近藤は百合子の言葉に驚きます。
「文集からは、素敵な家族の姿しか見えへんかったで」
百合子は、高校行けたのは喜美子姉ちゃんのおかげやと笑います。
そう、喜美子の熱い賃金交渉がありましたっけ。
あの頃の敏春は、やる気があって、柔軟性がある若社長で、えらいカッコ良かったわ。バナナをスーツに入れるなんて、とても想像できんかったわ。今もええけどな。
百合子は「結局、家庭科の先生になれへんかったけどな」と締め括ります。
けれども、そのことは無駄になってない。ここのカレーは絶品、桜と桃の服も手作りやと褒められます。
感慨深いものがある。
大久保以来、主に女性たちが担ってきたシャドウワークに、この作品はきっちりと光を当ててくれます。
あまりに当たり前になった、あの服、あの食事、あの綺麗な家、なんもかんも、お母ちゃんあってのことやったんやなぁ……そう思わせるだけでも、本作には深い意義があるんやで!
ここで近藤は、同窓会のあの服も手作りかと言い出す。
あれはお母さんのお下がりを手直ししただけ。そう返されて、うっとりしている。
「きれいやったでえ……」
「はっ! あっ、あれ、あれ、お前、百合子のこと好きやったんか!」
信作がめっちゃ動揺しとる。照子はしらけます。
「同じこと思ってもな、口に出してへんで」
「今の感じは、好きやったろ!」
「……好きでした」
「ほ、ほな今は! 今はどう思ってんねん!」
動揺する信作。
戸惑う近藤。
いたたまれない顔の百合子。
不倫回避か?
そう言われた疑念をどうしたいのか、今週でまで既婚者三角関係に突っ込む本作。
答えは、明日を待て!!
「不倫別に避けてへんよ!」「あかん!」
今週のスピンオフのおかげか。ここぞとばかり本作にモヤモヤを感じている視聴者向けネットニュースが花盛りではあります。リンクは貼らんけどな。
「このようなことを、ネット層視聴者は受け入れられないのでなないか? そう思う」みたいなふわ〜っとした誘導か。
あるいは「また不倫を避けた根性なし」と蒸し返す、そういう論調か。
でも、本作って挑発的ですから。
不倫を避けたとはいわれます。それでいて、今朝の信作は特定視聴者層に豪速球デッドボールをぶん投げることをまたやらかしたわけではないですか。
ちや子の元職場が載せていたようなエロエロ。ああいうムフフな(※死語)不倫は、
「なんや会社のOLが、ええケツをタイトスカートで見せてきおって……(※OL側は制服だから履いているだけです)」
みたいな、あくまでおっさん目線、主体のファンタジーやないですか。
それが、妻の横にハイスペ同窓生が現れる。最低最悪のシチュエーションですよ!
思えば忠信は【人妻のよろめき事件】を起こしとった。なんや無駄に、父のそういうところが遺伝したみたいで、信作が哀れではある……。
「隠キャ」にも生きる道はあんねん
本作のスピンオフには、そんなおっちゃんデッドボールHELLだけではもちろんなくて。「働き方改革」だけでもなくて。
意義はあると思います。喜美子と八郎に対する、照子と敏春もそうですけれども。
今日は、近藤と信作と対比がおもろかった。
この二人って、乙女ゲーや少女漫画の男性キャラなら、どっちがええと思います? 顔グラはどちらも最高としまして。
※こういうのな
近藤ちゃうか?
近藤は、同窓会の声をかければ北海道からもやってくるほど、明るくて、スポーツもできる。
ユーモアセンスもあって、サバサバしていて、周囲への敬意もしっかりある。
ハイスペ男子やん!
信作は、同窓会は呼ばれへんとしても納得。缶ポックリ時代から隠キャでな。
スポーツ? できひんて……。
ユーモアセンスもズレとる。ズレとるどころか、相手をしらけさせるか、怒らせる。いちいち失礼。周囲に愛も敬意もあるけれど、やっぱりズレとってな。
ロースペ男子やんか!
ひとでなしゆえ「13人の女」というのも納得できるわけでして。なんで百合子は信作を選んだのかということにもなる。
そもそも、本作スタッフは何がしたいのか?
滋賀県枠のイケメンで、身体能力も高い。
妙なことに気づきませんか?
『なつぞら』の中川大志さんが演じた、イッキュウさん。牛糞でいきなり転ぶほどすっとろい。
そして八郎にせよ、この信作にせよ。イケメンで、運動能力を活かせる。むしろそのほうがハイスペ男子で王子様になれる。そういう若手俳優に、なんだかすっとろい役をやらせる朝ドラチーム。
これにはきっと、深い意図があると思うんだなぁ。
喜美子、照子、信作が腐れ縁で社交的に残念な部類に入るのも、おもしろいと思っております。
決して友達がいないわけではない。けれども、少ないことは確かですし、そう明言されています。
近年の朝ドラでは、例外はいたとはいえ、だいたい誰からも愛されるヒロインへ、上方修正されました。
モデルが気難しくて、一人きりでこもって勉強するタイプでも、ドラマは明るくてかわいらしくて愛される、社交的なタイプにされてしまう。もちろん例外はありましたけれども。
そういうところに不信感を抱いていた朝ドラに、してやられたのは、やっぱり未だにしつこく嫌われている『半分、青い。』の鈴愛です。
鈴愛は明確に、好き嫌いが分かれるタイプ。だからこそ信じられると思っていたら、喜美子も強烈でした。
そしてこういう人物像は、ドラマレビューをするとなると、実はわかりにくい像になります。
ドラマ好き。映画好き。漫画やアニメ好き。推しの話をしている自分は、暗くてオタクでマニアック。そういう思い込みはあると思うのですけれども。
せやろか?
ここが重大だと思うのです。
人間とは、大半が外交的にできております。あるべき人間像は、外交的で社交的な、陽キャがよいとされてきている。あるべきコミニケーションやリーダー像を描くような本やノウハウ、ネットニュースは、だいたいこの論点からスタートします。
本作は、五輪や万博をまっとうに描かず、不倫のようにわかりやすくしろと言われる。こういうのは典型的な「陽キャ」の考え方だとは思います。
運動会が嫌で、一人で弁当を食べる。食堂でオリンピックニュースが始まるだけで立ち去る。そういう人間にとっては、そんなイベントはどうでもええ記憶なのです。信作のように、アリの観察しとったほうが落ち着くのよ。
そういう「隠キャ」――少数の人と人間関係を築き、自室で考えているほうがよい結果につながる人物の目線で本作は展開していると感じるのです。
本作が本当に酷くて、基本的な時代考証や設定矛盾、間違った演技をさせているのか?
それとも、見る側が理解できないから酷いと思うのか?
そこを、考えんとあかんのとちゃいまっか。
大半の人間は、未知の改革よりも、既知の保守が心地よいものです。
今回のスピンオフは、向かい風を浴びることは想定しての挑戦だと思う。
そこを踏まえた上で、あきらかな間違いをすれば突っ込んでゆくけれども、意図をじっくりと考えて、そこに何かを見出せれば見守るもんやと、そういう気持ちで見たいと思います。
なんだかんだで、今週もおもろい。
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
スカーレット/公式サイト
コメントを残す