ろくろに向かう武志。
実は高校に入ってすぐ、武志は喜美子に陶芸を教わりたいと言ってました。
手際良くカップをつくる武志を、喜美子がジッと見つめています。
「売れる? 100万で売れる?」
「それ100万で売れたら、世の陶芸家みんなやる気なくすわ……あ〜、なんで壊すん」
100万では売れないけれど、なかなかのもんだと認める。そんな喜美子です。
「お母ちゃん、楽しい。陶芸、楽しいな」
そう微笑む武志でした。
自分でなかなか決められないこと
本作のすごいところって、陶芸家役の役者さんが全員楽しそうに見えるところでして。
伊藤健太郎さんも、はじけるような笑顔から楽しさが伝わってきます。現場の雰囲気がよいのでしょう。
BGMで盛り上げて、キャピキャピナレーションをくっつけようと、役者さんの目がともかく暗い。そういうドラマもありますからね、昨年とか……。
喜美子はそんな武志の意思を逃しません。
「ほんま? 陶芸家になりたい?」
母からそう言われると、楽しんでいた気持ちにちょっと動揺が見える。
伊藤健太郎さんは、若々しいだけでなく、こういうところがお上手で。
『アシガール』から抜擢された黒島結菜さんも、彼も、絶対にこれや!と見込んでの採用だとわかります。とにかく演技が繊細なのです。
「なりたい言うて、なれるもんやないやろ。子どもの頃から見ててわかってる。そんな甘い世界やないで」
「せやから言わなかったん……」
そう返すしかない喜美子。自分の熱気が周囲を圧倒していることに、無自覚なのか。それともわかった上で困惑しているのか。成功しても、そのことへの戸惑いを感じさせるのです。
武志は、そんな母の気持ちを確認する。
陶芸家になって欲しいのか?
お母ちゃんは大学に行って欲しいんやろ?
そう投げかけると、喜美子も返します。
お母ちゃんの気持ちは関係あるか?
やりたいことあるんやったら、やったらええ。それが陶芸家いうんやったら、やったらいい。
武志は、やりたいことをやってうまくいくかどうかわからないとまだ迷う。
「そんなん、やってみないとわからへんやんか」
喜美子……それは、あなたみたいにぶつかっていける、そういう人だけのことでして……。
まだどうしたらええかわからないという武志を、喜美子はこう突き放すのです。
「自分の人生や、自分で決めぇ」
ここに来て出てくる、喜美子の持つ残酷さというか業というか――かつて覇道邁進をめざす自分の人生は、父の借金や周囲の偏見で潰されてきました。
しかし大半の人間は、むしろ覇道邁進などしなくてよろしい。いきなり「邁進してこそ人生」みたいに言われても、断崖絶壁から落とされるような、そういう絶望感すら与えかねません。
母親だとか女性だとか、それ以前に、喜美子は喜美子でかなり特殊なんだと受け止めた方がよさそうです。
例えば幼少期の喜美子は、ホウキを持っていきなりイジメっ子の次郎を襲撃していました。
武志のやんちゃは、三津相手にキックボクシングをするくらいです。喜美子の方が、武力が高いんや……。
『なつぞら』の柴田泰樹は、開拓者の孤児として北海道にたどりつき、彼なりの道を邁進してあそこまでたどり着いたじゃないですか。
ああいう泰樹や、この喜美子のような、我が道を走ってゆける武将めいた人物もいる。
そういう武将は、武将以外を見るとなんだかよくわからなくなる。
しかも下手すると、心理的に焼き討ちにする。
そういうことだと思えるのです。
※迷う気持ちがまったくわからん! そう主張する泰樹の前世
テレビジョンとお父ちゃん
ここで武志は、思い出を語り始めます。
テレビと父の思い出
なあ、テレビジョンが来た日のことや。日曜日、寝てて。その頃はまだ離れで寝てて。
「来たで、武志、やっと来たで」
そう言われて飛び起きた。裸足で駆けてった。茶の間に駆け込んだ。
やっと来たか、お父ちゃん! お父ちゃんかと思ったんや。
お父ちゃんが、やっとお父ちゃんが帰ってきたんやと思った。
言わんかったけど、俺、子どもやったし。
ほやけどテレビジョンかて、嬉しかったんだけど。
ほやけど、ほやけど……そのあとも帰ってきいひん。お父ちゃん、なかなか帰って来いひん。
知らん間に、離婚してた。
今やったら言える。もう高校生や。
お母ちゃんが陶芸家としてやりたいことやって、成功する代わりに、大事なもん失った。大事なもんを、失ったんや。
そこまでして、陶芸家やっていけるかわからん。
わからんのや。
武志の言葉を聞き、喜美子も思い出しています。
たった一羽で、飛ぶ鳥のように去る
あの日、穴窯に成功した日――八郎も、取り出した作品を見に来ておりました。
二週間たき続けて、成功した作品です。
八郎は、何も言わず、いつまでもそこにいました。
声を掛けることはしませんでした。
夕日を浴びて、ピアノの音を背景に立ち続ける八郎。深野先生の絵にある、一人で飛んでゆく鳥のような姿にすら見えた。
喜美子は穴窯に薪を入れる場面が、一番美しかった。初回の冒頭にあっただけあって、これぞ見せたかったものだとは思う。
この八郎も、一番寂しく悲しく……。
最も心惹かれるものがありました。
ふたりが近づき、結ばれるまで。そのあと夫婦で語り合う姿も微笑ましく、甘ったるいほどでした。
けれども、お互い、一人で大地に立つ場面が一番印象的って、どういうことだろう。
松下洸平さんはもう、これから先、どんな役でも演じられるんじゃないか。そう思えてしまった。
八郎はノートを残していきました。
「めおとノート」には、こう書かれていました。
すごいな すごいな
すごいな 喜美子
それを機に八郎は、信楽から京都へ移る。
この別離は、モチーフからも変更して、敢えてもっと喜美子という人間の本質に迫っていると思えました。
喜美子がともかく熱すぎて、その熱気対処できなかったゆえの悲劇だと思えたのです。
そんな両親を見ていたら、武志が不安を覚える意味もわかります。
喜美子がマツに語る「めでたしめでたしの話」は、八郎から見れば「別離と敗北の話」。武志からすれば、「お父ちゃんがいなくなった話」になるのです。
一から出直す、それまでの関係を捨てること
四国の愛媛に渡った――喜美子がそう聞いたのは、何回目かの個展会場でした。離れて暮らして数年後のことです。
そこで柴田から、ハチさんがようやっと出した結論として、喜美子は聞かされました。
京都を引き払って一週間後。
やっと人づてで聞かされる。
柴田にちょっと突っ込みたいことはある。
喜美子を陶芸好きなおばちゃん呼ばわりしてましたよね? まぁ、そういうことがあっても彼らはそういう反省せんからね。
武志には信作経由で連絡がいくようです。
「一から出直す、いうてたわ」
そう柴田は言います。ここで喜美子ファンの女性が握手を求めてきて、ちょっと中断されました。
花束を受け取った喜美子は、紛れもなく成功した陶芸家です。
高い着物ではない。動きやすく、いつもよりちょっと綺麗にしただけのパンツスタイル。スカートもやめましたかね。ジョージ富士川の前では履いていましたが。
「ずっとファンなんです、お若いのに素晴らしいわ」
そう語るファンもいるほど、成功してはいるのですが。
「相変わらず盛況やな、おめでとう」
「ありがとうございます」
そんな会話も柴田とできるほどなのですが。
喜美子は満足げというか、何か仮面を被ったようなところのある顔で、花束を預け、来場者名簿をめくっています。
そうそう、本作の花束はきっちりしている。一昨年、そのへんの花屋で買ってきたとバレるようなもん使うなと文句つけた覚えがある。今年は小道具さんも本気やな!
今日は女性が多い、と受付の女性に聞かされます。先生がお見えになる前は半々だったとも。
そして喜美子は気付くのです。
十代田八郎
その名前があることに。
一から出直す――その意味を考える喜美子です。
ここでファンの女性に声をかけられ、喜美子は写真撮影に応じる。
このしばらくあと、喜美子から離婚届を送りました――。
圧倒的な孤独が喜美子にはある
圧巻でした。
朝ドラで成功はお約束ではある。
うれしい。満足感。もう二月ですし、お決まりと言えばそうですけれども。
成功に虚しさを感じている――そんな朝ドラヒロインおったか!
営業スマイルはできるけれども、信楽で心の底から笑っていたものとはちょっと違う。
望んでいた栄光、好きな道のはずなのに、何か虚しさがある。
成功しても寂しい、喜美子の顔には、この世界を信じきれない寂しさのようなものもあると思えました。
柴田は、陶芸好きのおばちゃん扱いしてきたのに、今や先生だと尊敬している。
不倫された哀れな妻として注文を受けていたのに、それが今や若いのに成功した先生。
彼女の周囲にいた人は、見る目を変えたことでしょう。
中卒の女とバカにした人も。
絵なんて中学の金賞だと苦笑した人も。
八郎の妻だから古典でええ着物を着て笑えと言った人も。
穴窯なんて時代遅れだと、本心ではないにせよ、笑っていた三津も。
そして陶芸家ではなく、女でしか見られないと言った八郎も。
喜美子は自分の本質は、変わっていない、揺るぎないものだとわかっている。
マツ、直子、百合子、信作、草間、荒木荘の仲間。彼らはそこを見抜いてくれた。それは少数派だともわかっている。
自分の本質が好きなのか?
世間がくっつけた名声を愛しているのか?
そこを考えると、ズブズブと深い闇に落ちていくかもしれない。
喜美子はやっぱり圧倒的な孤独を感じさせて、だからこそ朝から目が離せなくなるのです。
そんなふうに見える、戸田恵梨香さんの演技が半端ない。本作チームの気合がすごい。
敢えて近い存在を探すとすれば『半分、青い。』の秋風羽織ですかね。トークショーで塩対応するし、犬しか心を開けないと言っていたっけ。
喜美子は社会的な成功ではなく、人間としての何かを探る――そんな未知の旅に出なければならないようです。
※冒険は終わらない……
落ち込んだ武志をビリヤードに誘うで
はい、ここで武志、学、大輔の三人組。
「ヤングのグ」という場所で遊んでいます。名前だけで懐かしさで目眩する視聴者もいそうやな。
このファッションもええ。
背伸びしていてラガーシャツにこのベルト。田舎の高校生が背伸びした感が半端ない。
カッコつけてるのに、背後では屋台のおばちゃんがたこ焼き作っているあたりもええんちゃうか。
「NHK東京の、亜矢美ワードローブええと思います。広瀬すずさんのファッションショー、ええもん見せてもらいましたわ。それはそれとして、NHK大阪の本気と違いを見せな(アカン)」
そういう気合を感じるんや。
彼らはビリヤードをしておりました。インベーダーゲームはまだかな? 信楽はこれからか?
ピンクフィーバーズで浮かれる親友に、武志は「もうええて」と呆れています。
なんでも「落ち込んでるから励ましたってんねんや」だってよ。
武志はピンクフィーバーズにハマらない理由を聞かれて、こう言います。
「歌、下手やん」
「アホかお前、アイドルが歌うまかったらアイドルやないやろ。ただの歌手や」
おいっ、どういう脚本だ、おいっ!
これ、ほんまよく通るわ。そんな芸能界とファン心理をえぐりおって。
「そもそもなんで落ち込んでんねん?」
そう聞かれ、言わんでもいいこと言ってしもたんやと吐き出す武志。進路の話で「大事なもんを失ったなんて青臭いことを……」と悔やんでいるのです。
誰に言ったのか? と問われると、1にお母ちゃん、2にお母ちゃん、3にお母ちゃんと打ち明ける武志。
難しい問題やなぁ……そう思っていても、女子が入ってくるとキューを持ってカチコチになるあたりが、男子高校生の悲しさやろな。
彼女たちは、ほんの一瞬、人を探しに来ただけですぐ出ていくのですが、その後の三人組がこれや。
「ああ、ハァ、ハァ……」
「ええ匂いしたなぁ!」
「俺のことチラッと見たで!」
「俺を見たんや」
「よけといてー!」
はい、ピンクフィーバーズの真似をしてなんかごまかす。
毎朝、男性視聴者の脳になんかぶちこむのやめましょうよ。うん、どういう地獄なのよ。
昨年の放送事故は【ファイナルオヤジファンタジー】で気持ち悪かった。
女は男に見つめられてもキョトンとしていた。
いやらしい目線を向けられようが。バカにされようが。キョトンとして受け止めるだけの不気味さ全開。どうしてこんなもんを受信料で作るのか、疑念しかなかった。
今年は、武装して【オヤジハザード】状態と言いますか
むしろ男性の恥ずかしいアレやこれやを見せつける、そういう気迫すら感じる。
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