喜美子が思い立ってから半年。
ついに穴窯が完成します――。
真っ赤な薔薇が咲くとき
渾身の穴窯が出来上がり、中を覗きこむ喜美子たち。工事をしてくれた方たちに対して、丁寧にお礼を言うところが好きです。
職人を無意味に小馬鹿にする。そういう態度って、ドラマからでも透けて見える。
俺らテレビ作ってるトレンディ業界人は偉いんだぞ〜っていう奢りは、ドラマからも出てきてしまう。昨年の放送事故にはそれがあった。今年はない。
二人が丁寧にお礼をしている最中に、百合子たちは何かをしています。
喜美子と八郎は穴窯に入り、互いに「ありがとう」と言い合う。
そして二人が庭へ出てくると、百合子や照子、そして「おかあさん合唱団」が歌いながら紙吹雪を撒きます。
※真っ赤な薔薇が〜
1966年(昭和41年)のヒットソング『バラが咲いた』。
素朴でええなあ〜懐かしいな〜……だけかな?
歌詞は、真っ赤な薔薇が咲いたと歌われる。スカーレット、緋色、真っ赤。炎の色が出てくるとき、このドラマは何かが変わります。
かつて八郎は、真っ赤な大皿を焼いて受賞し、喜美子との結婚にこぎつけました。
この赤は、何を変えるのでしょうか。
すき焼きを食べつつ、マウント奪い合いをする
すき焼きを食べつつ、穴窯完成祝いをしています。
おっ、これは近江牛やな? せやな? ハァ〜、滋賀行きたいわ。
※近江牛ぅぅぅう!
ここでも柴田と佐久間が、何気ないようでなかなか奥深いことを言う。
柴田は「尻に敷かれている」という。
佐久間は八郎の決意前提だという褒め方をする。
そこで八郎は「僕ちゃいます」と否定する。
構図的にも嫌なもんがある。照子と陽子はいない、敏春と忠信はいる。
女性たちはコーラスと紙吹雪で、心に寄り添う祝福をしていた。
男性たちは飲み会をしてうまいものをつつきつつ、女房の尻だの作家として流石だの、マウンティングをしているようにも見える。
「ええケツしとるのぉ〜」
そういうセクハラ全開の、『仁義なき戦い』山守のようなわかりやすいゲスさはではない。あってええはずはないけれども。
どのみち女房の尻の話をする男には問題ありちゅうこっちゃ。
「そんなん言われたら、なんも喋れなくなるわ!」
ええんちゃうか。
そんなら無理して喋らんでも。
救いは、ライスカレー皿を頼んでくる忠信くらいですかね。
ふと思い出したのが「女性専用車両の真実!」という馬鹿げた報道でした。
女同士だけで男の目がないと、ブランドかぶりでマウント奪い合いをする。その他もろもろ。今はむしろ利用者が少ないあぶらとり紙を出してきたあたりで、お粗末さがバレバレでしたが。
「ブランドかぶりでマウント奪い合い」という嘘から、何がわかるか?
それはこういう嘘を考えるおっさんの脳内と日頃のやらかしやで。
男同士で集まると、なんやかんやでアホみたいなマウント奪い合いしとるから、「女もせやろな!」と、アホみたいな嘘を思いつくわけだ。
そういうことを念頭におくと、こういう場面もおっとろしくなりませんか?
しかも、三津はお酌をして回ってる。
喜美子はいない。彼女は穴窯の前に座り、何かの決意を固めています。今後、どういうことになるかも想像がつく。
「みっちゃんは可愛らしなぁ。ええ女房や。前のアレは、夫を尻に敷く悪妻やで。あんなん、たまったもんない。そらそうよ、男はそういうもんよ」
そう、この顛末まで、近江牛と一緒に酒のあてにされてまう……。
喜美子は考え事をしようとすると、自分の作品に向き合おうとすると、シャドウワークに忙殺されてしまう状況がありました。
それが今、変わりつつあるけれども。
八郎が、家族が、それを許したとしても。
世間は、そうしてくれないのかもしれない――。
本作は視聴率面で苦戦するのもしゃあないと思います。こんなセクハラあかんビデオの激辛版、見ているだけで辛くなって息詰まって、見るのも嫌になる気持ちはようわかります。
それでもやらなあかん。そんな意思を感じるで! 応援しとるで!
3日で1200度にする
喜美子には目標がある。
温度:1200度
期間:3日
薪:追加分含めて準備完了
参考資料:慶乃川のノート、文献、資料多数
隙間がない。素晴らしい。喜美子は賢い。知略が高い。
こういう具体性が欲しかった!
「たまたま土産にもらった果物で甘味をつけるぞー!」
「片っ端からエビで実験だー!(で、実験さして関係なく)ホテルで出たおつまみのエビに決めたー!」
製作側のやっつけ仕事、手癖、怠慢、そして漂ってくる謎の教団臭。そんなんとはまるで違う、裏付けのある取組が素晴らしい。
ただ、喜美子はちょっとおかしい。
松永さんに薪の入れ方を教えようと言う八郎を否定し、自分一人でやると言い切るのです。
「炎から目ェ逸らしたらあかん。一人でやる」
八郎は、無茶したら失敗する、交代でやろうと言い出します。
喜美子は紛れもなく、2020年代に適応するヒロインになりつつある。劇中はまだ1960年代でも、そんなん関係ない、超越する。
『ゲーム・オブ・スローンズ』のデナーリス
『アナと雪の女王』シリーズのエルサ
彼女らの生きる時代設定は、中世なり近代です。それでも彼女らは、協力者の手を振りきってでも、一人で困難に立ち向かうと言い切る。
でも……一人では解決できないと、彼女らは示してもいる。
喜美子はどうでしょう。
神棚に手を合わせ、あのカケラを置き、手を打つ三人。
「よろしゅうたのみます!」
陶芸の神様に祈り、火を入れます。
まずは窯全体をゆっくりとあたためていく。三人が交代している姿がここで入ります。
600度になったところで、たき口に薪を入れる。ここから一気に、目標の1200度まであげていくのです。
けれども、1000度を超えたあたりで温度計はピタリと止まる。
予定の三日を過ぎても、1200度には届かない。中には忠信注文のカレー皿もあるというのに……。
「どうする? まだ続ける?」
「続ける」
このまま上がらんかもしれなくても、ここでやめるわけにはいかない! 喜美子の決意は固いのです。
温度は上がらず、疑念は燃える
けれども、四日目になっても温度は上がらない。
八郎は半日でも窯の前に座り込む、そんな喜美子に交代を申し出ます。
「平気やねん、大丈夫!」
そう言い切る喜美子ですが、一時間、二時間仮眠をとることに同意します。八郎は最低でも五時間。そう言い切り、毛布を工房に持ってきてあると告げます。
八郎はやっぱり優しい。
それはそうなのですが、仮眠から目覚めた喜美子の耳に入ってくるのは、楽しそうに笑ってはしゃいでいる、八郎と三津の声なのです。
※続きは次ページへ
コメントを残す