「サニー」で、橘と久々の再会をした喜美子。
いったい何を頼まれるのでしょうか。
【悲報】信作不在のまま柔道一直線路線へ
橘は夫の仕事でしばらく神戸にいて、やっと戻ってきたとか。
八郎の活躍を褒め、ご立派になったと微笑みます。
陽子もこの二人は仲がええと太鼓判。
何気ない会話ではある。けれども、行間を読むと怖いんですよね。
神戸まで響いている八郎の名声――けれども本人はスランプに陥っている。
仲がええと陽子が語る川原夫妻――けれども本人たちは行き詰まりを感じている。
喜美子は、仲ええというとおじさんとおばさんもやと返すわけです。
橘は、そういえば「あかまつ」でにぎやかに飲んでいたと振り返ります。
なんでもこちらの息子さん……そう言いかけると、あわてて陽子がコーヒーを勧めます。
今いただいたところと丁寧に橘は断り、またこちらの息子さんの話をしようとするわけですが、今度は忠信が「おかわり言うてくださいよ!」と止めに入ります。
「あかまつ」といえば、百合子が最近よく飲んでいると喜美子。
これは百合子本人だけではなく、世相の変化もあるんでしょうね。
女性が夜飲酒する。ましてや信楽で。
喜美子にはできなかったことです。会社の飲み会すら、ジョーから止められていました。父の死によって、妻子が自由になるのはそうなのです。
ここで、ジョーに代わり実質家長になった喜美子は、マツともどもあれではまだまだ(百合子を)嫁に出せへんと語ったと言います。
うーん、この喋り方といい、喜美子はお父ちゃんそっくりになってきた。遺伝だけでなく、役割を引き継いだ責任感もあるのでしょう。
動揺する大野夫妻に、喜美子は相手によると続けます。
その相手ってどんな相手か?
そう詰め寄る陽子に戸惑う喜美子。
大野夫妻は「うちらかてゆりちゃんかわいいやん!」とごまかした。
喜美子は父不在の今、ビシッせんといかんと言います。妻子が自由になるのはええことではあるのです。これにも両面はあります。
防犯面で不安になる場合も多い。女性だけの家は男性がいるよりも防犯面で危険であることは確かです。それに規律も緩んでいるときた。
ジョー、ええんやで。
ジョーのマイナス面とプラス面、両方バランスよく出てくるところが、本作の良さなんだなぁ。父だから、男性だから、いつも褒められてばかりいたら、それはむしろウソくさいでしょ。
ここで大野夫妻は、どんな相手ならええのか聞いてくる。
それに対する喜美子の答えはこうや!
・喜美子を柔道で投げ飛ばせる
・そのくらい、たくましい
・強い
思わず顔が曇る大野夫妻。
そういえば草間流柔道を習った三人組のうち、一度も技を披露していないのが信作よ。喜美子と照子が中学卒業時に道場で対峙したときも、柔道着を運ぶ役回りで鼻血を出して倒れとったし。
大野夫妻はお邪魔したと撤退します。
さぁどうするんでしょう。
これはこの場におらん信作があかん。あの野郎……。あいつがキッパリ喜美子に言っておれば、こんな余計な手間はかからへんのよ。
それができへんから周囲は振り回されて疲れる。
百合子、覚悟しとけよ。ここを踏まえると、大野夫妻が信作のことで喜ぶだけじゃない、そんな理由も見えてくるのです。
微笑ましいだけでもない。こういうことがずーっと続くとなれば、めんどくさいと思うんだな。親はそのことを理解しています。
愛情というのは、イチャイチャラブラブ、キュンキュンするだけではなくて。
相手がめんどくさい、わけのわからないこと、ズレたことをしても、フォローすることだと思うのです。
まぁ、信作は足でピアノ弾けるようになるまで、柔道やればええんちゃうか。
※かつて、そういう柔道モノがありまして……
信作受難の流れが見えてきたところで、商談に移りましょか。
「かわはら工房」に響く松永の笑い声
橘は、ようやく喜美子にお願いできると嬉しそう。
それを聞き、喜美子はこう言い切ります。
「なんでもおっしゃってください、大丈夫です」
80個は作れへん――そう断った頃と比べて、この成長ぶりはどうでしょう。
それはものすごくたくましくて、喜ばしいことのようで、複雑でもある。あのとき隣にいた八郎がいないのです。
「かわはら工房」に笑い声が響いている。
喜美子は打ち合わせの後戻り、その声を聞きながら中に入ります。
思えばここは夫婦愛の象徴であり、八郎は寝る前に喜美子と語り合うことを楽しみにしていました。
それがもう、壊れてしまった。
予定より遅くなったと告げる喜美子。八郎はちょっと言い訳がましく、松永さんが勝手に笑っているだけと言い出します。
「ディナーセットが……」
ディナーセット?
そんな聞きなれない単語に、喜美子の顔が異変を察知。
三津の絵が下手で、大笑いしているのだと……。
こんな絵心の「え」の字もなくて、よく美大合格したもんや。八郎はそう笑う。
焼き魚、梅干し、こんなん塗りつぶしただけや。八郎はそうからかって、自分の描いた卵焼きを見せてきます。
短いけれど、これも残酷なセリフだ。
幼い頃から、草間宗一郎が大人顔負けだと驚くほど、画才を発揮してきた喜美子。彼女は、ジョージ富士川が教える美術学校に通おうとして、財政事情で断念しているわけです。
喜美子は絵が得意で、中学では入賞したということを自慢にしてきた。
それも、フカ先生の弟子である一番さん、二番さんが立派な学歴と、全国クラスの入賞歴持ちだと知ったことで終わりました。
そんな喜美子の、潰されて日の目を見ることかった才能の残酷さが、三津との対比でぼんやりと浮き上がってきます。
「何、ディナーセットって?」
そう言う喜美子にお昼ゴハンが勧められ、サニーでホットケーキをいただいてきたと八郎に返します。
なかなかありつけんかった。
おいしかった。
そう答える喜美子。
お母ちゃんはどうしたのかと聞かれ、おうどんを出したと三津が答えます。
ここで三津はその片付けのため母屋に向かいます。昼食から結構時間が経過している。よほど夢中になって、八郎と話していたのかな……。
八郎が乾燥させている作品は何か。そう聞く喜美子。
銀座の個展に出す作品と聞かされ動揺します。
「休んだらええ言うた……」
「けどやらんわけにはいかん。仕事やから」
八郎は、喜美子が橘の依頼を受けたことを確認しつつ、下見に行く話を持ち出します。
来週末、銀座に行くのだと。
ろくろに向かう八郎の胸の内には
個展はほんまにやると喜美子に念押しし、企画してくれた佐久間にもここでやめるなんて言われへん、と続ける八郎。
喜美子は、東京の下見ならもっと早く言うて欲しかったとぶつける。八郎は、三津と話していて今決めたばかりだと返すのです。
銀座の客層を見て決めたらええんちゃうか。そういう流れになった。
東京では、洋食器のディナーセットが売れている。その和食器版を作り、全品揃えて、綺麗に並べる。そう語り出すのです。
喜美子はここで、たまりかねたようにこう言います。
「すばらしい作品は?」
「和食器セットかて、すばらしいで」
「そういうことやない。あれを超える作品をめざしてんちゃうの?」
金賞を獲得した作品を指差す――それができないから休めと言った。もう無理せんと、心に栄養を与えてやればええと思た。そう言います。
「心の栄養」て……それは行き倒れていた草間宗一郎が、医者から足りんと言われたもんじゃないですか。
喜美子は喜美子なりに、幼い頃と同じように、大事な人を助けたいと思っているのに。
「まちごうとる? うちの言うこと」
「まちごうてないけど……」
「芸術を極めるような作品。自分にしか作れへん作品にこだわってた」
「今は昔の作風に戻ろうと思ってる。それが僕にとって正しい答えかどうかわからんけどな。結婚する前の作品に戻ろう思てんねん」
そう言い、ろくろに向かう八郎です。そ
れって、喜美子との結婚生活は、作風によい影響を与えなかったという宣告にも思えますが……。
あー、もうこれはあかん!
喜美子は正しい。
でも、正論だけでガーッと追い詰められると、むしろつらくなるのです。
これがジョーなら、ちゃぶ台返しよ。そのほうがマシかもしれない、そういう流れを感じる。
じゃあ八郎は? ってことなんです。なまじ、八郎は知略が高いからさ……。
喜美子はこう言い切ります。
東京は来週末。うちも一緒に行く。
ここで八郎は、橘さんに頼まれた仕事はどうするのかと返します。
「今すぐやれば間に合う! うちも一緒に行く」
喜美子はゆずれない。
不穏な空気を彼女は悟った。賢く、敏感な喜美子は、その流れを止めるべく動く。
この夫妻は、なまじ双方の知略が高いだけに、諸葛孔明vs司馬仲達めいた雰囲気が出て参りました。
100作目以降、ダメな時代ものより、朝ドラの方が、知略パラメータが高い現象は何なのか?
※こういうノリが出てくると
喜美子が工房から外に出ると、三津がおります。
「雨降る言うてたのに、降らんかったな」
そう言われて、三津は空を見上げます。
※続きは次ページへ
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