楡野鈴愛は、岐阜県東美濃に暮らすマイペースな高校3年生。
卒業後の進路で悩む彼女は、漫画家を目指して上京すべく、親を説得。
やっと賛成してもらえました。
夢への一歩が、大きく動き出します。
母の涙を見て、初めて故郷の存在を意識する
スーツを着て、内定を断りに行く準備をしている晴と仙吉。
おじいちゃん、ダンディなスーツ姿が決まっています。
ところが鈴愛は、オーバーオール姿です。
晴が着替えるよう促すと、悩んだ顔で
「農協に行ってもいいよ」
と言い出します。
母の涙を見て、考えてしまったそうです。夢のことだけ考えていて、故郷を離れることを考えていなかったと。
「私もここにいたいかもしれん」
「なに、親子漫才やってんだよ。東京も農協も似ているだろ」
そう突っ込む宇太郎でした。親の反応が描き分けできています。
母親の晴は吹っ切れたように娘を励まします。
「漫画は競争でなくて、夢の世界なんやろ。あんたにはそういうところがある。お母ちゃんが見えていなかったものを見つけてくれる。あんたの夢が漫画になって、たくさんのひとが一緒に見るのかもしれない。鈴愛の漫画がつくし食堂の本棚に並ぶかもね」
思い出を通して、親だからこそわかる我が子の才能を語るのです。
子役時代の場面まで活き活きと蘇ってきますね。
「あれは口からでまかせだ」
時は12月。宇太郎は娘のために本棚を作っています。
今は本棚というと、家具量販店や通販で組み立て式を買ってしまうものです。
それを日曜大工で作る、いい親ですね。
「ともしび」では、「梟会」が鈴愛の上京祝い。ブッチャーも、京都の舞鶴学院大に進学が決まったそうです。
あとは律が京大に合格すればよいのですが、そう簡単には済みそうにもないわけで……。
鈴愛の話を聞いた律は、
「鈴愛は悲しいの長持ちせんもんな」
と言います。誰よりも鈴愛を知る、そんな口調です。
「耳のこと、落ちるとわかって履歴書に書いたんだって? それで晴さんが勇気に感激したとか」
「あれは口からでまかせだ」
えぇ、そうなのぉ!?
あの感動の会話もそうだったのか、とビックリです。
一方、律は「やっぱりそうだと思った」と語ります。
耳で落とされることすら想定していなかったらしい鈴愛。
面接で一度聞かれたときはそのせいで落ちるかな、と思ったそうですが。
「鈴愛の世界に、悪意も差別もない」
そう言われてしまいます。
だからこそ晴は心配なんでしょうね。悪意と差別がある世界に出て行くことが。
二人の間に何かが起きるなら今しかない!
「俺は心配だぞ、岐阜の山猿が東京で大丈夫か。晴さんなら、ゴアの力で止めてくれると思ったんだけどな」
そう言ってしまう律。
やっぱり鈴愛が東京に行くのが寂しいんだな。
このあと「ともしび」にはブッチャーとナオだけが残されました。
ナオは、二人の間に何かが起きるなら今、と言い切ります。
「春なのに〜お別れですか〜」
そう歌い出すナオ。
子供の頃から松田聖子ちゃんごっこをやっていたようにナオは今も昭和歌謡が好きなんですね。
「あれ、榊原よしえだっけ? 柏原芳恵だっけ?」(※後者が正解)
と、これもさりげなく、あるあるネタを出した後でユーミンも、歌います。
ちょっと外しつつ熱唱する姿に、「カラオケ入れようか?」とまさこさんも思わず突っ込み。
トボけた感じが可愛いです。
ドキドキするのは何だか気持ち悪い
外は雨でした。
鈴愛は警報が出た土砂降りの日に、外に出て雨音を聞いたことがあるそうです。
それでも左側は何も聞こえなかったのでした。
「律、左側に雨が降るってどんなやったっけ。忘れてもうた」
「うーん、傘に雨が当たる音はあんまり綺麗な音じゃないから。右側だけでいいんじゃない」
「律は、エジソンが取れなかったノーベル賞を取るといっとった。雨の音が綺麗に聞こえる傘を作って」
「そうだな」
他愛のない会話をしながら歩いていると、鈴愛の左側を通った車が泥を跳ねていきます。
律はパーカーで、鈴愛の服を拭き取りました。
「いいんだ、適当なのを着てきたから」
「私は可愛いのを着て来た。みんなに会えるの、久しぶりだから」
「気づいてた」
距離が詰まる二人。ときめく鈴愛。
「今、帰ったら洗う」
そう言って距離を置く鈴愛です。
ドキドキしとった、でもこの気持ちはないことにした、と鈴愛はナレーションで語ります。
心にしまって、忘れようと。
気持ち悪い、似合わない、私たちは、だって……。
んもおおおおおおおお〜っ、焦らしてくれますなっ!
その夜、鈴愛は天井の竜の模様を眺めながら、この竜ともお別れなのか、としんみりするのでした。
今日のマトメ「晴よりも鈴愛のことをわかってる」
「じれったあああああああああいっ!!」
テレビの前で思わず悶絶しそうなじれったさ。
10代男女のじれったい恋物語なんて、それこそ溢れているこの時代。
そんな中でも、手練れ、マイスターの脚本はさすが格が違うぜ、参ったぜ、と思いましたね。
昨日まで、母娘の絆を描いて来て、今日は律との仲です。
会話の中で、晴すら気づかなかった
「鈴愛は耳が聞こえないから落ちると意識するわけがない=晴が感動した勇気はでまかせ」
と指摘しているのもなかなか……母よりも、誰よりも、鈴愛を理解しているのが律ということですから。
こんなに鈴愛を理解してくれて、パーカーで泥をふきとってくれて、オシャレしたら気づく。
彼がかけがえのない存在だと理解するためには、別れが必要なんでしょうね。
近すぎて、そばにいるの当たり前だからこそ、「気持ち悪い」とすら思ってしまう鈴愛。
いったん距離が開いてしまうことで、二人の関係はどうなるのでしょうか。
律も気持ちは複雑でしょう。
自分が漫画を貸したことでこうなるなんて、まさか想像すらしていなかったことでしょう。
鈴愛の気持ちはナレーションで語りながら、律はそうしないあたりに、焦らしのテクニックを感じます。流石です。
著:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
NHK公式サイト
いつも楽しみに読ませていただいてます。
個人的にこの話で一番吹いたのはブッチャーの進学先が舞鶴なことでした。
舞鶴は京都府は京都府でも文字通り一番端の県境、大阪とかの方がまだ近いという
・・・嗚呼、ブッチャー・・・君って奴は・・・君って奴は・・・( ^ω^)