「服の色も、日に日に増していくねぇ」
「負けませんからッ!」
「何と戦ってんのよ」
そう突っ込まれます。
【男は敷居を跨げば七人の敵あり】ということわざがあります。
これも今となっちゃ能天気。働く女性はこれだけいるわけですし、そりゃ女だってそうでしょう。
家の中に敵がいないという見通しも、ちょっと甘いんじゃないですかね。
なつも敵だらけだ。
こう言い切る彼女は、それを認識しているし、戦う気満々なんです。
このファイティングスタイルは、知略99を伴い、あの泰樹仕込み。今後、発揮されることでしょう。
なつはチャイムが鳴っても、仕上げるまでは食事もしません。
モモッチに先に食べててと告げています。
食べ損ねないか、モモッチも気になる様子。
そのあとも、絵コンテを見ていると、富子が心配して、お昼を食べるように告げるのでした。
食べていないと手元が震えるというアドバイスも、実践的です。
その熱心さが、周囲にも伝わってきているのでしょう。
腰掛けばかりの中で、絶対に浮いているでしょうから、富子が不思議がっています。
「服には気遣うのに……」
これも、重要な点です。
そう言われて、なつがハッとします。
「石井さん、私の服装ってダメですか!」
「いいんじゃない。変わっているくらいで」
富子からすれば、服装が何かの主張に思えるようなのです。
絵を描くことを仕事にするなんて、変わり者が多いもの。そういうファッションがとんがっている認定を受けているのでした。
不穏だ……この服装関連のセリフまわしが、とても不穏です。大森氏ってばもう。
あの服装は、朱槍を持った前田慶次認定されとるゾ。
無彩色のマコ、あやつは猛者
するとマコが仕上課に色見本を見にきました。
今日はちょっと明るい服装かな。
相変わらずグレートーンで無彩色ですけれども。
この無彩色のマコが、色を気にするあたりがおもしろいですね。
自分の着るものには無頓着なのに、作品の色は気になると。色彩認識がないからああいう服装というわけではない。
なつはそのころ、噴水で下山と話しています。
ここもちょっと不穏で、カメラが二人の横にいる男性二人を目立たせるような動きをしているんですね。あの二人、何かこれからやらかすのかな。それとも下山がスケッチしてただけ……?
なつは下山に、大沢ことマコのことを「怖くないか?」とそれとなく聞き出すのでした。
「怖くないよ。熱心なだけ」
マコはともかく優秀。
美大出で、仲と井戸原がその才能を認めたのだとか。その才能を理解できないと、怖いと思えるのかもしれないって。
そのマコがダメ出しをする堀内も、美大出の秀才だそうです。
作画課のセットで、元警察官のアニメーター下山役・麒麟の川島明さんと、貫地谷しほりさん演じる麻子とよく言い合いをしている堀内役・田村健太郎さん。作画課には川島さんの“いい声”がいつも響いています。#朝ドラ #なつぞら #川島明 #田村健太郎 pic.twitter.com/XLuZwa5QI5
— 【公式】連続テレビ小説「なつぞら」 (@asadora_nhk) June 4, 2019
そんな堀内ですら、マコにはかなわないものがあるッ!
「一番大事なものを、感覚としてわかっている……」
下山の意味深な言葉。ゴゴゴゴゴ……。
「命を吹き込むことなんだ」
絵に魂を吹き込め
アニメーションの語源であるアニマとは【魂】だと下山は説明します。
アニマ、魂、命。絵に命を与えること。
なつは、アニメーションの意味を理解します。
現在放送中、『ジョジョの奇妙な冒険』第5部主人公ジョルノ・ジョバーナのスタンド能力「ゴールド・エクスペリエンス」みたいなものですね。
あれも、無生物に命を与えるものですから。
実はこのあたり、昨日も落語家のセリフにヒントがあります。
あまりに上手な屏風の絵には、何かが宿って動き出す。そう説明されていましたね。こういう細かいところが、本作の持ち味なのでしょう。
そのマコですが、仕上課で富子と話すうちに、ふとあるものが目に留まります。
それは白娘の動画スケッチでした。
席は奥原なつ。
あの変な子のものだと説明を受けます。
「勝手に拾ったのね」
そう言いながらパラパラ、パラパラ……。
ここでマコの、死んでいるは言いすぎにせよ、ともかく暗い目に、光がカッと宿る!
これもある意味、アニメなのか。
なつよ、何か見られているぞ。
そんなにおいしそうにパンを食べている場合ではないぞ、なつよ――。
そう父のナレーションが語ります。
何かが始まる、そんな水曜日でした。
かぶき者の功罪
ワクワク亜矢美の、なっちゃん着せ替えタイム♪
先週土曜日は、これから始まる新展開への布石と見せかけておいて。
やりおったわ、ぬかったわーーーー!!
この服装が、今週とても重要な要素になるとは、予想すらできませんでした。
このせいで、なつが誤解されてしまう。
「人を見た目で判断するな!」
とはよく言ったものですが、それは理想論です。相手がどういう人間か、ある程度は見た目で判断できてしまう。
美醜じゃない。
服装、その他もろもろ。
こちらの動画は、BBC『SHERLOCK』です。
※シャーロック、アイリーン・アドラーに困惑する
全裸で登場した美女アイリーン・アドラーに困惑しているシャーロック・ホームズ。
美女だからウハウハしているわけではなく、彼女からは何も推理できないからなのです。
その証拠に、入ってきたジョン・ワトソンのことは推理できています。
このアイリーンと同じようなことを、全く意識しないまま、なつはやってしまったのです。
身元を隠すというよりは、変装に近いアプローチですが。
本来の自分とはまるで違う、そういう格好をしているせいで、誤解をされています。
仲、陽平、下山あたりは、そこをわかってはいるのですが。
◆モモッチ:地方出身でファッションにそこまで詳しくなく、人生経験が短く素直
「派手でおしゃれ。新宿暮らしだし、遊んでいそうですごいな」
◆富子:この業界でそれなりの経験を積んできた
「絵描きにありがちな、個性を主張したい子なのね」
◆茂木:ダンディ社長、レディのことには詳しいのさ
「こんなにおしゃれしちゃって。これは気になる男ができたんだろうねぇ」
◆マコ:ファッション? なにそれ、どうでもいいし。猜疑心が強い可能性も
「男を意識する浅ましい奴だ。失せろ……」
誤解が生じまくって、事態が悪化しています。
ノホホンといきたいのに、前田慶次のせいで朱槍を持たされた――乱世なら命に関わるレベルの誤解です!
なんでこんな怖いこと、さらりとするのさ……。
服装に気遣えない人々
そして本日。ラストの状況を、一言であらわす言葉を思い出しました。
スタンド使いはスタンド使いにひかれ合う。これだぜ!
『ジョジョの奇妙な冒険』の名言です。
どこか浮いてしまう。そんな才能持ちは、相手のことを見抜く。そういう状態です。
「天才同士ってそうなんだぁ〜、カッコイィ〜」
と、うわっつらだけなぞると、これは失敗します。前作****は常時そんな嘘っぱちの世界ですが。
『半分、青い。』も、この部分はできておりました。
あの作品は、鈴愛以下、服装に特徴がありました。
どうでもよすぎる鈴愛タイプか。
ここぞという時に和装になる――そういう異常なまでのこだわりを見せる秋風羽織か。
これも、漫画家になるくらいのタイプならありだろう。
そういうリアリティを感じました。
空気が読めなさすぎて、逃げて、逃げて、現実逃避して、やっとそこに逃げ込んだ。
そういうものたちの切なさと悲しみも、そこにはありました。
毎日スーツで出社すると息詰まる人間の、そういう成れの果てだよ……。
しつこいようですが、ラーメン実験で油ギトギトの時でも、セクシーサスペンダーをつけていた前作****の**さぁんは、その点のリアリティマイナス3万点だから。視聴者の目を意識して、受け狙いをしおってからに。
本作は、そういうところをうまくやっています。
なつのかぶき者。それに対する富子の反応。
そして無彩色のマコ。
二人とも、見た目からして浮いている。
そういう者同士が接近する。そんな熱が、そこにはあるのです。
※ジョブスはいつもあのセーターだった……
スタンド使いはスタンド使いにひかれ合う
そして、そんな服装が変なもの同士がひかれ合う、今日のラスト。
積み重ねが雑だと、ただの粗っぽい着地になるところでした。
例えば、こんなんだったら、どうでしょう?
出会った瞬間から、わかり合うなつとマコ。『三国志』における劉備と曹操の「君と余だ!」状態かよ。
そして、この二人の会話となれば、男のことばかり。
なつが男と話すときは、
「もぉ〜やだぁ〜!」
と夜のお姉さん状態の甘ったるい語尾。
下山も、茂木も、なつへスケベ目線全開。
亜矢美はなつに嫉妬する。
マコが「その服かわいい〜教えてえぇ〜」とくねくねしながら、なつに聞いてくる。
ナレーションが雑に、
「こうして、わかりあえる天才同士が描いたアニメは素晴らしかったのでした!」
とまとめてしまう。
色々すっとばして、女の子がキャピキャピする姿だけをダラダラ流す。
そうだったら、全然面白くないでしょうよ。
そういう手抜きぬるま湯作品と、本作はまるで違います。だからこそ、見ていると結構刺さってくるんですね。
前述の服装だけではありません。
本作は、なつはじめ、図抜けたクリエイタータイプは、言動がきつくて負けず嫌いなのです。
まるで森の妖精さんみたいなあの天陽ですら、言うことが容赦ない。
そしてマコは小野政次。
なつ本人も「絶対に負けぬ!」と熱くなっている。
ちょっと角が丸くなっている、そんな倉田、陽平、仲もおりますが、弟よりも空気が読めて器用な陽平は、あきらかに芸術的才能で弟に劣ると認識しているわけです。
本作の彼らは、創造性と引き換えに、何か大事なものを失ってしまっている。
そういう悲しさが見えてきます。
マコも、きっとそういう奴なんだろうなぁ。
だからこそ、なつを見出して、助かるんだろうなぁ。
「天才クリエイターカッコいい〜、憧れるぅ!」
と、上っ面だけすくった駄作はありますね。****が典型例ですが。
そんなにね。
良い事ばかりなワケないんですよ。
※ザッカーバーグを描いた『ソーシャル・ネットワーク』は空気の読めなさ描写が秀逸で、辛い映画だった……
そういう理解されにくい者同士の交流が、本作にはあるのです。
※スマホで『なつぞら』や『いだてん』
U-NEXTならスグ見れる!
↓
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
北海道ネタ盛り沢山のコーナーは武将ジャパンの『ゴールデンカムイ特集』へ!
放送前の番宣からアニメーターなつの服どうなの!?広瀬さんだから可愛いけど…と引っかかっていました。
あれは亜矢美のファーストコーデだった訳で。ずっと素朴で衣装の少ないなつだから尖った服装での出勤はもっと先のお話かと思いきや、初日とは。
ともあれ同居からの着放題に納得した月曜
女性の腰掛け入社が常識の時代にファッションがなつの本質を見誤らせる展開が上手いなぁの火曜
誤解を受けても控えめな服(ワードローブに無さそうだけど)を選ばず、派手な色彩を自ら戦闘服とする気概を見た水曜
木曜日、なつの感性に触れたマコがどう出るか。楽しみでなりません。
なつの机上の動画をめくって見ていたマコが、一瞬でただならぬ表情に。
さあこれは、明日、どちらに振れることになるでしょうか。
意外と早くまこさんがなつの才能を認め展開になってきましたが、さてさて、そう簡単にはデレなそうなオーラを放つマコさん。
仲さんと井戸さんが性格も得意ジャンルも異なるエースアニメーターなのと同様に、なつとマコさんの間にはどんな補完関係があるのかな?
ベタでテンプレなお局様のイビリ展開からの仲直り!、ではなくて、ぶつかり続けながら個性派集団の群像劇に持っていきそうな大森脚本。今週は15分が短い。