若者がディスコのお立ち台で踊り狂っていた、時はバブルの1990年(平成2年)。
岐阜出身の楡野鈴愛は、漫画家・秋風羽織の元に弟子入りするものの、ネームをあやまって捨ててしまい、破門処分に。
失意のうちに岐阜へと帰る前夜。
鈴愛は幼なじみの萩尾律、その友人である朝井正人ともに、ユーロビートがドンドコ鳴り響く、ディスコ「マハジャロ」で踊ることにします。
お立ち台で踊る姿は、まるでディスコクィーン。
でもこれが本当に、東京最後の夜なのでしょうか。
【42話の視聴率は19.8%】
「いいね、甘酸っぱいね、青いね!」
お立ち台のボディコンを着たまま、ベッドで眠る鈴愛。律と朝人は床で寝ています。
「少女漫画の幼馴染みたいだね」
そうからかう正人。
「それ以上だ。誕生日もいっしょだ」
「じゃあ誕生日祝いもいっしょか」
そう言われて、律はある出来事を思い出します。
同じバースデーケーキに灯された火。
自分は青いろうそくを消そうと思っていたのに、鈴愛に横から消された苦い記憶です。
それを最後に、誕生日を共同で祝うことはないそうで。
「じゃあいっしょに寝てもいいじゃん」
「そうだけど、お互いもう大人なんだし」
正人に対して、育ちのよいことをきっちりと宣言する律です。
両親、特に和子さんがそういうことはしっかりと教えていそうですね。
「いいね、甘酸っぱいね、青いね!」
と、ここで正人が視聴者の考えていることをズバッと言ってくれましたぁ〜!
先生に御礼をしたい
翌朝、鈴愛は突如言い出します。
クビになったとはいえ、憧れの秋風羽織の仕事を見られてうれしかった、お礼の手紙を書くと。
「切り替えなくてはいけない! 明日からは玉ねぎを売る!」
「ふふっ、鈴愛ちゃんのそういうところ好きだなぁ」
正人がそう言うと、律がモテる理由がわかった気がすると言います。
「もてるのか? そういうのは疎いからよくわからん」
鈴愛にはまるで通じていません。
正人って、岐阜県西高の「こばやん」がドン引きした鈴愛の拷問ノート事件があっても、笑ってしまいそうなところありますよね。ふふっ、て。
秋風羽織はネームにつまり、椅子で回転中。
『さよならは私から言う』のネームが、一度かけたのに、二度とかけないそうです。
「一期一会なんだ!」
あー、わかります。大作家先生と比べるのもおこがましいんですけど、私も原稿を時折データ吹っ飛ばしてしまいます。
で、書き直そうと思っても、以前書いたものと同じにならないんですよね。
「あの猿は許せん!」
怒りを燃やす羽織。
そのとき、かかってきた電話を菱本が取ります。
なんだかんだで鈴愛に協力的な菱本さん
「どうしてかけてくるの。火に油を注ぐようなものじゃない」
そう言いつつも、菱本は喫茶「おもかげ」に向かうのでした。
菱本が持ってきたのは、アルバムです。
「写真を何枚か持ってこようと思ったけど、かえって気づかれるから」
そう言って開くと、羽織の代々のペットたちが映っています。
中には笑顔の羽織も……。
漫画家らしく、擬音や吹き出し付きなのがかわいいですね。美術スタッフのがんばりを感じます。
菱本は見分けがつくように付箋に書いた名前を貼り付けます。
でも、なんで鈴愛にこれだけ協力するのか。
そう聞かれた菱本は、実は鈴愛に戻ってきて欲しいと切り出します。そして、あの原稿投げ捨て未遂事件について語るのです。
巨匠にあんなことをするのは鈴愛しかいないのだと。
原稿の扱いが悪いという定評がつきつつある本作ですが、菱本の中では「だがそれがいい!(ニヤリ)」状態なんですね。
鈴愛は刺激物扱いだと。
「二人を見ているのが楽しいだけだったりして」
そう突っ込む律です。
ここで菱本、二人のイケメン大学生に気づいて素性を尋ねます。
「朝井正人です。鈴愛さんの彼氏です」
「冗談です」
一瞬、岐阜の猿に先を越されたのかと焦る菱本。
「じゃ、なるはやでお願いします」
「いえ、これありますんで。実家、写真屋なんです」
アルバムを早めに返すよう念押しする菱本の前で、律はカメラを取り出しました。
当時からすれば最先端だった、プラスチックのカメラ。
今見るとデカいですね。
ドラマのカメラとは別物ですが、当時はこの手のカメラが流行していました
アーモンドチョコレートみたいな瞳
アルバムを受け取った3人は、部屋で何かを作っています。
思わず「梟会」を連想する鈴愛と律。
「ブッチャーとナオ!」
「ブッチャー?」
「あだ名なんだ。本名はえーっと、なんだっけ」
西園寺龍之介。すっかり忘れられてます。
ボクテとユーコ協力のもと、羽織へのサプライズギフトを運ぶ3人。
ボクテは律の顔を見ると、目を輝かせます。
「綺麗な顔、アーモンドチョコレートみたいな瞳。カリッとしてそう……」
ボクテの性的嗜好からの台詞のように思えますけど、ここはちょっと保留。
少女漫画家としての感性ゆえかもしれないです。
何がすごいって、佐藤健さんの整った顔面が持つ説得力です。
ここで正人が、
「俺じゃないよね」
と何度も繰り返すんですが、確かに彼ではないのです。
美男美女設定というのは、ドラマだと案外忘れられてしまいます。
役者さんは基本的に美男美女なので、顔がいいのは当たり前。本作の場合、律も鈴愛も性格としてモテないけど、美形であるということは台詞で示唆されているんですよね。
電子レンジを開けるとそこには……
さて、サプライズを置いた部屋に、酒を飲んだ羽織が帰って来ます。
歌っているのは、『踊るポンポコリン』。
羽織は目の前にあるものを見て声をあげます。
そこには、愛犬たちの生き生きとした姿が!
と思ったら、鈴愛の描いたパネルです。
「なんだパネルか、ふふっ」
そして横には、肉球のついたカードが。
感謝の気持ちと、犬を飼えない羽織を思う気持ちが切々とつづられていました。
「あほらし。酔いもさめるっちゅうねん」
酔っ払うと関西出身っぽいなまりが出る先生です。
ここぞという場面で大阪出身の豊川悦司さんに言わせているだけにスゴく印象に残りますよね。
冷凍おにぎりをあたためて、食べようとする羽織。
たぶん少女漫画家ですから、おにぎりなんかないBarで飲み、乾き物のナッツとチョコレートぐらいしかつまんでいないんでしょう。
そして電子レンジを開けると、なんとネームが!
「やってまった……」
うわぁ~、今度は秋風羽織がやらかした!!
今日のマトメ「役者と脚本のマッチング」
なんでネームを電子レンジに入れるっちゅうねん!と突っ込んだ方。
いや、わかるぞ!と頷く方。
たぶん割れますよね。
私は後者です。
乾かそうとしたり、あるいは絶対なくしたくないと思ったり、奇想天外な場所に置いたからこそ忘れないだろうと思ったり。
そういうノリで、資料を冷蔵庫に突っ込んだりします。
で、忘れると。
ですので、今回のやってまったについてはわかるぞ、わかる、と頷くしかありませんでした。
鈴愛のハートフルな謝罪アイデアも面白いです。
昨日は衣装、今日は美術担当の奮闘が光っていますね。
そしてボクテの律への態度が、なかなか興味深かったんですけれども。
本作は役者の美形度設定がちゃんとしているな、と思いました。
律は超絶美形であると、作中世界でも認識されているのです。
ここでも『わろてんか』を持ち出すのは申し訳ないのですが、あの作品では高橋一生さんが超絶美形設定でした。
確かに彼は人気がありますし、魅力もある。
ただ、容貌についていえば、正人役の中村倫也さん系統だと思うのです。
輝くような美形というよりも、あたたかみのある癒し系ですね。
高橋一生さんは、伊能栞という超絶美形設定のスーパーマンより、本作の正人系のほうが魅力あっただろうなあ、と今日感じたわけです。
本作の魅力は、役者の力を出す設定が生きているところ。
前作の、ともかく人気ある役者においしい設定をやらせればいい、という姿勢とは逆です。
時折ダンディさを見せる仙吉とか。
なんだか可愛げのあるブッチャーとか。
エキセントリックでふと関西弁が混じる羽織先生とか。
そういう役者と脚本のマッチングがうまいなぁ。
感心するばかりです。
著:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
NHK公式サイト
最初、CG胎児編には少し困惑しましたが、その後の子役さんの魅力、台詞の繊細さなどに惹かれ、今では毎朝TVの前に正座して集中しています。朝ドラをこれほど真剣に見るのは、『ひらり』以来でしょうか。朝から大笑いしたり、にやっとしたり、出勤前に元気が出ますね。15分間で毎日見所を作るのは大変でしょうが、スタッフさん達の仕事にいつも感心してます。武者震之助さんの深い考察にはいちいち納得です。しばらく楽しませて下さい。いつもありがとうございます。
あのカメラはポラロイドですね。
電子レンジ、分かるっ!
カメラも、今ではシャメで、いとも簡単に誰でも写真を撮れるけれど、この時代は、写真屋の息子ならではですね!
土曜日しか見れないのですが、この番組、評価、レビューが人によってかなりばらばらですが、私は面白いです。そして、クビになるのに、お礼をしたいと思うのも嬉しいし、女の子の取扱がきちんとしているのも嬉しいです。