岐阜の「センキチカフェ」で五平餅を焼いていた楡野鈴愛は、再び上京することを決意しました。
キッカケは娘の花野。
フィギュアスケートを習いたいと言い出したのです。
そればかりじゃありません。
今度、東京に出たら、業界人・津曲の会社「ヒットエンドラン」で働きながら、自らも独立を決意します。
好きなものを欲しい人にだけ届ける【おひとりさまメーカー】に憧れを抱いたのです。
一方、萩尾律は、妻のより子から、単身赴任してでもアメリカに行くべきだ、と訴えられたのでした。
【131話の視聴率は22.6%でした】
もくじ
「スケート選手になる!」「ぼくはカメラマンになる」
深い緑と川のせせらぎ。
律の息子・翼が川縁を歩いていると、花野がそこへやってきます。
翼は、父の律がアメリカに行くことを寂しいなあと表現しました。
「うちはいつも寂しい」
この翼の一言も、深い……。
律とより子が現時点で離れているから寂しいのか。それとも、両親が揃ったところで寂しいのか。どちらも正解かもしれません。
花野は、そんな翼の寂寥感を慰めるわけでもなく、二回転ができるとジャンプ!
着地後、よろめく花野を翼が支えます。
このあたりも、鈴愛と律っぽいですよね。鈴愛も、自分の感情を明るく律にぶつけ、ぐいぐい引っ張ってゆきました。よろめく花野を翼が支えるところは、この間の梟会での鈴愛と律をどうしたって思い出してしまいます。
花野は、ガチャガチャで当てたフィギュアスケート靴のミニチュアを大地に渡します。
被ったのかな?
いや、それとも翼が大事で、もうお別れだから渡すのかな。鈴愛と律の子供世代が、こうした関係で結ばれてゆくのです。
「スケート選手になる!」
「ぼくはカメラマンになる」
互いにそう夢を語り合う二人です。
私はメーカーを立ち上げる!
萩尾家では、弥一が翼の不在を訝しみますが、五平餅がお土産にあるのを見て、きっと花野と出かけたのだろうと律は判断しました。
そして……。
「私は再び東京へ行く!【ヒットエンドラン】で働き、メーカーを立ち上げる!」
ブオオオオーッ!
大博奕の始まりじゃああああああ!(『真田丸』の真田昌幸ネタです、すみません)
律に向かって【おひとりさまメーカー】の野望を語る鈴愛。
恵子の【グリーングリーングリーン】のように、欲しい人にものを届けることが目標です。
「私は一人でメーカーをやる!」
律はそう高らかに宣言する鈴愛に、デジャヴを感じております。
そう、漫画家をやる宣言の時と同じだ――。
ここで鈴愛は、考えてみれば自分もアラフォーだと言います。もうあのときほどのパワーはないのだと。
「寄る年波には勝てん」
出たー、鈴愛の時代劇話法!
どこまでもヒロインらしくない、おもしろ語彙が今日も炸裂ですね。
もしこれが
「私も、もういい歳でしょう、思い切れないところはあるわよね」
なんて台詞だったら、絶対に似合わないんですよ!!
ただ全力疾走できたあの頃とは違う
鈴愛は、花野のことがなければ再上京はなかったとも付け加えながら、一言呟きます。
「親になってまった」
かつての何にも縛られず、全力疾走する自分とは違うのだと実感しているんですね。
ただ、この言葉も「母親としてどうなのか!」なんて叩かれるかもしれないなぁ。
もしも鈴愛が男で、父親なら、叩かないですよね?
妻子が出来て昔ほど身軽じゃないと言ったら、理解すら得られるんじゃないでしょうか。
母親は閉店もなしにずーっと365日24時間、子供のことだけを考えていろ――そんな押し付けがあるようで、んなもん機械じゃあるまいし、無茶を言うな、と。
本作の鈴愛が「恵まれている」「夢のようだ」という意見もあるようですが、時給750円で奮闘していたシングルマザーのドコが恵まれてるのでしょう。
それを言うならば、前作のヒロインなんてニコニコしているだけで成功が降り注ぎ、史実の苦労なんか一切たどっておりません。
バカみたいにユルユルな戦前の日本もありえなかった。
要は、鈴愛に対する反発って、平成をサバイブしてイキイキしている女性を叩きたいだけ――そう見えるんですよね。
もしかしたら、
「調子こいた元気な女が嫌い!」
というネガティブな感情が心の中にあるのかもしれません。
より子の圧に耐えかねて
一方の律は、今後をスッキリと決められません。
より子の「大阪に戻って来るな」とか「部長夫人以上になりたい」という言葉に参ってしまったようです。
ここで「ともしび」店主のまさこが、夫婦のすれ違いは片方だけが問題じゃない、と言い出します。
お邪魔か?と遠慮する彼女ですが、鈴愛はバツ2のおばちゃんの意見が聞きたいと引き留めます。
まさこは、より子にも事情があるはずだと推理。すると、唐突に律が語り始めました。
「鈴愛にプロポーズして断られて、フランソワもいなくて……」
動揺する鈴愛を気にせず、続ける律。
「さみしいところを、(より子に)助けてもろた」
そのせいで弱みがあるのか。怒ることもできないのだそうです。
より子を好きではなかったのか?と問いかけられる律。
「いや、好きだった」
聞いているうちに鈴愛の顔が、どんどん複雑なものに……。そのことをまさこに突っ込まれると、自分の気持ちを確かめているのだと鈴愛は言います。
和子さん、生きとるのも大変やな
律は鈴愛の気持ちは置いておいて、語り出します。
より子は嫌いではなくて、好きだったのだと。律は、性格的に言うことが苦手で、ガーッと言われると黙ってしまうのだそうです。
ああ、そういうことか。
律と相性がよいのはやはり鈴愛なんですね。
鈴愛は朝ドラヒロインにしてはアルカイックスマイル系ではありませんが、あのマイペースっぷりが律と相性最高なのでしょう。そういうものです。
世間の考える理想の男女像はあります。
しかし、その通りに生きていても理想の相手と結ばれるわけではありません。相性があるのですから。そんなことは当たり前です。
これが無難な朝ドラヒロインだと、世間一般の理想像にあわせる傾向ありますからね。
弥一は、仏壇の前で和子の遺影に合掌。
「和子さん、生きとるのも大変やな。次から次へといろいろある」
いろいろある。
確かに律とより子とか、いろいろですな。
自分の夢を追えば妻子は離れてしまう律
鈴愛と律は、ともしびから帰路へ。
つくし食堂の前に着きました。
「つきあってくれてありがとな。ま、頑張るわ」
「アメリカ行くんか、大阪戻るんか?」
「うーん、わからん。ちょっと考えてみる」
鈴愛がぐいぐい進んでゆくのに対し、律は迷っています。
夢であるロボットのためならば、渡米になりそう。
ただし、自分の夢が我が子の夢実現にも繋がる鈴愛に対して、律は自分の夢を追えば妻子と離れてしまうところ。
やっぱりこのドラマ、男女の典型をひっくり返しているのです。ありがちなドラマなら、律に妻子が微笑んでついて行くでしょうに。
「余計なお世話かもしれんけど、もう一度より子さんと話してみたら。私はあかんかったけど、律は大丈夫かもしれん」
鈴愛は、涼次を思い出しながら、律にこう語りかけます。
「うんわかった、おやすみ」
そう答える律。
鈴愛の顔は、これまた永野芽郁さん迫真の複雑な表情です。
この顔を読み取ることはとても、難しくかつ手応えがあります。
律に未練があってよりを戻したいのならば、より子と話してみろとは言わない気がするのです。むろん、そんな気持ちがないとは言い切れませんが。
特別な仲間である律が、幸福な家庭を築けないこと。
その一因に、自分のプロポーズ拒否があるかもしれないこと。
もしも、あのとき受け入れていたら。
自分だけでなく、律も幸福になれたかもしれない。
その二人分の幸福を失ったのかと思うと……いや、二人だけではなくより子や涼次を加えると、もっと増えるかも。
自分の決断が、一番大事な人の運命をこうも変えたかと思うと、そりゃあ、こういう顔にもなるというものです。
亡くなる一週間前に書かれた和子さんの手紙が……
楡野家では、ジャジャーン!と宇太郎が花野用のフィギュアスケート靴をお披露目しております。
荷造りも、進行中。いよいよ上京です。
しかし、この東京への荷物の中に入れられないものがありました。
和子から託された律の育児日記です。
萩尾家の仏壇前では、律と弥一が語り合っております。
「早いもんやな、もう二ヶ月か」
そう語り合いながら、寿司をビールで飲む父子。
律はアメリカ行きの返事は会社に待ってもらっている、決心がつかんとこぼします。
「怖い」
「ハハハ、女は怖いなあ、確かに」
怖いとこぼす律に、弥一も笑います。
女は怖いという言葉や台詞は、ともすれば陳腐になりがち。しかし、本作のより子は、本当に怖さがあります。夫の決断にここまで暗い影を落とす女であり妻です。
律とより子、相性的にはどうなのでしょうか?
むろん、良いとは限らないでしょう。
律が怖いとこぼすほど、より子に弱いからこそ、敗れるようにして夫婦になった可能性もあるかもしれません。
そういう人間関係って、あるものです。沼や罠にはまったようで、抜け出せない関係。
そこへ、鈴愛がやって来ました。
「生きているうちに、言付かったもの。律や弥一ならば泣かれてしまうだろうと思って、よう渡せなんだ」
時間が経ってからのほうが、悲しくなくて済むかと思ったものの、上京して律と離れる以上、もう渡すしかないのだ、と。
弥一と律父子が日記をめくると、亡くなる一週間前に書いた手紙が出てきました。
中に書かれているものは?
今日のマトメ「結婚すれば変わるワケではないのが人間」
今朝の『あさイチ』ゲストは永野芽郁さんでした。
鈴愛という役が、彼女の持つ要素からもできたことがよくわかりました。
◆北川悦吏子さん、2度病院へ「半分、青い。」過酷な執筆:朝日新聞デジタル
こちらのインタビューを読むと、役者さんの魅力を引き出しながらの脚本だと、よくわかります。
今日の鈴愛の、律の言葉を聞いたときの鈴愛の複雑な顔。
まさにこの役者さんあってだなと引き込まれました。
ただの、相手に未練のある女というだけの表現じゃない。
人生、幸運と不運、自分の決断が他者の人生にどう影響を与えてしまったか。それを噛みしめている顔でした。
自分が律のプロポーズを受け入れていればよかったという気持ちは、もちろんあるのでしょう。
それは自分の幸せのためだけではなく、人の人生に及ぼした影響まで、噛みしめているからでもある。
だからこそ、自分は得られなかった結婚での幸せを、せめて律とより子には得て欲しいのでしょうね。
しかし、それが実現可能かというと……。
より子のことを、怖いと言ってしまう律。
結婚生活を築くことに、向いていないのかもしれない。夫婦というよりも、鈴愛と一緒にいて川縁で石を投げていることが、律にとっては安らぐことなのかもしれません。
より子にしてみれば、夫でも、父でも、律にそういう像になって欲しかったのかもしれない。
つきあっている時は恋心で見えなかったのか、見て見ぬ振りをしていたのか、わかりませんけれども、結婚さえすればそうなると信じていたのでしょう。
人間って、そういうものじゃないですよね。
結婚がゴールと思われがちです。
童話は、だいたいそう。
しかし、本当はスタート地点です。
結婚すれば、親になれば、階段を上るようにふさわしい人間になるかというと、そうとは限りません。
鈴愛も律もそう。
彼らの奥底には、そうした社会からかぶせられる像以外に、本質があるのです。
それを変えることは、難しい。
仙吉さんも言っておりましたが、人間はずっと子供なのですから。
この歴史映画が熱い!正統派からトンデモ作品まで歴史マニアの徹底レビュー
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
NHK公式サイト
私もより子さんは一緒にスタンフォードに行こうとしてるようだと思います。
大阪の私立って、「公立に多い意識の低い親やなんかわけのわからない子もいる」はスルーできますが、そんな手放すに惜しい学校はないでしょう。
ただし、和子さんの病状に合わせた転校なんて、仮に公立に行ってても避けたいと思うのも仕方がないでしょう。
「親になってまった」は、
花野にフィギュアをどうやったらやらせられるかを、一番に考えた、私も親になったな、
の意味に取りました。
違うかな〜?
萩尾翼くん、風雲急を告げる。
「ぼくは将来、カメラマンになりたい」「花野ちゃんが好き」
バレたら、即、恐怖の鬼母の大落雷が炸裂するでしょう。「カメラマン?何バカなこと言ってるのっ!もう岐阜のじいじの所には行かせないわっ」「しかもあんな変な子と遊ぶなんて!キーッ」
かくて、より子は弥一とも断絶、楡野家をも丸ごと敵に回し、いよいよ四面楚歌に。そして翼、反抗してグレちゃうのか…
いや、脚本さんの声が聞こえて来そうです。「ふふふっ、そう思うでしょ。でも半分青いはそんな単純には行かないわよ。サプライズが待ってるから、まあ見ててごらんなさい」
(それはさておき、私がより子だったら渡りに船とばかり3人で渡米して翼くんをバイリンガル&国際感覚ボーイに育てますけどねぇ?最初から3年間て分かってるんだし、エリートコース歩ませるってなら断然その方が良いのにネ。何で大阪なんかの(←これは私の偏見デース 笑)私立名門校とやらにしがみつくんだろう。…でもまぁいいや、この議論し始めると面倒だからやめときます)