亜矢美の悲恋とは――。
周囲はあんな恋はないといい、亜矢美はありきたりなオチだという。
果たしてその結末は?
ハッピーエンドでないシンデレラ
ムーランルージュで踊っていたころ、亜矢美に伊崎という早稲田の学生が惚れ込みました。
彼は毎日見に来るようになり、そのころの彼女は25歳。
いまいち芽の出ない、パッとしない地味なバックダンサーに過ぎない存在です。
集団で踊るだけ、多くの観客が気付かないような、そんな踊り子でした。
なつは目をまん丸にして、今からは想像できないと言います。
それでも、彼は彼女の才能を見出しました。
レビューの台本を執筆して持ち込んだところ、なんと採用され、亜矢美はソロで踊りました。
そして亜矢美はブレイクしたのです。
※宝塚のレビュー
亜矢美の踊りを再現するかのように、当時のステージ写真がきっちりと入り込む。これも細かい仕事ですね。
「シンデレラみたい……」
なつはうっとりとしています。咲太郎が、結婚の約束をしていたと指摘します。
けれど、このシンデレラにはハッピーエンドが待っておりませんでした。
学徒出陣を遂げ、伊崎は戦死――。
出征前、伊崎は観客で立ち上がり、こう叫びました。
「岸川亜矢美、ばんざーーーーーい!!」
その声を残し、彼は戻らぬ人となったのです。
翼の折れたスターを救った野良犬
これも本作の細かいところです。
なつと咲太郎の父が残した絵と手紙は、剛男が検閲を避けて伝えられるように、隠して持ち帰りました。

その中には出征したことへの恨み、悲しみ、理不尽さへの怒りが書かれておりました。
そういう生々しい声は、残しにくかった。
伊崎の遺族だって、この婚約者への叫びは知らないのかもしれません。
松井はしみじみと、伊崎の文才を惜しみます。
島貫は、鉄製の風車みたいにとられちまったと言うのです。
そういえば、風車からも製菓道具が供出されたと雪之助が嘆いていました。

「才能に惚れたんじゃないよ……」
亜矢美はそうふっと笑います。
茂木社長は惜しむのです。
戦争の後、伊崎の脚本で踊る亜矢美が見たかったな、って。
「最後はよくある話だね」
「悲しいけど、素敵な話です」
亜矢美に、しみじみとなつは言います。
ここでの【よくある話】がなんとも重たいこと。
先週の蘭子も、恋人が被爆死しておりました。同年代の女性にとって、恋人や夫の戦死は【よくある話】であったのです。

藤正親分がすすり泣いています。
「戦後の亜矢美は、見てられなかった……痛々しくて……スターだった亜矢美が、生きる気力もなくして……それを救ったのが咲太郎」
闇市で、野良犬みたいな咲太郎を拾ってきた。
それが生きる力になって、踊れるようになった。そう語られます。
藤正親分は仁義がありますね。
これは千遥の女将もそうですが、優しいのよ。
女を売り物にするという一点は踏み越えていても、道具としてみなしてはいない。そういう仁義があるんだな。
咲太郎は、野良犬はねえよと苦笑しています。

お互い救われたのです。
人を救うことは、自分自身を救うことでもある――本作の底にあるテーマですね。
「はい、おしまい! この話はおしまい! しんみりするから、話したくなかった」
亜矢美はそう照れつつ、こう宣言します。
「歌おう!」
誘われて、カスミが歌い始めるのでした。
彼女たちの“ありふれた”悲恋
亜矢美は酔い潰されて、なつに寝かされています。
こういうことは珍しいそうです。
夜も結構遅そうなのに、咲太郎は事務所に今から戻るとのこと。
こいつはちょっと時間の感覚が独特ですからね。何かあるんでしょうけれど。
短い兄妹の会話から、咲太郎はほとんど事務所暮らしだとわかります。
ちゃらんぽらんと遊んでいるようで、そうではない。
常識的なサラリーマンではないものの、彼なりの熱意や仕事への取り組み方があるのでしょう。
咲太郎は、道を踏み外さなければいい奴なんです。
なつは、亜矢美が結婚しない理由を反省気味です。
咲太郎も苦笑します。伊崎のことを知ってからは、何も言えないって。
なつは、結婚できないのは咲太郎のせいではなかったと納得しています。
「バカっ」
咲太郎は思わず苦笑い。そこまで疫病神じゃないってば。
まぁ、トラブルメーカーですけどね。

咲太郎も、しみじみと亜矢美を見つめるのでした。
実は亜矢美の悲恋につきましては、重大なヒントがありました。
雪次郎と蘭子です。

・蘭子の恋人も被爆死している
・雪次郎は蘭子の傷心を思いやることができた
・亜矢美は蘭子の嘘を見抜いていた
・蘭子の恋人と重なる雪次郎は、「亜矢美さんはあんなに魅力的だ、咲太郎と恋愛感情があるのではないか?」と言っていた
・なつはそのことを「気持ち悪い」と一蹴(ちょっと鈍感?)
ごめんな、雪次郎……年上女性が好みのタイプなんだって誤解してごめんね!
彼は直感に優れていて、このあたりを読み取っていたのでしょう。
優しい世界だ……。
雪次郎の好みは、訂正しないと。
年上女性が好きなわけじゃない。
【自分なりのストーリーを持った女性に、心惹かれる】んだな!
これはやっぱり夕見子でいいべ。
はい、楽しみですね。
きっと回収してくれるでしょう!
そして、もう一人、気になる存在がいませんか?
川村屋のマダムです。
亜矢美や蘭子と同年代で、おそらく未婚。
カスミもこの中に入れていいかな?
彼女らにも悲恋はあるのでしょうか。
そして咲太郎も、その恋人に関わっているのでしょうか。
神地「なんで茜ちゃんは結婚するかのう!」
さて、気になるなつのお仕事。
テレビシリーズのために、演出家やアニメーターも増えています。
この説明の間、セカセカと動いている坂場。落ち着きがありません。熱意の表現というよりも、ともかくセカセカしてしまう。
カレンダーがベリベリとめくられ、アニメ開始から一年半が経過したとわかります。
そして茜が、電撃結婚をします。相手は……。
※続きは次ページへ
ドラマがモデルと異なっている部分について、
コメント投稿で「自分はどのように感じたか」「改変で良かった面、悪かった面」を述べるのは意味がありますが、
「改変箇所をレビューで解説しないのがどうこう…」
と言っても意味がありません。
何も、モデルの生涯を忠実に再現するのがドラマではない。
私は本作での亜矢美の過去について、制作側が何を表現したいのかよくわかりますし、興味深く見ています。
ドラマの上で意味があり、表現上も問題ないものについて、別にレビューでいちいちモデルからの改編箇所を必ず解説しなくても良いし、解説しないからどうこうというものでもない。レビューはあくまで作品のレビュー。
亜矢美さんの思い出話のヒントとなったであろう明日待子さんのエピソードを以前偶々知った際に、実に切ない感情を覚えてしまったのを思い出しました。
明日さんのエピソードを改変した事によって、作劇的にどのような効果を生んだのかといった技術面からの考察は、武者さんなさったりしないのかしら、と少々勿体なくも思いました。
現在放映中のテレ朝系の昼ドラ『やすらぎの刻~道』では、戦時下の世相を的確に描写しています。
社会のあらゆる面で厳しい統制が敷かれ、息苦しく先の見えない重さに閉ざされたのような日々。居丈高な憲兵よりも遥かに恐ろしい、決して知られない筈のことまで監視し知っている特高の恐怖。等々…
****が流布した誤った戦時下のイメージが払拭されてもらいたいものです。
>乾燥芋様
ご指摘ありがとうございます!
修正させていただきます。
今後もご愛顧よろしくお願いします!
ん?茜ちゃんの眼鏡も髪ゴムも神地が取ったんですよ。
ちゃんと見てました?