半分、青い。44話 感想あらすじ視聴率(5/22)浅井正人は火野正平さん

バブルも末の1990年(平成2年)。

岐阜県から上京して漫画家・秋風羽織に弟子入りした楡野鈴愛ですが、ネームを紛失してあえなくクビに。
失意のまま実家に帰宅すると、なんと羽織が追いかけて来ます。

ネーム紛失はただの彼の勘違いだったのです。

※ネームとは、鉛筆で荒く書いた漫画の構想(下地)。一般的には下書きみたいなもので、非常に大切なものでもあります

【44話の視聴率は20.9%でした】

 

喜ぶ和子さん 微笑む正人

律は正人と突然萩尾家にやってきます。

和子にはサプライズ。
この驚く和子さんがどちゃくそかわいいんだよなぁ。

ここで正人が、ふっという柔らかい笑みで和子さんを見ているわけですよ。このたらしめが。

正人は別に友人のお母さんにいやらしい気持ちを抱いてはいないんでしょうが、あのあとの、
「お母さん、泣いていたんじゃないの?」
あたりの言い方からしても、かわいい女性だとは思っていた、そういう感じがあるのです。

律のようにド直球なイケメンじゃなくてもモテる。生来の気質ですね。

萩尾家では、来訪の理由を律が話しています。

冤罪だった鈴愛ネーム紛失事件について説明。
羽織は律をグリーン車でついてくるように言ったのですが、普通車でもいいから正人も行きたいと言い出したんだとか。

この人懐っこくて、自分が頼めばどうにでもなるよね、とあのゆるふわ感で頼んでくるのが正人という男の凄みですね。
絶対に姉妹、それも姉がいそうなタイプ。
草太もそうなんですけど、姉妹がいる男にありがちな優しさが出ているっちゅうか。

和子と弥一は息子の帰省に浮かれて、ご近所のたつみ寿司やら特上を取ると言いだします。
このへんが実に、田舎のご両親ぽいと思います。

海のない岐阜県です。川魚料理が、むしろ名物なんでしょう。

そんな内陸部の田舎の、おそらく近所でそれしかない寿司屋さんです。味は当然トップクラスとは違う。東京で羽織が食べるような、築地直送のものとは、鮮度も味も比べものにならないでしょう。

それでもそこには、愛情とおもてなしの気分がトッピングされているのです。

 

神妙な面持ちの羽織をカメラでパシャッ!

一方の楡野家では……。

パジャマ姿のまま、唖然としている鈴愛です。
赤いパジャマ、そして寝ていた設定だから、ちょっとだけくしゅっとしているお団子ヘアがどちゃくそかわいいです。ヘアメイクさん、よいお仕事ですなぁ。

鈴愛は、頭を下げる秋風羽織に対し、突如取り出したカメラでパシャリ。

 

「こんなこと二度とないので、記念に」
あーもう、鈴愛ちゃんのこういうところ大好きよ。

「帰ってきて欲しいんです、かけあみ素晴らしかったです」
豊川悦司さんのセクシーハスキーボイスによる全力土下座。

彼の声には悲哀が似合う。
傲慢な時はきわめて傲慢に、卑屈なときはきわめて卑屈になる、ミラクルボイスだとおもいます。

「へっ、そう! ではひとつ、お願いがあります。私には親がつけてくれた楡野鈴愛という立派な名前があります」

この、脚を滑らせ水に落ちた師匠を、全力で打ちにいく鈴愛のファイティングスタイル見事っすなぁ。惚れてまう。

「……知っています」
「ですから、岐阜の猿と呼ぶのは、金輪際やめてください!」
「岐阜の猿?」
「戻ってもまたメシアシですか!」

ざわつきはじめる宇太郎と仙吉。
鈴愛ってそこまで読書量が多いタイプには思えないのですが、ボギャブラリーはちょっと偏りがあってかつ豊富。
具体的にいうと、時代劇にでてきそうな言い回しを少女時代からちょくちょくしています。

このへんは彼女の生育環境にあって、仙吉さんが大の時代劇ファンなんですね。
律のセンター試験のときも、新春時代劇のせいで貧血になりましたし。

だから昨日の時代劇調の一家土下座になって、そして今日の鈴愛も、芝居ががった口上をしていると。

こういう、見えにくい氷山の下の方まで練っている人物設定が、本作のキモであり、深みにつながっていると思います。
見ている方は、表面的に出てこない人物の背景や性格を考察するのが面白くて、やめられなくなる。

朝ドラだから15分間お茶の間を明るくするのがもちろん一番大切なんですけど、背景をじっくり考えたくなる、そういうSNS向きの部分もあると思います。

 

「帰りはグリーン車で! あ、領収書は切ってね」

閑話休題。
羽織が必死に謝罪しているところに、今までの悪辣な所業を親御さんの前でバラされるというヘヴィーな展開。
さしもの羽織も冷や汗が流れそうな状況でして。

菱本のいう鈴愛の持つパワーは、こういうことをやってしまうところなのでしょう。
巨匠を揺さぶる人は貴重なんですよね。

「もちろんです、特待生として受け入れる所存です」
ここで草太、思わず突っ込み。

「姉ちゃん。調子乗りすぎ」
「でも私はもう人生が終わったと思った。マハジャロで踊りながら、ここは天国か地獄かと思った!」
「えっ、姉ちゃんマハジャロ行ったの、すげえ!」
おっ、草太もやっぱりああいうの憧れているんだね。

そこを晴が、クビにならずに済むということですね、と助け舟を出した格好になります。

おもむろに、優美な仕草で封筒を差し出す羽織。
「帰りはグリーン車で! あ、領収書は切ってね」

この台詞も、そこはかとないおかしみがあります。
太っ腹なようで、青色申告はきっちりするから領収書っていう、豪胆と繊細の二面性がこの一言にあって面白い。

羽織の帰り際、晴が「蕗味噌」という、これまた田舎らしいお土産を渡します。たぶん自家製かな。

これも田舎あるあるなんですけど、山菜や山菜加工品を都会の人に渡すパターン……田舎の人は山菜採りがいかに大変か(熊に襲われたり、蛇に出会ったり、虫に刺されたり、遭難しかけたりする。しかも採れる場所や季節が限られている、等)、わかっているわけです。

そこをふまえて、珍しいだろうし、喜ぶだろうと渡すんですけれども……。
都会の人はグルメでもあければそこがちょっとわからなくて、そのへんが伝わらなかったりするんですな。

なんだか変な菜っ葉出しやがって、とか思ったりしてしまう。そういう切なさをちょっと思い出しました。

「今度はゆっくりしていってください」
仙吉がそう声をかけます。

羽織はしみじみと噛みしめるように、鈴愛が愛されているんですな、とつぶやきます。
「ここはまるで桃源郷……」
そう絶賛する羽織でした。どこまで本気でしょうか。

「先生! 来てくれてありがとう!」
そう声を掛ける鈴愛に、羽織は振り向かないまま指パッチンをするのでした。

「あ、私パジャマやった!」
ここで鈴愛、自分の服装にやっと気づきます。

 

お前ではなく、お前の人生を……

萩尾家では、律が和子に処方された薬に気づきました。
風呂から上がって来た弥一に、こう言いかけます。

「お父さん、お母さん……」
大学生になっても、親父とおふくろではなく、お父さんとお母さんと呼びかけるところに、律の育ちの良さがあると思います。

弥一は和子の「空の巣症候群」について説明。
でも、今はボクシングをしていて発散できているから心配するなと。

「お父さんがついとる。お母さんは、お前の人生を愛している」

この台詞ですね。

「お前を愛している」
ではなくて、あえて、
「お前の人生を愛している」
と、4文字足すあたりが職人芸ですよね。

小さなニュアンスですけれども、息子が選ぶ決断や生き方をまるごと愛している、という意味が入って来ますから。
こういう小さなニュアンスにまで神経を使っているのがジンワリと視聴者の心に広がって染み渡るのでしょう。

 

鈴愛と付き合う――考えたことがないわけじゃない

律と正人は、木曽川で遊び始めました。

結構子供ぽい感じで、はしゃぐ二人。
正人はここで、鈴愛とつきあわないのと聞いて来ます。

「そういうんじゃない。考えたことがないわけじゃないけど」

おっ、おお〜、考えたことあるんだあ、ニヤニヤ(・∀・)となるセリフですね。
ここで全否定しないで余白を残すのが焦らしテクです。

「これが一番いいんだ」

たぶん律の臆病さなんでしょう。
受験票の再発行を頭の隅でわかっていたかもしれないのに、センター試験をパスしたあたりもこれです。
ダメだとつきつけられるくらいなら、挑戦できない心理。

「それに俺、好きな人いるんだ」
正人が盛り上がる中、弓道部の美少女・伊藤清について話す律でした。

ここで鈴愛の漫画『神様のメモ』のあらすじが説明されたことが生きて来ます。

律と清は、漫画のように55才まで待たずに、再会すると。
これもなかなかおもしろい点で、鈴愛の深層心理としては「律と清が再会して欲しくない、それが作品に出てしまったのかな」と憶測できるのです。

 

帰ってくる場所があってよかった

鈴愛はいち早く東京へ戻ることに。
こうなった以上、周囲のライバルに対しても遅れるわけにはいかないのです。

店の前で晴はおこづかいを渡します。
棚の裏にもへそくりがあったのに、と固辞する鈴愛に、押し付けるように渡す母心。

「あんた、ちゃんと食べとる? カップ麺ばかりではあかんよ、肉や魚とか食べて」
これぞ母心というセリフが続きます。

「わかった。いっぱいお金稼いで、お母さんを美味しい料理に連れてったる!」
鈴愛はそう返します。

「お母さん、フランス料理食べてみたいな。テーブルマナー、勉強しとくわ」
いいねえ、母娘って感じだねえ。

「クビになったと思ってた。ああ、あかんって思ってた。そやけど大丈夫やった! また頑張る! せやけど、帰ってくる場所があってよかったって今回思った。電車で行くね」

そう立ち去ろうとする鈴愛を、晴がひきとめます。
そこまで娘が傷ついたのに、宝くじがあたったような気分であったと語る晴。

空から幸運が降って来た、鈴愛に会えた、と。

 

寝袋を持ち込み、怒涛のアシスタント生活スタート

母娘感動の別れのあとは、怒涛のアシスタント生活再開です。

鈴愛も、締め切りの時期は机の下で寝転がるようにりました。
彼女が持ち込んだ寝袋を、他の皆も真似するようになったのです。

編集さんによると、最近の事情は不明ながら、当時は寝袋持って会社に寝泊まりというのは出版系のオシゴトでは割と普通だったようで。校了前は三連泊とかあったそうです。

メシアシは廃止され、メイドコスチュームのお手伝いさんツインズが登場。
これまた見た目インパクト大きい人物が来ましたね。

そして鈴愛も本気のレクチャーを受け始めます。

クロッキーデッサンをすると考えた羽織。

モデル事務所を頼もうかと菱本が提案しますが。
「ブサイクだとテンションがさがる」
と、これまたバッサリ。

いつもの秋風ですね。

そこで『いいのがいる!』と言い出します。

電話を受けたのは律。
時給2000円というバブル時代にしても破格の条件に前のめり。ここで正人が「俺も紹介して」と言いだします。

また何か一波乱ありそうです。

※ちなみに1992年の時点で大手町にある人気居酒屋のバイト代が時給1,200円ぐらい。バブル崩壊の余波は、それから年を追う毎に影響が出て、大学生のバイト代もどんどん下がっていき、2~3年後には居酒屋1,000円でもかなり良い待遇だったとか

 

今日のマトメ「浅井正人は火野正平さん」

今日も朝からかみ応えがありました。幸先の良い一日です。

みどころは既にいっぱい書きましたが。ちゃっかり岐阜県まで来てしまった朝井正人くん。
今日突っ込むのは、キミに決めた!

朝井正人は火野正平さんに似ています。
一体何を言っているんだ、と思われるかもしれませんが、彼らは光属性のプレイボーイです。

美人と付き合うのがステータスだから、トロフィーだから、そんな思いは彼らにはない。
そういう見栄っ張りの連中は闇属性のプレイボーイ(今ポルノ女優で揉めているトランプ大統領あたりですね)。

それに対して、光属性の場合は、女性の姿を見ていると胸の奥から愛おしさがこみあげてくる。それを表に出してしまうわけです。
これは絶対、心に鎧をまとった萩尾律にはできないと。

光だろうが闇だろうが、女性にとっちゃたまったものではないでしょうけれども……。
本質的に人間大好き、その中でも女の子はともかく好き、っていう。
時には厄介な愛がいつも心の奥底から湧いてくるのが、正人タイプなのです。

こういう人は、ストライクゾーンの内側と外側で、態度を分けないのです。
「あっ、こいつブスだからどうでもええわ」
「なんだ、おばちゃんじゃないの」
ということを思わない。

それどころか、愛おしさすら感じてフフッとしてしまうタイプ。
正人の和子へのまなざしがそれでしたね。

普通、大学生なんて友達のお母さんはおばさんとしか思わないじゃないですか。
でも、正人フィルターを通すと、
「友達のお母さん、そしてかわいらしいひと」
になる。だから反射的に親切にしてしまうんですよ。

ちなみに火野正平さんがどんな女性にも大抵フレンドリーで、とても楽しそうで、容姿を貶めるような無神経なことを言わない姿は、『にっぽん横断 こころ旅』をご覧ください。

まさに本ドラマのBS放送(7:30~)の後に、火野正平さんが登場してまして、オール年代の女性に対して目を細め、親切にする姿が堪能できます(7:45~公式サイト)。

正人はまだ出たばっかりなのですが、我々視聴者が
『きっとこういう人物だろうなぁ』
と想像できるのは、脚本と演出と演技の三者が全て高いレベルでかみ合っているからなんですよね。

こいつ絶対モテモテやん、とうならされてしまう。
そしてこういう奴はおねだり上手で、水のように柔軟で、気がつけばちゃっかり隣にいるのです。

著:武者震之助
絵:小久ヒロ

【参考】
NHK公式サイト

 

3 Comments

roko

>「お母さん、泣いていたんじゃないの?」
あたりの言い方からもして、かわいい女性だとは思っていた、そういう感じがあるのです。

>都会の人はグルメでもあければそこがちょっとわからなくて、そのへんが伝わらなかったりするんですな。

ルナ

正人くん見ていると某漫画家さんの名言を思い出します
「女の子は猫と同じ
猫は存在するだけで無茶苦茶可愛い
その中でちょっぴり毛並みの良しあしがあるだけの話」
要約するとこんな感じ

いししのしし

いやー、本日の解説は特に深い!初めて律のアパート下で笛吹いたとき、正人がベランダから鈴愛に見せた微笑みもまさにそれですね。中村倫也さんもかなり楽しんで演技していそう。

自分も田舎の釣り堀に行くと、帰りに良くおばちゃんがふき味噌くれるんですよ。それほど美味しいものではないのだけど、地元の人にはそんな思い入れがあったのですね。

いつもありがとうございます。毎日楽しみにしています。

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