穴窯に挑む喜美子、それについていけない八郎。
喜美子はついに、決意を込めて借金をします。
書面に署名捺印。夫でもない。子のためでもない。
ただひたすら我が道のために、こんな凛々しい顔で借金をするヒロイン――。
紛れもなく画期的なところに、踏み込んできました。
この母子には、愛がある
このあと、喜美子は我が子にこう言います。
「お母ちゃんが武志のことどう思っているか、知ってるな?」
「大好きや!」
「お父ちゃんのことも大好きやで」
「そうなん?」
武志はビックリしてる。幼い子にだって、両親の不和は伝わるものです。
「そらそうや、お父ちゃんのこと大好きやで。どないした?」
「よかったー、よかったー、よかったー、よかったー!」
喜びに満ち溢れている、そんな武志。愛がそこにはあるんやね。でも不安ではあった。
「わかったわかった、起きて。話済んでへんで。ほやけど、お母ちゃん、やりたいことできてもた」
「知ってる。穴窯や」
「お父ちゃんは、お母ちゃんのことを心配してな。穴窯やるか、やらんかで言い合いしてもうた。ほやからな、しばらくな、離れて暮らす。武志にはお父ちゃんがいる所と、お母ちゃんがいるここと、二個あるで。どっちも武志の家やからな」
穴窯を目指す喜美子の本質が、八郎と衝突した。百合子の意図はさておき、喜美子は大阪でそのことを噛み締めてしまいました。
ここでリクエストしたいのが、あの信楽太郎の『さいなら』やで。
その上で喜美子のセリフには、グッときた方がいるとは思う。
離婚を選んだ人。
親が離婚をしてしまった人。
そういう誰かを、ちょっと違うんだなという目で見てしまった人。
何も変わらないのに。偏見があるだけなのに。そう思えましたね。違っても別にいいじゃないですか。
『なつぞら』で、親子三人が北海道の中で立つ場面は美しかったけれども。
『スカーレット』にだって、美しい人の姿はちゃんとあります。
喜美子はここで武志に呼びかけます。
「ほんでな、ぎゅーしてええ?」
「ええに決まってるやん!」
「ぎゅー!」
「うわーやりすぎやー! おならでるー!」
抱き合う母子。これを見て、おかしいだの、喜美子がわがままだの、言えるかどうか。
いや、それでも照子は先週、武志は喜美子を嫌っているという前提で話を進めました。それが幼なじみの説得とはいえ、彼女はこの母子の情愛を無視していたとも言えるかもしれない。
世間の目を通さない。そんな生々しさがある本作。
朝ドラだから離婚させないとか。丸めるとか。そういうことは、丸められなかった現実を生きる人に失礼なんじゃないか。そういうことは思っていたんですよ。
その答えを見た気がするで!!
挑戦は続く
喜美子は四回目の窯たきに挑みます。
喜美子はちゃんとノートを作り、考えております。薪を投げ入れ、挑戦です。
思うような色は出ない。しかし、前より確実によくなっている。
喜美子は考えています。ジョージ富士川が工房に来た時、柴田が言っていたこと。
ええ感じで灰がかぶさる――。
そう思い直し、穴窯に入ります。マツは不安そうに、娘に声を掛けます。
「何してんのん?」
灰が煙突から抜けているのではないか。穴が大きすぎるのではないか。そう考えて中を見ているのです。
うーん……そう考えつつ、きみこは煙突と塞ぎます。
喜美子は賢く、集中力があるんですよね。
ジョーの風呂を沸かすときの、あの目つき。荒木荘では大久保から仕事を習った頃。あの頃から、管理スキルは抜群でした。
どのゴミにどのホウキを使うのか。
誰に何を食べさせればよいのか。
ちや子の状態を考えつつ、お茶漬けを作り分けていた。
丸熊でも、マスコットガールミッコーという宣伝はあったものの、絵付け師として実績は残した。モダンでおしゃれ、現代の北欧テイストに通じる絵付け火鉢を作り上げた。
コーヒー茶碗だって、中にお花を描くアイデアが抜群でした。
釉薬だって、ノートいらないくらい脳内に詰め込んでいるわけです。
キミら、喜美子の賢さを過小評価しとったやろ! そう作り手に言われたような気がするで。
そりゃあ、喜美子が強すぎてドン引きする人も出てきますよね。
荒木荘の頃は健気だった?
それはどうでしょう。あの放送時は『なつぞら』の甘ったれたなつよりマシだというネットニュースもあったものです。
子猫だと拾って育ててきたら、雪豹だと判明して困惑してしまう――喜美子には、そんな動物びっくりニュース感があるで!
改善しつつ、高みを目指せ
どうすれば一番効率よくできるのか?
喜美子はそこをふまえ、煙突を塞ぐのです。
かくして挑戦すると、試し焼きの中に色が少し出ておりました。
よっしゃあああああ!
見ている方も、思わずガッツポーズをしてしまう。あの色、あの色や!
こうしてものづくりはできていくのだと痛感できます。
試行錯誤は大事ですね。
『半分、青い。』における扇風機の試行錯誤。
『なつぞら』での常盤御前キャラクターデザイン論争を思いだしました。
けれども、彼女らと喜美子は明確に違うところがある。
喜美子は、この試行錯誤をほぼ一人でやっています。なんという孤高……。
次は場所の確認。焚口に近い場所で、より多くの灰が被さる
こうなると、もっと薪が欲しい。それを実行するには、お金が足りなくなりました。
孤高の芸術家は、金という現実にぶつかるのです。
さてここで、マツは万年筆を持ち、手紙を誰かに書いている場面が入ります。
マツは役に立たないだのなんだの言われておりますが。
せやろか?
マツはここぞというときに、ちゃんと何かを動かしてくれる。支えてもくれる。なくてはならぬ存在です。
孤高の芸術家も、穴窯という城を出たら世間という敵と対峙しなければなりません。
「ありのままに生きる」宣言をしたエルサが氷の城から出ると、アレンデールがガチガチだったもんですが。
喜美子が自転車で走ってゆく。そんな信楽の街も、どこか寒いように思えます。
「喫茶サニー」と「酒処あかまつ」のレトロな看板(小道具さんのええ仕事やで!)が、ここはふるさとだと語るのだけれども……その理由が明かされます。
喜美子と八郎別居が信楽中に知れ渡り、喜美子には仕事が回ってこなくなったのです。
照子は間違っていて、そして正しい。
照子は喜美子と武志の愛情を誤解しているようで、世間というものをきっちり理解している。
離婚はありえへん。
確かに。作るものは変わらないのに、作り手の状態が変わっただけでこうなる。現実とリンクしていて、怖いほどや。
理想のカップルのドロドロした実像判明で、ぶっ壊れたあれやこれやありますもんね。
ただ、この場合つらいものがある。この夫婦は不倫などしていない。
誤解も呑み込めば金になる
そんな喜美子が工房に戻ると、橘が来ておりました。なんでもマツは子供服の内職があり忙しく、ここで待つよう言われたそうです。
「終わりましたねえ、万博。行かれました?」
「いえ」
そんな会話があります。『なつぞら』の東京オリンピックにせよ、『スカーレット』の大阪万博にせよ。扱いがクールではあるのですね。主人公周辺は、そこまで盛り上がっているわけでもない、と。
同時代を扱うNHK大阪の朝ドラでは、万博をイケイケと取り上げたと思いますが。
晴れ舞台にした『べっぴんさん』はええんちゃうか。万博で落とし物拾ったらパツキン美女に抱きつかれてウハウハ〜! そういうノスタルジーゲス妄想垂れ流した昨年は、何やったんやろな……。
当時の日本人はともかく五輪! 万博! 大好きでした! そういう誘導とはちょっと違うと言いますか。
それはさておき。橘の用件は絵付け小皿の注文でした。彼女の夫の会社部長夫人が、姪っ子の結婚式で絵付け小皿を引き出物にしたいんだってよ。
五枚組で百組!
今度は百組!
喜美子の脳内で算盤パチパチと鳴ってますわ。
連絡先を受け取る喜美子に対して、「前金でお願いしますとさりげなく言った」と付け加える橘。苦しいお財布事情をさらりと気遣う。そんな関西の真髄を見た気がするで。
喜美子が「すいません、助かります」と言うと、橘は条件を一つ提示します。
ひとつ、堪えて欲しいことがある。そう前置きして、これやで。
「ご主人が女のお弟子さんとアレして出て行ったと思われてます」
でた。関西弁特有の万能すぎる「アレ」用法。そういう噂が立っていると言われ、喜美子は「違います!」と断固否定します。しかし……。
部長夫人は信じ、真に受けてしまっている。可哀想やと注文したってよ。
あー、わかります。この部長夫人、今なら【#不倫された女優名がんばって!】ハッシュタグでSNS投稿するタイプやな。
もう、いやらしいくらい現実とリンクしてきてつらいわ。
そういうふうに思われるのが嫌なら断っていいと投げかけられつつ、喜美子はキッパリしています。
絵付け小皿は久しぶりでうれしい!
そう言いつつ、断言するのです。
「喜んでお引き受けします!」
喜美子はそう快諾するのでした。そして……。
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