昭和58年(1983年)、冬。
武志は、県立病院の大崎先生に診てもらったほうがええ、と言われたと告げます。
「こんなん言れるのはよっぽどのことちゃう? 親御さんにも来てもらった方がええ言われたし」
「大袈裟やなぁ! 照子の付き添い行った時も、たいしたことなかったわ」
しゃあないわ、また笑い飛ばしたるわ。喜美子は明るく、強く、ぶっきらぼうに言い、こう続けます。
「何か食べるか?」
「うん」
おふくろの味なんて、もう陳腐に思えるかもしれません。
肉じゃがの味がどうのこうのではありません。こういうとき、食べさせて気遣ってくれたことが大事。
料理は愛情というのは、どういう材料を使うか、手間暇かけるか。そういうことだけではなくて、こういうことやと映像化されたと思えた場面です。
母と子
喜美子は病院にいます。その前を、母が子を抱いて歩いて行きます。
「大丈夫、大丈夫、すぐ治るで。よいしょ」
その二人を見て、ふっと笑みが浮かびます。女の敵は女でなく、女の味方は女。そういう何かを感じます。
そこへ武志が戻ってくる。結構時間がかかったようで「どこ行ってたん?」と聞いています。
三階のトイレ。広くて気持ち良くて、窓があるそうです。
お祖母ちゃん(マツ)の貧血ぶり返して、ようない時期あったやん。覚えてへん? そう武志は言います。ほんまに本作は細かい!
本作は描写がそっけない、あっさりとしている、わかりにくいとは言われます。それって結局、セリフや演出がかなり細かいからだと思います。
このセリフだけで、いろんな要素がわかります。
・武志は祖母思い
・川原家は家族思い
・マツの貧血は回復するということがない。やはり病弱だった
・それで三人を妊娠出産したマツは偉いで! ようやった!
でも、そこを読み取らないとこうなりかねない。
「なんやセリフで済ますなや!」
まぁ、このへんはじっくり考えましょか。
喜美子はここの看護婦さんに自分のことを知ってんでぇ〜と言います。個展に来たこともあり、一緒に写真撮りましたってよ。
そうなると息子さん、わー! 言うて、顔舐められるように見られんで〜と笑うわけです。
果たして、そこにその山ノ根が来まして。
「うわーこんな大きい息子さんいはんの!」
そしてコレや。関西のコレな。
「あー、シュッとしてはんなぁ!」
まぁ、なんちゅうか、【ええ感じ】ということですね。
予想通りの反応…🤗#スカーレット pic.twitter.com/ME0f1HJiAS
— 朝ドラ「スカーレット」第22週 (@asadora_bk_nhk) March 5, 2020
大崎先生の診察室
二人は大崎先生と面会します。
「また脱いでる……」
そう山ノ根が突っ込んでおります。そのうえで、お上着はこちらに、と声を掛けています。この時代らしいスタジャンですね。
喜美子が、先日はお世話になりましたと言う一方、武志とは初対面でありまして。
「こんにちは。これから川原さんを担当させていただきます、大崎です」
フラットで偉そうにしない性格なのか、握手を武志に求めます。
こういう先生、会ったことあります?
なんかじんわりと、
「ええなぁ、うちもこんな先生に診察されたいわ……」
と思いませんでした?
私も、記憶の中にいる、一番ええ先生を思いだしました。
無駄に威張られたりすると、なんか嫌なもんですよね。流石にそういうことはないのですが、フィクションではどうでしょうか。
朝ドラも担当された売れっ子脚本家さんの医療ドラマ決め台詞に、
「私、失敗しないので」
というのがありますよね。
医者にせよ、戦国武将にせよ、そういう決めゼリフを言う人って、むしろ危険で避けたい。
人間だから絶対はない。失敗はあります。それなのに、そういうことを言い切る、自信満々な人には策があるものです。
【世論誘導】やで、【流言飛語】やで。
仮に失敗しても
「あの人は失敗してへんよ!!」
と噂を流す。それが信じられて世間に広がれば、そういうもんとして定着しますしね。
何がアカンって、失敗そのものではなく、失敗から反省しない、学ばないことが怖いなと思うのです。
そこを踏まえて、この誠意を感じる大崎先生を見て行きたい。
言葉の感じからして、関西の方ではないのでしょう。草間と同じく、関東から来て救済をする人なのかもしれない。
彼は手が温かいと告げて、血液検査のことを語ります。
・白血球の数値が通常の5倍
・それ以外、具体的な話はしていないですね?
・慎重に調べていきましょう。詳しい検査をさせていただきます
通常の5倍……医学知識の有無はさておき、嫌な予感はありますよね。
これは視聴率もそう。
本作は20パーセントを切ることが確実とされており、それが【異常事態!】という報道もありますが、もっと全体を見ていく必要があるのではないでしょうか。
挙げられる要因はいくつもあります。
・地上波全体が衰退傾向
・インターネット、VOD……視聴習慣は変化しています
・費用対効果って、知ってます? 昨年のアレは提灯記事、企業タイアップ、主演女優家族援護射撃、が圧巻やったで。もうちょい考えて工作してぇな!
・本作はむしろ援護射撃が地味で、正攻法で挑んでいる
・ブレイクした俳優、これが代名詞になる存在を生み出せた。そういう数値化されない効果もある
・異常事態というのは、数割減少の場合ですね。朝ドラの基準が20%としますと、その3〜4割ならば6〜8%減少が【異常な崩壊】。そういうNHKの看板番組、最近あったじゃないですか。本作は、視聴率が低くても意義があると言える範囲内です
こうした環境を無視してでも、とにかく本作を叩くメディアが出てくるのはなぜなのか。
需要に対する供給でしょう。読者の感情にコミットすれば、アクセスは稼げる。しょーもないトレンドが構築されるんですね。
なんもなかった……そうであればいいのに
視聴率から話を戻しましょう。
このあと武志は検査を終えて帰って来ます。喜美子はしゅわしゅわの缶ジュースを渡す。
「えらい長いことかかったな。骨髄検査、そんな痛かったん?」
こんな長い針、ぶっすー言うて。母と子が針がどんだけ太いか話すわけですが。
軽い口調ですけれども、想像してみぃ! ほんま怖いで。予防接種でも怖いのに、ほんまにぶっといんです。
すると喜美子が、武志が診察室に上着を忘れていると気付いて、取りに行くと言います。
「すいません、うちの子が」
「川原さん、大丈夫ですか?」
喜美子は強がっていても、やはり怖い気持ちはある。診断が確定されるのは年末になるかな、そう大崎は言います。
「なんもなかったということはありますか? 調べてみたら、なんもなかった……」
喜美子はそう言いますが、自分自身に言い聞かせているようでもある。
このあと、診察室の外で武志に上着を渡します。
「あんな、うちの子どうなんて聞いた。ほしたら、まあこんな感じやと、大したことないでしょう、言うてはったで」
「嘘やん」
「ほんまや」
「詳しいことはわからへん。ほやけどよかったやん、これ以上考えんで済む。大丈夫や、よかったな」
そう言い聞かせて、武志にマフラーを巻く喜美子です。
「いらんわこんなん、苦しいって!」
母と子は、いくつになってもそう。マフラーを巻いて守りたい。この子を守りたい。
そんな愛がつらい……。
直子ぉ、隠しとるやろ!
喜美子は工房で年度を練っています。静かなようで、BGMが不穏ではあります。
はい、ここであいつがやって来ます。
直子や!
「やぁお久しぶりぃ〜!」
どないしたん? 急に?
はい、ここからの直子は【嘘をつくのが下手な大阪のおばちゃんあるある】に突入です。ほんま直子は、ジョーカスそっくりや。
嘘下手おばちゃん
いやーなんや感じ変わったなぁ。
お姉ちゃんは変わらんなぁ。
(鮫島さんは? と聞かれて)あっ、ああ、これ前来た時あった?
陶芸教室始めたて百合子に聞いたで。
「サニー」寄ってきた。おじさんもおばさんも元気で変わらんな。
うちはお父ちゃんもお母ちゃんも早かったな。天国で仲良うしてるやろか?
むろん知略の高い喜美子には通じない。
「何があった? なんやあったんやろ?」
ほんまに『なつぞら』の泰樹と対抗できる冷静さやで。NHK東京に泰樹あらば、NHK大阪に喜美子ありよ……。
「別れた。鮫島と別れました、捨てられた、ごめん!」
は?
なんやその展開!
これもアレやろ。
「喜美子と八郎の離婚。理由がわからへん、そういう声は把握しとります。描いたんやけどな、伝わらんなぁ〜。そこで、ほんまに理由がわからん離婚を見せな(アカン)。そういう使命感がありました」
そういうようわからん何かを感じるで! 理由はこのあと……あるんかいな?
ヒョウ柄おばちゃんは都市伝説やないで!
ここで姉妹は、日本酒を飲ませつつ、鍋を挟みます。
いろいろ言いたいことはありますが、まずはこれですね。
直子が全身ヒョウ柄や!
喜美子も思わず突っ込んでいた、そのファッションセンス。
都市伝説やと思いたい?
関西以外の人間は、上下ヒョウ柄は流石に実在しないと思いたい?
それがな……。時代にもよりますけれども、阪神タイガース優勝があった、そんな1980年代なら1ミリも誇張しとらんから。
※ヒョウ柄をアピールせなあかん!
ええんちゃうか。
ここ数年、補色でひたすらダサいとか。マリオとルイージじみたファッションはあっても、ヒョウ柄はなかった。これはあかん、受信料の使い道として間違っとると主張してきたわけです。
NHK大阪にとって、ここ数年はつらかったと思う。なぜなら……。
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