自分の手で何かを生み出すのが好き
こうして草間は、丸熊陶業へ。
喜美子の絵付け火鉢をじっと見つめています。
彼の感想は、想像していたのとは何か違うそうです。彼はいわゆる絵を描いているのかと思ったそうでして。
喜美子は説明します。
ああいう、いわゆる絵を描くのも好きやけど、こういう模様みたいな絵柄を作るのも楽しい。
同じ絵を繰り返し描くんも、好きや。
この説明で、思い出したことがあります。
昨年の放送事故で「いわゆる絵」を描く画家が、主人公企業のロゴデザイナーに抜擢されました。
あれにはツッコミたかった。あれな。デジタルだと、こういうことやろ。
◆いわゆる絵
・ラスタ形式、ペイント系
・Photoshop, Painter等
・『なつぞら』で天陽が手掛けた雪月の包装紙。
※天陽の絵を受け取り、ロゴをどこに配置するのか決めるのは別人の仕事(こちらも職種上はデザイナーと呼ばれたりします)
◆模様みたいな絵柄
・ベクター形、ドロー系
・Illustrator等
・『なつぞら』でなつが出かけた、たんぽぽ牛乳のロゴ
確かに画家やイラストレーターがロゴを手がけることはある。
それでも、ロゴデザイナーとイラストレーターは違う。
放送事故のネトゲ画伯は、作風からしてロゴデザインができそうには思えなかったのです。
まぁ、本業の作風そのものがガタガタで変わりすぎてよくわかりませんでしたが。
ああいう作劇からは、邪悪さが漂ってくる。
絵やデザインの特性を理解せず、ぼんやりと外へぶん投げる。そういう意識が垣間見えてつらかった。イラストをさくっと描いてしまう部下に、ポスターデザインを無給で丸投げするクソ上司あるあるでつらかった。
その点、草間はそこが理解できているようです。
そしてこう言います。
「こう、自分の手で何かを生み出す作業が好きなのかな」
喜美子は納得するのです。
ああそうか。そうかもしれん。
今は陶芸にも興味がある。絵付け火鉢生産は減っていく、もっと世界を広げようと思っている。そう言いつつ、お茶をいれます。
そうそう、きみちゃんはそういうところがある。
直子のために紙芝居を作る。
荒木荘ではペン立てを作る。
大久保さんから伝授されて、工夫した料理を作る。
絵は学校に行かなければできない。
ペン立ては暇人の遊び。
料理は女子力?
いや、全部手で何かを生み出すことだから。きみちゃんは全部大好きなのです。
こういう工夫して生み出すこと。
男女とか、学歴とか、権威とか、関係ない。そういう姿は『なつぞら』のイッキュウさんの家事への態度でも描かれていました。
彼は考えて工夫して作ったり、育てることが好き。
それがアニメでも、料理でも、育児でも、好きでした。
草間はそこを理解しています。
慶乃川の陶芸を金にならんとぞんざいにあつかった弟子――そんな喜美子の成長を喜んでいるのでしょう。
「これからもっといろいろな経験や出会いを……あ、そうだお見合いもするんでしょ」
ここで草間は、一緒に行ったあのときのことを語り出します。中華料理店に、妻へ会いに行ったときのこと。
ずっと探していた奥さんの心が自分から離れていたことを確認したあの日、彼は迷いなく言い切ります。
結果的にうまくいかなかったけど、後悔はない。
そういう人と出会えたことが本当に良かったと思ってる。
心から好きな人。好きな人ができると世界が広がるよ――。
草間さんはそんな言葉を残し、直子を連れて東京へ戻ってゆきました。
粘土と心を練って、広げて、畳んで
直子経由でお母ちゃんからあんな本音を聞き、そして草間からあんな言葉を聞かされてしまう。
なまじ強いだけに、心にバリアを装備してしまう。
そして直子や照子から、鉄の女扱いされる喜美子。
いやいや、柔らかい心はあるんやで!
喜美子の心には、八郎がいます。
粘土をこねる八郎を今日も見ています。
心から好きな人――そんな草間の言葉を思い出しつつ、じっと見ているのです。
けれども、喜美子は炎のヒロイン。
顔が近い、目線が強烈や!
八郎は困惑しております。
「あの! 川原さんもやってみます? ろくろ使って」
ろくろだけでも何年もかかる。そう喜美子は断りかけますが。
「いや、そんなん、何年もそこでじっと見ていられたらかなんさかい」
八郎はそう言います。
こうして、陶芸までたどり着きました。ヒロインがここまで来たでぇ!
折り返し手前、もう12月、第10週にしてこうなりました。それでも『半分、青い。』の扇風機よりは早い。あれは特殊で残忍でよかったものです。
好きという気持ちが、恋心と陶芸でぴったり重なっているところが、本作の特徴です。
ダブルミーニングが好きで、それで難易度をあげている本作らしいところ。
八郎は説明を始めます。
喜美子は、彼の指示に対して何を怒っているのかと突っ込む。怒ってないと八郎は否定。真剣になるとちょっと強い口調になるのでしょう。ミッコー記事ツッコミからそうでしたね。
でも、そこがええんちゃう?
若い女相手だとデレーっと下心満載口調になるよりもええやん。
まずは土を触るところ。荒練りから。
ぎゅっと粘土を押す。
僕と同じになってみて。ええからやり。力込めて左右均等にな。
あげて押す、もう一回。押す。うん、もっとこう、ぐっ!
腕の力やのうて体全体を使うんや、そう力入れて。
あーちょっと、こっちの脚引いて。
そうそう、体を上にあげて、上から下に押す。そう!
もう一回行くで。上から下に押す、そう!
上から下に押す!
ほんで土が広がって来たら畳む。
こっちの手をそう。そう、そう、こっちも同じ。こっち持ってそう。畳む。
しっかり溝を埋めないと。
あんまり力を入れすぎたらあかんで。
澄んだBGMが流れ、二人の目が真剣に輝くところに、ろくろがありました。
好きな心を出してって、ええんやで
【モウアカン】の中身は割としょうもないもんでした。
新キャストである直子の恋人も、役名は牛ではなく鮫島。
牛田本人は出てこないのでしょう。そこは突っ込んだら負けよ。
直子は大騒ぎで迷惑をかけましたが、作劇上は完璧な動きをしてくれました。本作は登場人物が無意味なようで、実は影響のあることをしています。
ジョーが草間を助けるとか。
ジョーがいきあたりばったりで荒木荘に喜美子を働かせることにするとか。
そういう地味な積み重ねがじわじわくる。
大仰に盛り上げて、
「さあここですよ! 見所ですよ!」
と脚本演出でもやらない、そのために難易度は高くなります。
喜美子を琵琶湖畔に立たせて、仰々しいBGMをかけながら恋心を叫ばせるとか。
陶芸を教えながら八郎がバックハグをしてくるとか。
そういうことをすればネットはバズるだろうけれども。
そんなん作品の質と関係ないやん。
※古い『ゴースト』陶芸ネタとかいらんからな!
そういうことはせんのよ。
直子の行動は、マツのセリフと草間の信楽到来をもたらしたのですから、完璧なのです。
なあ、直子よ。
【モウアカン】電報ありがとうな、こんな展開にしてくれて。嫌味やなく。喜美子が好きという心に気がつくことができたわ。これでええんやで。
本作には作り手の好きという心ががみなぎっているのを感じます。
結構、難易度は高い。
ベタじゃない。
『なつぞら』に100作目の気合ともろもろを取られる中。
ここんとこずーっと京阪神広報シリーズめいた事情がちらついていた中。
NHK大阪は原点回帰、好きというきもちに戻ったんだと思う。
ドラマが好きや!
関西が好き!
テーマに好きだと迫る気持ちを出していきたい!
こんなに好きな気持ちは誰かに届くはずや!
損得ぬきにして、前後のニュースや番組司会者も感動している反応が出てくる。そらそうよ。
そういうもんを感じる。
こんなコメントも納得できますわ。
◆スカーレット:NHK大阪局長「若い女性層に届いている」と自信
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
スカーレット/公式サイト
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