むろん、陽子からすれば理不尽は話です。
なんでや!
このへそくりとよろめき関係ないやろ!
どういう朝ドラや……。
「人妻のよろめき」で朝から動揺した方、多かったんじゃないかと思います。
昭和エロエロの定番を出さなくてもええやんか。
こういう時、定番の笑い方はこうや。
ムフフ。しょーもなっ!
というわけで、話を聞いたマツは大慌て。謝罪に走ります。
「謝ってくる!」
「当たり前やもう! どけ、おーい、マツ、マツ! 喜美子、お前これ持て。食うなよ! 待て待てぇ! おう!」
そもそもジョーが家にあるへそくりを酒にしなければ、こうはならないわけでして。
大野夫妻を無駄に対立させた罪は重い。
これは謝罪せんとあかん。
そんな中でも自分のスイカを食べられたくない。
むしろお父ちゃんの食べ残しなんていらん、そういう娘の気持ちに気づかない。
今朝もジョーのカスっぷりに安定感があります。
三姉妹のじゃれあい
こうして三姉妹が残されます。
熨斗谷は電気製品を作る会社です。
百合子に、楽しいのか?と聞かれ、楽しいわけないと直子は即答します。
喜美子と違ってやりたいことがあったわけでもない。
そう直子は言いますが、ここで喜美子だってそうだったと反論します。
やりたいことは信楽で見つけたのだと。
絵付けは楽しい。最初はしかめ面でやっていた。
同じ作業を大量生産でやるから延々と同じ作業の繰り返し。それが楽しくなってきた。今はもうすっかりニコニコや。
よくわからないという百合子に、三年やらんとわからん話と言います。
喜美子は絵付けをずーっとやっていく。一生の仕事を見つけたと語るのです。
百合子は直子姉ちゃんもそうなるとええなあと感心しています。
優しいんですね。楽しくないいうてたらみつからんかもしれん。
そう言いつつ、喜美子は大阪は楽しかったと言います。そして大阪に行っていたことが、今に自分に返ってきているとも。
これは大事だと思う。
一本道サクセスストーリー以外を貶す風潮にもよい反撃です。寄り道が金銭関連での逮捕収監ならば、ちょっと話は違うけれども……。
何でも楽しめ!
電化製品作りでも楽しいかも。誰かと出会うかもしれん!
喜美子はそう励まします。
そうそう、荒木荘は出会いの場所でもありました。
本作は相手が恋愛対象でなくて、友情や尊敬の対象もいるとわかるところがええですね。
このあと、その誰かってどんなのかと姉妹は盛り上がります。
まずは百合子が変な顔をしてみせる。直子のおでこにスイカの種を貼り付ける。
直子が喜美子に、スイカの種を吹きかける。
「何やってんねん! ふきかけるか普通!」
三姉妹でわちゃわちゃとしている、何気ない場面です。
こういう何気ないところに、意味があると思う。
昭和を生きていた普通の人の姿を再現したい。そういう思いを感じます。
彼らが生きてきた姿を残したい――夏の夜の空気まで伝わってくるような場面でした。こういうわちゃわちゃ感が本作の長所です。
空気までよいと思えるのは、それだけ現場の士気が高く雰囲気も良いのでしょう。
出演者がインタビューで、いかにチームが楽しいのか話すことはよくあります。
楽しいのが当たり前ならば、そこを強調する意味はないでしょうし、こういうふうに伝わってくる。
だからこそ、脚本の巧みさを褒めたりしていると。
私の中では、現場が楽しい、空気が良いことばかり出演者が話していたら、黄信号なんですよね。
翌朝、直子は父と東京へ向かいます。
ズンズンと歩いてゆく直子。
『ひよっこ』の状況とはちょっと違いますね。
あのドラマは東日本、特に東北出身者が多かったっけ。彼女らと違うでしょ?
朝ドラを東西で比較して、その違いがわかるってすごいことだと思う。
NHK大阪も、
「西日本の違いみせな(アカン)」
という思いがフツフツとたぎっていたのではないでしょうか。
敏春の不満
丸熊では、敏春が喜美子のデザイン画を照子に見せています。
「ええと思います」
とはいえ、最終的には父である社長が決めること。
社長があかん言うたらしゃあないかも。そう言ってしまうのです。
「皆任される言うてたのに、話ちゃうな」
照子と敏春夫妻は、可愛い新妻という反応がネットニュースにもあがる。
可愛いらしくないとは言わない。その通りだとは思う。
ただ、ゾッとされられるところはあるんですよね。
照子はうなずき人形と言いますか。
従順になってしまって、面白みがなくなっている。
「ええと思います。決裁は社長」っていうのは、答えのようで答えじゃないんです。暖簾に腕押しちゅうやっちゃ。
どこがええのか?
自分が社長ならば売り出すのか?
敏春は、そこまで求めていてもおかしくないとは思う。
またしても『なつぞら』を持ち出します。
夕見子は雪月菓子の販売戦略、改革案を積極的に出す嫁だったじゃないですか。
知略と言いますか、性格の差と言いますか、道産子の強さだったのか。
敏春は、性格的にそういうことまで求めていてもおかしくないとも感じるのです。
だからこそデザインを見せたのかもしれないわけです。
不満そうなんだよね。
そこへ、姑の和歌子がワクワクとやって来ます。その手にはライトブルーのシャツ。顔に当ててこうです。
「あららら! 顔によう映えてるわ。あの子もよう似合てた!」
この動作が悲しいし、細やかだとは思う。
ちゃんと似合う色であって欲しい。自分の見立てがあっていて欲しい。距離感も近い。むしろ妻より近いかも。
似合う帽子を探しに行くあたりにも、理由の寂しさがある。
「もうずっとあの調子やな。いつまで代わりなんやろな。結局僕はお兄さんの身代わりだから」
わかっていたとは言うものの、穏やかではない心中がわかります。
これもどちらの気持ちもわかるんですよね。
身代わりにされたら、そりゃ不満でしょうよ。けれども、戦死した我が子を思う母の気持ちも辛い。
やっと跡取りを生み、育ててきて、いつか当主となる日を待っていたのに、それが叶わなかった。
『なつぞら』の雪月でも、雪次郎を巡って一悶着ありましたけれども。
それを深くして突きつけるような恐ろしさもある。やはり本作はえげつないで……。
そんな敏春の一手となりうる、若手社員が三人やって来ます。
メガネにスーツの男性。
ハンチング帽の男性。
そして三人目。
カメラワークからして、彼が一番重要な人物のようです。
演じる松下洸平さんは、12月14日(日)のトークショーもセッティングされています。
嵐を呼ぶ男やで!
敏春以上にすごそうや。
夫唱婦随には罠がある
夫婦の理想は「夫唱婦随」であると言います。
夫がこう言い、妻はにっこり笑って頷く。
それでええの?
そこまで本作は突きつけてきそうで、怖い。
「いっつもええだけやん。つまらんわ……どっかに芸術わかるええ人おらんの? そんな人がよろめいてきたらええなぁ〜」
そういう不倫の理由ってあるからさ。
※『太陽と月に背いて』は、妻以外の誰かと詩と愛について語った方がええ! という理由で……
なまじ敏春はそういう感性がありそうだから、怖い。
ついでに照子は、父母ともにそうではないし、家庭や教育環境でもあまりなさそうなんですよね。
『なつぞら』では、感性と精神性重視の愛を描いてきた。
才能や肩書を愛したわけじゃないという、亜矢美の言葉。
なつはイッキュウさんに、アニメ理論に心惹かれたと告げます。
外見や肩書きに惚れる描写を、意図的に避けているようにすら思えた。回りくどいようで、それが一番よい結ばれ方かもしれない。
『スカーレット』を見ていると、そう痛感できるんだよなぁ。
本作は「医学生」だとか。婿の条件としていいとか。そういうスペック重視なんですよね。
愛情だけでもなく、ビジネスもそうです。
敏春はそこを超えてきている。
だからこそ照子が危うい。
夫婦で通じ合えない芸術的感性に、あの喜美子が理解を示したらどうなるのか?
大惨劇やで、ほんまに……。
喜美子が一生やると言い切る絵付けは断念するし、週タイトルも不穏だし。
週後半にありそうな何かが、もう今から怖いのです。
ええ&あかん傾向リスト
本日は「出演者のインタビュー」から読み解けるドラマの傾向をまとめておきます。
◆ええんちゃうか!
・血縁関係がない者同士の持つケミストリー(相性)を褒める
→例:父親役のあの人と一体感が湧いてきた、子役が素晴らしいので負けられないと気合が入った
・具体性のある褒め方になっている
→例:あの場面は脚本を読んだ時点で驚いた、彼女が叫ぶあの場面にはこちらもグッときた
・雰囲気ではなく成果が出せるアピール
→例:この役はいい転期になる、10年後も残りそうな作品に参加できてよかった
◆うわぁ、これはあかんかも……
・身内やつきあいのある人が褒める
→例:兄はすごく頑張っている、あの役には娘の実像との共通点がある、以前お世話になって以来あの人には感謝していて……
・具体性のない褒め方
→例:熱気がすごい、流石**先生!
・わきあいあいアピール
→例:現場は楽しくやっている、和ませる人がいる
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
スカーレット/公式サイト
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