スカーレット111話あらすじ感想(2/12)圧倒的孤独感

実家に戻った武志。

段ボールを開くと中から「オールガールズTV」やドラマのビデオが出てきます。

大輔と学とはしゃいでおりますが、デッキがないってよ。この年代あるあるやな。

映像配信、VODが盛り上がる昨今。その風潮に「ぬくもりがないわなぁ……」みたいな声があるわけです。

それはちゃうでしょ。ビデオをデッキに入れる瞬間のワクワク感がないから物足りないというのは、武志たちのような青春期を送った補正ありきの勘違いでは? 世の中、アップデートは至るところにある。ありがたいことですわ……。

ここで喜美子がお盆を手にして、こう言います。

「おはぎできたで」

「うまい、めっちゃうまいなこれ!」

「うまいか」

「ほんまにおいしい!」

「ゆっくり食べや」

そう見守る喜美子。かつて圭介に作った大久保直伝の味です。
何気なく食べていたあのお菓子にも、こういうお母ちゃんの思い出があったのかもしれないと思うと、たまらないものがあるこの作品ですね。

母子酒

仏壇に手を合わせる武志。喜美子はいつまで荷物ここに置いてんの、早う持って行きと言います。

武志はちゃんと合掌する。ええ子になって、こういうディテールがないと、礼儀正しさって伝わりにくい。こういう流れをダサいと省いて、しょうもねえギャグをふりまけば斬新だと勘違いするような風潮は、2020年代には逆に古臭くなると思っとった方がよさそうです。

ここで武志が「あかまつ」に行こうと喜美子を誘う。もうカレーを作ってるで、と戸惑うあたりが生々しいですね。帰ってきてから、そして明日食べればええと返す。

かくして「あかまつ」のカウンターへ。もう、この時点で胸が詰まる視聴者さんもおるやろなぁ。

個人経営の居酒屋も今はかなり減ったでしょうか。「あかまつ」のような店が取り壊され、その閉店後、チェーン店になっていたりすると寂しさがあるものです。ついでに言うと、この「あかまつ」の大将はいつもいい味だし、料理はめっちゃおいしそう。

喜美子は「あんまり飲めへん」と言います。二人で飲むのは初めてだってよ。成人式にも帰ってきいひんかったと言うと、あんなんただの集まりやと武志は返します。

すごいな! 母子酒というのも、画期的な流れだと思います。

喜美子は我が子の酒量、誘われたら飲むことを確認中。その上で、おじいちゃんを覚えているかと聞きます。

鼻をつぶし「うー!」と声を上げる武志。

覚えているのか!と驚く喜美子に、百合子叔母ちゃんに聞いたと返します。まぁ、あの年齢ならそうなるかな。

このへんも細かい。
小学生の時、父のラーメン製造を手伝いながら、覚えていなかった昨年には不信感しかなかったものです。まぁ、提供された企業神話に破綻があったから、しゃあない……わけないやろ。

それはさておき、喜美子はこう言います。

「卒業おめでとうやな」

考えてみれば、浪人なし、留年なし。おめでたいことです。親孝行ですから、そこはきっちり考えていたのでしょう。武志の孝行息子ぶりに、罪悪感を覚える視聴者おるやろなぁ。そういう人には昨年のアレが都合のええ話なんよ。

喜美子って、ニコニコしているお母ちゃんとはちょっと違う。マツとは違いますので、むしろジョーのようなぶっきらぼうな態度を見せます。そのうえで、こうだ。

「ほんでなんや、こんなふうに呼び出して」

武志には反省がある。おばあちゃんが亡くなった時しか帰ってきいひんかった。三回忌も課題提出に追われて、話できんかった。

なんの話や。喜美子が促すと、武志が話し始めます。

お母ちゃん、学校行きたかったんやろ。中卒で大阪で働いてきた。女中をして、お金貯めて、ほんまは学校行きたかったんやろ。

そんな母に突如宣言するように……。

「行くで!」

擬似体験や。連れてったる。俺がお母ちゃんのぶんまで楽しんできた。学生生活を今から話して聞かせる。

学生になった気分でよう聞けよ。そう入学式から語り出そうとすると、すかさず「そこからか!」と喜美子が突っ込む。

武志の学生生活レビューが始まりました。

桜の木の下を歩いていくと、サークル、新歓コンパの勧誘がある。怖い先輩、おもしろい同級生。

陶磁器専攻科。階段あがっていくと教室があって、秋には金木犀の香りがする。

掛井先生から釉薬の専門知識、伝統技法も学んだ。研修いうて、陶磁器の工場見学に行った。ものづくりの心を叩き込まれた。

著名芸術家の集中講義もあった。ジョージ富士川先生も特別講義できた。

皿を作るのを学んだ。

「すごいやん。何学んだ?」

喜美子は淡々と聞いています。

喜美子という人は、戸田恵梨香さんあっての人物だと思える。低い声で、淡々と聞いている。

「まぁ〜そうなのぉ〜あらぁ〜」

そんな女性的な相槌を打たない。そういう喜美子がいる。座っているだけでそう思えるほど。

けれども、ああいう夜のお店お姉ちゃん的な相槌が自然体だと誤解していると、

「こんなんありえへん! なんやこの女!」

ってなるかもしれへんね。

喜んでいるのか、そうでないのか。出す時はパーっと出す。そうでないと静か。

火山のような人物です。

夢で学べたら

その夜、喜美子は夢を見ました。学生になった夢です。

「サニー」でセーラー服を着て勉強。

中学ではなく、照子と信作の高校の制服を着ているのです。

「試験の範囲広すぎるわぁ。どっから手ぇつけえや」

そうぼやく照子。喜美子は微笑み、こう言うのです。

「試験勉強かぁ。うれしい」

「うちもうれしい」

「うん」

照子と信作もこれには同意しています。

喜美子は勉強が好き。信楽に来た時、大阪で習ってこなかった漢字が読めずにいたのに、あっという間に覚えました。

中学では成績優秀でした。

家のことがあるのに、成績優秀で、絵で金賞をとって――そんな喜美子に大学のことを話しても、想像できない。できるのは、せいぜい行きたかった高校のこと。

微笑ましいようで、悲しかった。

どれだけ喜美子のような人がいたんでしょうね。

女だから、貧しいから、学べなくて夢で見るしかなかった人たち。そういう女性の肩を叩き、「あなたの気持ちはわかる!」と語りかけるようで。

彼女らを「低学歴のおばちゃん」と小馬鹿にするような世の中に、「そんなんちゃうで!」と反論するようで。

本作は、朝ドラを一段高いところへ押し上げる、そういう優しさを感じます。

そのあと、喜美子は縁側でジョージ富士川と話しています。

「うち、先生が特別講師をしている美術の学校に通います」

「川原さんはこっち側の人間や。教わるより教える側の人間や。せやから……サインちょうだい!」

そう言われて、喜美子の目が覚めるのでした。

穴窯は喜美子のもの

穴窯で作品を取り出す喜美子。そんな母に、武志は掛井の話ばかりをしているようです。

穴窯と向き合う喜美子は、腰がちょっと痛そうだ。なんだかだるそう。戸田恵梨香さんの演技が明らかに違う。柔道で「とやあ〜!」していた動きとも、火まつりの時とも、あの穴窯成功の時とも違う。

この加齢演技がすごいなぁ。『なつぞら』でも素晴らしいものがありました。が、あれは主演の親や祖父母世代。本作は時間軸が長いぶん、主演がものすごく頑張らないといけないのです。

武志は、掛井先生は美大から信楽窯業研究所にうつったと語ります。

掛井武蔵丸先生――なんやその、力士のような名前は……と、注目はそこでなく。武志は恩師を追いかけて、釉薬のことを学ぶべく、信楽まで来たのです。

「釉薬のこと、もっと学びたいねん」

これもなぁ……掛井が大事なことはわかった。けれども、釉薬の知識を活用する陶芸家といえば、喜美子ではなくて八郎ではありませんか。

陶芸家が両親の子。同居する母よりも、父を受け継いだ。性格的にもそういうところがある。そんな武志なのです。

「せやから、お母ちゃんの穴窯継ぐつもりはない。穴窯やらんで、俺は。ごめんな」

ここで喜美子は腰に手を当てて、こう来ました。

「アホ! 誰が穴窯継げ頼んだ」

「ほやけど俺がやらんかったらどうなるん? お母ちゃんでおしまいにするん?」

「そんなん武志が考えることやない。家庭菜園穴窯でもやるわ。ほっといて」

「ほなええんやな。こっからはお母ちゃんやのうて掛井先生に……」

「わかったからしっかりがんばりぃ!」

おう、おう。そう言い合い、親子のやりとりは終わります。

ええんちゃうか。
こういうやりとりが見たかった。

親と同じ道に子が進むことは、悪いとは思わない。けれども、さんざん親の都合に振り回された喜美子ならではの愛がそこにはある。

手放す愛もある。

潔いと思う。
家族の形はそれぞれ。
不透明な同族経営だの、二世俳優だの。ヒロインが会社の我が子に電話しニタニタしている場面なんて、何がなんだかわからんかったもんで。そういうものを露骨に推す。役柄も、演じる側の都合も重なる昨年は、本当にウンザリさせられたものでした。

ギザギザハートの信楽焼

信楽窯業研究所――。

喜美子が包みを持ってやって来ました。掛井は研修室の奥にいるってよ。

レトロな昭和の建物を、新築感を出して見せる。NHK大阪、大道具スタッフの心意気を見たで! 丸熊のころとは違うもんね。

この研究所は、地元の産業を支援するものです。

・技術支援

・研究開発

・人材育成

ここの研究科に武志は一年間通います。

「行きますよ、竜也くん」

と、そこには先客が……。フォーマルな格好をした女性がおりまして……。

「照子!」
※続きは次ページへ

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