井上とズブズブの関係だった三井
三井家には商売敵に小野組という豪商がおりました。
明治六年(1871年)、この小野組が東京に移転しようとしたところ、京都府から待ったがかかります。
移転により京都府の税収も減るし、府の面目にも財政にも悪影響が出るからとのことです。
この裏では三井家の策謀があり、ライバルである小野組が東京に来ては困ると考え、井上馨を動かして妨害したのではないかとも言われております。
このとき小野組を妨害したのが、長州閥の府参事・槇村正直です。
おさまらない小野組は裁判に訴えます。
司法卿・江藤新平の尽力もあり、小野組は結局移転することができ、槇村らは処罰を受けます(小野組転籍事件)。
この槇村、『八重の桜』では高嶋政伸さんが演じておりました。
小野組は東京移転はできたものの、結局三井家に負けてしまいます。三井がライバルを出し抜けたのは、井上馨とインサイダー取引をしていたからと言われております。
この件からもわかるように、三井家は井上馨とズブズブの関係で、西郷隆盛は井上のことを皮肉って「三井の番頭さん」と呼ぶほど。
井上のこうした腐敗ぶりを尾去沢鉱山事件などでも追及した江藤新平は、のちに政府を追われます。
江藤は「萩の乱」などとともに不平士族の乱のひとつに数えられる「佐賀の乱」に連座し斬首刑となりました。
不平士族の反乱には、井上ら新政府の重鎮があまりに金に汚く、堕落していると反発したこともあったでしょう。
大河では、政府が悪いと繰り返すばかりですが、こういう事情もあったのです。
志だの至誠だの言うその先に何があったか、ちゃんと描かず逃げていますな。
例えば、伊藤博文を大河にすると「隣国がうるさい」とか何とか言われます。
が、それだけではなく、長生きした長州出身の明治政府重鎮には
【カネ、女、政治闘争】
というマイナス要素があるんですね。
そのへんをうまく扱えなければドラマにするのは難しい――もっとはっきり言えば現状では無理だと思います。
創作物において坂本龍馬、高杉晋作、新選組が幕末定番人気なのは、明治の腐った政治世界と関わりがないというのもあるでしょうね。
このように、本作は他の作品や史実とのつながりを考えていくとますます楽しくなる作品です。
歴史を知らなくても楽しめる、知っているともっと楽しめる。
こういう贅沢さこそが歴史ドラマの醍醐味です。
「若い女性は歴史わからないだろうから〜」などと言い訳し、面倒臭い歴史部分をバッサリカットすることは無意味だと今年の大河プロデューサーは学んでください。
かわいいだけの女優から脱皮!?
ドラマに話を戻します。
新次郎は惣兵衛に酒とうどんを奢っていました。
惣兵衛は新次郎の冗談に冗談で返すほどになっています。
「幼い頃はおもしろい性格だった」と新次郎はかつて惣兵衛を評しておりますが、その頃に戻ったのでしょう。
惣兵衛は母親殺害未遂を語り始めます。
わだかまりであった母を殺すことはなかったものの、母に縛られていた心を殺すことはできたのでしょう。
それもはつのおかげと語る惣兵衛。
このすっきりした笑顔にはほっとさせられます。
ついでに新次郎も無言ながらこの場面、顔や仕草で演技していてなかなか細かいです。
家に帰った新次郎は、あさに石炭のことを持ち出されますが、新次郎はかわしてしまいます。
あさははつへの思いを商売にぶつけるかのようです。
狭い農家で縫い物をしているはつ。
惣兵衛はどこかに寄りかかるように休み、栄達は土間に莚を敷いて大の字で眠ります。菊は黒く汚れた白足袋を見せつつ、一段高いところで横になっています。
ふゆの姿もちらりと見えますが、そろそろ暇を出した方がよい気もしますね。
それにしても暗い灯りの中、髪をほつれさせ俯く宮崎あおいさんの美しさ。
健気な美しさ、貧しい中でも気品ある仕草が、悲劇性をより強くしています。
宮崎さんにとって、かわいいだけの女優ではなく、脱皮する作品になりそうです。
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文:武者震之助
絵:小久ヒロ
※レビューの過去記事は『あさが来た感想』からお選びください
※あさが来たモデルの広岡浅子と、五代友厚についてもリンク先に伝記がございます
【参考】
連続テレビ小説 あさが来た 完全版 ブルーレイBOX1 [Blu-ray]
本放送の頃はじっくり観られませんでした。今、録画でゆっくり観ていますが、好感の持てるドラマは総じて、人物の描き方がうまいと思います。
宮崎あおいさん、実はあまり好きなタイプではありませんでした。ですが、はつ役がなんてしっくり来るのかと、目から鱗の思いです。