半分、青い。88話 感想あらすじ視聴率(7/12)「愛し殺される!」

1999年(平成11年)秋。
将来の見えにくい平成不況の中、アラサーとなった楡野鈴愛は100均で時給750円のバイト中です。

漫画家を断念してからというもの明日の見えない鈴愛ですが、そんな人生に希望の光が射し込みます。
短期アルバイトの森山涼次が鈴愛を理解し、傷ついた心を癒す存在となっていたのです。

涼次のバイト最終日、雨の中で「好きです」と言われた鈴愛は果たして……。

【88話の視聴率は21.1%でした】

 

「結婚してくれませんか」「了解いたした」

「いっそこのまま、結婚しませんか」
そう言い出す涼次。

夏虫駅の展開に続けて、またもスゴイのが来た!
こういうエキセントリックな恋愛要素を入れないと話を持たせられないんですか――とかいう方は四世紀の時を超えて、シェイクスピアあたりにも同じ内容でカチコミ掛けてください。

余談ですが、そのシェイクスピアも当時は、
「大学も出ていない、ペーペーの成り上がりのカラス野郎が、チャラい話で観客の心を掴みおって、あー、ムカつく!」
と同業者から嫉妬まじりの文句を言われていたそうです。

そう、二人が出会ってからまだたったの六日間なんですね。
『ロミオとジュリエット』はたった五日間の物語。と涼次が説明します。

雨がかかるほど長い涼次の睫毛にうっとりとする鈴愛です。

「すごく好きです。結婚してくれませんか。ずっと一緒にいたいです」
「了解いたした」

こんなときでも仙吉譲りの時代劇口調の口癖になってしまう、鈴愛。

「イエスですか?」
「ものすごくイエスです。好きだ、好きだ、涼ちゃん」

鈴愛って意外性のある喩えをよく使いますけど、こういうときはストレートに「好き」を連呼するしかないあたり、こう、グッときますね。本音で喋っていますね。

 

涼ちゃんは顔がイイ すまん、ユーコ

しかし、この話を聞いたボクテとユーコはこうなる。

「マジ!?」

そりゃそうですね。
一週間も経っていないのに?というツッコミに対して、鈴愛は、知ったばかりの『ロミオとジュリエット』で返します。

どこが好きかと聞かれれば、全部好きだと答えますが、敢えて言うなら声、夏のソーダ水みたいな声が好き、とウットリ。

ソーダ水なんて気が抜ければただの砂糖水だよ、とユーコは思わず突っ込みます。
ただの甘いだけの男ね、とボクテも呆れ気味。二人とも、うまいな。

そしてここで突っ込まれるが、鈴愛の面食い疑惑でした。
タッパはあるし、涼ちゃんは顔がいいと認めます。しかもそこでユーコに謝る。

もぅ、そういうところなんだってば! そういう素直すぎるところ! そこがわがまま扱いされるんですよ、鈴愛。私は好きですけど。

それにしてもヒロインを面食い認定する朝ドラというのも、珍しいと思います。
美男美女ばかり出ていて、ヒロイン周辺がイケメンしかいないのは当然です。ただ、それでも【面食い女】というレッテルは、=わがままのイメージがあるのか、そこはスルーされてきたじゃないですか。
『美女と野獣』のベルが褒められるのも、外見で選ばないからじゃないですか。

いろんな意味で、鈴愛は制作側から守られているのか、素のまま放り出されているのか、わからなくて面白いです。

 

東海地方は派手婚だぞ

一方で涼次は、元住吉祥平から
「天涯孤独だったお前はわからないかもしれんが、結婚は金がかかる」
と突っ込まれます。

入籍して同居するではダメなのか?と戸惑う涼次に、東海地方の結婚式は派手だぞとのツッコミ。

涼次は、雨に打たれて風邪を引いていました。
鈴愛はピンピンしているのに、普通なら逆にしそうなのに、面白い。

そんな状態でも、涼次はかいがいしく土鍋でおかゆを作っているのです。病人に食事を作らせた後ろめたさがある一方で、こうつぶやく祥平です。

「お前がいなくなったらまたコンビニ飯か」
「そんなことないですよ! 作りに来ますよ!」

涼次、いい奴だけど、どこかズレてないか?

鈴愛は、ボクテとユーコの前で、ノロケ的な珍妙理論を披露します。
曰く、律のプロポーズは四年前だったから、私は、オリンピックと同じ四年周期で求婚される。
そうなると次は32、そして36……。子供も欲しいし、高齢出産にならないよう、今、受けねば。

結構計算高いね、と突っ込まれる鈴愛です。

 

揺らせ、結婚観

女性の理想的な生き方って、運命の相手が現れたらすべてを捨ててでもビビビッと結婚しなきゃ、みたいに言われたりするじゃないですか。
昔のディズニー映画みたいに、王子様相手なら初対面で結婚まで突っ走る。女の子には、理想の王子様と出会うことができるし、それを見抜くセンサーがあって、そのまま結婚するのがハッピーエンド、ってやつ。

当のディズニーがこのあたりを反省して、この価値観をおちょくった『魔法にかけられて』という映画を作っていますね。

『アナと雪の女王』では、ハンス王子に恋をしたアナに対して、エルサが「出会ったばっかりで結婚とかバカでしょ! 中身がクズだったらどうするんのよ!」と憤っておりました。
『マレフィセント』は、「通りすがりの王子様が、真実の愛とか持っているわけないじゃん」というツッコミ映画でした。

最近のディズニーが自分たちの価値観をブン殴って打ちこわしているように、本作もそういう価値観にカチコミをかけてきたのかも(この先二人がどうなるかは不明なれど)。

 

んで、ここがややこしいのですが、現実社会での女性は卵子の老化を考慮して、
◆早めに子供を産み
同時に
◆キャリアを再スタートさせるよう考えろ
とも言われる。

どうしろっちゅーねん!

プレッシャーかけられるのは女ばっかりなんですよね。
男側に、「女性のキャリアプランや出産リミットを考えろよ、ボーイズ!」とは教育されないんだな。女だけの問題という認識なんだな。片方だけでは結婚も出産もできないのに。

朝ドラの世界観では、そういう世知辛さからは目を背けるように、モジモジと恋愛したら結婚出産、育児とキャリアの両立、そしてNHK大阪名物「思春期になった途端、母が仕事優先で構ってくれなかったとグレだす子供たち」が描かれてきました。

これぞ【女の人生ね〜】ってなストーリーですが、本作はそこまで甘くない。
突っかかりまくり、突っ込みまくるのです。

人生は、ゲームでもすごろくでもない!
チートプレイなんてない!

だからこの先どうなるかなんて、全然わからない。

ともかく鈴愛は、人生初めての相思相愛という状態に、それこそ空だって飛べちゃうほど舞い上がっております。
ボクテとユーコに対しては「応援してもいい、邪魔をするな」と念押しするほど。
もっさいグレーのトレーナーに髪の毛は結んだまま、ろくに化粧をしていませんが、顔からキラキラと喜びのオーラが発散されまくりなのです。

しかし、祥平の映画『追憶のかたつむり』を見ているボクテとユーコは苦い顔を浮かべ、鈴愛は一生貧乏だ、と突っ込まざるを得ません。
まぁ、カタツムリの映像が延々と流されるようなマイナー映画でお金持ちになれるハズないよなぁ……。

 

リンゴデザートまで作っていた、風邪なのに

涼次は祥平に、鈴愛の魅力はボールのように弾むこと、弾むのが好きなことだと語ります。

しかもここで、リンゴを煮たデザートを冷やしていたことも判明。
風邪なのに、そこまで作るか! しかも結構美味しいそうで、祥平も「結局作らせて悪ぃ」と言いながらうまそうに食べています。

祥平の【クズセクシーオーラ】も相当なレベルですよね。クズとセクシーを同時に成立させられるなんて斎藤工さんしかいませんよ。
どこまで適材適所なのだ、このドラマ!

涼次は、自分は顔がいいからモテないこともないけど、デートで店を知らないとか、話が続かないとか言われてフラれるとこぼします。

あー、わかる、わかるぞ。朝井正人とは全然違うタイプだ。
デートの最中に【蝉の抜け殻】とか拾って女の子に引かれる系だね?

そんな涼次に、祥平は言います。
「お前は女で苦労して来たからなあ」

何かと思えば、三人の魔女ならぬ三おば。あの強烈三姉妹です。
その三姉妹は、涼次が結婚すると聞いてソワソワ。三歳からオムツを替えて来たあの子がねえ、と感慨深げです。

 

強烈な三オバに「愛し殺される!」

あれは相当なおばだ、と祥平は強調します。

実は一昨年の正月、涼次は突如、祥平の家へと転がり込んで来ました。

正月になると新しい歯ブラシとパンツを3セット並べ、どれを選ぶか?と迫るおばたち。もう耐えられない。

「愛し殺される!」
と逃げて来たのです。

って、段々笑えなくなってきました……。強烈すぎます。鈴愛、大丈夫?

この三姉妹と戦うなんて無理ゲーの世界。
【劉備・関羽・張飛】の三人と同時に戦って生きていくには、呂布レベルの強さが必要だゾ!

それでも三歳で両親を亡くして以来、ずっと三叔母に世話になって感謝していると涼次がフォローします。
憧れの人だった祥平に拾ってもらって感謝しているとも。

そんなふうに涼次が熱く話していると、携帯電話が鳴っています。
鈴愛からです。
明日お見舞いに行ってよいか?と聞く鈴愛に、もちろんだと返す涼次。そして祥平には事後承諾だという、この性格。やっぱり鈴愛と似た者同士だわ。

 

お母ちゃん、鈴愛は結婚する

鈴愛は、一時間おきに電話しているようです。

お見舞いに行けるうれしさに照れてジタバタしていると、ボクテとユーコが私たちも見ているよ、とツッコミ。
今が一番幸せなのね、とボクテは冷静に見守っています。

しかしそこで、楡野家から携帯電話に連絡が……。

今まで漫画家を辞めたと言っていない鈴愛は、焦ります。ボクテとユーコが呆れていると、弟経由で伝わっているはずだと言い訳しております。

電話口では晴が死んだかと思った、東京に行こうと思っとったほどだと激怒。

ここで鈴愛、突然宣言します。

「鈴愛は結婚する」
「ハァ〜〜〜〜!」

晴の口調があまりに強かったため、そばにいた楡野家の面々も驚く様子。
うわっ。
明日、どうなってまうんだ!

 

今日のマトメ「色んな人生があっていいじゃないの」

おそらく今日の鈴愛と涼次の行動は、突飛で、いい歳こいてアホなのではないか?と突っ込まれてしまうものの気がします。

まあ、いいじゃないですか。
ドラマの中だからよいのではなくて、世の中にこんな愛すべきおバカさんがいても。

二人が喩えに出していた『ロミオとジュリエット』だって、かなりのおバカさんです。
五日間で突っ走って、ホウレンソウ(報告・連絡・相談)していれば死なずに済んだかもしれないのに、勘違いに勘違いを重ねて両者死亡エンド。

でも、いちいち、そういうのに「ばーーーーっかじゃねえの!」と意地悪く突っ込んだところで、あなたの人生の質は別に上がらないし、何も変わりません。

人生や物語には、いろいろな人がいます。

計算高い人もいれば、よい子で何をしても優等生的な人もいる。
そうかと思えば、理想論ばかり振り回して、周囲を苛立たせる人もいる。
不器用で本人もどうしようもないのですが、わがままと責められる人もいる。

しつこいようですが、本作は、そういう不器用な人を肯定するドラマだと思います。

わがまま、おばかさん、浮く、天然、空気読めない、痛い女、勘違い野郎。
そういう人でも生きていくしかないし、生きていてもいいんですよ、と伝えてくれている。

だから優しいのです。

計算高い人と優等生ばかりじゃない、そういう歪な世界でも別によいではないですか。
鈴愛と涼次はそっくりで、こういうタイプがもう一人増えて、しかも周囲をハラハラさせる恋愛に突っ込むわけです。

イライラは倍増するかもしれない。
それでも、こういうタイプのもたらす「愚行の癒し効果」みたいなものに、期待してしまう自分がいます。

二人がロマンチックな恋愛に酔っ払って、ぐるぐるぐる回り始めても、もうしょうがないなあ、とあたたかく見守ります。
本作は、そういう作品なのだから。

◆著者の連載が一冊の電子書籍となりました。
ご覧いただければ幸いです。

この歴史映画が熱い!正統派からトンデモ作品まで歴史マニアの徹底レビュー

著:武者震之助
絵:小久ヒロ

【参考】
NHK公式サイト

 

2 Comments

雨に打たれながら、すすめが 「ME TOO」と答えるのですが、英語的には間違っており、それでは、 I LOVE ME TOO で私も私のことが好き ということになってしまいます。こまかな仕掛けが随所にあって、ほんとセリフ一つ見逃せません

さみー

すずめが、プロポーズされるの4年に一度、子ども生むなら、、と計算を披露したとき、二人は別れるかも?と思ってしまいました。

ボクテは、すずめが案外計算高いと言ったけど、計算高いのではなく、足し算ができるだけです。四年たったら32歳、そんなのはわかる。それに向けて無意識と見せかけた綿密な囲い込みができる女と、したくない女がいるんです。

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