研究所にいたのは照子でした。
横にいるのは髪の毛を染めた不良少年。そう、昭和の不良少年やな。シンナーとか吸ってへんとええな。
にしても、この髪の毛のリアルがすごいですね。真っ黒な根元が数センチのプリン。本気を出しおって!
当時は髪の毛を染めることが、今とは比較にならないほど不良行為そのものであり、染めるにしても根元だけメンテナンスする技術はなく、こういう悲しい状態になっとった。
この状態を維持することは、ジョージ富士川の金髪どころやないやろなぁ……。
しかも、全体的にモサい。めっちゃ田舎の不良。今なら「ド派手なシャツwwwwwwww」とネットでバカにされるような……特定視聴者のトラウマをえぐる朝ドラHELL。ここへ来てさらに磨きがかかっとるわ。
北村一輝さん筆頭に、この竜也さんの福崎那由他さんといい、鮫島役の正門良規さんといい、画像検索かけると「普通の現代イケメン」で驚かされますよね。
メイク、髪型、服装ってあるんやなあ。
本作は、いったい美形をどこまでモサくできるのか? 以前はクリクリ坊主の野球好きと説明が入るあたりも、切ないもんがある。
照子は、家庭菜園に夢中になってるうちに、竜也があんなになってしもたと喜美子に語ります。
女の子ばかりだった熊谷夫妻に、男子誕生! 後継者やと育てていたら、何か間違ってしまったと。
更生施設として、信楽窯業研究所を使う。研究所も迷惑でしょうが、なまじ丸熊だから断れない。
田舎のアレやこれやが生々しすぎて、クラクラして来た。
不機嫌そうに蹴っ飛ばす、そんな我が子を追いかけて怒鳴る照子が切ないですね。
演じ分けもおそろしいもんがある。夢の中は高校生、今は不良息子に怒鳴るおばちゃん。
半端ないな、本作、半端ないな!
※こういう不良の時代や(現実のルックスはビー・バップ・ハイスクールだけどな)
普通の先生に教わりたい
喜美子は研修室に入っていきます。
掛井はタコさんウインナー入りのお弁当を食べていました。お食事中か……と喜美子が気遣っていると、どうやら食べ損ねてしまったそうです。
ご挨拶に伺ったという喜美子に、掛井は感激しています。
「川原喜美子先生ですよね、穴窯の、自然釉の! 掛井武蔵丸申します、初めまして! 先生の作品は拝見させていただてます!」
そして、かつてはフカ先生の作品に心躍ったきみちゃんも、今では誰かの心を動かす陶芸家になりました🙋♀️#スカーレット pic.twitter.com/Q0cJmNCtPt
— 朝ドラ「スカーレット」第19週 (@asadora_bk_nhk) February 11, 2020
個展でみた壺が欲しい。家内と話していた。そう熱心に、身振り手振り付きで話します。いささか圧の強い熱気に、喜美子はちょっと戸惑っているほど。
このあと、すき焼きを武志と挟んで食べつつ、喜美子はその出会いを語っています。ビールも飲んでいるようです。
握手してくださいいうて。
お母ちゃんの手ェ見て、ここから素晴らしい作品がー、言うて。
そんな母に、武志は恩師のことを語ります。
掛井先生は普通の人。そう初めてあった生徒にいう。
何が飛び抜けているわけではない。
絵がうまかったわけでもない。
文章がうまかったわけでもない。
集中力も。
想像力も普通。
特別なことは何一つない。
それでも、こうやって陶芸の道に進むことができた。
こうやって、人に教える人間になれた。
努力する方向を間違えんかったら、なりたいもんになれるで。
こう語る武志の言葉には、竜也を指導する掛井の姿も入ります。なんやこの、不良更生物語路線は。泣き虫先生ならぬ普通先生によるスクールウォーズか。
喜美子と照子、どうして教育に差がついたのでしょう?
慢心、環境の違い……色々考えられますけど、これはうまいと思うんですよ。
子どもが不良になると、すぐ親の責任だなんだかんだ言われる。喜美子だったら、片親であるだけに袋叩きにされかねない。
けれども、裕福で、両親が揃っている。そんな竜也でもあかんもんはあかん。そう示す本作は、偏見をときほぐす技巧があって惚れてまう。
「ええ先生やな」
喜美子はしみじみとそう言います。
「ええ先生や、普通のええ先生や」
武志がそう返すのでした。
武志は自分の足で歩いていきたいと、翌週から部屋を借りました。
喜美子は、再び一人になりました。
するとそこへ、ヒールの音を響かせて、サングラス姿の女性が訪ねてくるのでした。
普通の人にはなれない、孤高の悲しみ
成功したのに、どこか悲しみや孤独も感じる。そんな喜美子の日々。
パーっと成功させろ、派手に盛り上げろ。そんな声もあるかもしれませんが、描きたいのはそういうことではないと思うのです。
武志はキッパリと、母との決別を宣言している。
別居もそうですが、細かいセリフもそうでして。
釉薬を学ぶこと。
それに、恩師を「普通の人」だと何度も言うところに、その決別を感じてしまった。
思えば大阪で、武志が手にした風船は赤ではなくて黄色でした。
喜美子がカケラを得た道も、武志は途中で引き返してしまった。
武志は、和食器セットに憧れていた、そういう父親に似ている。
母の苦労や努力を知っているからこそ、自分はそうならなくてええと思っていると感じるのです。
でも、それって喜美子にはどうなのか?
最愛の八郎とも、武志とも、「別」だと言われてしまう。
喜美子は穴窯を継がせないとキッパリ言ったものの、本心はわかりません。心の底から悲しい気持ちを、抑制するから。
教える側になったという自覚があるのに、弟子もいなければ、我が子もついてこないって、圧倒的な孤独を感じてつらいもんがありました。
ジョーは我が子に言いました。
好きなことをやって食っていけるのは限られた人で、それはすごいことだと。喜美子はそこまで到達した。
それはとてつもなく孤独で、理解もされない高みなのだと本作は語っているようです。
「セレブだ、クリエイターだ、ウホウホ〜!」と、バブリーで浮かれ調子、軽薄な世界観とは明確な違いがあって、心惹かれるのです。
もしかしたら、喜美子のそういう姿勢が「気取っている」と、ムカついてたまらな人もおるかもしれません。
けれども、これもリアリズムやで。
そういう孤高の世界を破るように、女性がやってくるところもええ。
「寂しいんやろ? ほな恋をしよう!」
そういうゲスな話はもうええのです。
『なつぞら』の泰樹ととよには、恋愛感情を挟まない男女という、そういう人間関係の新機軸を見ました。
本作は、シスターフッドまで到達しそうで見逃せんわ!
あと、細かいところですが才能に「集中力」が入っている。三津も「集中力がない」とぼやいておりましたっけ。
戸田恵梨香さんは、過剰なまでに集中する演技が抜群にうまい。
「集中力すること」で、持っている力を最大限に発揮できると、NHKは認識しているようです。
『麒麟がくる』の、織田信長を演じる染谷将太さんに期待をしているのは、ここです。
『なつぞら』の神っちで、過剰集中をきっちりとこなしておりました。信長も集中力があって、かつ、どこか寂しい人物になるのでしょう。
喜美子「もっと火ぃ焚くんや!」
八郎「もうついていけへん……」
→離婚
信長「もっと天下燃やす!」
光秀「……こんな麒麟は駄目だ……」
→「本能寺の変」
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
スカーレット/公式サイト
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