ラジオから流れてくる曲『さいなら』――雄太郎さんこと信楽太郎のヒット作でした!
喜美子はハッとします。視聴者もやで!
信楽太郎の『さいなら』
待ちに待った『さいなら』が流れて来ました。
誰もおらん部屋 窓の外はネオンと笑い声
ひとりぼっちはほんま僕だけや 柄にもなくつぶやく
君のぬくもりが心に残ったまま
ああ 今頃君は 遠い街で何してるんやろ
戻られへんから
笑った顔だけ忘れんように 記憶のノートに描いとくわ
泣いて 泣いて
切なくて 初めて口づけした夜 思い出 さいなら
これでよかったと言いきかせたら 今日で最後にしよう
何もなくてもほんま楽しかった
言葉はいらんかった
二人で夜毎語り合った夢も
他愛のないしぐささえも アホらしいほど好きやったな
戻られへんから
笑った顔だけ忘れんように 記憶のノートに描いとくわ
泣いて 泣いて
切なくて心はまだ君のカケラばっかりや しゃあないな
それでもさいなら
歌を聴きながら、喜美子の胸には八郎と過ごした日々、かけがえのない思い出が蘇って来ます。
こうして振り返ると、なんと素晴らしくて、透き通るようで、かけがえのない存在であったことか。
喜美子は母子を描いた絵に、八郎の影を足してゆくのです。
それでもさいなら――。
女がズボンではあかんのか?
翌朝、武志は皆と遊園地に行くことになりました。
栄子は「おもろいで、別世界やで」と言う。
まみ子が「ほないくで!」と張り切る。
「いってらっしゃーい」
喜美子とちや子は送り出します。
喜美子というお母ちゃんを助けるために、別のお母ちゃんが子どもを連れて行く――圧倒的な団結力があります。
この作品は、今まで「おばちゃんはそういうもん」と半笑いで放り投げられていたような、そういう日常をあざやかに切り取るんですよね。
喜美子はちや子にこう言います。
「お茶漬け、作りましょか」
「気絶するかも! うれしい!」
ちや子は感激する。こっちも感激やで。きみちゃんのお茶漬けやん! 公式サイトでレシピも掲載されとるアレや。
「う〜ん、おいしかった〜、ごちそうさまでした!」
ゆうべ遅くなったのかと尋ね、先に寝たことを詫びる喜美子。ここでちや子の現場が語られます。
今はフリーランスになった。出版社の意向を離れ、好きなことを取材しているとのことです。そう言うとカッコよいけれども、何の保証もないからキツイ話ではあります。
喜美子はそっと、ちや子はお一人なのかと聞いて来ます。
そういうアレなら一人。ちや子はそう認めます。
誰かを好きになったりは?
「あるでえ、そらあるでえ。あるけどなぁ、うちいっつもズボンやん。スカート履いたらこう、取材対象にいざという時、立ち向かっていけん。色恋はスカートみたいなもんや」
「わかります。うちもいっつもズボンなんでわかります」
「ほんま?」
うーん、なんという会話。名作は時代とリンクする。その極みを見た気がするで!
スカートはパンチラ、盗撮、そういうエロ目線で「ムフフ♪(※死語やで)」と言い出す昭和で頭が止まっている方もいるでしょうが。タイトなものですと、思い切り走ることすらできない。スカートを履くだけで、活動制限される。猛烈ダッシュするちや子、薪を拾う喜美子からすればそら「ありえへん!」ですわ。
そうそう、女だけ強制される職場のあれやこれや。
ハイヒールに、パンプス。
化粧。
丈まで指定されたスカート。
メガネはダメ。
なんやそれ、なめとんか?
失礼だとか、マナーだとか、ルールだとか、伝統(ん、ハイヒールが日本の伝統?)だとか言うけれども。そんなもん……アレやで。ちや子さんがズバッと答え出しとるで。
人類はそういうもんがホンマ好き。その極みが纏足やな。ハイヒールの何があかんかって、あれはな。
「ヨロヨロして無力な女萌え〜!」
「自力で逃げられない女チョロいっすね〜!」
「モテたいなら無力を装いましょ❤︎」
「賢い女は無力感アピール!」
というゲス思想が根底にあるんやで。今の人が『そんな気ない』と言ったって歴史的にはだいたいそういうもんや。
実際に災害時に危険なのに、そういう萌えのために履かせ続けるって、職場でゲスな思考されてなんで黙らなあかんの?
日本の既婚女性の眉剃りもな。眉間に皺寄せて不満を出すような女はあかん。そういうもんがある。
女特有の服飾なんて、ほ・ぼ! そういう自由や感情抑圧の発露や。
メイクひとつとっても、ゴスはあるわな。けれどもああいう脅す系のは、あかんやろ。モテるメイクはその真逆やん。
※自分が好きなメイクするならリスベット・サランデルさんが代表例やけども
このレビューでも推してるエルサ姉貴。氷の城で「ありのままに」と言いつつメイクバッチリやん! そういうツッコミはありましたけどね。
エルサのあのメイクは、自分がありのままに大好きなモンで、合コンでもてるとか、面接突破とか、一切合切関係ない攻めてる系だから。それなのにああいうこと言うって、メイクのことも、人の心も、なんも知らんのやな!
※エルサ姉貴はデコルテ強調もしとらんしなぁ……
時代は刻一刻と変わってんねん。
「ゾンビうろうろしてんのに。特殊部隊隊員で災害対処知識あんのに。あいつはなんであんなミニスカブーツなん……」
「そんなんええやん! サービスやで」
そういう『バイオハザード3』のジル・バレンタインさんも、リメイク版ではミニスカやめる時代や。意識も追いつかんとな!
※カプコンは大阪の誇る企業やな
今は、ちや子や喜美子の言葉に「せやな!」とうなずく。そんな人が最先端の時代やで。
まあ、スカートやドレスを好きで身につける人が悪いということではない。
誰も彼もが、好きなカッコをしたらええ!
※ビリー・アイリッシュさんがファッションアイコンになる時代やで!
きみちゃん、後ろ、後ろー!
そう盛り上がる二人の背後に、そーっと人影がやってくる。
「きみちゃん、後ろ後ろー!」
そんな視聴者のツッコミも踏まえてますね。
ちや子にラジオを聞いたかと尋ねられ、ビックリしたと答える喜美子。映画俳優から歌い手になったところまでは聞いていたけれども、ヒットにはビックリしていると。
一年前、荒木荘の取り壊しが決まったころ。これまでとはうって変わった曲を書いた。誰でも一生に一度いい曲書く。そういうのを手掛けたと。
おいっ、信楽太郎を一発屋前提で話を進めてませんか?
視聴者も薄々そう感じていそうだけど。
あの荒木荘の三毛猫を、一番かわいがっていたのは雄太郎だったそうです。それが死んでしまった。そのときできた曲なんだそうです。
寿命かな?
あの環境では十分長生きした、そんな三毛猫さん。名曲を生み出した素晴らしい存在ですね。『おんな城主 直虎』のにゃんけい以来の存在感でしょう。
※ジョーの前世も猫ちゃん大好き❤︎
これもキッツイといえばそうかも。八郎と三毛猫が重なるって、それはどうなんでしょう。
いや!
猫は名作を生み出すから、ええんちゃうか。
※今なにかと話題のコレとかな
大久保さんは叱る人
ここで、話題のその人が声をかけて来ます。
「きみちゃん!」
「雄太郎さん! 信楽太郎さん!」
「きみちゃーん!」
「やめやめ、せんでええ」
そうちや子が勇太郎の暴走を止めつつ、もうひとりあの人がいます。
「ひさしぶりやなぁ」
大久保さんだ!
「ご無沙汰してます!」
「びっくりさせたろ思て」
「まる見えでしたあ!」
喜美子は喜びつつ、ボケとツッコミのようなニュアンスを漂わせつつ、再会を喜びます。
「何も持ってへんで」
そう言いながら、大久保は手持ちの風呂敷を解く。
「漬けもんや!」
皆大喜びです。
そこには見ているこちらもうらやましくなるような、いかにも上方らしい上品さがある。そんなお漬物があります。
大久保って、意地悪だのなんだの紹介されますが、関西のイケズなんですよね。
ちょっとひねくれているようで、あたたかみがある。ビシッと叱ってくれる。
公式サイトで三林京子さんが、そんな役柄のことをピシリと言い切っていたので、ちょっと引用しますね。
今、だんだんと怒れない世の中になってきていて、何かあっても見て見ぬふりをする人が増えてますからねえ。大久保みたいにパンパンものを言うて叱るっていうのが、逆に見てて気持ちええんでしょうか。 怒ると叱るは違いますからね。愛がなかったら叱れない。
この漬物をつまみながら、お茶を飲む。それでみんな「う〜ん!」と満足している。
何気ない場面を、きっちりと輝かせるところが本作の持ち味ですね。だしの効いた卵焼きみたい。
大仰さがない。クネクネしたり、裏声出したり、顔芸をしない。
でも、お漬物とお茶がおいしいことはわかるし、みんなこの再会を噛み締めているってわかる。
「皆さんそんなに変わってはりませんねえ」
いくつになったか。雄太郎がそう語り出します。
大久保は荒木荘におったころが60だからと言い始めると、こう断言されます。
「知らん! 60過ぎたら、70も80も90も120も変わらん!」
大久保、120歳でええんちゃうか。そう笑い飛ばす。何気ないようで、カッコいいセリフだと思いました。
アンチエイジング化粧品の広告が、見ない日がないと思えるほどてんこもりの昨今。
孫に老けたと言われてショック!
そういう広告に、大久保のこの言葉をぶつけたくなりますよね。
還暦すぎたらもうええやん。なんで女ばっかり、死ぬまで加齢を気にせんとあかんのか?
昨年の武士の娘は、義理の息子にまで自分の若さアピールしていて気持ち悪かったもんです。
そこへ大久保さんやで。
グレイヘアーが流行する、そんな時代にぴったり当てはまっていると思えた。
ニュースでとある国の女性政治家を見ていてハッとしました。
彼女はメイクが薄く、グレイヘア、ダークカラーのスーツ、キビキビとしたアルトできっちり主張を語っている。
一方で、道ゆくと選挙ポスターにはインスタ映えを考えまくっているような、そんなメイクバッチリ、赤いスーツの女性政治家のポスターが貼ってあるわけですよ。
なんやろなぁ。どっちが政治家の中身を見ている国民性なのかな? そうしみじみと考えてしまって。
大久保さんは、そういう感覚に豪速球を投げてきた。
ここでも、三林さんの言葉をちょっと引用します。
さっきも木本(武宏)さんとも言うてたんですけど、今、自分がウケようとか、カメラをこっちに向けさせようとか、そういう番組が多いから、普通に何にもせえへん大久保みたいな人がよかったんかなあ、みたいな話をしてたんですよ。大久保なんか言うたら”ちょい役”ですからね。でもそれが視聴者のみなさんの心に残るっていうのは何かあるんでしょうねえ。
何かあるんだなぁ……。
ほんまに何かあるんだなぁ……。
大久保みたいな、年配女性に期待される役柄。そこに期待されるのは喜美子いじめだと思う。
ミスリードもあった。女の敵は女ってやつ。若い女に嫉妬するババアが好きなんです。そういう世の中になってしまって。
ここ数年、年配女性を「ババア」とバカにする――そういうNHK看板ドラマが続いていて、しみじみとウンザリゲンナリしていたんですよね。
昨年の武士の娘、某ドラマの占いマダムが典型例か。ぶしむすとSNS投稿で盛り上がった……って、だから何?
そこを本作はひっくり返してきた。
尊敬できる『バーブバリ』のシヴァガミ様に匹敵する。そんな大久保さんを出してきた。
大久保さんは、画面にいるだけでええ。そういう方。もう敬愛しかないんだな。
『なつぞら』のとよも素晴らしかった。
けれども、大久保さんには関西独特の味があって、東西それぞれちがっていい。そういう女性たちです。
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