この父子にも、愛がある
「サニー」に、バットとグローブを持った武志と、八郎が入ってきます。
「お父ちゃん下手やったー!」
武志はそう言う。投げたボールがどこかにいって、拾いに行ったってよ。
そうそう、八郎は鈍臭い。『なつぞら』のイッキュウさんと同じ。
一方で喜美子は、むしろクリティカルヒットを放てる身体能力を秘めていると思えた。あー、そこを見落としてたわあ。騙されたわ。
楽しかったと話す武志に「無理矢理言わしてんのちゃうか」なんて忠信のツッコミも入りますが、そうではないでしょうね。
武志は、喜美子の前でも、八郎の前でも、心の底から楽しそうではあって。それが悲しくなっては来るのですが……。
でも感慨深いものがあります。
海外を舞台とした作品ですと、楽しそうに別れた両親の間を行き来する子どもが出てくる。週末はパパのところで遊んでピザでも食べようか。ママはそういうの許さないからさ! そう割り切っていると。
そこまで、日本のエンタメも追いついたのか。しみじみとすごいと思えます。このドラマ、一体どんだけ進歩するつもりなのか。
晩ご飯は「サニー」で食べる許可を取っているようです。
「カレーとプリンとアイスクリーム!」
昭和の子どもの好きなものをリクエストする、そんな武志。お父ちゃんの甘さを見極めたかな。百合子はそんな彼に、漫画を読むかと勧めております。
皆が子どもを支えているとわかる、ちょっとした場面だとも思う。
ここで衝撃の事実が判明します。そういえば百合子がいて、陽子がいない理由があった。
陽子、入院して手術したってよ。
来週退院、悪いところスパッと切ってあとは問題なし。信作が病院に行っているそうです。退屈や、退屈やとこぼしているそうです。
えらい心配おかけして。そう言う忠信。陽子も心配ですが、信作と百合子の結婚もどうなったのやら。
川原家は穴窯でアレやし。
大野家は入院。
結婚式の話を進めると振られ、百合子は式はええとキッパリ言います。
喜美子と八郎のように、正装で写真撮影する。それで新婚旅行に奮発したらええ。おかあちゃんもそう言ってるってよ。
八郎が「おかあちゃん」にびっくりしていると、百合子は笑顔でここの「お義母ちゃん」だと説明します。
本当に、本作はすごいな!
朝ドラの結婚式は盛り上げシーンの定番なのに、外すのか!
「朝ドラ定番の結婚式、ええと思います。ほやけど、NHK大阪の本気と違いを見せな(アカン)」
そういうことやろか。
本作は盛り上がる定番行事をすっ飛ばして手抜きだのなんだの言う意見もあるようですが。
そこは作り手の取捨選択でしょうよ。穴窯試行錯誤で本気出しとるやん。
そこに気付かねば『半分、青い。』のナレ離婚批判のように、同じことの繰り返しよ……。
そして問題も発生。
【八郎は結婚式写真に入るか】問題や。八郎本人が遠慮気味だと、百合子が解決します。
武志のお父ちゃんで、うちのお義兄さんには変わりない。スパッとそう言い切る。
忠信が、もうあかまつのオヤジも呼んで真ん中にしようかとはしゃぎだします。
こういうちゃらけておちょくって、深刻な雰囲気をぼかす。そういう関西の真髄を見たで!
柴田なりの解決策
すると柴田が入って来ました。
武志の年齢を四年生だと確認。背の順でいうたら前の方か。そう聞かれて、八郎は一番前だと返します。それでもリレーの第一走者で、運動会が楽しみだと。
何気ないやりとりで、八郎の武志への愛情がわかるんですよね。この生々しさが良い。
そう前置きした上で、柴田が関西弁の「あんな」から本題を切り出します。
「ハチさんには若い女の弟子がおった。どうも、時期がアレやいうて(出た! 関西弁のアレや)」
「今頃になってそんなこと! ただの噂です!」
「あんたらが意地張ってなかなか元の鞘に戻らんからや」
ぎゃー!
世間の目、その地獄よ。
関係ないことでも、時期が近いだけに、そうなってしまうわけです。
これは八郎も気の毒すぎるわ。そういう世間の声のグロテスクさがあります。
やはり、昨年の放送事故が展開した【同じ屋根の下に男女がいる=エロ!】というエロマンボダンス騒動は糾弾されなあかん。
すると柴田なりの解決策を持ち出されます。
京都の陶磁器研究所に空きが出た。このまま信楽におっても息苦しいだけちゃうか。京都だったら電車ですぐや。
「信楽離れぇ」
そう言われるのです。
八郎も気の毒ではある。あれほど信楽にこだわって、愛して来た。
十代田八郎ではなく、川原八郎として名を売った。
それが全部、わけのわからない誤解で吹っ飛ばされようとしている。
けれども、これは指摘しておきましょう。
こうも彼が気の毒に思えるのは、彼が男性であるからではありませんか。
女性は名前を変えることも、地盤から引き剥がされることも、当然のこととされて来ました。
女の当然のことを、男が味わうことによって、痛みと刺激を増す――本作の地獄めいた緋色の炎は、ここにもあるのです。
草間宗一郎の教えを待つ
八郎は、武志を連れて川原家に戻ります。
「ああ、寝てしもたん」
そう笑う喜美子は穏やかではある。
八郎もつらいやろな。こんな可愛らしい、心の底から愛した女性が、あんな恐ろしい業火を秘めていて穴窯に夢中だなんて……。
その業火と世間のせいで、自分のキャリアがメラメラと燃えているわけですから。
そこへ、もう一つの人影が見えます。
「きみちゃん!」
「草間さん!」
「ご無沙汰してます」
「久しぶり」
そう笑う草間宗一郎。
彼が、愛した妻と別れた、あの焼き飯を食べたその日。
強い愛が壊れてしまう様を見た喜美子は、おそろしくて愛に踏み出せなかったほど。
そんな師匠は、割れた愛のカケラが心に詰まった喜美子に、どんな言葉をかけるのでしょうか。
敵は世間! しかし喜美子は挫けない
悲鳴を上げたくなるほど、おっとろしいことを月曜から……。
川原夫妻の陥る状況、残酷すぎませんか。
この状況で、最もダメージ軽微なのが喜美子であること。それは最近のアレなニュースを見ていればおわかりいただけるかと思います。おっとろしいドラマやで、ほんまに。
身を引いたのに、ゲス略奪女にされる三津が可哀想で。三津までダメージを受けていて、心配になって来ました。
もう三津の芸術家としてのキャリアが潰れていそうではあるし、結婚前に身上調査されたら縁談も壊れかねないんじゃないか?と。
女性お断りって、結局こういう世間の目のせいということでもあります。その構図を炙り出してきたな。
私含め、おそらく多くの視聴者さんも騙されましたよね。
あのアレなニュースも、バッシングが酷すぎないかという擁護論も出てきました。
そこすら本作は踏まえているようでして。
世間の過熱する空気な。叩くことそのものが燃え上がる空気な……わかるわ。
ほんで喜美子のおそろしいことは、そのダメージすら跳ね返す――地獄の使者めいたところです。
八郎はショックを受けて、身を引くルートが見えてきた。
一方、喜美子は誤解由来で投げられた橘のオファーを、ドーンと受け止める豪快さがある! 清濁併せ呑んじゃうんだよなぁ。
「ドラゴンの血を引く者は、燃えへんで!」
そう言い切っていた、デナーリス・ターガリエン感がある。世間の炎を浴びても、喜美子一人ピンピンしてるっちゅうか。エルサも一人だけ寒くないしさ。
※燃やしまくるで……
本作の喜美子が独特なところって、ダメージを受けても吸収してさらに強くなるところかもしれない。
これは、よいところと悪いところ両面ある。もうちょっと八郎に気遣おうか。いや、それができたら別居していないんだなぁ。
一体どんだけ強くなるのか?
残りもきっちり、見届けます。
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
スカーレット/公式サイト
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