泰樹、出馬す! しかし……
泰樹は孫娘2人を馬車に乗せ、戸村父子に任せていよいよ出立します。
明美は、
「みんな来られればいいのに」
とつぶやきます。戸村父子を気遣っているのでしょう。
ここで、姉のイジワル軍師は煽ります。
「牛も連れていければ、なつも喜びましょうなぁ」
いや、明美は牛のことを言っていないから。わかってるでしょ?
出番が短くとも、イジワル軍師なれば一日一煽動です。
しかしここで異変が!
突如、目の前に天陽が馬でやってきて、泰樹に助けを求めるのです。
「牛がおかしい! 農協もいない!」
急いで山田家に向かう泰樹と天陽。どうなるんだ!
どうなるんだよ、ああ、もう、ハラハラしてきた!
拝啓 美術担当者様
天陽不在のまま、舞台美術を眺めて驚く雪次郎。
これは確かにすごい。美術担当者もすごいです!
神田日勝のタッチ
+
10代の若さや伸びやかさ、未熟さ
+
『白蛇伝説』の背景
+
アイヌ、北海道らしさ
+
でかい
拝啓 美術担当者様。お疲れ様でした!!
****の時は、某画伯の絵がともかく手抜きでしょうもなくて、受信料はどこへ消えたのか不安になったものです。
ここやで、ここで使われとるんか!
そんな圧巻の絵を見て、雪次郎は戸惑いを見せます。
絵が凄すぎないか。芝居じゃなくて絵を見るなじゃないか、って。
しかし、倉田は違います。
「この前でやるからこそ、争いを避ける芝居が活きてくる。心の叫び。山田天陽の魂だな……」
これには彼も嬉しいことでしょう。
自分の見る目は正しかった。魂が魂を理解した、その喜びがあります。
上の立場にいるもの。師匠。導く人。
そういう人は、嫉妬ばかりするものじゃない。若者はダメだなんて言わない。
「子供のくせに生意気よ〜」
なんて、言わないのです。
むしろ、魂の輝きを見つけた自分の目と、響く魂を持つ自分に、喜びすら感じるものでしょう。
『半分、青い。』の秋風塾にあったハイテンション。
『いだてん』で、
「あいつには【フラ】があるんだよ!」
と、弟子を評価し、応援し続ける円喬。
魂ってなんやねん。
フラってなんやねん。
って、なるところですが、それはこういう輝きなのでしょう。
倉田はまだ雄弁な方ですが、円喬は割と口数が少ない。
結局なんなんだよ、落語のこと知らないとわけわからんってなるかもしれませんけれども。
知識の量じゃなくて、感受性勝負なんですね。
あのブルース・リーも言い切ってました。
Don’t think. Feel!
それぞれの個性、才能、魅力
山田家の牛は、ガスが溜まってしまう「鼓張症」でした。
急いでガスを取り除かねばいけません。
獣医を呼びに行こうとする天陽を止め、自分で何とかするという泰樹。
ありがちな病気でガスを抜けばよいものだから、牧場主なれば対処法もあるのでしょう。
なんとかなる。
そう言いながら、水をかけ始める泰樹です。
舞台裏で衣装の出来を褒めるなつに、よっちゃんはこう言います。
「私は器量が悪いぶん、こういうことをしろって言われたから……」
残酷な当時の価値観あるある。
今もかな? 器量が悪いと周囲から指摘されたら、針仕事のような女性的とされるスキルを磨き、嫁の貰い手を探せということです。
あー、これ、残酷だけどうまいんだよな……。
****でヒロインが、ブスと指摘されてノホホンとしていた時点で【駄作認定した】と何度も書いてきましたが。
これが本来の時代考証ってものでしょう。
よっちゃんのように傷つき、他の魅力を鍛えられるよう、努力する。それが当時の女性でした。
よっちゃんは、作中でも屈指の、女性的なスキルを身につけている人物です。
針仕事だけではありません。
周囲をよく観察しケアすること。そんな性格が、セリフの端々から出ています。
本作には、イジワル軍師・夕見子を代表例として、伝統的な女性要素から外れた女性が出てきます。
その対比として、よっちゃんがいるのでしょう。
しかし、つまらない退屈な女としてでなく、彼女の魅力がそこにはあるのです。
それぞれの個性、それぞれの才能、それぞれの魅力。
みんなちがって、みんないい。
よっちゃんは、可愛いといったなつに、
「牛と同じだべさ」
と自虐的になってはおりますが。
なつは、心の底からかわいいと思っていると思いますよ。
かわいいもん、よっちゃん。
いよいよ開幕、じいちゃんの不覚
開幕前、部員は気合を入れます。
お客に愛を!
心揺るがす魂を!
勝農演劇部!
そこへ、夕見子と明美が到着します。
駅からトテッポで来たからと言います。
何があった?
そのころ山田家では、泰樹が「餌は何か?」と聞いておりました。
乳量増加のためのクローバー。そんなものを大量に食わせたらこうなる。因果関係として当然だと言い切る泰樹です。
視聴者のアタマに浮かんでくるのが、剛男の顔でしょう。
食べさせすぎるなとはサラッと念押ししたものの、あれでは軽いわー! これはじいちゃん説教コースですな。
正治は、乳量を増やさねば、乳脂肪が低いとメーカーに買い叩かれる現状を語ります。
そしてタミが差し出す牛乳を、飲む泰樹。もう、演技演出がお見事です。
何も言わない。
それなのに、泰樹の心の動きが見えてくるようです。
乳脂肪率は問題なく高い。それは間違いない。
だとすればメーカーが不正をしているではないか。
メーカーの検査結果について、そういうものだと突き放したのは、このわしだ。
山田家を苦しめるようなことを、みすみす見逃してしまった。
剛男も、なつも、そこを指摘していたはずだ。
薄々気づいていたのに、見逃してしまった。
わしは、己の意地と経験にかまけて、そんなことすら見逃していたのか?
これは無念です、不覚です。
そこを素直に認められるのか?
そうなるとは思います。
知将は豹変するもの。
己の過ちを素直に認め、方向転換してこそ、撤退こそ戦術だと割り切ってこそ、知略99なのです。
そんな泰樹不在のまま、勝農での芝居が開幕しました。
雪次郎がポポロに扮し、村人に白蛇伝説を語ります。
そしていよいよ、ペチカが……。
なつよ、さあ出番だ!
きっとうまくいくさ――。
そう父の声が語る中、いよいよフィナーレ、土曜日へ!
勝利条件クリアへの道
雑な朝ドラは、メインプロットを適当に仕上げ、あとは脇役の恋愛沙汰で流すもの。
それが、本作はマルチタスクでガチガチに作ってきました。
脚本の大森氏は、二度目の朝ドラです。
朝ドラのプロットをどう構成するか、そこを把握した人をきっちり選ぶところに、記念すべき作品へのぬかりない気合を感じます。
今週もミッチリ詰まっております。
しかも、プロットがなかなか入り組んでいます。
そして、条件をわかりやすくきっちりと、視聴者に説明してきます。
◆勝利条件
・先週から継続している泰樹VS農協の決着
・なつが泰樹を感動させる
・その中で、なつ自身が己の解放、恩返しだけではない何かを見出す
ご覧の通り、きっちりと示されておりますね。
メインの泰樹VS農協はハッキリしている。
一方で、なつの心の解放は、夕見子はじめ柴田家のセリフ、倉田と天陽らの演劇と魂問答でわかってくるわけです。
ここで、金曜日にひねってきたのが、勝利条件が不完全なかたちでかなう可能性です。
もし演劇に間に合わなくとも、山田家での治療でなんらかの解決ができてしまうかもしれない。
しかし、それだと勝利条件を全てがかなうわけではない。
さぁ、そこをどうするのか?
金曜に、そこで盛り上げて来ました。
サブプロットの緻密さ
それだけではなく、サブプロットもお見事です。
・「雪月」成功への道
・天陽の才能
・新キャラ紹介(門倉番長)
・脇役の今後への伏線(夕見子の進路選択、照男やよっちゃんの恋心)
並行して進めるとなれば、かなり難しいはず。
それをきっちりとこなしていく、脚本の時点で見事だと思います。
こうなってくると、ある意味不安なのが大森氏の疲労です。
こんなに隙のないハイペースで突き進んで、ちょっと心配になります。
手抜きが出来ない、そうではありませんか?
どうかお体ご自愛ください。
ご無理なさらず、この調子でラストまで突き進んでください。
体を大事にしろ、と言いつつ、走り続けて――なんて我ながら矛盾した思いですが、さほどに期待が止まらないのです。
※スマホで『なつぞら』や『いだてん』
U-NEXTならスグ見れる!
↓
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
北海道ネタ盛り沢山のコーナーは武将ジャパンの『ゴールデンカムイ特集』へ!
今回泰樹らが出発しようとしたときに乗っていた馬車は、車輪が自動車用タイヤにバージョンアップしていました。
なつの幼少期は、鉄の輪縁を嵌めた木製の車輪でした。
昭和30年代頃の馬車は、今回のような自動車用空気入りゴムタイヤが増えていたわけで、ここにも制作陣の本気度が強く現れています。
そういえば、夕方の再放送の朝ドラは、ゲゲゲに決まったそうです。某作に出演されてた役者も出演されてましたが、内容は雲泥の差です。また、再放送開始前に武者様は、この作品についての特集はされるのでしょうか。
「乳牛への適正な給餌指導」は、現在なら酪農地域の農協の重要業務の一つ。営農指導員の技術力が問われるものです。
まだ規模も小さかった作中の当時の農協は、その体制も十分ではなかったのでしょう。
酪農に限らず、農協の営農指導体制は、地域の主要農産品の育成のうえで、都道府県の農業改良普及センターと並んで重要な存在。この体制を整えられなかった農協は、淘汰され、解散あるいは吸収合併されたりする途を辿ることになります。
各地の農協の公式サイトで、管内主要農産品のPRをしているのを見ると、農家と営農指導員の尽力が偲ばれるところ。都市部の農協でも意外な特産品を揃えているところもあったりして驚かされることもしばしばです。
登場人物たちの言葉の意味や、その奥にある深層心理など、なつぞらは毎日考えさせられるシーンが多いです。それぞれの人物が丁寧に描かれてきているからですね。
****信者たちがなつぞらを、薄っぺらいとか、人物の背景が描かれていない、などと言っているのを見ると、理解力は大丈夫なのかしらと心配になります。
半分青いや、なつぞらが、あまりにも深くて感動も大きいので、まったく****は何だったのかと今更ながらに思います。小学生が書いた「ぼくたちの関西が生んだすごい人!」のようでした。ここ数年の大阪製作の傾向でないかなと思います。郷土愛は良いと思うけど、東京へのコンプレックスがあるように感じます。
ところで、今日は夕見子は珍しく素直で穏やかでありませんでしたか?泰樹の「牛たちも連れていけたらなあ」に「それならなつも喜ぶわ」。泰樹には素直になれるのかもしれませんね。