スカーレット27話 感想あらすじ視聴率(10/30)舞踏会に辿りつけない残酷さ

喫茶店でカランカラン!(おっ、別れ話か?)

さて、そのデート。
グリーンでコーディネートをした圭介が、あき子とさえずりでコーヒーを楽しんでいます。

ここであき子、こう言い出すのです。

荒木荘を出て、一人で暮して欲しい――。

「荒木荘の話ばっかりやん」

このさえずりだって、荒木荘の雄太郎がいる店。コーヒーと言えばここばっかり。

圭介は、雄太郎は斬られ役が決まりそうだと言います。
が、あき子はそれが嫌なのです。

「今日のシャツも、荒木荘の女中なんかに選んでもろて……」

圭介が反論しかけても、あき子は続けます。

圭介は女中に頼りすぎ。なんでも話す。女中と親しくして欲しくない。
そう続けるのです。

すると……。

「女中女中と言わんでくれ。きみちゃんはうちの大切な妹や。なんや見下したような言い方はやめてくれへんかな」

圭介が強い口調で反論すると、あき子は目を見開き、眉をしかめ、立ち上がります。そして次は、こうです。
カランカラン!

今は自動ドアが増えた。カフェはBGMが静かに流れていて、こんな音はまずしない。

かつて昭和の喫茶店といえばこのドアベルだったのです。

【ドアベルが鳴る=喫茶店で何かあったんやな】というお約束です。だからこそ、効果音があると。

圭介は慌てて、お勘定を払って追いかけようとします。
するとマスターは、苦い顔でこう言うのです。

「ええから。はよ追いかけ」

そうそう。
ここでお勘定を払わせたら、昭和の喫茶店主であらへん。

またカランカランとドアベルが鳴って、圭介が追いかけます。
見回すと、曲がり角で白いハンカチを出して、あき子は俯いておりました。

「ごめんなさい。やきもちや。ごめんなさい……」

走り去ろうとするあき子。
その袖を握りしめ、抱きしめる圭介です。

なんやこの昭和感……。

恋の終わりは落ち葉とともに

圭介はこのあと、荒木荘に戻り、火鉢を用意する喜美子を見ています。

喜美子はちょっと早いけれど冬に備えて、火鉢をきれいにしていたのです。
お茶を淹れるのかと聞かれて、コーヒーを飲んだからええわ、と断ります。

あ、おはぎ……。
お茶を淹れてもらって、子供みたいな無邪気さで食べていたおはぎ。

きみちゃんが作ってくれておいしい。そう喜んでいたおはぎ。
あの時間はもうないんやな。

圭介に他の人の行方を聞かれ、喜美子は答えます。
さだはパーマ。ちや子は仕事。雄太郎は、結果がどうなったのかな。

圭介はここで、喜美子の目線に気づきます。

「うん?」

「なんや元気ないから。これ信楽焼です。うちの地元の信楽焼」

「去年も聞いたわ、その前も言うてたで」

二人はそう話し合います。
ふ〜んとただ受け止めずに、ツッコミを入れて、返す、そんな関西の会話ですね。

喜美子は信楽には、学校を決めたら顔を出すと言います。
まだ夜間か、美術か、学費も踏まえて決められないとか。

圭介は美術の方を進めると言います。
やっぱり、美的センスに感謝があるんやろね。

喜美子から進路を聞かれ、圭介は小児専門の外科医にすると答えました。やっぱり、妹の死が進路選択にあるのかな。

そしてこう切り出すのです。

「それと……それとな、ここは出ることにした。荒木荘出て、大学の寮に移る」

喜美子は、言われっぱなしではありません。
気になるところは聞く。

「すみません、なんでですか? なんで荒木荘でなあかんの?」

国家試験のために勉強に集中する――そう言うと、荒木荘では集中できないのかと喜美子は返します。
圭介は、もう言い訳は通じないと腹を括ったのでしょう。

「きみちゃん、恋したことあんねやろ? 前に経験あるといううてたやん。そしたらわかるかな、こういう気持ち。勝手なこと言われるし腹立つし、何いうてんねんと突き返したくなる。けどな……好きな人の悲しい顔は見たないねん。しょんぼりうつむかれると、胸が締め付けられる。情けないなぁ……彼女が、あき子が【出て】いうから」出ることにしてん……」

喜美子はこう返すしかない。

「なんや、あき子さんのお願いでしたか……そうですか。ほな聞いてあげなあかん。そうしてあげてください」

荒木荘が嫌になったのか。
そう驚いたと告げる喜美子です。

「嫌になるわけないやん。ここ好っきゃもん。きみちゃん、好きや」

「よかった……」

「妹みたいに、大事に思てるよ」

「ありがとうございます。うちも圭介さん大好きや。ほな、引越し決まったら言うてくださいね。うち手伝います」

そう返す喜美子です。

圭介は、決意が揺るがないうちにと、来週早々にも出ていくことになりました。

そして、シーンは、引越し後なのか。

落ち葉を掃く喜美子の姿があります。あき子も、あき子のお父さんも散歩のコースを変えたのでしょう。犬のゴンはもう荒木荘の前を通りません――。

ナレーションがそう告げる朝。こんなん……泣いてまうやろ。

舞踏会にすらたどり着けないシンデレラ

今朝思い出したのは『なつぞら』のヒロイン妹・千遥です。

戦災孤児から料亭の跡取りに見染められた、朝ドラ東のシンデレラかもしれない。

しかし、その結婚相手はクズでした。
彼女は離婚し、自力と周囲の助けで生きてゆく。そういう近年ディズニーのような爽快感のある着地点でしたが。

『なつぞら』のようにヒロインたちが打倒し、近年のディズニーめいた解決を見せる。本作はそういう方向ではなくて、もっと恐ろしい方への回帰をしているとも思えます。

ヒロインは同年代なのに、本作はレトロ感が強い。
今日のさえずりの場面なんて、レトロでしたよね。セット、衣装、演出だけではなく、あえてそうしているのでしょう。

だからこその、女中連呼なのでしょう。

喜美子を女中と連呼するあき子は、嫌な女に思えるかもしれない。
けれども、シンデレラ候補女中はライバルなのです。

メイドカルチャーでごまかされつつありますが、女中なりメイドとご主人の恋愛はよくある話でした。

どこがいいのか?
男側は責任を取らなくてよいのです。妊娠したら解雇すればよいだけ。赤ん坊だけ取り上げてもいい。

メイド服はかわいいだけでは済まされないかもしれない、そういう差別的構造はあるのです。

そういう話を、あき子が認識していてもそれはおかしくない。
喜美子は、西のシンデレラかもしれない。

センスはいいのにいつも同じ服。
魅力的なのに、王子様はやっぱり、お姫様を選ぶ。

選ばれることすらなく、落ち葉を掃くしかない。
舞踏会にすら辿りつけないシンデレラ。

昭和レトロは素敵で懐かしくて、思わず笑える場面もある。
それだけではない、残酷さがある恋でした。

喜美子の困難は、彼女のせいではない。
生まれた家が貧しい。妹が二人いる。家事労働は誰にでもできると思われる女中になった。

進学できん。勉強する時間も取れん。
喜美子が舞踏会にすら行けないシンデレラなのは、彼女自身のせいではない。

信楽の人たちはその勤勉さを褒める。

先生は進学できると言う。

大久保はええお嬢さんだと認める。

さだは筋がいいと褒める。

圭介だって、きみちゃんのセンスを認めている。

喜美子は才能があるのに、すごく魅力的なのに。

こんな子がどうして落ち葉を掃いているのだろう?
学費を稼ぐために、内職をしているのだろう?

そういう理不尽を「身の丈に合うヒロイン」だなんて、褒める気にはなれません。

『半分、青い。』の時も、『なつぞら』でも。
地方の女の子が身の丈に合わない進路を選び、都会に出て、結婚して家庭におさまらないことが叩く意見はありました。

NHK東京は正面から立ち向かう一方、NHK大阪はもっと別の、おそろしい手段を選んできたように思えてしまう。

あんたたちの生活は、こういう女が支えている。

あんたたちの飯を作り、掃き掃除をしている。

それでええんか?

彼女の俯く顔を、見過ごしてええの?

彼女が俯く顔を見て、なんとも思わへんの?

そう突きつけていないか?

スマートな反撃をしているんじゃないのか?

毎朝笑ってばかりだけれど、それだけでなくて、ドキリとさせられる。ものすごい作品です。

ゆるぎない意図を持つ作品だけにある、力強さのある傑作です。

文:武者震之助
絵:小久ヒロ

【参考】
スカーレット/公式サイト

 

1 Comment

タイツ

今日のは楽しそうな冒頭から一転、見ていて悲しくなりました。喜美子の大人な対応が、これ以上傷が深くならないように…とかではなく、そう言うしかないんだな、と思わされるあたり。記事を読んで一層切なくなりました。

ところで、NHK大阪で市役所勤めのゆうたろうさんといえば、『ごちそうさん』を思い出すのは私だけでしょうか?偶然?それとも必然?(byゆず)くだらないけど気になって仕方ありません。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

CAPTCHA