「仲さんにそんなっ! 失礼でしょ」
そうたしなめますが、坂場と神地はこう来ました。
「仲さんといたら、永久に新しいものはできなくなる……」
どす黒い。
こいつら、どす黒過ぎます。
朝ドラでこのどす黒さは一体何なのでしょうか。
その仲だって苦しい
なつは、キアラのデザインをずっと考え続けます。
気分転換でしょうか。合間に中庭へ向かい、噴水に佇む仲に話しかけます。
なつは坂場たちの態度を謝りました。
仲はいつものように優しく、進行の遅れを気遣ってくれます。
同時に、キャラクターがないと、脚本ができない――そういう普通と逆のやり方のせいだと、分析しております。
坂場は自分で絵も描けないのに、どうしてもそうしたい。
彼の思考プロセスの問題でしょう。
いきなり書くのではなくて、頭の中でキャラクターを動かして、それを書いていく。そういうタイプ。
無理矢理それを直そうとすると、全く書けなくなるかもしれない。
なつが、そんな坂場は間違っていると思うか? と質問すると、仲は苦しそうにこう答えるのです。
「わからない……正しいのか、そうでないのか。新しいのか、古いのか。判断できない。悔しい。自分の限界を突きつけられて、悔しい……」
絞り出されるような、苦悩に満ちた言葉。
井浦新さんが仲で、しみじみ適切だったと思える――そんな誠意のこもった、哀切な演技です。
そう。本作は、才能ある人間が別の人間を打ち砕いていく。
そういう残酷さをきっちりと描いているんですよね。
弟・天陽はずるいと言う陽平。
なつや坂場に、ついていけない悔しさを見せていたマコ。
そういう敗者も魅力的で、彼らも彼らなりの物語があったと描いているわけです。
主人公のライバルをコテコテの悪党揃いにして、パクリしかできないクズキャラとして描いたって、そんなものは何も面白くありません。
むしろ不愉快なだけ。前作****とかね。
井戸原の推定は?
井戸原と下山は、喫茶店で話し合っています。
下山は、坂場の疑念をズバリ聞いてみます。
「仲さんはイッキュウさんが嫌いなんですか?」
「いや。嫌いなのはむしろ俺だよ」
そう返す井戸原。
冗談半分で本気ではないでしょうけれども。
仲はむしろ、坂場を買っているのです。
テレビに異動させ、実績をあげさせる。そのためにも、愛弟子のなつをつけたのだと。
「あくまで推定だが」
と付け加えつつ、井戸原はそう言います。
これを坂場と比べると、態度の成熟がわかるっちゃそうなのです。
被害妄想と陰謀論に突っ込む。嫌っているからテレビなんだ……と、因果関係を把握できずに思い込む。坂場にはそういうところがあります。
勝手に嫌われていると思い込み、疑念の中をぐるぐるしていた坂場は、子供っぽいところがあるのです。
なつぞら103話 感想あらすじ視聴率(7/29)謀反の種は蒔かれたか?「いつまでも若々しく、子供の心と感性を忘れないこと!」
とは、よいことのように言われますが、実際にそれを職場でやられると、周囲は迷惑を被ることもあるわけでして。
坂場、ついに暴発す
さて、その坂場ですが。
プロポーズで、素晴らしいところが発揮されるかと思ったら、むしろ結婚相手としては嫌な要素が出てきました。
「違うんです、キアラは、こうじゃない! 神の怒りを説明できる、わかりやすいキャラじゃない!」
バンバンと壁まで叩く。
こいつはもパワハラに突っ込みかけている。
なつも限界に達しつつあります。
「あなたの頭の中に向かうのは、無理です」
映画を作らなければ、元も子もない。結婚もない。もう、それどころじゃない。
「一人で映画を作っているわけじゃない」
「わかってます! 絵が描けないけれど、理想じゃないキアラで妥協したくない! 私は私を超える、皆さんも皆さんを超えて、答えを出してください! あなたのキアラを見つけてください!」
あわわわわ……本作で一番すごいことを言い出しちゃったぞぉ……。
もうダメだ。万事休す。そう言いたくなります。
なつもどんよりして、会議室から出てくるのです。
「なっちゃん!」
そこで、救いの神がやってきます。
仲です。
「なっちゃん、頼みがある」
ここで父が告げます。
なつよ、それはきっと仲さんの魂だーー。
坂場と結婚してよいのでしょうか!
火曜日、とりあえずプロポーズしておいて、なんなんでしょう。
見終えた後突っ込みたいことは、これです。
「そいつと結婚していいのか?」
父はそこに踏み込みませんが、そう言いたくなってしまう。
むしろ仲の方が理想的な相手に見えるのはどういうことでしょうか。
月曜日から気になっていましたが、ストレス所以なのか、出世して自由度があがったせいか。
坂場のメンタル状態がややこしいことになっています。
カチンコを失敗する程度の頃は、無邪気なものでした。
しかし今はコイキングがギャラドスになっちゃった感。
強くなって可愛らしさが減った感があります。
どういうことなのか……。
プロポーズの心理分析を試してみたいと思います。
【続・坂場くんはプロポーズする】
「長編映画ができたらば言おうと思っていたところなんです!」
→自分がナゼこのタイミングでそうしたか、説明しているのです。
「あなたの気持ちはどうですかッ!」
→無理強いはできません。その気がないならそれまで。そこは諦めます。
「えっ、結婚ですよ?」
→結婚という一大事なのに、こんなに即答できるものなのでしょうか?
……罠?(※めんどくさい猜疑心)
「映画が成功したらですよ!」
→前提条件の確認です。大事なことなので、二度言いました。
頭痛がしてきますが、坂場も坂場なりに、精一杯気遣っているつもりです。
それが世間とズレているだけで……。
坂場が上司でよいのでしょうか?
坂場め……。
壁をバンバン叩くあたり、こいつはキレさせたらあかんやつ感が出ております。
どうしちゃったんだ、坂場!
結婚相手としてだけではなく、上司としても無茶苦茶に壊れたように思えてきました。
「わかってます! 絵が描けないけれど、理想じゃないキアラで妥協したくない! 私は私を超える、皆さんも皆さんを超えて、答えを出してください! あなたのキアラを見つけてください!」
出ましたよ。最悪の指示なんですよ。
具体的にどういうキャラなのか。イメージはどうなのか。色合いは? モデルは? モチーフは?
それもない。
ただ限界を超えて自分の思う通りにしろって、もう無茶苦茶です。
実は、この俺の脳内ベストを見つけ出せという指示は、前作の**さぁんもやらかしました。
どちらもよくはありません。
ただし、心理的なプロセスはかなり違います。
◆絶叫心理
ダメ社長:「俺の言う事がわからねえのか!」
→忖度しろ、わかるだろう。そういうパワーを見せつけている心理を感じます。
坂場:「皆さんも皆さんを超えて、答えを出してください!」
→パニック状態。自分でも何を言いたいのかわからず、迷子の子供状態で泣き叫んでいる。
◆哲学
ダメ社長:「世の中に役立つことをするんだ!」「若者のトレンドに訴えるんだ!」
→綺麗事、最大公約数、人の心をなんとなく慰撫することを言い続けている感。
その裏付けとなる知識や努力の形跡がみられない。
坂場:「戦争を通して描かれる人間の善悪とは?」
→読書量がともかく多く、常に何か考えていて、自分なりの哲学をガチで常時回しています。
めんどくせええええ!
けど、本人が一番辛くもある。
◆パワーゲーム
ダメ社長:「俺は偉いんだ!」
→天才型クリエイターで上下関係に無頓着……そう言いたい空気はわかります。
けれど、そんなタイプは政治家を接待してライバルの優位に立つ芸当はできません。
礼儀作法を破る時も、キッチリと踏みにじっていい相手を狙ってやっています。意図的です。
坂場:「仲さん、自由にやらせてください……」
→上下関係、失礼か、そうでないか。
その概念を理解できているか、わからない。
◆努力評価
ダメ社長:「片っ端からエビで実験、徹夜! それでこそモーレツ社員だ!」
→ともかくハムスターのように車を回せば評価します。
成果を上げても、残業しない、飲み会に来ない部下は評価を下げるタイプとみた。空気を読めと。
坂場:「それでキアラはできましたか?」
→たとえ一枚目で成果を出そうが、一万枚目で出そうが、彼の中では同じでしょう。
◆愛する相手に求めるもの
ダメ社長:「流石*子だ!」
→夫婦生活、出産、育児、家事労働でしょう。*ちゃんにはそれくらいしか求めていない。
嘘くさい流れで、*ちゃんがアイデアを思いついていましたが、捏造とバレる作りでした。
妻のアイデアはアリバイ作りです。
坂場:「魅力的な強い女性を!」
→イージーな流れなら、愛する女性が出してきただけで鼻の下を伸ばして受け入れるのでしょう。
そうはならないのです。それはそれ、これはこれ。
前作は、クリエイター夫(だろうか?)から感情をもらって生きる女の物語でした。
ビクビクしながら夫の顔色を伺い、他の女にはマウンティングし、奇声を発しながらぐねぐねと踊る。全く楽しそうにも思えないどころか、嘘まみれだと呆れ果てたものです。
今作は、クリエイターと並んで歩く、リアルで生々しい地獄が出てきました。
モデルの方も、いろいろなことがありました。
やさしい作品を作った人が、やさしいわけでもない。
本作は、そういう難しさや厄介さに踏み込んできます。
嫌いな人は本作が大嫌いでしょうが、それで正解でしょう。
誰からも好かれるものが、よい作品とは限らない。坂場セオリーならそうなります。
前作の**さぁんは、誰が食べても美味しいものを作ると息巻いておりましたが。そんなものは存在しません。
好きな人が好きと言い、考えさせ、作り手が満足してこそ。
そんなやっかいな哲学が、本作にはあります。
濃厚で不穏、時折どす黒いドラマです。
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
※北海道ネタ盛り沢山のコーナーは武将ジャパンの『ゴールデンカムイ特集』へ!
板場のようなタイプは、やはり本来はリーダーには向かないな…というのが、私の実体験。
無駄に部下を疲弊させる悪いリーダー類型として、悪い印象を強く持っています。トラウマでもありましょうが。
具体的にどうしたいのか、何がよくないのかを示すことなく、どう直しても不満ばかり。加えて前に言ったことと整合しない矛盾したことまで言い出す。※坂場にはまだ言動矛盾までは出ていませんが。
無理難題のレベルになってるのに、本人は省みることもなく…
坂場については、それでも皆と関係を修復したり、改めて打ち解けたりする機会もあって、関係は継続できているのでしょうが、私の場合はそうではなく、そういうリーダーへの嫌悪・反感は増幅して憎しみというレベルに。
人事異動で関係が切れるまで、対立したままとなりました。
今だったら、パワハラとして相談先に訴え出ているかも。
ドラマの中の板場たちはどう乗り越えるのかな。
そう思いながら見ています。
坂場のプロポーズも「そう来るか?」という具合でしたが、
なつの反応も、「はい。わかりました」とは…?
そう返すか!
モモッチの反応も、むべなるかな。
坂場となつ、やっぱり妙にお似合いかも知れないですね。
仲さんの佇んでいた噴水の池の跡。水面が消えて暑さも一層という感じです。
ところでコイキングからギャラドスのくだり、楽しいです!
武者さんのレビューはとても参考になるので基本楽しみですが、ハマった瞬間は何をされたか分からないポルナレフネタでした
ドラマの間中、作中のアニメがメチャクチャ見たいと思いました。
そして坂場さんは「頭の中でキャラクターが勝手に動いてくれて、彼らの動きを追う」タイプなんでしょうね。
プロットを予め作っておいてキャラクターを作る、ある意味王道なタイプとは違う。
えてして天才クリエイターはこういうタイプが多いので、今後がとても楽しみです。