スカーレット22話 感想あらすじ視聴率(10/24)本音と建前の使い分け

ジョーと喜美子の二人はついに我慢できず喜びが爆発。

「すごいやん! 一足12円! 100と28!」

「さっき計算したやろ!」

「お父ちゃんこそ顔に書いてあったで!」

「お給金より高いもんな!」

うーん、この、金の悩みがすっ飛んでいって助かった感。心の底から大喜びです。
ここで二人は道を外れて金のやり取りをします。

「これ全部持ってってええよ」

「全部はあかん、半分や」

「ええよ、ええよ」

「ほんまか? ちょっとだけ……」

譲り合って、結局ジョーが半分よりちょっと多いだけ持っていったそうです。

出た。関西や。
お会計の時、奢ったるわと言い出す側と。あかんと止める側。日本人特有とされますが、関西の場合が一番濃いと思いますね。

で、こういう会話。
関西人同士でないとなかなか通じないんですわ。

「ありがとうございます。全額奢ってもらいますね!」

「そ、そうなん?」

こうなると、困ってしまう、と。
そういえばジョーと草間宗一郎には、そういうテンポのズレがあったっけな……。

金のこととなると、父や男としての沽券がきれいさっぱり消えているあたりも、いいですね。

命拾いした父子は、しみじみと言い合います。
これも大久保さんのおかげや。

「ええ人や……」

「ええ人や……泣きそうになってもた……」

しんみりしたところで、喜美子はカブラを漬けるし戻ると言います。

ジョーはここで、見ぇへんうちに背ぇが伸びたかと言います。
まだ一月だと喜美子は返すわけですが。ジョーが感じたのはオーラというか、雰囲気の成長かもしれんね。

励ます父に、喜美子はこう来ます。

「こっちよりそっちだ! しっかりさいさ!」

酔っ払って川に落ちたりせんように。帰る時も足元気を付けて。そこまで気遣われるのです。

これや! これやで。

NHK大阪朝ドラ前作。
とってつけたような粘っこい関西弁をヒロインが喋ってましたっけ。
あんなネバネバしたすっとろい話し方。しかも男の顔色を窺って耳に痛いことは言わない。夜のお店お姉さんじみた相槌ばっかり。

あんなんが関西の女、内助の功て。侮辱ちゃいまっか? もちろん個々人の感覚もあるけどな。

今にして思えば、サブタイトルからして嘘くさかった。

「そんなん絶対ウソ!」

「見守るしかない」

「きれいごとは通りませんか」

エセ関西弁かつ受身すぎるやろ。
なんやこれ……あっ、もうええ、『スカーレット』や。

荒木荘にも三年や

「ほなな!」

いったん別れてから、喜美子は父を呼び止めます。

「なんや!」

ここで、娘の情愛を期待して、素直にダッシュするジョーがええアホの顔で、もうたまらんものがある。

喜美子は宣言します。
うち、荒木荘で頑張ることにした。大久保さんの跡を継いで、荒木荘の何から何まで把握するまで、目を瞑ってでもできるようになるまで、辞めない。

自分でそう決めた。

一年か、二年か。
信楽には帰らん。盆も正月も帰らん、仕送りはなんとかするさけ。ほんでお金も貯めたい。

そやし三年は帰らん。
先に言うとかんへかったら寂しいやろ。

娘にそう言われて、ジョーはこう返すしかありません。

「アホ。一回、そと出たらいないようなもん。盆も正月も帰って来んな。しっかりやれよ。しっかり稼げよ」

そう言うしかない。娘を見るしかない。ハグもない。帰ってきてくれアピールもない。
そんなジョーの背中でした。

『なつぞら』では、いないと寂しいアピールをする。帰ってきてくれアピールもする。帰ってきたら嬉しいと顔に出す。
そんな道産子との違いがすごいですね。

どっちが上でも下でもない。
ただ、この関西のおっちゃんの、アホな悲哀はリアルだと思う。

無言電話を切ったあとで、娘の名前を読んで泣いていた場面を思い出すと、たまらんものがあります。

難儀やなぁ、そやけどやる

「ただいま戻りました」

喜美子は荒木荘に戻ります。そして台所でカブラを洗う大久保にこう言います。

「うちやります」

「きれいに洗て。おいしそうなカブラやな。畑で取れたいいはったわ」

大久保は、家に畑があるのかと聞いてきます。
大久保さんはどちらの出身かな? 彼女の実家にも畑があるんですかね。

娘さんは奈良に嫁いだそうですし、やっぱり北摂かな?
喜美子への態度がちょっと柔らかくなりましたね。

喜美子はここで、三年帰らへんと言ってきたと告げます。

「一人前になるまで帰りません!」

そう言われ、ますます感心した顔になる大久保です。
それでも洗い方にダメ出しをします。桶に水を貯めて洗わないと、水をナンボ使うのかということになる。

「こんなところやったら、三年どころか百年も帰られへんで」

それから襲いかかる熊のようなポーズをとります。

「返さへんで! てやぁ!」

「とやぁ〜! ですっ」

喜美子が柔道のポーズを取ると、大久保も真似してみます。
カブラを洗って、切るところまで。

「固いところに包丁目を入れまんねん。はいやってみぃ。もっと細こう、細こう、細こう……難儀やなあ」

夏まできっちり教える、これが大久保の意地と誇りです。

本作には期待してもらって結構です

本音と建前の使い分けが、ものすごく複雑だとは思う。

セリフを正面から受け止める人は増えていると思う。
アホ連発にクレーム入れられるリスクだってあるし。ジョーも大久保も、わかりにくいっちゃそうなのです。セリフがきついですし。

構成もやられましたわ。
一本取られた。泥棒、さだ出張というピンチで、大久保のストッキング地獄が救世主となる。

なんで大久保は初めから内職と言わへんねん。
それはな、喜美子のやる気確認もあるけど、こういう週を跨いであっと言わせるための工夫なんや、見事やね。

関西ならではの厄介さがあるなあ。それでもやりたいんでしょうね。

これはモデル周辺でもそうでして。
本作のモデルは、複数おり、はっきりとしていません。明言されていない。次の『エール』とは違いますね。

NHK大阪ここ数年定番であった、企業創業者コラボとも明確に異なります。

メインのモデル出身地はそもそも関西でもない。
ここをバッシングする動きもあるようですが、気をつけた方がいいとは思います。

というのも、何度か指摘してきた通り、モデルと経歴を一致させる範囲は作り手の裁量次第です。

・大河ドラマのように、実在人物名を使う。伝記もの(『いだてん』、『西郷どん』)

 

・企業コラボのように、実在人物名、出身地、国籍、家族構成を一致させるもの(『カーネーション』、『マッサン』)

 

・複数の人物を組み合わせる、あるいは分割するもの(『スカーレット』、『なつぞら』『獅子の時代』、海外では日本より多い傾向にある)

100作目以降、朝ドラは複数モデルを確立したいようにも思えます。『エール』はさておきまして。

これにはメリットがあります。
それはそのときどきで考えることにして……どうして喜美子が大阪出身で働くのか。

それはもう、大阪を描きたくて辛抱たまらん、NHK大阪の都合でしょう。

大阪は日本の中心だと主張するジョー。

東京に舐められへんか気にして出張へ向かうさだ。

ちや子の職場はデイリー大阪。

本作はおそろしいと思った。
というのも、とっさにこんな言葉が数年ぶりに口から出てしまいました。

「せかさんといて!」

ん?
意識して、わざと関西弁にしようと思っていないのに、反射的に出てしまった。

こんなこと今までなかったので、心の底からびっくりしてしまった。

そんなふうに、本作を見て関西弁が出てしまったり。
気がつけば牛すじを求めていたり。
肉まんに辛子がついてこなくて寂しかったり。
ネギの白い部分を捨てたくなったり。

そんな人いるんじゃないかなぁ、と想像してしまうのです。

どえらい作品ですよ、これは。

文:武者震之助
絵:小久ヒロ

【参考】
スカーレット/公式サイト

 

2 Comments

一視聴者

朝ドラをより深く楽しめるレビューを、いつも有難うございます。
私も…「スカーレット」の背後には、作り手である女性の確かな視点と温かい信念があるのを感じます。今まさにたくさんの愛情を丁寧にかけて育てられている、ほんまもんの大阪発ドラマであり、武者さんの期待を信頼していればこそ、実に楽しみです。

家庭や社会の厳しさはリアルに、理想はとことん理想的に描かれ、笑える楽しいシーンが多くちりばめられ…、観るほどにこちらの心が浄化されるようです。頑張り屋さんなヒロインと自分を無意識に重ね合わせているのか(無謀にも)、関係ないはずの私の人生までも昇華させてくれる感覚があります。
地道な努力が報われていくのを見るのは、やはり、嬉しいですね。

荒木荘の面々にはピュアな温もりがあり、実家を出るすべての若者の周囲にいてほしい人たちですね。
また、今回描かれた父と娘、そして大先輩と”私”に流れる「情」には目を瞠りました。目で人を動かそうとする父親、覚えあったなあ~笑。
表情の細やかさと関西ならではのコトバの変化球、濃いけれど、逃せません。
武者さん、これからも宜しくお願いします。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

CAPTCHA