距離感を縮めつつ、この場面は型破りでもある。
八郎は【絵ェ描く人】で【川原さんが】とは言わない。
距離の縮め方がどうにも不器用なんですよ。八郎はベタベタしたロマンチックなことがあまりできないのです。喜美子もそこは期待していない。
甘〜いロマンチックシチュエーションならば、溝端淳平さんの圭介の方が断然上手なんですわ。
あいつはあの顔で「可愛いらしなぁ」を連呼してたやないですか。そら、惚れますわな。
そんな八郎ですが、この場面で私が気になったのは、彼のある特性です。
八郎と話してから、喜美子は喜怒哀楽が激しくなっている。
ありのままの感情が出ていると思えました。
「ずるい!」
八郎にそう言い募る喜美子。
相手が痛いと思うほど力を入れてしまった喜美子。
彼女は三姉妹の長女で、信楽に来てから姉として振る舞ってきました。暴れる直子よりも自制的ですし、頼りないマツをフォローしなければいけません。
絵付け工房では、荒木荘の妹ポジションではある。可愛らしぃポジションで、感情を剥き出しにはしない。
それが、八郎の前では無邪気に感情をさらけです。
こういう喜美子は、ちや子の前で号泣して以来の気がしました。
八郎は喜美子の感情を引き出す――しかも喜美子が選ぶ陶芸を学んできた。
これからどうなるのか?
ベタベタな恋愛シチュエーションだけではなく、創造性を引き出すところも期待しています。
『半分、青い。』の鈴愛と律。
『なつぞら』のなつとイッキュウさん。
そしてこの二人。
こうして並べてくると、朝ドラは同じ位置で歩んで、恋愛だけでなく創造も共にする二人を描きたいのかな、そう思えてくるのです。
それについていけん層は……ほなっ!……いや、アップデートして欲しいんやけどな。
喜美子の再就職は?
ミンミンと蝉が鳴く、丸熊陶業絵付け工房残日録――。
四人が仕事をする最後の日々です。マイペースです。体操の途中で座り込むフカ先生も相変わらず。
そしてこう喜美子に語りかけて来ます。
「今日な少し笑みが足りんなあ。キュウちゃんにも話せんといかんなあ。帰り一緒にご飯行こうか」
このあと喜美子は口元押さえて電話中。そっと受話器を置きます。
大野雑貨店だと気付いた加山から、いつまでも借りてないで電話を引いたらどうかと言われるわけですが。
金ないんよ!
給金あげたってや!
そう突っ込みたくなる。
ここで敏春は、車屋さんに名義変更する書類が残っていないと加山に声を掛けて出てきます。
書類があるかないか、探すだけでリアリティの厚みが出てきます。本作は仕事が丁寧やで。
そんな敏春に、喜美子は、照子の体調について聞きます。
「聞いたん? まだ実感ないけど。本人は気持ち悪い言うて寝込んだりしてます」
この敏春の顔!
父になる喜びがパッと顔に宿って、ええ人やな〜と思うのです。
でもね、これも本作の怖さですよ。
あのジョーカスも、妊娠を知った喜びが美しかったそうじゃないですか。
父の愛。父の喜び。
そういうもんでカスっぷりを中和できると思うのは甘い。
敏春にせよ、ジョーにせよ。
憎たらしいだけのテンプレ悪役なら、どれだけマシなことか。
敏春は加山に促され、喜美子の今後のことを思い出します。
照子はフカ先生がいなくなるのであれば、長崎について行くのではないかと思っているって。
加山はこうです。
「辞められたら困るんちゃいます? 一応マスコットガールやし」
「そんなこと言うたら負担になるわ。無理して丸熊陶業にしがみつくことないですよ」
それを聞かされる喜美子の顔――今朝も地獄や。
そして「あかまつ」へ。
弟子の今後が語られます。
一番さんは、京都の土産屋さんの絵付け教室へ。観光客に教える先生になるそうです。
二番さんは、大阪の専門学校陶芸科の先生。
二人は先生。フカ先生は弟子になる。
フカ先生はしみじみと語ります。
「おもろいなあ。おもろいわ、人生楽しみやな。残る一人はキュウちゃんや。キュウちゃんはこのまま、丸熊陶業でしっかり気張りぃ。そんな顔すな、信楽初の女性絵付け師や。これからは、それぞれがそれぞれの道で、絵付けをがんばるんや」
「はい!」
「ほな、乾杯」
「深野組解散でええですか?」
「ええよぉ。かんぱーい!」
こうして解散になるわけですが。
ええんか?
いかんでしょ。
理解って難しいわ……
本作を見ているとざらざら、そわそわする。
それは視聴者目線だと、相互理解ができていないことが見えてくるところだと思うのです。
フカ先生も、一番さんも、二番さんも知らない。
喜美子の置かれた立場を。
丸熊で肩を叩かれている立場を。
マスコットガールという言葉が、どんどんドス黒くなっていきます。
「一応マスコットガールやし」
って、つらい……。
こういう若い女は看板で、歳を取ったら次。そう取り替える気満々の、こぼれ出る本音がキッツイ。
喜美子の「中卒やし女やから」という言葉も響いてくる。
一番さんと二番さんがすぐに再就職できるのは「学歴あるし男やから」です。
そこに皆、無自覚です。
照子も無理解です。
長崎について行ってしまうという言葉は、彼女らしい残酷さが満ち溢れているとは思った。
照子は婦人警官の夢を挫折した、いわば籠の中の鳥です。
妊娠している彼女からすれば、夢を追って長崎でも行ける喜美子は羨ましい。いなくなったら寂しい。
そこで思考停止です。
喜美子が九州まで行こうものならば、ジョーがどれだけ怒り狂い、止めようとしてくることか。
そういう家族と貧困の重みを知らない。
かつては喜美子に協力できたお嬢様だったけれども、今は敏春の意思に逆らえない奥様になりました。
父には意見が言えても、夫には言えない。そのことに本人すら無自覚です。
同じ工房で三年間過ごしても。
幼い頃から親友であっても。
いや、家庭内の親ですらそう。
理解するのは、こんなにもつらいことなのか。難しいのか。そう思ってしまう。
だからこそ、本作は難しいのだとは思う。
喜美子のような存在が自分の隣にいたと思うことは、キッツイ話です。
笑っていた女の子。
同級生。
友達。
母。
姉妹。
妻。
娘。
親戚。
近所の人。
あの子が喜美子みたいに内心悩んでいて、自分がそれに気づかなかったとしたら?
おっとろしい!
近年の朝ドラは意識的に、女性の直面する差別も入れて来たと思うんですよね。
『半分、青い。』でも、鈴愛が学歴不足や年齢で門前払いされる実態がありました。
あれは後半が平成舞台。本作と比べると、昭和から平成まで根本的問題そのまんまで笑てくるやろ。
『なつぞら』でも、男性の育児参加が気に入らない層が叩く姿を見かけましたわ。
この二作は、地方出身女性が都会に出てくるだけで怒る層もいた。
昨日はSNSを見ていないと書いた。
そんなんホンマのこと言うわけないやん。七割嘘や。いやいや、ニュースがまとめたら流し見はする程度や。
で、本作のたたき理由には関西人以外に関西のノリがわからなくて不愉快だの。
なんでそんなんを、関西のノリを言われなアカンのや!
直球の差別やん!
作っとんのはNHK大阪、関西人かて受信料払ってんのやぞ!
いつから公共放送は関西人以外だけのもんになったん?!
おまけに吉本のイメージが関西にあるからよろしくないだの……そんなもん『わろてんか』の時点でわかっとったことやん。
本作に吉本所属の出演者もおるけどな、一番目立っている関西芸人枠の方は松竹所属やで(雄太郎さ〜ん!)。
吉本のライバルで来年朝ドラのモデルです。
そんなん知らんの!!
アンチ意見は本音をいくら隠しても、痛いところをつかれた悲鳴が出るからな。
媒体のカラーでSNS投稿を選抜しとったら、そらそうよ。
気ぃつけてな!
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スカーレットあらすじ感想
スカーレット視聴率
絵:小久ヒロ
【参考】
スカーレット/公式サイト
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