足りんやろ!
そう思うからこそ、対策を練るのです。
八郎はどうしてそんなことすらできないのか?
できないことも八郎の個性なのでしょう。
八郎は問題まみれです。絶対あかんことをいくつもしている。
・喜美子との結婚条件をなめとんか?
→これ、ジョーはどう思うんでしょうね。娘の結婚賭けた大勝負の前に何遊んでんねん! って鉄拳制裁されかねんで。
・喜美子だってショックを受けてないか?
→喜美子だってこんなのわけがわからないでしょ。つらいでしょ。私の愛を賭けた勝負よりコーヒー茶碗か! そうショックを受けないで対策を考えるからこそ、喜美子は強い。
・若社長も困惑しかねない……
→自社ブランドのために、ここでしか買えないクリエイターとしてスカウトしてきたのに。ホイホイ引き受けてええんか? もう契約書でも書かせないといかんでしょ。
・同業者にも迷惑かかるかも
→八郎以外の陶工にこういう依頼が来て、断ったらケチとみなされそうですよね。
クリエイターは安請け合いをしたらあかん!
このあと、ただコーヒー茶碗を作って、賞をとって。結婚して。それでは終わらないのです。
八郎に、彼本人が理解できるよう説明していかなければあかん。
それに、喜美子も大変です。
喜美子も理解せなアカン
喜美子の苦労がわかりますか?
この時点で、喜美子は心労がたまってきてもおかしくない。
けれども、八郎は人当たりがよく、人格的に問題ないように見えるから、そのストレスを周囲には理解されにくい。親友の照子ですら、わからないかもしれませんよね。
なまじ、ジョーみたいな悪人ヅラをしていて、どうしようもないカスよりもつらいこともある。
マツがジョーの愚痴をこぼしたら、陽子は打てば響くようにわかることでしょう。
貯金が酒代に変わると漏らしただけで、陽子はマツの貯金を隠すと引き受けたのです。
この先の喜美子の苦労は、なんとなく想像できるんです。
それは過去の朝ドラ反応でわかります。
『半分、青い。』では、律とより子の離婚がそうでした。
律には問題がないように見えました。妻を殴るとか。酒浸りであるとか。無職だとか。浮気だとか。そういうことはない。
だからこそ、もっと離婚の過程を描け、ナレ処理だのなんだの叩かれたもんです。
律とより子は感情がすれ違っておりました。そのことにより子が耐えられなかったことは、画面から伝わってきていた。
『なつぞら』のなつとイッキュウさんもそう。
あの二人は仲良しです。それでもなつは悪い妻とさんざん言われました。
一例として、イッキュウさんが牛の搾乳をしようとした時、即座に止めたこと。
彼は不器用でカチンコすらまともに鳴らせない。そんな彼が敏感な牛の搾乳をしたら、事故を起こして命すら危険にさらされかねない。
ゆえにあそこでキッパリ止めるなつは、夫のそういう特性を理解していて、うまい描き方だと思いました。
八郎は魅力的です。
沼に落ちる人の気持ちはわかる。けれどもめんどくさくて、ずっと一緒にいると疲れてしまうこともある。
そう困惑する喜美子の気持ちを、こちらは理解できるやろか?
八郎だけでなく、喜美子のことも理解せんと。
こちらから見れば問題ない恋人や家族といるのに、なんだか愚痴っぽい誰かが周囲におりませんでしたか?
なんや惚気か。自慢か。
それとも甘ったれてんのか?
そう話を打ち切って、相手が暗い顔をしていませんでしたか?
そこまで考えさせる。そういうドラマになると信じてます。
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
スカーレット/公式サイト
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