2008年(平成20年)、冬――。
映画監督の夢を捨てられない涼次と、その妻の鈴愛。二人の間にはまだ5歳の娘・花野ちゃんがいます。
監督の夢を諦めきれない涼次に、「死んでくれ」とまで吐き捨てた鈴愛ですが、夫婦関係は取り戻せるのか?
涼次の三人のオバも見守ります。
【第107話の視聴率は20.8%でした】
「私たちの時は過ぎた」
鈴愛がつい電話をかけてしまったのは萩尾家でした。
受話器を取ったのは、7歳になる律の子・翼くん。
緑色のチェックシャツにベストという格好が萩尾家のお坊ちゃまぽいですね。
知ってはいたけれど、いざ律の子と会話をして、少しばかりのショックを受ける鈴愛。
和子さんは不在で、特に伝言を残すこともありません。
この翼くんがねえ……祖父と父にそっくり。和子さんにも似ているかも。
まさに萩尾家の子です!
鈴愛でなくて視聴者として時の流れを感じるつーの。あの夏虫駅のプロポーズから、数年の時が経ち、鈴愛以外の女性との間に生まれた子供が、こんなに大きくなっている。
ひぃん、時の流れの残酷さに涙出ちゃいそう!!
受話器を置いた鈴愛は、娘の花野と会話して思います。
「私たちの時は過ぎた」
一瞬流れる笛の音で、萩尾家らしい服を着た律を呼び出す、幼い鈴愛の映像。
そう、そういう時間はもう過ぎてしまった。こんなん泣くわ!
翼くんの絵……やっぱり伝わらない
演者が交替しないのに、歳月が過ぎる朝ドラならではですよね。
永野芽郁さんは若い。鈴愛そのまま。
でもね、そのままじゃないの。彼女の人生は、時が流れているんです。
それなのに、あのころと寸分も変わらない恋心がまだある。それって残酷じゃあないですか。
弥一はそのころ萩尾一家の写真を現像中でした。
デジカメの時代、携帯電話もカメラ付きの時代。それでも銀塩で現像する味わいにこだわる弥一です。
ワカル気がするというか、弥一はそういう人だと思っていました。
でもね、そういうコダワリがかえって悲しい。
いくら銀塩で閉じ込めようと、人生は流れてゆくのです。
久々に出てきた萩尾律は若々しく美貌です。でも中身は翼のお父さんになっている。
そんな律と弥一は、翼の絵を見つめます。
電話相手の話し方から、翼くんが想像で描いた推定肖像画です。さすがに鈴愛と判定することはできん……もどかしい!
涼次の祖父は女の尻を追いかけてばかり
一方、最強の三オバは、甥っ子・涼次がクズになったことを悩んでいます。
実は、三オバの父上も帽子職人として「彼女こそミューズ!」を繰り返し、妻子に捨てられたそうです。
そういうモテ男のクソ部分、本作は逃げずに描くんで!
三オバ父上の写真、昭和なイケメンですが、これが今をときめく高橋一生さんの写真あたりだったら笑い死ぬところだったかもしれません。理由は、後述します。
大阪に嫁いで実家に戻った光江は、イケメン甥っ子を父のようなクズにしないため、我が子のように育てました。
ただ、まさか妹二人もそのまま家に居着くとは思わなかったそうで、三オバフォーメーションって偶然だったんですね……。
三オバは、甥っ子の色気を理解しとったんです。
で、甥っ子がそういう色っぽいクズにならんようにしてきた。
立派な芸術家でもクズではあかん。きっちり認識していた。
しかし、甥っ子・涼次ちゃんはミューズを追いかけた祖父のごとく職人級クズになりつつあるようです。
三オバの秘密もちょっとあかされてきたね。
雨の中、涼次と踊ったその瞬間から
そのクズ甥っ子の涼次ですが……。
元住吉祥平の家でこうつぶやきます。
「俺、人として間違っていますかね」
「む……多分涼次の人生は涼次のもの。そう決めたなら、俺は応援する。俺はお前の味方だ」
うぉい、このクズども!
花野を育てる鈴愛は、今、呆然と万華鏡のぞいているんだぞ!
しっかし、このクズコンビフォーメーションがまぶしくて何も言えねえ。しかも無駄に色っぽいんすわ。
そこへ、鈴愛登場です。
無駄にキリマンジャロをサーブする祥平がクズです。
いや、キリマンジャロですから歓迎しているのでしょう。少し生活に余裕は出ているハズなのに、未だ貧乏っぽさの抜けない風貌で、それでもコーヒーに無駄にコダワる芸術家ぽさとかが、トータルでクズい、そして生々しいんですよ。
鈴愛はお正月の挨拶をしつつ、涼次に向かって恋心を告白しました。
雨の中、涼次と踊った瞬間から、好きで好きでたまらず、今なお恋をしていると。
そして涼次に向かって、鈴愛は問いかけます。
「帰って来てくれるの?」
今日のマトメ「恋心は古びたのです」
まずは草太のカツ丼レシピ。
公式サイトに掲載されていたので、紹介させていただきます(画像をクリックすると開きます)。
これはおいしそうですね(゚A゚;)ゴクリ
料理は、おいしいはずです。
作ったばかりは特にね。
それは恋心も一緒。
今日は、朝ドラで描く恋心の残酷さを味わいました。
恋心があるから、鈴愛は萩尾家に電話した。そしてそこで電話に出た、幼い律そっくりの翼の声で、恋心の経年を知ったのです。
律は相変わらず若く美しく、鈴愛もそう。
それでも、恋心は古びたのです。
もっと深刻なのは、涼次への恋心ですよ。
涼次は色気、愛嬌、美貌がある。相手に恋をさせる名人です。祖父譲りですな。
しかし、こいつが恋をしているのは、元住吉祥平であり、監督としての可能性なんですよ。クズーッ!
秋風羽織の性的嗜好も読み取りにくく、ゲイかバイセクシャルの可能性もありそうな本作。
涼次も、性的嗜好は異性愛者かもしれないのですが、恋をする相手は男や地位かも?と思えてきます。
鈴愛と涼次に悲劇があるならば、二人の間に本物の恋心が芽生えなかったことかもしれません。
朝ドラヒロインだからって、完璧な相手に一分の隙もない恋をするわけじゃない――。
賛否両論の鈴愛発言「死んでくれ」が革新的なのは、まさにこのへんを衝いているからです。
<半分、青い。>視聴者真っ二つの大反響!“夢には家族邪魔”涼ちゃん派、“目を覚ませ”鈴愛派!!
「半分、青い。」ヒロインが言い放った「死んでくれ」に賛否の声、北川悦吏子は“神回予告” – ねとらぼ
でも……人間ってそんなものかも。
むしろ朝ドラにありがちな「恋心ゆえにヒロインに人生捧げる展開」が陳腐なだけかもしれません。
私は先ほど「涼次祖父の帽子職人の写真が高橋一生さんなら笑い死ぬ」と書きました。
ナゼか?
彼は前作で「恋心ゆえにヒロイン便利ポジの独身を死守するサブヒーロー」であり、そして人気俳優であるからです。
涼次も、祥平も、それ系のキャラにしたっていい。
そのへんの凡作なら、そうなっていたかもしれません。
鈴愛は律と結婚し、出産も育児もエンジョイ。それを見守るイケメンズ。そういう作品で、別にいいはず。
でも、脚本家はそこをブン投げた。
他の朝ドラなら、ヒロインがしがみついて甘えていい、キャンディーの味と毛布のあたたかみを持つ恋心。
しかし本作は「死んでくれ」と言いたくなる刃物の味と、冷え込んでゆく血の気の冷たさを持っています。
だから大好きなんです。
鈴愛は、画面の中だけの、明るくて恵まれたヒロインじゃない。
私にも、あなたにもなれる。
賛否両論とも言われるほど私たちを引きずり回す本作への愛を、今日も確認しました!
この苦さ、血腥さにクラクラしております。
◆著者の連載が一冊の電子書籍となりました。
ご覧いただければ幸いです。
この歴史映画が熱い!正統派からトンデモ作品まで歴史マニアの徹底レビュー
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
NHK公式サイト
震之助さん!おかえりなさい。待ってました。ドラマを見て、震之助さんのレビューを読んで。までが私の半分青いの楽しみ方になってました。本当に嬉しいです!
ビーチボーイさんが仰るように、本作を批判する人は「夢に向かってまっすぐ頑張るヒロイン」しか認めないのでしょうね…。自分は紆余曲折あって良いじゃないかと思います。漫画家編いらんとか生かされて無いとか、100均編いらんとかと言う批判する人は話の流れが入って無いのかな?と思います。
武者さんの復活、心からお喜び申し上げます。鈴愛の死んでくれ発言で半分青いが非難ごうごうの嵐に直面している今ほど、武者さんの的確なレビューが待望されるタイミングは無かった。《苦さ、血なまぐささ》のゾクッと来る魅力、それは本作を最高度に評価する愛情の言葉だと思います。
ポスト秋風塾の人生怒濤編に入って、ちまたで本作をけなす論評のほとんどは要するに「何がしたいのか、何を描きたいのかさっぱり分からない。見えてこない」の一点に集約されるようです。こういう人達の朝ドラの理想像はきっと《目標に向かって健気にひたむきに頑張り、成功していくヒロインの物語》なのでしょう。20時44分頃になれば助さん格さんが印籠を掲げて「この紋所が目に入らぬかぁ」と悪代官をやっつけてくれる、そんな既定パターンの安心感を支持するのでしょう。
農村の爺さま婆さまならともかく、曲がりなりにも映像作品の論評を仕事とする人達がこんなレベルの認識や感性を背負ってネットやメディアで幅をきかせる。そのあたりに今の日本の病根を感じざるを得ません。
復帰おめでとうございます!まだまだお大事に…!
今日のお話 涼次の背後 暗がりの中に立つ元住吉が
麻薬化した夢の権化みたいで笑ってしまいました。
妻と子供を捨てるのに「人として間違っていますかね」と聞く涼次と
「応援するよ…」という権化が もうこわーい!
涼次がこれからどんな映画を作るのか。
感傷に浸ったポエティックな作品作りそうだなあと思ってしまいました。
鈴愛に(喧嘩の最中ですら)「涼ちゃん あらすじ説明するの下手」と
言われていたのを思うと この先大成するのかな…と心配になります…
(シタライイヨネ娘のためには)
そろそろ 未来への希望がほしい所ですね
初めまして!先週くらいから覗かせてもらってます。
もう共感で首が痛くなるほどです。このドラマの魅力は鈴愛のキャラクターが全てなんだと思います。私は鈴愛ちゃんが大好き!飛んだり跳ねたり転んだり…人生も発言も失敗しちゃう。失敗しても他人のせいなんかにしない。ちゃんと失敗も認めて生きている。
涼ちゃんとは違い自分に責任を持って生きている。ただ苦手なのは自分を圧し殺して誰かの為だけに生きるのは無理そう。だから涼ちゃんの側にいて泣いてる鈴愛は魅力がないのです。
自分のしたいこととしなくてはいけないことがわからないグズ男とはさっさと別れるべきです。
私は「わろてんか」は見ているのが辛くて挫折しました。それぞれに好みは違います。朝ドラに求めるヒロインがあるでしょう。私はお行儀の良い堪え忍ぶヒロインなんて要りませんし、的を得ない重箱つつきの感想にヘキヘキしてました。
ぜひぜひ、お身体を大事にされて感想を読ませて下さい。期待しています。