あさの悩みは、キャリアと家庭の両立。
子を産むこともできず、新次郎の世話をちゃんとできない自分は嫁失格だと悩んでおります。
これぞ「女性の目線」から見た歴史ではないでしょうか。
女性目線とは、今年の大河のようにイケメンとスイーツにキャーキャーすることではありません。
時代が変わり、可能性の幅が広がったこそ、新たに増える女性特有の悩み=家庭とキャリアの両立をひしひしと感じる……これぞ女性目線でしょう。
史実の広岡浅子にせよ、原案にせよ、実はここまでくよくよと悩んでおりません。
出産も育児も他人任せにして事業に専念しておりました。
じゃあなぜドラマでは悩むかというと、やはり明治を描きながら現代をも描く、そういうコンセプトがあるからのはず。
ゆえに多くの視聴者に支持されているのだと思います。
サトシは有能な納屋頭
場面は九州。
治郎作がカズの肩に腕を回し、カズが驚くと、その手をパッと離すシーンがあります。
登場時は強面だったのにすっかり気のいいお兄さんになってきましたね。
亀助によるふゆ宛の手紙を用い、近況説明が行われます。
二人の関係もちょっと気になるところですね。
そこへあさがまだ暗いうちから起きてやって来ました。
起きたのはあさだけではありません。
サトシが乱暴な口調で坑夫を起こしています。
腰が痛いから休みたいと訴える坑夫すらひったてる姿にあさも困惑。
すかさず治郎作が「あの腰の痛い坑夫は怠け癖がある、厳しくしなければならない」と説明します。
サトシのピンハネは相当な額ながら、有能な納屋頭だそうです。
今こそ炭坑の改革に取り組みたいあさ。
慎重な治郎作。
さてどうなるか。
直接ボーナスを支給します!
【より多くの石炭を掘った坑夫に、納屋頭を通さず直接加野屋からボーナスを支給する】
あさはそう発表しました。
同時に、納屋頭の仕事がなくなるわけではないとも説明。
良いこと尽くしのようですが、サトシが異を唱えます。
騙されるな、平等なんてうまいことを言うが、平等なんて綺麗ごとだ。
ゼニを持っている加野屋が一番威張っているだろう。
よくよく考えれば、あさは別に何も悪いことを言っていません。サトシは平等という言葉尻をとらえて罵っているだけに思えます。
しかしこれが手です。
正しい理屈ではなく、嫉妬心を煽って対立を激化させる。現在のネット論争でもありがちですが、理屈がどうこうよりも「綺麗ごとを言う奴は嘘つきだ!」と煽ったもんが勝ちになってしまうわけですね。
ではなぜ煽られる側はコロッと賛同してしまうのか。
やはり貧しさのせいでしょう。
余裕がないのです。
文字も読めない、本も買えない
お金がないという状態はどういうことかと言いますと心に余裕がない。
ゆえに強要や正義という余裕を持っている人に腹が立ったりするものなのです。
お金がなければ趣味や娯楽、贅沢と無縁になるばかりでなく、教養や知識にもアクセスできません。
あさが平等を持ち出したのは【福沢諭吉を読んでいたこと】からも説明がつきます。
が、文字も読めない、本も買えない人にとってはそうした理想や知識までもが
「金持ちの振り回す贅沢なもの、自分たちには無縁のもの」
に思えてしまうのですね。
『花燃ゆ』では、美和や楫取が理想を大上段から振り回すと、周囲はあっさりと調伏されてしまいますが、より現実に近いのは本作の方でしょう。
あさは学問だけではどうにもならない現実の壁に悩みます。
「学問さえあればどこでも松下村塾ができる!」
なんてドヤ顔をしている美和には達成できない境地ですわ。
美和はかつて大阪一番の芸子だった
あさの苦労は亀助の手紙を通して、加野屋にも伝わっておりました。
新次郎の三味線の会にもあさは出られない――そううめが嘆いても、新次郎は相変わらずのマイペースぶり。
本心は寂しいらしく、往来で見かけた仲むつまじいカップルの様子を見て哀しげな顔をしてしまいます。
それを目撃したよのは……。
昨日、三味線の師匠・美和が言っていた恩人は大久保利通でした。
そしてその大久保がもてなすビッグなゲストとはやはり五代友厚。
にしても美和を演じる野々すみ花さん、美声ではまり役ですね。
なんでも美和はかつて大阪一番の芸子であったとか。美和は、五代こそ大阪の恩人であると話しかけます。
大阪の人間で五代を知らぬ者はもういないとか。
大久保は「さすがだ」と褒め、大阪のみならず日本の恩人、五代がいなければ日本の金銀は海外に流出してしまったことだろうと言います。
五代は謙遜するものの、大久保は真顔になって
「中央政府に戻り大蔵大臣にならないか」
とオファー。どうする五代!?
それにしてもここまで持ち上げられても嫌味に感じさせないのが、大河の楫取と対比になっています。
実力の差か。
それだけではないドラマの完成度のせいか。
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文:武者震之助
絵:小久ヒロ
※レビューの過去記事は『あさが来た感想』からお選びください
※あさが来たモデルの広岡浅子と、五代友厚についてもリンク先に伝記がございます
【参考】
連続テレビ小説 あさが来た 完全版 ブルーレイBOX1 [Blu-ray](→amazon link)
ドラマの完成度。美しい言葉ですね。
この作品を観ていた頃の暖かい気持ちを思い出します。