亜矢美と茂木、なつとイッキュウさんが語ること
さて、一方、風車では。
茂木社長が来店しています。
暑そうにしているとはいえ、やっぱり戸口はむしろ開けている。
「ママを見たら涼しくなった」
「私はお岩さんかっ!」
そう返す亜矢美。
夏にこの会話を流すって、粋だねえ。
※当時は貞子ではなく、こちらが怪談の定番でした
茂木は、亜矢美から咲太郎となつがいなくなって寂しいのではないかと心配そう。
亜矢美は、子育てを終えたお母ちゃん気分だと清々しい顔ではあります。
むしろ寂しいのは茂木かな?
「なっちゃんいないとビールも気が抜けた味がする」
「じゃあ、試してみますかぁ!」
ここでお茶目なかぶき者・亜矢美は、ビールの栓を抜いて笑うのでした。
こういうところ好きだなぁ。あのリアクションを嫌味なく自然にできるのは、山口智子さんをおいて他におりませんよね。
さて、新婚の坂場家では。
嬉しそうに、イッキュウさんがシチューを作っていました。
なつが貰った富士子の料理ノートを見ながら作ったんだって。
二時間かかったことを、ただ報告するだけ。
うれしそう。大変だったとは言わない。楽しそうでもある。
「子供の時と同じ?」
これに対してなつはこう言います。
「牛乳が違うから……これでも十分おいしい!」
「そうか……牛乳だけじゃないかもしれない」
同じではない。ここで、受け流さずに悩んでいます。
おいしいという評価そのものはそこまで重要でなくて、味が違う原因を見出したいんだな。
イッキュウさんは、ここでノートに感謝しつつ、こうこぼします。
「塩は少なめ、醤油は適当。計算できない……」
少なめ、適当に突っかかっている。
うーん、本作はこういうところがわかっているんだな。
「合間に作るんだから、いちいち計量してられないよ」
そうなつが返します。
イッキュウさんはそこでドヤ顔をすることもなく、手を合わせてお行儀よくいただきますと言うのでした。
そうです。
食べ物をこぼすし、一気に食べるのに、こういうところはちゃんとしている。
対等な親子ゆえに
場面は風車。
この場面転換も、重要な要素かも。
亜矢美は、茂木にいい物件がないかと聞き始めます。
茂木は、咲太郎に頼めばいい、最近儲かっているのだからと返すのです。
そしてこう来た。
「親孝行してもらいなよ、これから」
「あの子の負担になりたくない。大人になったんだから、対等」
「咲坊は幸せだよ、そこまで愛されて」
そうきっぱり言いあいます。
本作はマウンティング思考とは真逆を進むのだ。
愛もそう。
束縛は愛じゃない。
自由を認めてこそ愛。
天陽もそうでしたね。
そうは言っても、なつのあとは咲太郎。
亜矢美は美空ひばりの『真っ赤な太陽』を歌っています。
本作は、昭和の風俗や考証はちゃんとしている。少なくとも脚本段階ではそうなのです。
さて、場面は再び坂場家へ。
茜が妊娠で退職するかもしれないと告げると、イッキュウさんはこう来ました。
「当然そうなる」
「それが当然?」
「当然そういう悩みを抱えるだろうと」
この短いやり取りも、面白い。
イッキュウさんは、社会システムの取り組みではなく、茜の心情を【当然】と認識した。
しかし、説明不足でなつすら一瞬ムッとしている。
「私はどうするの? そうなったら、どうなる?」
なつがそう問いかけます。
答えは予想できるけれども、そうじゃないのです。
と、そこでチャイムが鳴りました。
来客です。
イッキュウさんが真っ先に飛んでいきます。
彼は、妻が出迎えてこそだという認識はないのでしょう。
筋力の体格差と安全面を考えれば、妥当なところではある。男の沽券が、そういう合理性を否定するだけで……。
来客は咲太郎でした。
「悪いな、こんな時間に。適当に甘いもん買ってきた」
ここも重要だ。
【適当】が理解できないイッキュウさん、そうじゃない咲太郎。
イッキュウさんには、ケーキの個数、種類、店、場合によっては注文方法まで説明して、メモを渡した方がよいでしょう。
さて、咲太郎を交えて話があります。
女のなつを排除するわけではありません。酒もなし。
【表裏比興】枠に酒はちょっと危ないかも。
自宅で働くとなると、さらに危険度があがってしまう。
咲太郎は、風車の立ち退き案件をなつに明かします。
「かあちゃんは黙ってるなんて、水臭いよな。どうすりゃ頼られる? けじめをつけることにする。結婚する!」
「結婚? 誰と?」
「川村屋のマダムだ!」
「ええっ!」
なつもびっくりしております。
まぁ、いろいろありましたもんね。
ものすごく細かいところですが、昭和風情のあるモンブランの仕事も素晴らしいですね。
もう一つ注目。
なつと咲太郎は食べていないのに、イッキュウさんはもくもくと食べ始めています。
本作は実に仕事が細かいですね。
野上警部、降参する
さて、今日は野上が冴えていました。
その論法は、まるで刑事のようでもあった。
上下関係が把握できていますので、探偵ではなくあくまで刑事。
謎が解けた気がします。
野上「くそぉ、一足遅かったのか。咲太郎めまんまと盗みおって」
マダム「いえ、10万円なら返してくれたわ」
野上「いや、奴はとんでもないものを盗んでいきました」
マダム「?」
野上「あなたの心です」
マダム「……はい」
野上「では失礼します」
人のトリセツ? いや、そこにあるべきものは受容と理解だ
最近、このレビューは絶・不・調ぽいですね。
いや、書いている側は楽しいけど、多分うっすらと気持ち悪いんだと思います。
はい、そこは気にせず、気持ち悪い答え合わせをしましょう。
なつぞら114話 感想あらすじ視聴率(8/10)絵を描く則ち排泄也【表裏比較】枠のイッキュウさんを見て参りますと。
・実験思考誘導
→なつがおいしいと言っても、どこがどう違うのかに突っ込んでいく
・【三顧の礼】方式・兵糧管理
→なつがお願いしている場面はありませんが、自分がやるべきならば、素直にやると理解しています
・「料理は愛情❤︎」とは言わない
→二時間かかったと客観的な事実をいうだけで、愛とは結びつけません
・「適当」が通じない
→富士子レシピのその表記に、混乱していましたね
・「準備に労を惜しまない」
→二時間、二時間だぞ!
本作は仕事が丁寧なので、わかります。
鑑賞や感想の問題じゃない。
これは理解の問題だ。
そしてこれは、テンプレメシマズ描写にリアリティがないことにも通じます。
・女性は料理をできないと露骨にバカにされる。それなのにメシマズ枠ヒロインは恥じらうことはなく堂々とマズイ料理を出す
・調理器具の扱いが不器用であることと、味付けのセンスは別物だが、そこを混同している
・どうしてマズイ? その背景説明が不明瞭
というわけで、今後の夕見子は、彼女なりの超絶料理を作り出すと予想します。
時間はどれほどかかるのか、ちょっと想像つきませんが。
そしてこれは、男女脳の問題じゃない。
「男は解決脳! この切り方は何センチなのか? そこがレシピにないから、作れないんだよな〜」
こんなもん嘘ですね。
男女差の問題じゃない。
脳には男女差ではなく、個人差があるのです。
イッキュウさんが【適当】を理解できないのは、男だからでもなく、家事経験がないからでもなく、彼が彼だからなのです。
そこを見事に本作は、きっちり詰め込んできましたね。毎朝、すごいぞ。
はい、本レビューを我慢しながら読んでいる皆さんだからこそ、お得なライフハックも届けなくちゃ。
夕見子タイプには、こういうマニュアルはまるで通じないどころか、【抹殺パンチ】まっしぐらですので、信じないようにしましょう。
※無駄なく抹殺
炎熱の東京
さて、夕涼みです。
さっちゃんが麦茶を出したあの場面のように、窓を開けた程度で、現在の東京の夜は涼しくなりません。
クーラーをつけずに眠れば、命の危険すらある。
その原因は、ヒートアイランド現象です。
私の仕事仲間だった、沖縄やインド出身者すら驚いたほど、夏の都心は暑いものです。
その最大の要因は?
昭和39年(1964年)東京五輪に本格化した都市整備です。
気になるところではあった。
本作の時系列では、東京五輪を過ぎている。
現時点で昭和42年(1967年)。
にも関わらず、来年が東京五輪であるのに、大河ドラマが五輪テーマなのに、本作では全く触れることすらない。
◆五輪コースが「くさい。トイレみたいな臭い」。海水の臭いに選手が不安訴える オープンウォーターテストイベント
何か起きているのでしょうか?
何かあるとすれば、その全貌が明かされる日は、永遠に来ないのか。それとも、もうそこまで迫っているのでしょうか?
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
自分が一人暮らしを始めたときと、坂場が同じことを言ってて驚きました。塩少々って何グラムだよ。適量ってそれを教えてくれよ。って思ってました。あと強目の中火とか、パニックです。
↓ また嫌がらせだよ。
掌返しはいいけど、拗ねて駄文書いちゃイカンでしょw
連投かつ私見に過ぎない内容で申し訳ありません。ご笑覧いただければと思う次第ではありますが。
前の方の仰るように、作品の受け止め方・感じ方は様々あって当然であり、どれが正しいなどと言えるものでもないでしょう。
作品に対する論評の文についても同じことが言えるでしょう。
「この評者の主張なら信用できる。だからどの作品についての論評も全面的に受け入れる」という立場もあれば、
「この評者の、この論評は自分と同じだ。賛同する。だが、この論評はあまりに違い、自分とは合わない」という立場もあるでしょうし、
そして、「この評者は自分と同じ意見だと思っていたのに、この頃あまりに違うことを書くようになった。もう全面的に受け入れられない」という立場も当然存在してしまうでしょう。残念ながら。
このレビューを「絶不調」とするのは、何を指標・根拠として判断されているのか、私にはわかりませんが、もし、そう判断したくなるような状況があったとしても、
レビューという「作品」にも様々な受け止め方があることを是として、それでもレビュー筆者の思うところをありのままに書く、というのをコンセプトとするのなら、その結果も受け止めるしかないでしょう。
だからと言って、「好調」にするために論調を変えるとか、そんなことをしては存在意義を全く失ってしまうのですから。
ただ、「違う立場の者を攻撃する」のは論外。
自分と合わなければ、離れればいいのに。
いつも楽しくレビュー拝見しております。……社交辞令ではなく、本心から(笑)。
「なつぞら」のリアリティーのある変人描写(褒め言葉です)も、こちらのレビューの的確な分析も、毎日楽しみに読ませていただいておりますよ。むしろ絶好調では?
「いだてん」絡みで色々あるようですが……。
どんな素晴らしい作品でも質が低下することはありますし、そうなった作品を「叩く」のではなく、根拠を明確に示しながら評価すること。それを「掌返し」とは言わないと思います。
それこそ武者様の言う「受容と理解」にも通じる話ですね。
つまり、「1度好きになった作品はけして悪く言わない」という信念を持つファンも居れば、「好きな作品だったからこそ、黙っていることはむしろ裏切りだ」と感じるファンも居る。
どちらが正しいとかいう話ではありません。どっちもありでしょう。なのに、自分と違う意見を持つ他者に対しては異常なほど攻撃的になる……。
そういうのはもうやめましょうと言いたい。世の中全体が息苦しくなるだけで、結局、誰の得にもならないんですから。
メシマズは「公言されていないけど、実は女の子のADHD(あるいは ADD)のキャラクター」という設定なのだずっとと思っていました。
…何故って、そういったメシマズキャラってADHD(ADD)の特性が「これでもか!」とばかりに描写されているから。そして原作者がADHDを公言していたりしたからです。
「◯◯も私とおんなじADHDなんだ…。きっと作者の経験が投影されているんだな!一人じゃない。そして女の子のADHDも多いことが解って勇気が出てきた!!」
と長年思って過ごしていただけに「無知故のテンプレ」もかなり混じっていたという鋭い指摘にははっとさせられました。
そうだよなぁ、男の子のメシマズが少ないのは「ADHDキャラ」のリアルを反映してないよなぁ。
「このレビューが絶不調」?
そうかな?私は楽しみに見てますが。
ただ、コメントはめっきり少なくなった。
私見ですが、このレビュー自体の原因ではないものの、同じ武者氏が執筆されている『いだてん』レビューでの「掌返し」の影響は少なくないかもしれません。ちょうどその頃から、こちらのコメントも少なくなったように思いますし。
武者氏が思ったことを書くのがコンセプトなのでしょうから、そういうこともあるのでしょうが、『いだてん』レビューの論調の急変ぶりは、私には受け入れ難かったです。何か変に現状の政治情勢に影響されてしまったかのようで。
私は現実の情勢とは切り離して、オリンピック参加史の作品を楽しんでみたかっただけなのですが。
あの「掌返し」で、不信感というか、違和感を強く感じてしまい、こちらのレビューもそれまでと同じ気分では読めなくなってしまった方もいるでしょう。