明治43年(1910年)。
日本一の「ゲラ(笑い上戸)」娘ことヒロインのてんは家を捨て、船場の米屋・北村屋の長男藤吉のもとへと嫁ごうとするものの、藤吉の実家で姑の啄子から女中扱いされてしまいます。
北村屋の経営状態がますます悪化する中、焦る藤吉は芸人仲間のキースが持ち込んだ「パーマ機輸入」という儲け話に乗っかって大失敗。
店と土地を担保に借金していたため、窮地に自ら突っ込んでしまったのでした。
そんな北村屋へ、ついに最後の日がやって来ます。
トキは京都へ送り返されることに
店と土地を失ったにもかかわらず、ニコニコ笑顔のてんは「寄席を開いてお金儲けしましょう!」と言い出します。
啄子は当然反対で、そこで藤吉が「これが最後のお願いや!」と土下座。
必死にアタマを下げるものの、藤吉さんのこれまでの行状からして、命を賭した誓いもシングルトイレットペーパーより薄っぺらいんですよね……。
啄子は店と土地を売り払い、ろくでなしの夫と馬鹿息子の作った借金を返し終えます。
トキは京都に返されました。
最後まで笑顔で見送るという演出で、ニコニコしているてん。
一方でトキは涙ぐみます。
このままではトキが去り難いからなのでしょう。
てんは「お前がいると食い扶持が増えるから迷惑」と言いうのですが、満面の笑みで言われると単純に『デリカシーないのかな……?』と不安になってしまいます。
ここはてんも、辛そうな表情を堪えて少しムリに笑って半泣きぐらいで見送る方が、視聴者も素直に受け取れるかなぁと……ベタで申し訳ありませんけど、「とにかく素敵な笑顔!」より自然な気がします。
雰囲気だけでセリフが作られ実態が置き去り?
てんは家族最後の晩ご飯ということで、贅沢なおかずを出します。
何故かここには頼子もいます。脚本の意図としては「家族揃ってのご飯」ということなのでしょう。
しかし、明治時代の人は、嫁いだ娘を家族に数えません。頼子がいるのは、不自然です。
それにしても頼子の「お母ちゃんは藤吉のことばかり見ていた」発言と、昨日の藤吉の「お母ちゃんは店のことばかりで俺のこと構ってくれへん」発言の食い違いよ。
藤吉がその場しのぎで嘘をつくのはさんざん見てきましたから、昨日のあのしんみりした「俺は母ちゃんに認められて寂しかったから、いろいろあって店と土地担保にして詐欺につっこんだ」弁解はやっぱり嘘だったんだろ、と思ってしまいます。
頼子は幼少期に藤吉にした、いけずの内容を説明。
おにぎりに唐辛子、布団に蛇を入れたと言います。いささか洒落になってない「いじめ」では?
しかしてんは「家族っていいですねえ」とニコニコ満面の笑み。
昨日、藤吉は姉のいけずが辛かった、とシリアスな顔で語っていました。
いけずの中身も結構酷い。
それなのに「家族っていいですねえ」と言って笑みを浮かべるって一体……。
なんというか、雰囲気だけでセリフが作られていて、実態が置き去りにされているようで、これまでの背景を想像力働かせて見ている自分が辛くなってきます(´・ω・`)
いや、もちろん、てんのセリフを肯定的に考えることも可能ですよ。
「いけずは多くても、それでも愛情溢れる家族っていいですね」
そんな雰囲気を醸し出そうとしてるのでしょう。
しかし、その世界へ入っていけないために色々とキツくなってしまってます。私だけだったらゴメンナサイ。
啄子のとてつもない覚悟が伝わってくるだけに
てんは貧乏暮らしは賑やかだから一緒に寄席をやりましょう、と啄子に言います。
住む場所も決めていないと啄子が言った瞬間、万丈目「家が見つかった」が飛び込んで来ました。
啄子、てん、藤吉は、店をきちんと掃除してから、出て行くことに。
掃除をしながら、藤吉と頼子の背比べのあとを見つけて思わずしんみりしてしまいます。
掃除の終わった畳の上で、ご先祖様に土下座しながら「申し訳ありません、申し訳ありません……」と涙を流す啄子。
重いです。苦しいです。啄子がとてつもない覚悟で切り盛りしていたのが伝わってきます。
それが、しょーもないパーマ詐欺被害で倒産が決定してしまうのですから、彼女の心中はいかばかりか。
しかし、店をあとにするときに、てんがニコニコしながら「短い間ですがいろいろ学ばせて貰いました!」と、これまた満面の笑みなのです。
やっぱり何が何でも笑顔ってのはムリがありますよね。
重苦しく去ったっていいじゃないの。
それから「北村屋のごりょんさん修行をしたいから鍛えてください」と続けます。
啄子は厳しくしごくぞ、と言い出しました。流石にもう、そういうのはいいです……(´・ω・`)
北村屋を潰したキースが先に一杯やってます♪って
三人は新居にやって来ます。
狭い長屋でした。
あまりの汚さに呆然とする三人。たてつけの悪い障子を無理矢理開けると、キースとアサリが座って飲んでます。
「待ちきれれんから引っ越し祝いの酒やってたで~」
続けて万丈目が「ようこそ芸人長屋へ~!」と言います。
キース……オマエなぁ……。
引っ越し祝いって、キース、お前……立派な店を手放し、北村一家がこんな長屋に来たのは、そもそもオマエの儲け話のせいだろ!
いや、話にノッた藤吉にも責任はあります。
あるいは芸人さんたちの世界に、常識を持ち込んでイケないことも承知です。
ぶっ飛んだ日常生活があるからこそ舞台の上に立てる、そんな一面もおありでしょう。
しかし、伝統ある商家を潰すような詐欺話を持ち込んだとなると、さすがに話は別では?
人である以上、引越し先の長屋で「先に飲んでたでぇ!」なんて、とても言い放てないと思います。
もちろん、それが視聴者の笑いに転化していれば、面白いボケだったのでしょうけど……そうなってませんよね。
というか、そもそもそんな狙いでもない?
なんなんだ、キース! あなたの立場がいまいちワケわからんぞ!
今回のマトメ
たぶん本作は「どんな時でも笑えばなんとかなるでしょ!」と言いたいのでしょう。
しかし、見ている方としては「いや違うだろ」と言いたくなってしまいます。
今日のてんは不気味笑顔度マックス!
店と家がなくなるのに「借金チャラになるなら寄席やりましょ!」と、笑顔ですし、長年仕えたトキが去る時も笑顔。
愛する藤吉に、洒落にならないいけずをしたと頼子が告白しても、笑顔。
長年大事にした命のような店を去る啄子に向かっても、笑顔。
しんみりしたり、ちょっと涙ぐんだりせず、笑顔。
せめて泣き笑い、ひきつり笑い、苦笑いというバリエーションがあってもいいでしょう。
なんだろう。この、てんが笑えば笑うほど伝わってくる「SMILEのノルマ感」。
演出でずーっと「笑え笑え」と言われているのかもしれませんが、“笑顔の能面”が張り付いているように見えてしまいます。
キースがへらへらふざけているのも「まあ笑い飛ばしましょ!」ということなんでしょう。
しかし、啄子をここまで気の毒な境遇に追い込んだのは彼と藤吉です。
世の中、笑い飛ばせないこともあるハズです。
しまいには、「もう邪魔な店も土地もないから好きな寄席やっちゃえ! むしろラッキー!」みたいな態度に見えるのは、どうなのでしょう……。
ドラマの都合で寄席を始めないといけないのはわかります。
しかし、軽い。
本当に軽い。
史実の吉本せいは清水の舞台から飛び降りる覚悟がありました。
寄席を買うための金策も苦労しました。
そういうのはすっ飛ばし、軽~いノリで「米屋は終わりで寄席やればいいし!」ってねえ。
この主人公夫妻の軽さをなんとか緩和するのが啄子の重厚さ、鈴木京香さんの落ち着いた演技と存在感です。
遠藤憲一さんの儀兵衛、鈴木京香さんの啄子、こうしたベテランが重石になって、飛んでいきそうな軽さをなんとか抑えている印象です。
いけずはもう見たくありません。
なので、啄子は里に戻ってもらいたいとも思うのですが、彼女が抜けたら抜けたで、底まで抜けそうではあります。
とにかくイチ視聴者としては、今後の寄席に期待するしかありません。
著:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
NHK公式サイト
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