名将・富子の厳しい指導
ここで、富子がやって来ます。
なかなかうまいと褒められるのですが、何枚目かと聞かれて1枚目と答えた瞬間……。
「遅いッ!」
丁寧なのはいいけど、遅い! そう容赦なく叱咤激励されるのです。
理由はちゃんとありますし、ちょっときついことを差し引いても、ギリギリで踏みとどまっている印象です。
自分が気に食わない、俺の意見に逆らうというだけで、クソクソ連呼していた前作****の**さぁんとは違うのです。
富子の出番はまだ少ないものの、キャラクター造形の基礎固めができて来ていると思いますよ!
これは今後も期待できるぞ!
パンダってなぁに?
ここでなつは、不思議そうな顔をしています。
白黒の動物は、空想上のものかって。
それはパンダで、中国にはそういう熊がいる。そうモモッチが説明します。
パンダなんて今は皆知っているものでしょうが、当時は違います。
日中国交正常化以前ですからね。
中国でも、四川省にしかおりません。
『三国志』だと蜀だけということになります。
中国史では、蜀はド田舎という認識です。
始皇帝を支えた呂不韋は、蜀に流刑と知ったあと、絶望して自害しました。そういう認識です。
劉備に「蜀ならイケる」と諸葛亮が勧めたのも、当時の情勢や蜀支配者が弱いということもあり、ノーガードを狙った部分もあるのでしょう。
そんなわけで、中国全土でもここまで代表枠になってからは歴史が短いものです。
「なんだかそういうものがいるらしい……蜀の山奥にね」
「中原からすると、なんだかわからんな」
「虎ではあかんのか? まぁ、強すぎるか」
そんなワケわかんねぇもん捕獲してどうするのよ? 虎狩りだ、虎狩り! そういうノリですわ。
時代考証的にも、厳密に言えば白蛇伝説をまとめた著者は、
「パンダが出てくるとかねぇよ! 知らねえし。蜀の山奥が舞台じゃないから! もっとイケてるシティの話だし!」
と突っ込むかもしれない。
それでもありだと思います。
こういう異国情緒のために、敢えて出すのであれば、ありでしょう。
ちなみにこのアニメのキャラクターデザインは、京劇の衣装を元にしているようです(関連ページ)。
明代の女性服とはちょっと違いますね。
これもアニメのキャラクターデザインですので。
※明代はこんなところです
台本が見たい、絵コンテが見たい!
仕事に対するなつとモモッチの違い――それが見て取れるのが、「台本と絵コンテを見たい」というなつの願いです。
どの場面で、どういう意図なのか。
それを知ったほうが仕上げにも気持ちが入る!
そう目を輝かせるなつに、絵コンテならば仕上げにも一部あるとモモッチが教えてくれます。
モモッチはいい子だなぁ。
なつと思考回路がかなり違っていても、教えて受け止めてくれるのです。
「そんなの見てどうするの? 仕上げなんて手を動かせばよいだけだから、関係ないし」
こういうことを、なつタイプには言わないでおきましょう。
ちょっと高い目線から見て、全体像を把握しながらでないと、どうにもしっくりこないのでしょう。
目の前の牛の乳を搾れ。畑を耕せ。色を塗ればいい。そういうタイプとはちょっと違う。以前【大志】タイプと指摘しました。
適性を理解してくれる周囲がいれば、よいものですが。
そうでないと、
「あいつは夢見がちでおかしい!」
「話が大きすぎてわけがわからん!」
「目の前の仕事をしないでサボっているだけじゃないの?」
「ぼーっと生きてんじゃねえよ!」
と突っ込まれてボコボコにされて、現場離脱しかねません。
モモッチはそうじゃないのです。
なつのアニメそのものが好きである姿勢に感心しています。
「そんなに好きなんだ」
「好きというよりも、知りたいんです!」
「それが好きってことじゃない」
モモッチは、もやもやしたなつの気持ちを言語化する才能があるようです。
夕見子は察知しつつも、あの人も軍師として風呂敷を広げがちな結果、心を引っ掻き回してしまいました。それとは違う、モモッチは実用的なパートナーになれそうです。
モモッチからすれば、なつは面白い存在でしょう。
高校で求人票を見て、消去法で、他より面白そうだからと選んだモモッチ。
そんなモモッチからすれば、ずっと作りたいと願って来たなつは、面白い存在というわけです。
なつもすごいとはいえ……
さて、チャイムがなって昼休み。
作業を終えた枚数は、モモッチの10枚に対して、なつは1枚です。
すごい!と驚くなつに、彼女はこうクールに返すのです。
「あなたもすごいんじゃない。これって、やりたいことだったんでしょ」
やりたいことを見つけて、理解して、その道へ進む。
それがどれだけ偉大であるか。本作は、そのことを伝えて来ます。
セレブ感があるかとか、裏方とか。
そうではなくて、やりたいことかどうか。そう何度も伝えて来ます。
ただちょっと引っかかること。
それは、仕上げがゴールとは思えないことです。
なつの適性は、むしろ作画にあると思えます。
慣れないとはいえ作業速度がモモッチの10分の1。
そして、彼女には北海道時代から強調されて来た、大自然で育まれて来た色彩感覚、イマジネーション、動きの洞察力があるわけです。
仕上げは誰かの絵を写す。指定された色を塗る。
そこにそういうセンスが割り込む要素はないわけでして。
以前、天陽が演劇部の舞台美術と頼まれた時、倉田の指示がざっくりしすぎているのではないかと指摘されていましたように、こういうタイプには、あれでむしろ正しいと思います。
細かく指定されると、ぐたーっとなって実力発揮できずに、むしろ折れるタイプとみた。
なつは、天陽よりはそこのところは器用でしょうけれども。
アニメに関わる夢は叶えたけれども、特性が適合した作業工程に配置されていない。
となると不穏だ……モモッチといつまでも一緒にいられるわけでもないし、適性を生かせる配置転換で何かこれはあるわ。
また猛者が出て来おったわ
なつは食事も忘れて、絵コンテをじっと見ています。
まだ若いし、一食だし。夢中になってる姿の表現としてありですね。
何食も抜いて、同じ失敗を繰り返していた、飲食物開発者。****の**さぁんとは違うのだよ。
そんななつを見て、嬉しそうなのが陽平と仲です。
陽平はなかなかおしゃれだとなつの服装を褒めます。
お、やっとそこに気づいたのか。ビフォーアフターを知っていると、確かに驚くでしょう。牧場ルックは素朴でしたからね。
仲は絵コンテを見ているなつに、喜んでいることが伝わって来ます。
生真面目な彼のこと。若い女の子にデレデレしているわけではありません。
彼女の中にある才能を見つけて、喜んでいる。倉田がかつて陽平を見て思っていたような、そんな感情が伝わって来ます。
こういうタイプは少ないゆえに、自分と似た者を見つけると、嬉しいんでしょうねえ。
ちなみに陽平ですが、彼もかなりいい線を行っているとはいえ、そこのところがちょっと弟・天陽には追いつけないタイプに思えます。
天陽は作中随一の規格外ですしね。
仲はワクワクとした態度で、なつを作画課へ案内します。
そこでは、元警察官の下山克己が嬉しそうに迎え、ピストルを撃つ真似をしてくれるのでした。
しかし、そんな楽しそうななつと克己に厳しい態度を取る人がいた。
「ちょっと」
不機嫌そうに言いながら、通り過ぎて行くクールな女性アニメーター。
目の暗さが、小野政次レベルです。
何奴!!
って、これまた第77作『ちりとてちん』ヒロインの貫地谷しほりさんですから、強いに決まっておりますね。
なつよ、まあ、あまり浮かれずに頑張りなさい――。
ナレーターの父はそう言うわけですが、今週も地道に不穏要素が積み重なっています。
なつの抱える、仕上げへの適性不適合。
仲の、できれば作画に来て欲しいという願い。
半年とはいえ、モモッチが今後なつに追い抜かれたらどう思うのか。
そういう感情の流れに、当の本人すら気づけていないこと。無意識下の不穏感。
そして、颯爽と登場した黒いオーラを纏った女性アニメーター。
水曜日にまた何か、視聴者に混沌を見せるんですよね?
期待していますよ!
緻密に進める『なつぞら』ワールド
北海道編が好きだったこともあり、新宿編、当初は不安でした。
それを吹っ飛ばした咲太郎の大暴れからの、翌週。
咲太郎がなつの職場で暴れたらそれはそれで問題ですので、彼は夜の世界に追い出しましょう。
そうなると、投入する職場の新キャラクターを見せ付けねばなりません。
富子といい、モモッチといい、そして小野政次オーラの彼女といい。
期待感が持てますねえ!
誰も彼もが大志を抱くすごい人でなくてもいい。
それが世の中というものです。
モモッチは、地に足がついた、世話好きで明るい、そんな素敵な隣のお姉さん感があります。
北海道編のよっちゃんと似ているタイプかも。
その対比となるのが、小野政次ぽい彼女。
嵐を呼ぶぞ、これは絶対に何かやりおるわ!
手札は全部使い切るのだ!
手札を全部使い切りたい、そんな大森氏の力も感じます。
演じる貫地谷しほりさんといえば『風林火山』で由布姫を差し置いた感もある、そんな可憐なミツやんです。
そんな可憐なミツやんが、
「オラー! ぶっ飛ばすぞオラー!」
と、直虎相手に井戸端で大暴れした『おんな城主 直虎』。
こういう使い方もあるんだね〜と感心したものですが。
『精霊の守り人』で、綾瀬はるかさんを『八重の桜』発展系ともいえるボディガードにした、そんな大森氏です。
「ぬかったわ……貫地谷しほりさんが凄むとこんなに怖いとは、おのれおのれおのれ!」
そういうリベンジを誓った結果が、この黒いオーラの凄腕アニメーターになったんではないかと妄想してしまうほどです。
大森氏はじめ、本作が貫地谷しほりさんという切り札を、どう使うのか。
そして出した結果は何か?
しのと政次のハイブリッド系になっちゃったのかな?
こりゃ期待できるね!
そう思えてしまう月曜日です。
嵐を呼ぶんだ、黒オーラアニメーター!
※スマホで『なつぞら』や『いだてん』
U-NEXTならスグ見れる!
↓
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
北海道ネタ盛り沢山のコーナーは武将ジャパンの『ゴールデンカムイ特集』へ!
でんすけ様
パンダコパンダ、大好きでした!
楽しくなってきましたね。
紅一点頑張る女性は、レミーの美味しいレストランでも描かれましたね。期待。
なつぞらは登場人物の性格付けが一人一人綿密に考えられていて、見ていてとても楽しいです。
その人物のセリフや行動に納得したり、あるいは意外な部分を見せてきて驚かされたり。
良いドラマは人物の描き分けがしっかりしていますよね。
なつぞらはそういう部分にも信頼できるドラマであると感じます。
今日の『やすらぎの刻~道』第41話では、どうしたことか、本作十勝編必須のアイテムだった「一升瓶に詰めた牛乳」が登場。
やっぱり、作り込み・こだわりの作品の双璧である本作『なつぞら』と『やすらぎの刻~道』は、どこか意識し合って作られているような。大森寿美男氏と倉本聰氏が互いに刺激し合って、これら朝ドラ・昼ドラの双璧が創り出されているとしたら、素敵な話だと思います。
パンダコパンダでパパンダが竹をバリバリ食べてたのはこういう「パンダって何?」から来る勘違いだったのかなぁと想像出来てクスッとなりました。
和気あいあいとした雰囲気の職場にピリッとしたスパイスを効かせるプロならではの緊張感と志の高さ。紅一点で色々なものと戦っていそうな麻子さん。うーん、素晴らしい出だしで、これからのアニメーション歴史群像劇的な展開にワクワクさせられてます!
わたしも、今日のモモッチさんには、働く人へのリスペクトを込めた台詞を、物凄くさりげなく入れてきたな!と感じ入りました。小さな台詞の端々に格調があり、作者の世界観が詰まっています。
最後のお父さんの「浮かれずに頑張りなさい」の語りも、その台詞に込められた心の動きがとても普遍的で、てらいがなくて、すごいと思いました。子どもへは、応援するにも、つい「気をつけてね」的心配スタンスからの言葉もでてしまう、親独特の暖かい目線です。
同じ心配するでも、武者さんの言うように、咲太郎に対するのとはどこか違うのも、面白いですね。
毎回おっと思わせる台詞ばかりで、味わいぶかいです。
仲さん、 なつを支えてくれる素敵な人です。互いに志や夢を共にしながら、大切なパートナーになれば、と期待したりします。