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結婚をチラつかせるジョーに対し喜美子がシャウト。
「できへんでええわ!」
「できへんでええわ? お前、お前言うたな、絶対すんなよ、一生すんなよ、死んでもすんなよ!」
子どもかっ!
そう突っ込みたくなるほど幼稚なジョーです。
うん……残酷な比較ではありますが、ぼそっと本質をついて来る柴田泰樹ほど、知略が高くないし弁舌もすごいわけじゃないのよ。
それに、喜美子の宣言も斬新だと思う。
第一週が「結婚はまだまだ先!」とサブタイトルで言いつつ、ヒロイン周辺がずーっと男の話ばかり。押せ押せで言われるままに結婚した――そんな昨年の放送事故と比較すると、本作の立ち位置がわかりやすいと思う。
ここで、マツが酒瓶を抱えてこう言い出します。
「ちょっとよろしいですか! 喜美子にやらしてやりたいことがあるんです。その前にさあどうぞ飲んでください、さあ!」
「なんや、なんやお前、気色悪いなもう」
「ぐぐいと飲んで、気持ちをやわらげて、聞いて欲しいです!」
ここで直子が、焦っています。
あかん! 水や、それは水!
喜美子、気付く。
そうそう、姉妹で水を入れた酒瓶。あれがどうなったか気になっていた!
姉妹がジェスチャーであかんと示しますが、マツには通じません。おお、もう……。
「絵付けです。絵付け火鉢の絵付けです。週一で永山工房いうところでやらしてあげたいと思うているんです。喜美子もやりたい言うてるんです」
「絵付け……何を言うとんねん……なんやこれ!」
ジョー、カスっぷりを発揮し、マツに茶碗の酒――ではなく水をかける。
なんちゅうこっちゃ! 喜美子は怒ります。
「なにすんねん!」
「水やないか、おまえもう! 何が絵付けや! 結婚もせん言うてる奴が……ぬ〜この〜! ぬ〜ぬ〜!」
ちゃぶ台返しをしようとするジョー。
止める喜美子。
朝から何が起きとるんや。
そう言いたくなるところですが、
「あかん……」
と、一言でまとめられる。そういうNHK大阪の本気を見た気がする。
これに笑いの要素がないとつらいと思う。バランスの取り方が絶妙です。
このコミカルであかん場面を、NHK大阪のプライドをかけて作るわけです。控えめに言って最高ちゃう!
おはぎ食べつつ決意を語りまひょ
翌朝、マツは縫い物をしつつ、庭にいる喜美子に謝ります。
絵付けについてことうまいこと言うてあげようとして、火に油を注いでしまったって。
酒が水だとか。ジョーカスはありのままにあかんとか。
複合的要因はあったし、マツはおっとりしているから。そこは責められん。
喜美子はここで微笑みます。
「今考えてた、わかった。自分が何したいか」
妹二人は、ゴロンと寝転びつつ、ちや子が持ってきた少年少女雑誌を読んでいます。
百合子もかわいい。幼いのにしっかり者。
桜庭ななみさんの直子がすごい。
中学生くらいの無邪気さ、姉への敬意と反発、突っ張った気持ち。全部出ています。
直子はああいう性格だから、嫌われないかと悩ましいかもしれない。けれども、可愛らしさもちゃんと出ているし、丁寧な作りだから安心してよいかと思います。
「姉ちゃんな、決めたで」
「待って! おはぎ食べながら聞こうか」
マツはそう提案します。
「喜美子姉ちゃんの作ったおはぎあんの? 食べるぅ!」
百合子がはしゃぎます。
喜美子のおはぎといえば、失恋の味でもある。
圭介よ。でも、こうして楽しい思い出で上書きすれば、涙の味は薄くなるのです。そういう明るい前向きなところがありますよね。
大阪に生まれた女が湿っぽいのは、演歌の中だけでええから。
それにここでは百合子だけでなく、直子もうれしそう。好きなんですね。
かくして娘三人と母が向き合い、おはぎを食べ始めます。実際においしいと出演者が太鼓判を押すあのおはぎ!
娘さん人と母一人。
「いただきま〜す」
「うん、おいしいねえ!」
「おいしいねえ!」
そう味わってから、直子が切り出します。ひねくれているようで、姉の進路に興味津々だからさ。
「決めたて、何を決めたん?」
喜美子は微笑みます。
さあ、何を決めた?
昭和のニヒル地獄や……
本作は本当に、残酷や……地獄やで。
今朝の朝ドラHELLは、信作の青春だったと思うんですよね。
信作と同世代が、あのまま青年になって、おっさんになって、おじいちゃんになって。
それでどうなったかわかります?
陽子の嘆きが、現在にどうつながっているかわかります?
想像できるんだよ。経験あるんだよなぁ。
「なんやあのおっちゃん……いつものタバコ言われてもわからんやんか」
「何して欲しいか、あのおっさんはちゃんと口に出して欲しいな」
「あの家、おばさんは愛想いいのに、おじさんはすれ違っても挨拶しない」
こういう経験ありませんか?
店で『おう』、『いつもの』くらいしか言わないおっちゃんに困った経験ありませんか?
やたらと咳払いする系。
何かサービスしても、むっつりしている系。
有能な本作には、ヒントがちゃんとあるんです。
信作は鼻の下をこすって、無愛想でぶっきらぼうにふるまって、それがカッコいいと思っていたじゃないですか。
昭和の時期、高倉健さんや石原裕次郎さんがもてはやされていたころ。
背中で語る男がカッコいい!
きゃー!
ニヒル!
そう持て囃された時代があったんやで。
青春の刷り込みとは恐ろしいもんでして、それが抜けていないおっちゃんが未だにいるんやろなぁ……。
はっきりってムカつく。
けれども、彼らも被害者のような気がしますよ。
そうやって周囲との情報交流を遮断して、失うものもあったのでは?
本作は、そこまで踏み込む。厳しいようで優しかった。そういう姿勢があってむしろ怖い。
信作なんて、覚醒後は出番の九割が激痛を伴っています。つらいですよ……心当たりある方は、つらいなんてもんじゃない、地獄かもしれんな……。
ここで、ちょっと『なつぞら』と比較してみましょう。
あの柴田泰樹は、生まれながら無愛想で突拍子もないけれども、信作のように意識してニヒルにしていたわけではない。
そのあたり、夕見子と交際していた高山は見誤っていましたよね。そして抹殺パンチで成敗されたと。
愛想のいい柴田剛男は「頼りない軟弱な男」扱いです。
イッキュウさんや神っちは、なんかこう……特殊枠。天陽もか。
あのドラマの人物像は、当時によくいた典型からかなり外しているし、道産子だったりアニメの世界なので特殊です。それでもまぁ、令和の今、支持されるのは信作ではなくイッキュウさんでしょう。
ニヒルに育児ぶん投げて、料理なんて作らない。へっ。
そういう男性に居場所がない時代だとは思う。つらいことだろうとは思う。
ジョーに至っては絶滅危惧種ですが、それを惜しまれることすらないでしょう。
残酷や!
アップデートできない人間の脳天を直撃する、地獄の朝ドラや!
ええよ、もっとやってぇ!
喜美子となつの年代庶民は、現代から比較すればハードモードやで
さて、読まんでいいタイム。久々のニュース観察日記です。
◆朝ドラ「スカーレット」 リアルな女性の「自立物語」にビジネスパーソンが称賛
本作は面白いけれども、この記事には肯けません。
・ビジネスパーソンの範囲が曖昧。SNSでは身分詐称もできる以上、「このドラマのファンの属性はこうだ」と断定することは危険では?
・文章の大半を投稿だけで占めるスタイルは多いもの。ただし、それは筆者の文章と言えるのでしょうか? 意見といえるのでしょうか? 疑問なんだよなあ。まとめサイトみたいで
そしてここが一番の疑問。
どうして『なつぞら』をいちいちけなすのでしょうか。
私も、放送事故(NHK大阪の前作)のことは引き合いに出すけどさ。あれは色々おかしいから。
・『なつぞら』を引き合いに出す必要があるのでしょうか? NHK大阪の朝ドラの話になると、いちいちNHK東京の朝ドラをくさしながらの記事が多いものですが。どうして? そういう比較投稿ばかりを集めている印象を受けます
・『なつぞら』のなつはイージーじゃない。戦災孤児かつ北海道出身という時点で、かなりのハンデがあります。アニメーターの面接も一度本人以外の原因で失敗し、作画監督になるまでにもいろいろ紆余曲折がありました。そこをすっとばして「トントン拍子」と悪意を込めて投稿する方は、残念ながらドラマの読解力が低いか、悪意を込めていて不公正だと判断せざるを得ません。なつよりハードな空襲・孤児経験をお持ちの方のご意見であれば、そこは尊重しますが……
・イッキュウさんは育児に協力的であるため「理想的」とされますが、なかなかクセが強い性格です。彼の妻であることはイージーなだけでもないはず
・イージーという点で言えば、ここ数年のNHK大阪朝ドラ主人公周辺の方がそういう傾向が強いのですが。『あさが来た』は、実家の時点でチートレベルかつ、薩摩閥の五代友厚とあれだけ仲良しですからね
・NHK東京朝ドラを貶める意見は、ドラマとドラマ関連人物への誹謗中傷を混同する傾向があります。『半分、青い。』の脚本家、『なつぞら』の主演女優への不満を、ドラマにまでぶつける傾向が強い。これはドラマ評としては不公平で信頼できないと言わざるを得ません
SNS投稿だけならまだわかるとして。
本当に不思議なのは、NHK東京の朝ドラを貶しつつ、NHK大阪を持ち上げるこの手の記事があること。
逆パターンは少ないんですけどね。
それでも昨年の十分の一程度かな。昨年は何だったんでしょうね。
今年のNHK大阪はメディアコントロールをしていないと感じるのですが、手癖が抜けずにこういうレベルの低い持ち上げがあるのは残念です。
せめて、SNS投稿引用依存性を下げてはいかがでしょうか。
ちなみに私は、SNS感想はまとめた記事をたまに読む程度です。
ハッシュタグを教えていただいても、見るほど暇ではありません。
しかし……やってしまいましたなあ。
『なつぞら』は概ね好評高評価、出演者のキャリアにもええ影響がでとる。これは大変なことやと思うよ。成果やろなあ。
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
スカーレット/公式サイト
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