声が出ないマツの喉はどうなった?
喜美子と百合子が見守ります。
「どんだけ合唱団で張り切ってんの」
百合子すら、そう言う。
さらに百合子は、親友のともちゃんが女の子を生んだと続けます。喜美子が羨ましがると、「武志聞いたら傷つくでえ〜」とツッコミ。
そんな百合子は、こうも言ってしまう。
「うちの子どもは、女の子がええなあ」
すかさず喜美子。
「子どもの前に結婚、順番間違えたら許さへんで」
と釘をさし、そう凄んだ後でお見合いを勧めるところは、すっかりジョーの風格が身につきつつあります。
これも信作のせいだからさ
百合子はお見合いを即座に否定しました。
うーん、喜美子の判断力が低下しているのかな?
・子どもに憧れている
・「あかまつ」でよく飲むようになった
・お見合いは否定
・大野夫妻がおかしい
彼女の鋭さから考えれば、諸々の言動を見て、妹がなんか変だと考えても良さそうですよね?
信作は元からおかしいので、これはどうでもええ。
こういう周囲の変化にすら、どうも喜美子は気づいていないようです。
それほど信作は【意外性の男】っちゅうことでもありますかね。信作が奇行をしても、周囲はいつものことだと受け流す。その結果、気づくのが遅れる。そもそも信作以外ならば、この関係性で交際隠蔽という時点でちょっとおかしいから。
タイミングもある。
姉妹がじっくり話せば何かわかったかもしれないけれども、マツが箒をぶん回してネズミを追い払い出すから、うやむやになってしまいます。
怖い、人が変わってる!
娘すら驚くマツのネズミ格闘。彼女にも激情があるとわかる――このさりげないシーン。未亡人の自由さが出てきました。
ジョーの不在で、喜美子は責任感が増える。マツと百合子は、自由度があがる。
ここも重要です。
喜美子はゆらぎ、吹っ切ってから集中する
朝、「かわはら工房」へ喜美子が向かうと、八郎は出かけておりました。三津一人が残っていて、「サニーあたりに出かけた」と言います。
書き置きを残すとか。一言声をかけていくとか。
夫婦でそういうコミニケーションが取れていない。
工房はすでに作業の準備ができており、八郎が喜美子のために用意していたと三津が言います。気合を入れ、絵付け小皿200枚を作るという喜美子に驚くばかりの三津。
作業場を用意してくれていた八郎に感謝しつつ、喜美子が作業を始めました。
はたして、夫妻の愛はまだあるのかどうか?
この朝だけでも、八郎が何もいわずに出かけたことに、喜美子は動揺があってもおかしくない。
それでも準備をしていたから、愛はあるのだと思いたい。
本作の生々しさと残酷さ、見ていると気分が悪くすらなりかねないのは「不安定」だからだと思う。
シーソーのように、揺らぐ心。
愛はあるのか、もうないのか? そういう揺らぎがあるのです。
喜美子は切り替えれば前に進める。
圭介相手の失恋にせよ、荒木荘から戻された時にせよ、決意を決めたら振り向きません。
そんな喜美子が、ゆらいでいる。
いやらしくない意味での【人妻のよろめき】状態で、このことそのものがストレスになり、判断力すら落としかねないことは注意したいところです。
三津は、喜美子が今日中に小皿200枚作ると言い切られてワタワタしています。絵心がないのに美大によく合格できたと、冗談半分で八郎は彼女をそう評していましたが。
見ているだけで、きっぱりとクリエイターとしての才能がないとわかるのは、すごいと思うんですよね。集中力がないし、ワタワタしている。
三津は『半分、青い。』の鈴愛に似ていると指摘しましたが、クリエイターとしての資質は鈴愛ほどないと伝わってきます。
だって喜美子が、これですよ。
「とりあえずな、黙っててくれる?」
喜美子の真剣な作業に、三津は圧倒されれます。真剣な眼差しの戸田恵梨香さんが、抜群のすばらしさを発揮する。
こういうものづくりへの集中する表情が、すごく大事だと思う。
『なつぞら』の時のアニメーターたちも、これがよかった。神っちの染谷将太さんが、セリフもない、背景にチラッと映った時もすごい顔になっていて。この人が演じる信長ならば、絶対にすごいことになると思えました。
そんな『麒麟がくる』にも期待がふくらみますが、今はとりあえず朝ドラです。
八郎にとっての、天国と地獄
「サニー」では、八郎が暗い顔でコーヒーを飲んでいます。
ええ茶碗、ハチさんが作ってくれたと声をかける忠信。実は二個、去年陽子が転んで割ったと言い出します。真っ先に怪我を心配する八郎は優しい。
二人でかけらを集めたけれども、戻らなかったと忠信は言います。
八郎は言ってくれたら作り直したと言うのですが、ここから先がちょっと残酷でして。
忠信は、今はもう信楽の陶芸家先生になったからにはお願いできないと笑うのです。
この湯呑みも作ってくれたと忠信は言う。昔ジョーが、一個五万になると言っとったやつですね。陽子が言うには、悪徳商人顔で。
八郎は、その湯呑みをおじさんとおばさんがええ茶碗と言うてくれて救われたと振り返ります。
忠信は、もう二個で十万だから払えないと躊躇すると、お金に関係ないから作ると八郎。ここで、二個、四個、こんぐらい、八個、十個、足の指まで使おうとする忠信に、八郎は笑いはじめます。
「よかった、声出して笑えるやん」
ずーっと考え顔だったと忠信は心配しておりました。彼なりに、さりげなく八郎の心を癒してくれた名場面です。
よかった。
そう言いたいのは視聴者もきっとそうでしょうけれども。
本作の怖いところは、こういうほのぼのとした何気ない場面にもあります。
八郎原点回帰?
せやろか?
この皿にのせたものを美味しく食べる人がいればうれしい。そう言いつつ、うどん皿を作っていた八郎。
コーヒー茶碗も、謝礼をもらいたいと言う喜美子に対し、拒んでいた八郎。
それが結婚を約束する際に、ジョーに先輩陶芸家のことを話し、湯呑み一個五万になるかもしれないと言った八郎。
ジョーは、生前そのくらいの値段で売れないことを、騙したと冗談めかして八郎に告げていた。
こうして見てゆくと、素朴な結婚前の八郎を壊してしまったのは、結婚生活だと思えるのです。
義父のために、自分の作るものに値段がつくようにした。喜美子は、そんな義父に似ていて金にうるさい。だからこそ【すばらしい作品】を作るプレッシャーがかかる。
そんな苦しんでいるところへ、三津が現れた。
彼女が団地の妻が喜ぶという、ディナーセットを提案したことで、結婚前に戻る道筋が見えてきた。
八郎からすれば、川原家は純粋な自分を堕落させた存在であり、三津はそんな地獄へ手を差し伸べる天使に見えても仕方のないところとも言えなくもない――。
私は、この場面をそう感じたんよ!
【悲報】信作、投げられない
そこへ照子と信作、それに陽子が入ってきます。
「気にせんといてな」
そう断る陽子の横で、照子が、信作相手に体型変化の嘆きを語り始めます。
四人産んでる。四人やで、四人。そうは見えんかもしれへんけど。
若い頃の筋肉は脂肪に変わって、美しい体はもうボロボロ。お腹は妊娠線がついとる。スイカみたい。
はい、ここで信作がこれやで。
「スイカ?」
「スイカに反応せんでええ!」
そのうえ、柔道なんて十何年ぶり。そんな私に投げ飛ばされる。
どういうこっちゃ!
そう責め立てられ、無言で八郎に抱きつく信作。陽子と照子が突っ込みます。
「甘えるな!」
本作の生々しさ、その本領発揮!
この体型変化を生々しく語る――こういうところに「やったで、言ってやったで!」というガッツポーズを感じる。
本作はセリフが長いとはいう。
こんな生々しい体型変化セリフは大したもんだと思います。書く側も、演じる側も。本気で朝ドラを取り戻しにいく、そういう気合を感じますね。
もう一点、信作ですが。
こいつは、そこは反応しなくていいというズレたことを言いやがります。めんどくさい……。
照子はイライラしつつ言います。
「結婚、許してもらえへんで!」
八郎もここで「結婚するんか!」と驚いている。照子も今聞いたばかり、しかも相手は内緒だってよ。
信作よ。
幼なじみの照子、数少ない友人にすら言えない。そんな信作よ……。フォローに回るのは、追々明かすと言う両親なのです。
はい、結婚と柔道に何の関係が?
なんでも、柔道で投げ飛ばすくらい勇ましくてたくましい、そんな相手がええと相手の姉が言っているとか。
よほどいかつい女。
そんな厳しいお姉さんに頭を下げるのかと、困惑する八郎。自分のジョーとの対峙を思い出しつつも、そんな武力の高い女が自分の妻だとは気づけない……。
信作はここで、また八郎に抱きつく。そして陽子と照子から「甘えんな!」と言われる。
ここでの信作のセリフ、「スイカ?」だけやで。なんやこいつ、お前が当事者やろ!
喜美子の嘘、三津の誠
はい、癒しの信作柔道一直線は終わりまして。喜美子が作業の一段落を終え、一休みしております。
三津はあっという間に作ってゆく、そんな喜美子に驚いています。
喜美子には才能がある!
見ていてそう思った。
集中力があって、無心で作り続ける!
とにかく驚いています。
「才能なんかわかんの?」
喜美子がそう言うと、
「よくわからないけど、叶わないなあと言う感じはある」
と返します。
そして、横におられるとしんどいなあと思わせるとも。
思わぬハチさんの本音に驚く喜美子。戸惑っています。
「なんでやろ? なんで?」
「あ……才能がある人が横にいると息苦しさを感じることもありますよね。一般的な話ですけど」
喜美子はわからないと困っている。すると三津はこう言います。
そっち側、できる人間だから。努力しても、努力してもダメな人間もいる。
喜美子は即座に否定するのです。
「ハチさんはちがうで。優しいけどな、そんな弱い人ちゃうで」
「繊細なんです。繊細な人だなあ、って思います」
喜美子は今、嘘をついた。
自分でも気づかないうちに、嘘を言ってしまった。
結婚前、ジョーへ結婚の許可をもらいに行った時。
ジョーが出してきた、陶芸をやめるという条件を、八郎は受け入れかけた。
あのときの喜美子は、八郎の弱さにつながりかねない優しさを、ジョーにはわからんのか!と抗議していたものです。
結婚前は、相手の弱さを誰よりも知っていたのに……。
今、それができるのは三津になってしまっている。
「そうか……ほやけどうちにどんな才能があるいうのん? うちはハチさんにずっと教えてもらってるんやで」
そう喜美子が困っていると、三津は追い討ちをかけます。
「僕を超えていった。先生は誰よりも喜美子さんの才能をわかってるんです」
「超えたて……そんなこと言うてんの」
喜美子はここで話をやめて、続きを作り出すのです。
けれども、彼女の心には動揺がある。
本作の親切なところは、音楽の使い方です。バイオリンの響きが、悲壮感ととまどいを演出します。
サウンドトラックではここ数年でも、随一の本作。それは曲そのものの素晴らしさだけではなく、演出の冴えにあります。NHK大阪朝ドラチームの、最高峰の演出を見た気がするで!
喜美子は、この日のうちに200枚の形作りを終えました。
これから七日間の乾燥、素焼き、絵付け、本焼きへと進みます。納品まであまり間がない――。
そうナレーションが説明しますが、迫っているのは納品だけでしょうか?
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