昭和40年(1965年)秋――。
父の川原常治が亡くなったのに、葬儀にすら来なかった二女・直子。
なんかええ話で丸めようとしておりましたが……そういうことはせんでええ。むしろ父譲りのカスっぷりに期待してます!
案の定、あの大皿の話にもさして感動しない。
愛いっぱいの器やで。今週のテーマやで。
他の家族が感動的に説明しているのに、鮫島を中に入れて話をしたいと言い出す。まぁ、寒そうですもんね。
堂々たる新人・鮫島、期待のエース候補
直子が外に出ると、川原家三人の女は顔を突き合わせて話しだします。
あれももう24。結婚言うたらどう言って止めるのか?
母・マツが全く頼りにならず、喜美子が制止すべきだと言う。妹の百合子はしっかり者ですが、姉相手だと弱い。
ここで「義兄さんや!」と百合子が言い出すと、女たちの目線が集まるわけですが……。
うっわ、キッツ!
朝から嫌なもんを見た気がする。
微笑ましいし、悪いわけじゃないんですけれども。
なんだかんだ話し合って、女だと相手がまともに受け取らん結果、特にその役目に向いているわけでもない男が神輿にされる流れや。
ジョーはカスではあった。これは譲れないわけです。
けれども、ガツンと交渉する説得力と責任感はありましたわな。
この辺の匙加減が難しくて、信作みたいにはじめから期待できない――そういう奴はまだましなのよ。
どっちかわからん、そういう八郎みたいなのが一番困る。
そこへ鮫島が入ってきます。
体あっためようと思ってそのへん走ってたってよ。心は夏!
なんやろな……イケメンであることは確かやけども、出てきた瞬間になんかムワッと暑苦しい。
ジョーカスの再来はこいつだと思いたくなる。そういうんがありますわ。
はい、そんな鮫島ですが。
直子と半年前に意気投合したってよ。
ここから先、あんまり深く考えんとガーっとしゃべる鮫島。
陶芸家の先生ご夫婦!
そうやって、よいしょするわけですが、八郎にはむしろ通じません。
喜美子は自虐に突っ込む。陶芸はするけど陶芸家ってほどじゃない。出品もできひん。そういうことを言うと、鮫島はこれですわ。
「偉い陶芸家とそうでもない陶芸家!」
本作のカスを見守ってきたこちらとしては、感動した!
盤石のカス新人を加えることに手を抜かない、そんな姿勢にもう拍手しかない!
たった一言で【夫妻の心を粉砕しかけないひどさ】はもう圧巻ですわ。
先週のちや子がなんだかんだ言われましたが、鮫島はそんなんぶっ飛ばす素晴らしいカスっぷりですわ。
鮫島とちや子、どうして差がついたのか……性別、反応の違い。
発言者 | 意図 | 結果 |
---|---|---|
ちや子 | 喜美子を励ましたい | 八郎のプライドにひびが入ったかもしれない。でも、そこまでちや子は悪くない |
鮫島 | 両方適当に褒めたい | あかん! あかんとしか言いようがない! 何もかもがあかん! |
鮫島くぅん……褒めるつもりが同時に失礼という、底の浅さ。もうちょっと考えて喋ろうな。
でも本作は、うまいと思うんですよね。
ちや子が考えて、知識や経験を踏まえてああいうことを言っただけで、「無神経な女が感情任せでしょうもないことを言うから、夫婦が悪化するかも」という誘導をされている感想をチラホラ見かけました。
まぁ、ここまできつくは書いていないけれども、文脈からそう受け取った気配を感じたものです。
けれども、鮫島は無邪気で思慮がない。
男だって感情的で無神経だとわからせるためには、ここまでアホで無神経にしないといけないということかもしれない。なんか、しみじみと本作には怖いもんがあるね。
それに、ちや子の場合は【女が女を励まそうとした結果、男のプライドを傷つけかねない】構図ではあった。
鮫島は【男が男を持ち上げた結果、女が踏まれる】構図にもなっているわけです。
ここで直子もたしなめる。
姉への気遣いというよりも、自分本位ではありますが。
直子はなんだかんだでお父ちゃんみたいな男(と失敗)が好きで
「鮫島だまっときい。ちゃっちゃと話進めんで!」
なんと、直子と鮫島は熨斗谷に辞表を出したらしい。
年明けから大阪で商売を初めて、一発当てるってよ。
視聴者が苦い顔になったところで、マツが追い討ちをかけます。
「それどっかで聞いたような。アハハ、お父ちゃんや、大阪にいてたころよう言うてた」
こんなん失敗するしかないやろ!
つらいわ……。
ジョーもこの程度の軽い見通しで駆け落ちして、その結果が川原家のどん底かと思うと嫌になってくるわ。
死んだからといってジョーのカスがチャラになると思うなよ!
そう突きつける本作、どんだけおっとろしいことすんのよ。
で、中身ですが。商売をやるとしか決めてない。
何をするのか。喜美子が言うと「販売」と答える。何かを売るとしか言わん。
もう、視聴者がちゃぶ台ひっくり返したいくらいあかん。
食べていけるのか。喜美子は説明しろと迫る。
すると直子は開き直る。
これは報告や! 賛成反対は聞くつもりはない。ましてや多数決で決めることやない!どんなに心配されようと決意は変わらん!
「うちはこれからの人生、思うようにやらせてもらいます!」
直子よ、お前……一発当ててやるいうて活躍しているのは、ほとんどおらん。相当、厳しいもんや。食えんようになったらどうするんや。
視聴者ほぼ全員が「もうあかん」と暗い顔になる。
こんなん、直子夫妻が金借りに来て喜美子が歯を食いしばる展開待ったなしやろ。
「ダーリンは発明家なんですぅ〜!」「人の役に立ちたい!」
そんなふわぁ〜っとした動機で成功できるんはドラマの中だけやで。あの昨年の放送事故ヒロイン夫妻は、いろいろ人脈だの物流網だのあってな。
その点、今年は朝ドラが大好きな夢を粉砕する、えげつなさが満ち満ちていてすごいと思います。
伊達政宗「親が亡くなって自由。一理ある」
工房で、直子はあの器を見ています。
「うちも描きたかった。けどこんなん苦手やわ」
感動が薄い。でも、生々しいリアルはあるんですよね。
どんな感動的なことでも、その場にいないと家族でもこんなもんかもしれない。冠婚葬祭にせよ。出産や死去にせよ。
今週の展開で号泣した――そういう反応を笑い飛ばすようなものを感じる。
そしてこれやで。
直子はしみじみと語ります。
亡くなったことはほんまに悲しい。ほやけどそれとは別でな、これでお父ちゃんにああしろこうしろ言われてきた。言われないと思うと、アッと走りたくなる――。
「なんやろな、こういうの。うち考えたで。お姉ちゃん真似て、じっくり考えてみた。自由や! うちは自由を手に入れたんや」
この場面は真顔になった。
そんなんお前……心のうちではそういうことがあっても、言ってはいかんことではありませんか?
こういう心理は、別に現代人だからということではなく。
戦国大名なんかモロこれですよね。
「親が最悪だったから」とか。「親も承知していたんです」なんて言い訳をするわけです。
で、直子の場合はどうでしょうか。
これが高難易度ですよね。
ジョーはカス。これは間違いない。
けれども、カスだけとも言い切れない。
直子の気持ちはわかる。けれども、自由への疾走をしたら大失敗するとわかっているのに、賛同できない。看病や葬儀にも来ないのは、どう言い訳しようがまずいでしょう。
どっちもあかん。スパッと割り切れない。
だから視聴者はもやもやする。いやぁなものが広がる。
本作を嫌いな人の気持ちはわかる。見ていてムズムズすると思う。
しかし、あえて……、わざとそうしているんじゃないかと思う。
直子は喜美子たちと視聴者の顔に嫌なもんを植え付けて、鮫島と立ち去ってゆきます。
八郎が、電話でも電報でも手紙でもええから連絡するように言おうとこれや。
「適当にな! ほなまたな!」
うーん、電報が無茶苦茶だったし。そこは期待できんな。今ならLINE既読スルーや。しかも、直子の何があかんって、父親そっくりなところなんですよね。
似ているからこそ、対立していたんだろうなぁ。
上と下の姉妹が両親のあかんところを抜いて、ええところを組み合わせたタイプなだけに、直子がつらいのです。
こんなん演じる桜庭ななみさん、これはええ経験になりますわ。
ほんとうに仕草や喋り方が、北村一輝さんのジョーそっくりなんですよね。喜美子も似ているけれども、それ以上に似ている。ついでに言うと鮫島も似ている。
ジョーの存在感がすごい。
人は死んでも消えないと思える。
それは『なつぞら』スピンオフ柴田泰樹もそうでしたが、なんだかこちらはモヤモヤするところでもあると。
自由って何やろな?
さて、嵐のような連中が去りまして(あいつら、宿泊すらせんのやな)。
夫婦の寝室に武志を抱いた八郎が入って来ます。
脱衣所で髪の毛拭いているときから、眠たくて仕方なかったって。大人の会話に加わって眠たくて仕方なかったんでしょうね。一生懸命聞いている顔をしていたそうです。
本作って、子どもをよく観察していますよね。
描写の端々に、子どもを見守る目線がある。
子どもが祖母をいたずらで脅かして嘲笑っていたり。女の子を泣かしたと自慢したり。作り物らしい天才児ぶりを見せたり。そんな描写は、作り手の愛情や観察眼の欠如がわかってつらかった。昨年の放送事故のことですが。
喜美子は直子のことを話し出します。直子は空襲から逃げるとき、喜美子が手を離してしまった。それを思い出し、よくかんしゃくを起こした。
信楽来てから落ち着いてきた。我が強いから、喜美子やジョーですら、甘いところがあったと振り返るわけですが。
それでもあんなこと思う。
「お父ちゃん亡くなって自由や、て」
そう語る喜美子に、八郎は一般論のようなことを言います。
「そやけど親が亡くなって子供は初めて自由になるいうで」
でも、実は八郎は特殊といえばそうなのです。
彼は親を早くに亡くしておりますから。そしてこう来た。喜美子はどうなのか? 自由なのか?
「自由て何やろな?」
ここも結構怖いところ。
喜美子の自由を、束縛している存在は自分なのかもしれない――。八郎には、そういう気持ちが希薄なんですよね。ズレとる。
八郎は、ジョーほど抑圧的ではない。
けれども、抑圧をしていないわけではない。
どちらも自分の抑圧に無自覚という点では、悪いのです。程度の問題です。
ジョーのようなちゃぶ台返しは【目に見える抑圧であり不自由】ですが、八郎はそうではない。
「あんなんちゃぶ台返しするやつ、おらんやろ」
「せやな。そもそも2019年現在、ちゃぶ台そのものが少ないしな。せやけどそれは抑圧がなくなったちゅうことやろか?」
お前も八郎ちゃうんか?
お前の隣にいる人は、八郎に苦しめられていて理解されていない、喜美子ちゃうんか?
二人はここで話題を変えます。
今度の日曜が「自由は不自由や」のジョージ富士川の実演会!
笑いあい、二人で行こうと語るわけです。
しかし、その日曜――。
二人で行くと言っていたのに、武志が発熱してしまいました。八郎が氷を買って来ております。そうそう、当時は氷屋ですね。
熱は下がりません。医者を呼ぶにせよ、病院に連れて行くにせよ日曜です。
マツは気遣い、様子を見ていると言うわけです。
「予定通り、ジョージ富士川、行っといで!」
さて、どうなることか。
甲賀の女を舐めたらあかん
そのころ、信作は百合子と待ち合わております。
信作はこうやって待ち合わせするなんて、と言い出すわけですが。百合子は待ち合わせいうよりも待ち伏せやと返します。
そこへやってきたのは、智子とその友人です。
彼らは信作の前でピタリと歩みを止めて、こう来ました。
「どういうつもりなん?」
「こういうことなんで!」
信作は百合子を抱き寄せます。
すると智子もニンマリ笑い返して、ハンドバッグを肩から外します。
「ふんっ!」
出たぁ! ハンドバッグの一撃や!
金属製のストラップだと結構痛いし、遠心力を使うとこれまた効く。リーチもええで。
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