時は2010年――。
楡野鈴愛と萩尾律は東京におりました。
鈴愛は、津曲の元で働いたものの、会社があっさり倒産。
【おひとりさまメーカー】で味のある商品を開発するものの、食べていけるわけでもなく、屋台を引く日々です。
そんな時、晴が癌にかかったという報告を受け、実家に帰省することにしました。
一方、律は、勤務先の菱松電機でロボット製造部門が閉鎖され、適性のない管理職に就くことになり、転職を視野に入れるほど浮かない会社員LIFEです。
正人と二人で花野を預かっていた律は、オープンオフィスで、大学の研究仲間である南村と再会するのでした。
【137話の視聴率は19.9%でした】
もくじ
律くんも起業すればいいじゃない
起業した南村は、モーションセンサーや軌道装置を活かし、触感に訴える仮想現実を作っていると律に説明します。
本作って、ロボット系の考証力を感じます。
夢があるし、2010年代に流行しそうなものを、うまくプロットに取り入れていますよね。
画面に映るロボットも粗雑ではなく、きちんとしたところから提供を受けている感が伝わってきます。
律が恵子と共に向かったのは津曲の店でした。
ラーメンを運んできた津曲に声を掛けます。
と、まるで覚えていなかったチャラチャラ元業界人。岐阜犬関係者だと聞いて思い出し、即座に土下座します!
飲食店主が土下座すなっ!
でも、こういうところが面白いなぁ。
「わざとらし」
と、コメントする恵子の冷たさもいいなぁ。
律は、恵子からこのシェアオフィスの印象を聞かれると、こう答えます。
「確かに居心地いいですね、窓から風が入る」
「じゃ、律くんも起業すればいいじゃない」
「えっ?」
ハッとした顔になる律です。あと一ヶ月なのに起業? いいぞ、やってまえ!
健人と麗子のほのぼのラブラブ
鈴愛は岐阜梟町に帰省しておりました。
しかし、晴は、花野が来ないことにガッカリ。
「私ではあかんのか、娘より孫か?」
「孫の方が、かわいいな」
そんなヤリトリをして笑い合う母娘です。
やっぱり鈴愛って性格が父親に似ている気がしますね。前回の晴と宇太郎を思い出します。
母娘のいるところへ、里子と健人もやって来ました。
健人が五平餅を焼いてくると、鈴愛はチェックせねばあかん、と言い出します。祖父仙吉直伝の味ですからね、そこはチェックしないと!
「うん、うまい! 衰えておんな!」
出た出た、祖父直伝みたいな、鈴愛の時代劇口調での褒め方。
まず、女性キャラに「おいしい」ではなくて「うまい」を言わせるところからして、流石だと思います。「うんめぇ!」はまだ可愛いけど、「衰えておんな」って続けますからね、この場合。
麗子もやってきて、健人とラブラブっぷりを見せつけます。
うんうん、いいね。本作中一番ラブラブでいてほしいのが、この二人かも。
区の推進で3年間は家賃わずか5万円
律は、恵子からシェアオフィス利用条件の説明を受けます。
事業計画書を作成し提出すれば、3年間は家賃たったの5万円! 区が、イメージアップのために格安で提供するのだとか。
風の入る神宮近くのオフィスが格安だぞ、と肩を揺らしたくなります。
花野は正人とカニすくいの営業中。
失敗した男の子に、50円を要求する花野から、母親の血を感じるのでした。
岐阜では鈴愛が、カンちゃんがカニにハマった理由を説明しています。
奮発して食べさせたところ、夢中になったのだとか。ねだられても困るため、最近はカニカマでごまかしているそうです。
仕事はどうかと尋ねられ、「うん、ぼちぼち」とごまかします。
晴は、健人からカフェに置いている鈴愛の【まぁあかん袋】も【鏡よ鏡】も全然売れないと突っ込まれます。
「あ、あれらはな、まーあかん、ちょっとガラクタや」
そうごまかしつつ、今はすごいものを開発しとる!と宣言。あわわわわ。あと一ヶ月を切ったのに、未だにこういうことを言うしかないヒロインって斬新だ!!
晴は鈴愛に、いつかすごいことをやると思っていた、他の子とは違う、漫画も頑張ったけど、また何かやる気がすると語ります。
ここで廉子さんは「親バカでございます」と容赦ないツッコミ。
「で、何作っとるの?」
凄いものと言いだしたものの、何も考えてないようで、それを隠し通す鈴愛。
「企業秘密や、トップシークレットや! 作ったら、お母ちゃんに見せたる」
おいおい、何を作るんだ! あと一ヶ月だよ!!
寝転がる晴を仰ぎつつ、鈴愛は言います。
「お母ちゃん、また来るでな」
「ええよ、来んでも」
そう静かに語り合う、母と娘でした。
かけがえのない仲で、お互いの人生を心配しているけれども、人格を認めて踏み込まない。
そういういい関係が、二人にはありますね。
起業、正直そそられている
花野を寝かしつけてから、律は事業計画書を見ています。
ノリでもらってきてしまって、起業するかは、わからない。
しかし、正直そそられている。それが、律の本音。
でも正人は喜びます。
実は、こうなるように仕組んでいたのです。
律は、高層ビルのはめ殺しの窓が嫌い。
窓が開かない、風の吹いて来ないオフィスが嫌なのです。
正人も似たような経験があり、大手商社から転職して、今の出版社でホッとしているのだとか。
収入や社会的地位を考えると、かなり大胆な異業種への職替えですが、今の時勢には合ってますね。
2010年より前の段階での判断ですから、正人は少し先取りしている感じです。
あのシェアオフィスは、大勢いるのに各々働いている、そこがいいと律。
「梟商店街みたい」
商店街育ちの律には、それが心地よいのです。
みんな別々に仕事をして、あとでお好み焼きでも食べながらワイワイやりたいと。
うーん、この発想!
地方の商店街と都心のシェアオフィスを結びつける、そういう発想はなかった!
そして律が、商店街の空気を求めてそこに目を向けるというのも、凄い発想だと思います。
団体行動苦手だもんね、と正人もにっこり。
パーフェクトじゃなくたっていいんだ
律は家族を持ち、今まで慎重に生きて来た。
周囲の期待に応えようとするばかりの人生だった、そう振り返ります。
「律は、やりたいように生きればいいと思うよ。君はできるよ」
正人はそう言います。正人は結婚せずにゆらゆらと生きて来てしまったと。
これも、正人の生き方ですよね。
あれだけ女性にモテながらも、西北大学を出て大手に就職しながらも、そういう生き方をしてしまった。
アキコさんが10歳年上なのは、ゲスの勘ぐりを蹴り飛ばして書きますけど、そういうゆらゆらアラフォーを受け止める存在だったのだと思います。
お互いいい歳だし、ゆらゆら生きていってもいい。
そういう拘束の緩さがないと、正人は繋ぎ止めておけない性格なのではないでしょうか。
「律も、自由にしていいんだよ。どっかにたどり着く。律は抜けがない。いつもパーフェクト。いつか楽になるといいなって思ってた」
正人ぉぉ、なんという癒し力、洞察力!
すごいな。
鈴愛の運命の相手を律だと見抜いて身を引いたときも感じたことです。人の本質を見抜く力があるんだな!
「そんな風に俺のことを考えている人がいたのか」
「生きるのが楽しくなるといいな」
「楽しくなりたいよ」
本作の凄いところって、相手の本質を見抜いて導く相手の性別が、対象者にとっての異性とは限らないところだと思います。
より子は、妻にはなれても正人が見抜いた律の本質を掠めることもできなかったのでしょう。部長夫人という肩書きを求めたのも、中身の本質に近づけないなら外面を求めるほかなかったからかも。
これは鈴愛と涼次もそうで、涼次の本質を知り抜いているのは元住吉祥平だと感じてしまいます。
律と正人も、一種の運命の相手同士なんでしょうね。
律は、昔、鈴愛に幸せの天才だと言われたことを思い出します。
と、できる気がして来たものの、焦る律です。
「律、焦らないで。迷っている時間を楽しんで。人生は思ったより長い。迷うことは人生の醍醐味だよ」
157歳の仙人だとおどける正人。
ペリー来航のころやな、とツッコむ律に、計算速いよと正人が言い返すのでした。頭の良さが滲み出てる~。
「お前には見られたくなかった……」「なんでや!」
そこへ、鈴愛が帰ってきます。
お持ち帰り用で、自宅でも調理可能な五平餅をお土産にしています。健人、商売上手!
花野を預かってもらったお礼に、仙吉直伝の技で焼くと宣言。
金網で「今や!」と声を掛けつつひっくり返します。
食卓に座った皆で五平餅を食べます。
鈴愛は、意外と晴は元気そうだった、今度はカンちゃんを連れて行くと言います。
「八幡餅、食べようか」
こしあんをつけた餅なのだとか。
ここでカンちゃんはこしあん、正人はつぶあんということを語り合っております。
鈴愛は偶然、とあるものを見つけます。
「これ、うちのシェアオフィス申込書!」
「お前には見られたくなかった……」
「なんでや!」
なんでや、律!
その続きは明日だ!!
今日のマトメ「本質に迫る正人の台詞」
律がどうして鈴愛には見られたくないのか?
気になりますね。運命の相手ならば、素直に喜びそうなものです。アルカイックスマイルで、律が同じオフィスに来るなんて嬉しい、と表明してもよいはず。
このひねりにひねった二人の関係性、面白くて目が離せません。
律、あんたさ、正人相手の方が本音で語れているんじゃないの?と思わず言いたくなります。
それを言うなら、鈴愛もナオちゃんやユーコとボクテ相手の方が素直かも。
それにしても、いろいろ凄い九月です。
普通は、もうまとめに入るところ。
それなのに、律はシェアオフィス申込書をもらってしまう!
鈴愛は、母親相手に見せると約束したすごいもののアイデアがまるでない!
どうするのーッ、どうまとめるの!?
ここからまとめに行くならば、そりゃもう面白くなる。
怒濤ですよ。
今日は、本作の本質に迫る台詞が、正人の口からたくさん出ていた気がします。
「律、焦らないで。迷っている時間を楽しんで。人生は思ったより長い。迷うことは人生の醍醐味だよ」
階段を上ってゆく成功者の人生が多い、それが朝ドラです。
それなのに、迷ってこそだと、踊り場でゆっくりしてみたら、という台詞を入れたのだから、凄い!
朝ドラというものは人間的にも、よい子ちゃんが多くなります。
鈴愛が叩かれることが多いこと。それは知っています。
想定外で、気が強くて、すぐ怒るし、言い返すところが嫌われるのでしょう。
一方の律は、過剰なほどによい子ちゃんであったんじゃないの?と、今日、正人に突っ込まれました。
西北大学を卒業、大手の菱松電機に就職、結婚。いい子ちゃんの道ですよね。
それでも本質的にいい子ちゃんに収まれないから、より子と別れるし、今だってシェアオフィス計画に心が動いてしまうのだと。
エリートだからって、エリートの人生が適切なよい子ちゃんとは限らない。
本作はそんな扉をこじ開けました。
どうなってしまうのか?
あと一ヶ月、まだまだ探求と朝ドラ革命、続行されます!!
この歴史映画が熱い!正統派からトンデモ作品まで歴史マニアの徹底レビュー
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
NHK公式サイト
いつもお世話になっております。
ここで、気になったところは
>「うん、うまい! 衰えておんな!」
です。
誉め言葉で、衰えていないという意味なら、「衰えておらんな」くらいでしょうか。「おんな」となると肯定の意味になるのではないかと想像します。
私事ですが、まだ家のテレビが見られるようになるには時間がかかりそうです。
いつもありがとうございます。
10才歳上、に関して私は北川さんの心に色々な遊び心を感じてしまいます。
ゲスな勘ぐりをされる方々のお考えだってあながちハズレではない、と感じていますが、ただそれだけ、の浅さでなく。 彼女自身、このドラマを生み出す当人であると同時にこの物語の登場人物達の人生の伴奏者であり、(一視聴者でもあるかも) 自分が生み出したストーリーでありながら、中の人達が生きている人のように感じられて、そばにいて、彼らにエールを送りたい。そんな気持ちでいるんではないかなと。正人の恋人や草太の元カノやサンバランド企画者瞳さん(皆さん鈴愛世代より10才上…(*^^*))は、そんな北川さんの魂の分身、ですね。きっと
ゲスな人間にはゲスの勘ぐりしか出来ないですよ、武者さん。笑い飛ばしてやればいいだけです。
話変わるけど、今日の正人仙人の言葉「人生は思ってるほど短くはないよ。迷うのは人生の醍醐味だ」…ジーンと来ました。私自身のずっと思ってた人生観とぴったり同じだからです。もちろん私は、それを正人くんみたいに上手に表現出来なかったですが。
誰かさんの「人間は出世が全てだ!地位名誉財産を勝ち取るぞ~。迷わず一直線!!」という人生観とのコントラストが本当に面白いです。そのあたりを楽しむのもドラマを見る「醍醐味」ですかね
ここからの律くんは、
表情豊かになりそうですね!!
律のソウルメイトは正人、そじて鈴愛のソウルメイトは裕子とボクテではないかと思います。
そして涼ちゃんには元住吉ですね。
ただ、より子さんも律と似てるところがありそうです。
「いつも周囲の期待に応えようとしてきた」ところ。
その期待とは、「エリートと結婚して、優秀な子供を生み育てる」ことだったのではないでしょうか?
それは、晴さんの「女の幸せは結婚して子供を生んで」とは少しちがうのですね。晴さんは、映画の助監督、涼ちゃんとの結婚にすら、お守りにお礼を言ってたくらいですから。
ただ、より子さんにソウルメイトはいなかったのでしょう。
初めてコメントします。いつも楽しく記事を読ませていただいてます。
毎朝律くんの顔がきれいだなあ~ とかそんなことばかり思っていましたが、
今日の回を見て、初めて律くんが生き生きと語ってるな、目が笑っているな、と
感じました。これまでずっと能面のようなきれいさ、でしたが。
演じる佐藤健さんも多少のストレスを感じていたのでは、と思うほどです。
正人くん、いいですね~ 律くんの心を解放して後押ししてあげましたね。
ふわふわと生きてきた正人くんですが、またそれも良し。
当り前だけど、どんな風に生きてもいいんだよ、と言ってくれてるみたいです。