八郎が銀座へ下見に向かう。そんな中、喜美子は絵付け小鉢の合間に、作品を作っています。
誰のためでもない、自分のために――。
横には三津。
武志が声をかけてきても「ちょっと待ってな」と待たせる喜美子です。
八郎不在は関係ない
喜美子は皿を作るも、すぐに没にして粘度をグシャグシャと丸めてしまいます。
「今日はもうええわ」
三津に片付けてもらう喜美子。
先生がお留守だから調子出ないのかと言われ、どうしようかと迷っているのだと返します。
ふとしたセリフではありますが、三津の恋愛ムードを感じてつらいもんがある。
彼女は、自分ならそうだと踏まえちゃっているというか。寂しそうというか。
喜美子がそうでなく、ひとりでも突っ走れるタイプだとしたら? これも不穏ではある。
武志は靴下つくろったと見せにきます。
3箇所で12円、3回! とらぬ狸のなんとやら、やで。
はい、検品タイム。
雑……。
仕方ないとはいえ、雑。喜美子の顔が険しくなります。
喜美子はお母さんはたけしが大好き、それを胸にしまっておけと前置きしたうえで、こう言います。
「なにやってんねん、こんなんあかんわ! きちんとできてんの、一箇所だけやん!」
わかった、わかった。小さくそう言う息子に、容赦がない。
「こんなんつくろうたうちに入らへんで! やるいうたからには、最後まで丁寧にやらなあかんやろ!」
すごいな。
ネイティブ関西弁でも、北村一輝さん、そして戸田恵梨香さんが本作でもキッツイ関西弁ツートップやな。紛れもなく親子だと思わせます。
関西のお母ちゃん、本気と違いをみせな(アカン)。
ここで三津が、外に誰かいると言います。
照子でした。
ここもええなぁ。
「やだぁ〜」でもない。
「どうしたのぉ?」でもない。
「おう」
「おう!」
最高やん!
またも離婚か、照子よ……
喜美子がお茶を持ってはいってくる。
泊まってええ。脚崩してええ。今日だけ。そう言い切ると、照子はこう言います。
一週間、三ヶ月、三年。一生でもええからここにおいて欲しい。
「うち、離婚するから」
「えっ!」
三津はびっくりしていますが、喜美子は慣れたもんや。
オリンピックは四年に一回。照子の離婚騒動は一年に一回。照子は毎年家出するってよ。
【熊谷夫妻離婚騒動(一年ぶり何度目?)】
敏春、初恋の人と朝まで同窓会で飲む
↓
照子、家出
↓
毎回、敏春が心を込めて手紙を書いて、信作に渡す
↓
信作が嫌そうな顔をして、受け取る
↓
頼まれた手紙を持って走る!
↓
物凄い勢いで駆け込んで、倒れ込む信作
↓
なんとなく気が済む夫妻。「もうええわ」という気持ちになってくる
↓
墓地で亡兄の墓に手を合わせ、仲直り報告する
↓
終了、また来年!
信作が百合子にお茶をもらえるあたりが、救いやろか? なんやねん、この信作受難の流れは!
実にアホっぽいけれど、直子騒動といい、これも大事な回復プロセスではあるんですよね。
喜美子と八郎は、こんな愉快な儀式で回復できるのかどうか。火山と同じで、一年に一度爆発していると、迷惑であってもそこまで深刻でもない……。
今年はちょっと例外的で、時間が遅いため照子を泊まらせるそうです。
ジュース? ま、せやな!
離れで幼なじみが泊まる間、武志はおばあちゃんと寝るそうです。
「ご不浄も行ったし……」
マツの言い方がすごい。この年代のお嬢様ですね。
ジョーはマツに苦労をかけているようで、お姫様扱いしている一面もありました。これもちょっと引っかかってはいる。
八郎目線になってみれば、お姫様は喜美子ではなく、三津なんだよな。
愛する女はみんなお姫様。そうであればよいのですが……。
信作は飲み物と手紙、グラスを持って離れへ。
手紙の中身、敏春は覚悟した顔をしとったか?
そういう確認をする照子です。
照子は結婚当初、かなり変わっておりました。かわいい若奥様で、夫を称賛していましたが、最近、結婚前のドヤ顔厚かましさが戻ってきました。
飲み物はぶどう酒か?と念押しする喜美子に、照子はジュースと主張。
ベタすぎる嘘やな。
飲んでからジュースかと確認しておりますが、モデルからして『マッサン』にも出てきたあのスイートワインやで。当時はポートワインな。
これも結構厄介な話で。ポートワインは、本来ポルトガル原産、特有の甘さがある食後酒でした。
ところが、輸入しても当時の日本人には甘さが足りない。どんだけ甘党だったのか、そう突っ込みたくなりますが、あのメーカーが甘味料をどっさり入れて売り出したのです。なんちゃってポートワインということもあり、改名されたと。
甘いし、なんか中途半端だし、ジュース扱いでええやろ。そんな半端な位置。現在ならば、ジュースそっくりのシュワシュワしたデザインのあのお酒、ってところです。
最近、アルコール度数のキッツいお酒が問題視されておりますが。
昔からジュースと酒の中間じみた甘いもんはあったということで。ここは乾杯!
「信作、結婚おめでとう!」
「決めたんやろ」
「相手はどこの誰や?」
「誰や?」
「……今は言えん」
こいつはもうさ。このことを悔やむ流れ待ったなしや!
幼なじみ二人は、信作が結婚を決めたということが大事だといいます。フラフラして。浮名流して、どうなるんか心配しとって。
うちらのあとをヒョコヒョコついてきた。
柔道、上達しなかった。
明るい人間になる言うた。
明るいか、暗いんか、わからん信作が!
そう振り返ると。これもほのぼのしているようで重要。照子は、若奥様からドヤ顔に戻ったし。信作は、明るく上向きから、またようわからん暗い受難男に戻った。
十代や二十代は背伸びしてキラキラしていたけれども、三十代になると一周回って原点回帰ということかも。
人間の本質は、そう変わらない。
三人のうち、二人がそうなっている。
では喜美子は?
喜美子の本質はどうでしょう?
「かんぱーい!」
「これほんまにジュース?」
ジュースやない。まあ、ええんちゃうか。
酒だとバレてますが、照子は言い切ります。
お母ちゃんうるさいし、子どもも四人。朝まで羽目を外せるなんて、今日だけ。
女子会やな!(信作はいるけど)
そういう羽目を外すことは、実は伝統的でもあります。
日本各地で、地域の女性だけがお寺のお参りツアーをする伝統がありまして。信仰心があついですねえ、って? そう単純なものでもありません。
そのツアーは、女性だけで集団旅行ができる!
シャドウワーク――この日だけはやらんでええんやで。その日を楽しみに、ワクワクしている女性は昔からいました。
小正月、女正月もあります。
ちょうど今より少し早いあたりで、女性を休ませる風習です。そういう伝統もあるんやで。
ここで照子は、喧嘩の原因を語ります。
同窓会で、初恋の相手と朝まで飲む。男と女が朝まで飲んどって、なんでもないのか?
毎年そう争うらしい。
この三人は、男と女でもちゃう。
「腐れ縁や!」
そう盛り上がるのでした。
これも結構重要だと思います。あの【人妻のよろめき】事件も、浮気を疑った忠信が陽子に怒っていたわけでして。
実際に何もなくとも、心にどす黒い疑惑が湧き上がったら、アウトになりかねない。
法律上の問題でもない。物証云々でもない。疑念が芽生えたらあかん。
そして喜美子と八郎にはもう芽生えていて、かつ、解決の糸口が見えない……。
偽りの時代もあった
武志は、おばあちゃんと寝るのが久しぶりだと言っている。
匂いがなあ、こまんねん。すぐ眠たなる。そう甘える武志。小さい頃はここで寝ていた。あの丸熊陶業時代のこと。
勤め終わってからも、独立に向けて金を貯めるために、働いていた。マツはそう振り返ります。
武志はもう寝ています。
あの頃、新婚時代は忙しかった。忙しさゆえに【ズレ】も見えなかったのかもしれない。
それに、武志はすっかり川原家の子として生きていること。
不穏さがあります。
幼なじみ三人は、十代を振り返っています。四時半起きだった喜美子の大阪時代を振り返る。当時二人は高校生でして。
照子、その偽りの高校生活――。
一緒に写っている人も、友達のふりをしていただけ。偽りの笑いだった。友達いない、弁当もいつも一人。信作も一人だった。
それは二人でお弁当だったのか?
喜美子からはそう解釈されるわけですが。
「ほんまや」
おもしろいんだな。
幼なじみ三人が「友達いないぼっち飯」と設定されるって、興味深いとは思いませんか?
空気があんまり読めないっちゅうか、はみだしもの同士の連帯でもある。だからこそ、脚を乗っけるなと言われても、信作にドスドス乗りに行く二人が微笑ましかったりして。
さらには、あのワインボトルを使った、今だから言えるタイム。
照子は、妹が欲しかった。
喜美子は、弟が欲しかった。
何気ないようで、二人のことを思うとつらい話でもある。照子に妹がいて、彼女が婿を取っていたら? 婦人警察官になれていたかもしれない。
喜美子だって、弟がいれば川原喜美子のままではなかったかもしれないし。大阪にいたかもしれないし。
家族構成が二人の人生に大きな影響を与えているのです。
照子は、草津のひとさらいと狸の前ですれ違ったと言います。あったあった、人さらい騒動。
「それ引くわ……俺や俺俺!」
そう前置きしつつ、信作はこう語り始めます。
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