大阪生活一ヶ月経過――。
初給与は雀の涙だわ、大久保からのストッキング修理せい攻撃はあるわ、大変な思いをしているきみちゃんです。
そんな喜美子に、思わぬ引き抜き話が!
「あの子、うちで雇おう!」
ちや子の上司であるデイリー大阪の平田社長、愛称ヒラさんがそう言い出したのです。
お給金はなんと五倍だとか。
喜美子は驚きます。
そんな引き抜き話の背景では、ナゼか雄太郎が歌っている……。
ここで、ちや子と雄太郎が早口でガーッと、歌える喫茶やもん、歌っててもええやんトークをしている、と。
ええんか? どういう喫茶店や。歌声喫茶ってこういうもんだっけ?
もっとこう……どちらかといえば『ひよっこ』。
おでん屋とはいえ、みんなでロシア民謡を歌って踊った『なつぞら』系のというか。
まぁええか。
本題とさして関係ないし、NHK東京と同じことをせず、ボケてひねってこそNHK関西やしな。
そうしたやりとりの最中、考えていた喜美子は、引き抜きを快諾すると言い切ります。
早いぞ、即断即決だな。
そらそうよ。給金五倍や。高い契約金あってこその引き抜きやで。
座って、落ち着いて考えよう
ちや子は、ここで喜美子を落ち着かせます。
「落ち着いて。いっぺん座ろか? な、よう考えて決める。ここで結論出すことやない」
ここで、ちや子からデイリー大阪の危機について語られます。
引き抜かれた先輩記者は、大変なものも連れて行きました。
雑用係の女の子もついて行ったのです。えらいこっちゃ。
記者と一緒に雑用女の子も辞めた。雄太郎はこれです。
「うわっ、その先輩とその女の子、あれやな」
「ええから。その話は置いといて」
“あれ“やとわかった上で、話が進まないのでちや子は引き戻します。
ボケツッコミというお笑いの役割でなくて、話の脱線を戻す。そういう会話の流れが関西なんだと思う。
本作はそのテンポがバッチリや。関西以外からすると、ちょっと早いかな。
湯飲みすら洗ってもらえない。
ゴミも散らかり放題。
それをちゃったっと片付けるきみちゃん。
その手際の良さに、ヒラさんは腕組みし納得しました。
戸田恵梨香さんの身体能力も、本作では証明されています。
戸田さんあってのきみちゃんやね。関西弁も、アルトな声も、枕柔道も、ちゃちゃっとした動きも、彼女あってのこと。
喜美子は腕を買われた。そう聞かされ、腕を押さえてこう来ました。
「腕を買われた?」
ちゃうちゃう、その腕を買うやない。
きみちゃん、数学得意でも、国語はそうでもないのかな。家事に追われていたせいか、読書時間はとれていなさそうですもんね。
「日頃やっていたことが認められたいうことや」
そうちや子に言われて、喜美子は頬を染めて嬉しそうにしています。
そうか、喜美子は実力を褒められるとぐっとくるんですね。
「えっ、そんなに、そんなにうれしい?」
ちや子はそう戸惑ってから褒め、頭を軽く撫でます。
一月奮闘していたと理解を示すのです。
「へへへへっ、何かええ話?」
歌声喫茶「さえずり」のオーナーは、「へへへへっ」笑いが癖のようです。
おもろい。濃い。毎回出るたびに、この笑いをするのかな。楽しみにしておこう。
さえずりオーナーのへへへへ……ええな。
話が一段落すると、雄太郎は名画座に行くと去ってしまいます。
ちや子は、雄太郎の仕事はどないしているのかと突っ込みますが、答えはこれや。
「聞かんといて」
しかも、コーヒー代は無料券で支払う。無料券をえらいぎょうさん持ってる。
雄太郎、何者なんや。
このあと、喜美子はおずおずと尋ねます。
「めいがざって何ですか?」
雄太郎は映画が好きで。映画ばっかり見ているとちや子は説明したから、こう尋ねます。
映画も経験なし、喫茶店も今日が初めてなのかと。
照れ笑いしつつ、そうだと肯定する喜美子。貧しい信楽暮らしでしたもんね。
やっぱり、リアリティあるなぁ。
貧しい母子家庭設定なのに、その家の末娘が映画館でチャップリンを見てもボケーっとして中身を覚えていない。
そんなNHK大阪前作に、散々私は突っ込んだものです。当時の映画は、今よりもっと貴重な体験だったのに、あれは何かと。
そんなこと、本来のNHK大阪がわかっていないはずがないんですよ。
ここでちや子は、ますます同情してしまう。
「もっと生活楽しめたらええなあ……」
生きて食べていければそれでよいというものじゃない。
息抜きも必要。そう喜美子を思いやる彼女のまなざしは、妹を見る姉のもののように思えてくるのです。
お父ちゃんより労働条件が大事
ちや子はこれから社に戻るから、その後に条件を提示すると言い出します。そこを詰めると喜美子に迫ってくるのです。
住むところをどうするのか。
もう荒木荘にはいられないだろう。そこに気づいていない喜美子です。
「そういうことをひとつひとつ考えんと」
喜美子はここでこう言い出します。
「お父ちゃん! 信楽の父に聞いてみんと」
「自分の人生は自分で考え」
即座にちや子はこう返しました。
決めてからお父ちゃんにいえばいい。親元を離れるとはそういうこと。そう言い切るのです。
ちや子は、妹しかいない喜美子にとって、もう完全に姉になりつつあるのかな。
喜美子が意志薄弱であるとか。愚鈍であるとか。そういうことは感じません。
15歳の女の子なのに口が達者だとか、考え方がしっかりしすぎではないか。そんな意見も読みました。
いや、喜美子はむしろ知能設定がしっかりしていると思いますよ。
頭は悪くない。むしろ機転は利くし、自己主張だってできる。感受性も豊か。空気だってきっちりと読めし、礼儀正しい。
ただし、家父長制に浸かって生きてきたから、父に背くことは考えたことすらないし、読書はじめ教養を身に付ける機会もあまりない。
『なつぞら』の夕見子とは正反対だと思えばわかりやすいかも。
夕見子は肉体労働や家事をあまりやらなかったし、突拍子もない言動をする。父母にも平然と逆らう。
両者とも魅力的で意思が強い。自分を持っている。
ただ、異なる個性の持ち主ではあるのです。
ちや子は、そういう喜美子の弱点を補い、契約交渉を助言します。
ジョーも土下座一本槍と一筆書かせるくらいで、こういうことは大雑把そうですもんね。
デイリー大阪に出した条件はこう。
家賃は負担してもらう。
給与は最低でも今の五倍、5千円。
休みは毎週日曜。
朝は9時から。
提示された条件に対し、いちいち喜ぶ貴美子。
今は、休みもなく、朝も4時起きで薄給です。こんなもんどう考えても悪徳だもんね。
労働条件交渉って、100作目以降むしろ出して行くことこそ、時代の要請に応えるということなんでしょうね。
そうそう。朝ドラが時々やらかす、劣悪労働美化には問題があると思っておりました。
見習い期間の喜美子の薄給って、酷い話でしょ。休みもないし。
でも、『純と愛』では「24時間コンシェルジュ」、『まれ』では見習い期間の無給労働をやる気として美化していましたからね。
NHK大阪前作なんか、主人公夫妻が周囲を搾取しまくってたもんな。
そんなんもう終わりやーーー!!
引き抜き話でスキップルンルン
鼻歌を歌いつつ、子供の前でスキップして荒木荘まで戻る喜美子。
背後に映るだけの子供も、らしい仕草で遊んでいます。
「下着ショーどうやった?」
出迎えた大久保が、そう言います。
あの高揚感を思い出す。うーん、喜美子の感動に嘘はない。
ただ、そのあとの引き抜き話が大きすぎて霞んでしまっているんですね。
喜美子は芸術よりも金です。
慶乃川へのダメ出し、旅のお供の値段問題。そういう場面で示されていますから、そこはしゃあないと思う。
彼女に限らず、経済的に余裕がないと、人はなかなか芸術を楽しむこともできないものですよね。やっぱり心理的余裕が必要です。
「素晴らしい下着の数々……ほんでその〜楽しかったです!」
喜美子はうまくごまかします。こういう機転はある。
一方、大久保は容赦ありません。
ストッキングの目の粗いものはやり直しとのこと。ここで「急いでな」と付け加えるるのです。
それでも引き抜きあればこそ、喜美子はご機嫌です。
「大久保さん、ご苦労様でございますぅ〜さようなら、さ〜よ〜う〜な〜ら!」
気色悪いきみちゃん。
ここで、を目上の人に【ご苦労様】を使うのか?と引っかかる方もおられるかもしれません。
目上には【お疲れ様】、目下には【ご苦労様】という使い分けは、もっと後、平成以降ですので実は間違いではありません。
言葉遣いが気色悪いから無礼ということならば、ありかもしれませんけどね。
喜美子は冷静にストッキングを見直します。
「ほんまや。確かに粗かったな」
そこに圭介が現れ、喜美子に声を掛けます。
「ちょっとええかな?」
俵型のおにぎりが差し出されました。圭介が作ったのか?と驚くと、彼にはできない、大久保が作って行きはったと説明されます。
「お腹空いたら食べてき」って。
喜美子は、このおにぎりを見て考え込んでしまうのです。
おいしそう。しかも俵型!
本作のお料理は、食べてもおいしいとのこと。パッと見た瞬間、西のものだとわかるのもいいんですよね。
おにぎりが俵型であることも、西日本の特徴です。
肉まんでなくて豚まんに辛子をつける――そういう西の食文化が、きっちりと再現されている。
圭介は、喜美子にこう言います。
「ん? ははっ? 呼ばれ?」
何か話したいことがある顔で、話相手として呼ばれたのかな。そう聞いてくる、ええ関西の男です。
「お金は大事やし、欲しいし、大好きです!」
こうして喜美子は圭介にも打ち明けますが……圭介は複雑な顔をしております。
記者でなくても熾烈な世界。ちや子は、綺麗な年頃なのに化粧もせんと髪を振り乱している。
きみちゃんもそうなってしまうのか。そんな男も女も関係ない職場は嫌だと。
ちや子にちょっと失礼だとは思いますが、好きでやっていると本人は気にしていないようです。
圭介はあれやね。これはあれやね。
きみちゃんがかいらしくてたまらんのやね。
ちや子は交渉結果を伝えます。
相手も条件を大方のんだ。住む所はこれから、給金は確実。
圭介は苦い口調で続けます。
「お金か。結局んところそれか」
※続きは次ページへ
いつも楽しく拝読しています。今日の放送は見ていないのですが、レビューの夏に「呼ばれ」というのが「話し相手として呼ばれたのかな」と書いておられます。これは、ひょっとしたら「食菜祭」という意味ではないでしょうか?「あんたもこっち来て一緒に呼ばれ」とか、「ありがとう。呼ばれるわ」とかいうふうに、使います。
「おおきに」という言葉は最近はあまり使いませんが、「呼ばれ」を「食べなさい」という意味には、地域差、年代差はありますが、関西では、まだまだ耳にします。