「抱き寄せてもええですか?」
「あかん!」
「好きやから……」
感動の抱擁からの週明け――そこへあいつがやってきます。
「おんどりゃあ〜! 何してんじゃあ!」
「ああっ、何すんの!」
出会った途端に殴りおったー!
最悪の初対面や。
喜美子と八郎を引き離し、手を引いて連れてゆきます。
「来いっ、来いっ!」
「お父さん、お父さん……」
うめく八郎。喜美子も叫ぶ。
「お父ちゃん離して! 話聞いてえや!」
ジョーは話も聞かずに、ズンズンと引っ張ってゆきます。荷物? 全部ぶん投げたけど百合子が拾うやろ。
これぞ出会った途端に殴り飛ばす。
NHK大阪が見せる、そんな最高の姿。
ジョーカス最高や!
【抹殺パンチ】(『なつぞら』の泰樹)なんていらんかったんや!……せやろか?
ジョー、今週も圧倒的なカスを見せつける!
ジョーは帰宅後も怒っています。
「どこの馬の骨かわからん奴と、世が世なら切腹もんや!」
そうそう。ジョーの年代は雑な時代もの知識をエンタメから仕入れておりますので、まぁ、なんか適当に知ったんでしょう。『忠臣蔵』あたり見る機会あったんやな!
よかった……別に武士の家系ではないと思います。関西は武士より商人文化が強いし。
この、馬の骨という表現も笑える。
マツも、マツの親から同じこと言われてますからね。昔の自分を重ねられたら、カスじゃないからさ。
喜美子は訴えます。
「話を聞いて! 紹介させて。十代田さん。十代田八郎さん!」
「どこのハレンチ(破廉恥)さんや」
「はちろうさんです!」
「ハレンチさんや、お前はアバズレ(阿婆擦れ)さんや、もう!」
ジョーはそう吐き捨て、ハレンチさんの話は受け付けない、お見合い大作戦に行けといい出します。
ハレンチとは……なんちゅう高度な脚本や!
ハレンチ! アバズレ! どっちも特に惜しまれん死語や。水橋氏の語彙力高い&センスあるで!
真剣な話なのに茶化す、そういう関西の暗黒面、失礼なところにめっちゃ腹立つわ!!
マツがなだめようとすると、ジョーは言質を取っています。
照ちゃんみたいに孫の顔見せてくれる日がいつ来るんかな〜。
結婚してくれるかな〜。
言うてたやん!
だとよ。
最悪や。
マツは困惑し、「そこまでは言うてへんよ」と弱々しく返すだけ。マツにガツンといったる姿勢を期待したらあかん。
喜美子はそこで、「むしろ結婚を考えています!」宣言します。
マツは驚き、いつの間に……と困惑しています。マツさん、大丈夫か?
喜美子は、八郎の誠実さをあげる。
お付き合いのあとは結婚しかない。そういう誠実なお人やと言い切るのです。
おっ?
誠実やと初球を投げたぞ。
喜美子は賢いので、冷静に八郎のスペック面でのアピールをします。
そして二球目!
八郎は丸熊陶業で働いていて、陶芸家を目指していると言うのです。
ジョーはさんざん、天下の丸熊陶業と言い切っていた。
その社員やん、若社長直々のスカウト枠やん、ええんちゃう! 馬の骨どころか、エリートですよ。
「絵付けの次は陶芸かお前!」
これもさ、ジョーはやはりカスなんですわ。
さんざん絵付け火鉢はもうあかん、と若社長体制への不満を訴えているわけです。
理解はしている。ならばむしろ、先見の明を褒めるべきなのだ。それができんのよ。
喜美子は、第三球へ。
「十代田さんは陶芸家になりたい夢を持ってはります。陶芸と真剣に向き合ってる。その姿を見てうちは、うちはあの人と一緒になりたいです!」
マツはニッコリ。お互いの誠意を確認できたし、反対はしません。
三振しても打席から立ち去らないカスバッター
ジョーもダメージを受けている!
「き、喜美子。おまえは絵付けしてここで一生を終えなさい。ああ、結婚せんでええ。陶芸もせんでええ。そうやってお父ちゃん、お父ちゃんいうて可愛らしい娘のままここにおったらええねん。三歳の時みたいに、お父たん、お父たん。言うとったやん」
はい、もう理詰めで返せないんですわ。
誠実で、真剣で、喜美子の今後につながる陶芸を教えてくれる。馬の骨でもないどころか、天下の丸熊社員やで! 一つも勝てん!
三振した。もう勝てん。
それなのに、打席から立ち去らん。カスの極みですわ。
「またわけわからんこと……」
さすがにマツもたしなめます。
「自分でもわからん、自分でもわからん! 何が一緒になりたいや! あかん! アホ!」
理詰め反論を放棄した関西人がここにいる。あかん! アホ! と語彙すら尽きた。
三歳の頃は可愛らしかったなあ〜、去らないでくれ〜。
そんな全国お父さんの気持ちを「ガキか! いつまで子ども扱いすんねん、キモいしウザいわ!」とぶん殴ってくるあたり、凶悪そのものではあった。
ボディブローを食らったお父さん多いんやろなぁ……。
昨年の放送事故は、逆にファイナルオヤジファンタジーだったもんな。
「結婚するならお父さんみたいな人がいい❤︎」
そういうクソセリフまみれで最悪やったで。
あとあれは、
「クリエイターと結婚したらセレブですぅ〜〜❤︎」
という気持ち悪さもあかんかった。
インタビューをチェックしていますと、本作の作り手の目指すところもわかります。
クリエイターであることを特権階級意識としては使わない、日常を細やかに描きたいという気持ちがあるそうですよ。
トレンディなクリエイターは女にモテる!
義母だろうが、娘だろうが、俺様に群がってウハウハ!
そんな気持ち悪い、なんちゃらアーミーの広告じみた朝ドラは、朝の連続放送事故なんや。それをNHK大阪も学んだんやな。
ここで百合子が荷物を持ってきます。
百合子の荷物が重たそうです。
こんなもん父親が持てや!
ジョーと泰樹、どこで差がついたのか? 東西、性格の違い……
本作のジョーは、近年の朝ドラにはなかった憎めるクソ父であると評価されています。
『なつぞら』の「ありえないことを本当のように描いた」泰樹や剛男(東)と比べるとわかりやすいのです。
◆娘の決めた結婚相手が気に入らん!
東:あんな軟弱な男なんて選ばないと数合わせで入れた剛男を、富士子が選んでしまう。それでも阻止していません。娘の選択は重視するのです。
剛男は、娘の結婚は見守りますし、進学や就職で婚期が遅れかねないことにも口を挟みませんでした。
西:ジョーはあかん。
◆出会い頭にパンチ!
東:泰樹の【抹殺パンチ】も唐突ではあるのですが、夕見子の選んだ高山は最低最悪だと、前の会話で判明しているわけです。むしろ名場面でした。
西:ジョーはあかんやろ。
◆理詰めで説得されたら?
東:なつが照男との結婚を決めようとしたことに怒り、どうしてそういうことをするのかと理詰めで訴えてきた時。泰樹は受けとめ、かつショックを受け、反省をしていました。
西:三振しても打席から動かない。意味不明なことを言い出す。理屈も通じないジョー……。
本作のジョーは、ものすごく緻密に作られているとは思う。
ただ、ちゃらんぽらんに描いているわけではない。
息遣いや体臭まで感じるほど、リアルなクソ親父像を描いているんだなぁ。
『なつぞら』は、男性側も変わってヒロインを支えようというメッセージがあったけれども。
『スカーレット』は豪速球で「クソ親父、あかん」と言い切るようなところがある。
ギャグで丸めていますけれども、おっとろしいドラマやと思いますわ。
だって理屈も通じないんですよ。今週の壁はこいつです。
この役を引き受けた北村一輝さんは、覚悟も演技も半端ないわ。
垣根を乗り越えて
場面が変わりまして、八郎の部屋です。信作が八郎に、喜美子のことを語っています。
あの憎たらしいガキ大将・次郎をホウキでいきなりやっつけた。
この前、居酒屋「あかまつ」で草間に再会していた次郎ですね。
八郎は、布団を敷くほどでもないと言うのに、信作は座らせます。九歳の喜美子話してやってんやんけ。そう言いつつ、語り続けます。
父同士が仲良しということもあるけれども、喜美子は垣根を越えてきた。
信作は、今は上向きのええ男やけど……ええ男やけど、と二回繰り返し、八郎も突っ込む。
子どもの頃はなんちゅうか。こんなんや。右から左へアリが行くのを、じーっと見つめているような子。
そうそう、幼少期はシャイでした。
「いじめられてたん?」
「そやぁ、はっきり言うな!」
缶ポックリで一人でぽつんと遊んでいましたもんね。
照子の兄との思い出があり、覚えているのも寂しかったんやろなぁ。次郎は紙芝居でも喜美子をからかったしな。
けれども、喜美子は気にしない。垣根越えてくる。話かけてくる。
そういえばグイグイ信作に迫っとった。
そして幼い信作は懐いたのです。そういえば、幼い頃から喜美子と照子はグイグイ信作に迫りましたね。
「僕もそこにおったら、話かけてたよ」
八郎はそう言います。
一緒にアリが行くのを、見てくれるタイプ。右から左にじーっと見てくれる。
似たところがある八郎は、上向きになった理由を聞いてきます。八郎も二回、上向きのええ男とも繰り返す。
なるほどね。
八郎と信作、それに八郎と喜美子の関係も見えてきます。
信作は元根暗いうか、今風なら陰キャや。
そういう経験があるから、八郎も自分みたいに寂しいのかと思い、仲良くなろうとしたのでしょう。
喜美子は垣根を越える。ここもポイント!
八郎は、信作が子どもの頃の話をすることは初めてだと言う。喜美子のためを思い話しているというものあるのでしょうが、八郎は垣根を壊すタイプかもしれませんよ。
マツだって、喜美子にすら言わない結婚のことを言ってしまったし。
そして、信作リア充レビューの契機ですが。
伊賀の甘やかしぃのおばあちゃんに懐いていた信作。それが、亡くなっているのを見つけてしまった。
死生観が変わってしまう。
アリを見ていないで、上を見たい――。
甘やかしぃのおばあちゃんという垣根を越えたんですわ。
でも、乗り越えきれておらんのやろなぁ。
モテるようになったけれども、おっかけ後輩たちと双方向性のある交流ができていなかった。卒業間近につきあった子と、結婚できないでフラれてもいる。
信作、もう一押しやで!
将を射んと欲すれば先ず馬を射よ
信作はウキウキと、喜美子に来てもらうと言い出します。
あかん! 男の一人暮らしなのに、なんでやねん!
八郎はおろおろしちゃう。
二人が痛い痛い! とコントじみたやりとりをワチャワチャしとります。
そこへ喜美子がやって来る。
百合子から負傷を聞いたそうです。
「嫁入り前の人を! 男の一人暮らし!」
「どの口が言うてんねん!」
喜美子は、しおらしい顔をしています。八郎は布団をぐちゃぐちゃとしてしまう。信作は、ツッコミます。
「なに布団と戯れてんねん、アホか!」
「信作がやったんやんか!」
足をひめってしもた。足をひねってしもった。交代で看病したってくれ! 信作はそう言い切り、お見合い大作戦が始まるから行かなあかんと立ち去ります。
立ち去りながら、信作はウキウキして喜美子に聞いてきます。
照子は知ってんの? だとさ。
「いいいい、いけいけ、もうはいはい、さいなら!」
「おう喜美子、よかったな、俺も嬉しいで!」
信作はとりなす。
おじさんもいきなりでカッとなった。おじさんも大喜びや。結婚大歓迎やで!
せやろか?
ここで映るジョー、案の定ヤケ酒や。おぉ、もぅ……。
「許さんわ、絶対ゆるさへん!」
このあとの信作との落差がな。
「ええ話やなぁ、へへへっうふふぅ〜!」
林遣都さんの魅力がめちゃくちゃ引き出されとるやん!
こういうイケメン役者の使い方、あるんやなぁ。お笑い枠で、親切で、滋賀ことばが柔らかくて、めっちゃおもろい!
本作は、内田P、水橋氏以下、作劇スキルが半端ないと思う。
こういうカップルを取り持つ役割――脇役って大事なポジションです。
『なつぞら』の「白蛇姫」には、主役の白蛇姫のおつきがいる。正体は青い魚なんですけどね。
中国古典が元ネタの日本の古典も多いのですが、システム的にこういうおつきの侍女が大事なんです。『牡丹灯篭』もそうですね。
ヒロインへアプローチするには、まず侍女から。外堀埋めなあかん。
将を射んと欲すれば先ず馬を射よ、ちゅうやつよ。
『源氏物語』のような平安文学も、まず侍女攻略からですわ。
この侍女。年配のしっかり者パターンもありです。
若くてキャピキャピして、ちょっとドジで抜けていて、ともかくくっつけたくてはしゃいでいるタイプもありです!
信作は、そういうキャピキャピかわいいお付きキャラに思える。
もぅ、姫はちょっと奥手なんですぅ〜!
そう言いながら、いろいろやってくれる。
当然、脇役ならではの味や旨味もあるわけでして。林遣都さんを抜擢してきた意義は大きいと思いますよ。
イケメンが壁ドンするとか。ともかくアプローチするとか。
いつもギラギラして、女をどうやって獲得するか、金儲けのことばっかり考えるゲスワールドではなく。
友達の幸せは、俺の幸せやん!
そう言い切り、ヒロインとは腐れ縁だと言い切る信作は、古典的かつ新機軸だと思う。
演じる役者の魅力を限界まで引き出す。そんな名将の采配を感じさせる本作。
うますぎてたまりません! 傑作待ったなし!
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