妊婦の苦しみ、周囲の無理解
さて、スタジオでは。
妊娠中の茜が仕事をしているのですが、どこか辛そうです。
なつが気遣うと、夏風邪だけど薬が飲めない、治りが遅いと言うのでした。
これは重大深刻なことですよ。
それなのに、案外認知度が低いんだな。
医療考証も頑張っておりますね。
『半分、青い。』のムンプス難聴関連だって、かなり慎重だったんですけどね。
そこをガン無視して突っかかっていた人もおりました。
エロマンボダンスで色覚が完治する――どこぞの****教団と混同してはならない。
ともかく!
妊婦相手に風邪くらい薬で治せと言うことは、禁句です。
それが周囲には伝わらない。ああ……。
なつが心配していると、関西弁の荒井がこうきました。
「どーしたん? 何かあったんかい? 風邪か?」
「あ、大丈夫です……」
うわっ、この、胸が痛くなるリアリティ。
「ほんま?」
「ただの体でない!」
事情をよくわかっていない荒井に対し、なつは声を荒げます。
理解と想像をしている。だから、茜の分のシゴトも自分でやると断言します。
「ほんま?」
「ほんまです!」
なつは、茜の夫である下山を呼ぶと言います。
額に手を当て、彼女の体温もちゃんと確かめている。ここでも一言許可を取ってからで、いきなり触らずに確認するところが親切ですね。
なつの様子を見て、下山は呼ばれて来ます。
「大丈夫?」
「大丈夫じゃない!」
なつは下山に家まで送らせようとしますが、茜は戸惑っている。
「あまり大げさにしないで……仕事続けにくくなるから……ごめんね、仕事押し付けて」
この茜の、切なそうな演技。
渡辺麻友さんがあまりにリアルだ。
茜みたいな人を、見たことがある。
そこにいた。隣にいた。
申し訳なさそうな妊婦さん。街の中にいる。どこにでもいる。
検診のために。
保育園に迎えに行くために。
子供の看病のために。
仕方がないから早退するのに、申し訳なさそうに、頭をペコペコさせていた先輩。
ベビーカーで、電車に申し訳なさそうに乗ってくるお母さん。
当たり前のことをしただけなのに、見ているこちらが困るくらい、頭を下げてくるお母さん。
胸がドキドキしてきた。
下山は、茜を途中まで送っていくために退席します。
ここまで見てきて、下山のことを嫌な奴だと思いましたか?
そんなことはありませんよね。
でも、どうしてもちょっと鈍感に見えてしまう。
むしろ敏感というか、怖いのは、彼と同席していた神っちの目だ。
これは何かを感じ取っているぞ。
「大変だな、働きながら子供を産むってのは……」
神っちは【魔王】だもんな。
「茜ちゃんが下山さんの子を妊娠? ウッハー!」
と、エロい妄想をする時間は彼にない。代わりに彼は策を巡らせる。
かつて俺が愛した茜ちゃん。彼女を苦しめる理不尽を、どうすれば焼き討ちにできるか?
【魔王】とは、そういう男であろう……?
あるあるだ。リアルな職場だ。
茜:体調不良を隠してしまう、おおっぴらにしないで泣き寝入りする妊婦(当事者)
なつ:泣き寝入りを許せないものの、茜からすると困りかねない頑張り屋さん
荒井&下山:悪い人じゃないけれど、無関心で知識がない。女性の心情、事情にまで想像力を張り巡らせられない人
神っち:このモヤモヤを焼き討ちする【魔王】。スーパーレアカード。イッキュウさんももそこに参戦する予感が……!
一連のやりとりで思い出したのが、今年大河の雑なジェンダー描写です。
「スポーツ女子をエロ目線で見る男が悪いんだー!」
そう叫んでおしまい。
んで?
対策は?
意識改革は?
そこまで提示してようやく問題提起の始まりなのに、劇中たったの一言だけで一部からは喝采を集めておりました。
想像力の拡大はありません。
その点、本作は違いますね。
8月15日のパーティにて
そして8月15日。
風車で、結婚祝いのパーティです。
ここでも昭和レトロなお祝いケーキが出てきます。本作の料理担当者さんは今日も頑張っている!
「かんぱーい!」
新宿のみんながお祝いをします。
なつは、亜矢美にもおめでとうと告げます。
「お兄ちゃんの家族だもの」
そうだ、家族だ!
よっ、亜矢美かあちゃん!
茂木はここで、面倒な子供が片付いたと言っています。
ん?
茂木社長?
マダム結婚の傷心を、亜矢美と分かち合うのかな?
これも結構重要なこと。
茂木はダンディですからね。そういう彼は、粋な愛を楽しみたいのかも。
男は若い女がいいっていうけど、それは誰でもそうなのか? 社長はそういうタイプ?
同じ音楽を聴いて、語り合って、映画を見て。価値観を共有しつつ、愛も分かち合いたいタイプじゃないですかね。
となれば、育児がひと段落した亜矢美とそうなってもいいんじゃないかな。ふふふ……。
熟年期の二人といえば、泰樹ジジイvsとよババアは、精神的殴り愛です。
なつぞら113話 感想あらすじ視聴率(8/9)覚悟はいいか?「かあちゃん、長い間、お世話になりました」
「バカだね、男のセリフじゃないよ」
そう茶化す亜矢美。
いや、男も女もないんだ。すごく自由な親子愛がそこにはあります。
父は、しみじみとこう語ります。
なつよ、母になるもの、悪くはないぞ――。
演技とは何か?
このドラマという舞台で演じるからには、そこにリアルな経験はいらない。
そう言い切るような、見事な山口智子さん。
演じるってそういうこと。
母親役となると、ことさら母親の経験がどうこう言われるものです。
犯罪はそうじゃないのにね。
誰も、咲太郎を演じる岡田将生さんに、犯罪経験は求めちゃいないでしょう。
それこそが演技!
でも、どうにもそれがわからない人が増えてきた。
そう心底うんざりしたのが、****だったのです。
あれは、主演女優のママさん経験をプッシュしすぎていた。
公式ツイートでも、朝ドラで母親経験者が母を演じるとはしゃいでいた始末。
演技論をどこへ置き去りにすれば、こんな恥ずかしいことを言えるのか?
料理人が包丁を握れないと告白するレベルの、悪臭を感じ、NHK大阪の朝ドラ班はもうダメだと確信しました。
リアリティショーと混同していませんか?
自分の生活を切り売りして、セレブになる。
そういう芸術とは真逆の、ゲスなショービズをやりたいのかな?
親子共演もしておりましたし、リアル我が子写真を抱いた女優ショットの公開もありました。
女優の問題じゃないんです。
やらせる方がダメなんです。
そういうのはカーダシアン一族だの、イヴァンカ様、その他諸々で間に合ってるから……受信料でやらなくていいんだ。
◆キム・カーダシアンさん、『KIMONO』ブランド名の変更を発表 「多様な視点に感謝しています」
◆歴史的な場所にイヴァンカがいるぞコラキャンペーン(英語)
The unwanted Ivanka Trump meme is the funniest thing you’ll see today
女王陛下を讃えよ!
亜矢美が山口智子さんというのも、興味深いものがあります。
彼女のニュースを調べていて、あまりにゲスなものが多くて、吐き気がこみあげたことがある。
彼女自身に罪はない。
ただただ、下衆の勘繰りが悪い。
ニュースを再度探すと吐き気がするので、真逆のスタンスとその報道を挙げたいと思います。
あのヘレン・ミレンです。
彼女は母親になることに興味はあったものの、目の前の興味を優先した。
来年、また来年……となるうちに妊娠出産しなかった。
そこに後悔はない。ぜーんぜん。そういう人生もありでしょ。
そう言い切ったのです。
その姿勢がむしろ賞賛された。
ヘレン・ミレン、亜矢美と山口さんが重なるのも、そこなんです。
確認したわけじゃないけど。
それでいいでしょ。文句を言われる筋合いありますかね。
普通じゃない、女として異常って言われる必要ありますか?
惜しいとか、惜しくないとか。
本音は悔しいはずだとか、言われる筋合いはない。
ヘレン・ミレンは、母親役でもいいものがある。
中でも、国そのものの母たる女王陛下を演じたこの映画では、アカデミー賞主演女優賞を獲得。
女王陛下本人をも感動させ、食事に招待したとか(ミレンが多忙を理由に断っています)。
歴史を学べば、そのへんもわかってきますよね。
「女が国を統治するなんて無理でしょ?w」
と笑われた女王が、敵の無敵艦隊を粉砕した。
そういうこともあったな。
※エリザベスはエリザベスでも、初代の方よ
亜矢美は、新宿の女王になるのかもしれない。
その宮殿たるムーランルージュ建設(ショーの開催)が、咲太郎究極の親孝行かも。
笑って母になれ。
それはなつだけのことじゃないんだな。
亜矢美は、笑って母になったんだ。
次は女王だ!
参陣を告げる銅羅の音が聞こえてくる
今日は言いたいことがいろいろあります。
亜矢美の母親としての教育論。
あれは奥深い。
おかあちゃんが作る肉じゃが系のテンプレ神話を、正拳突きでぶち壊す爽快感もある。
亜矢美は、愛をこめて抱きしめる前に、学ぶ大切さを説いてきた。
それが一番に出てくる。
あの場面は、私個人としても、ドキドキしてしまった。
カーテンが風で揺れる図書館に一人でこもって、わからない言葉の意味を調べつつ、本を読むことに没頭していたっけ。
あいつはバカだの、おかしいだの、暗いだの、どうせ図書館に行くなら友達と勉強しろだの。
悪口を言われていることくらい、知ってはいたけど。どうでもよかった。
あの楽しい日々を、本作が思い出させてくれた。
ありがとう!
その人がアニメを愛しつつ、かつ現代のアニメオタク仲間にイライラしている心境が、ビリビリと伝わってきました。
古典的な物語や歴史を知って調べてこそ、心に響く、アニメができるんだぞ!
『銀河英雄伝説』や『ガンダム』から、戦争だの、世の中だのを知った気になるんじゃねえ!
※あっ、作品そのものが悪いんじゃなくて、むしろ大好きです
……ってなところかな?
これ、もう、富野氏あたりがここ数年、散々火をつけているじゃないですか。
◆富野由悠季が“聖地巡礼”について語る建前ナシの本音「アニメファンに外へ出てほしい」
本作のイッキュウさんモデルにしたって、神っちモデルにしたって、無茶苦茶勉強熱心ですよね。
神っちモデルは、兵器が好きだと言われると、理論武装して大反論するしなぁ……。
NHK東京にも、満を辞して参戦してきた智慧者がいるようだ。
そう確信できること。
本作が天運と一致していること。
最近あった、ある大御所アニメーターの失言からも、理解できてしまった。
『半分、青い。』アンチと重なる****信徒のことも。
あれは脚本家が女性というだけじゃない理由もあったんでしょう?
彼女は、バブル期のトレンディドラマの寵児とすらされていたっけ。
そういう彼女が、同じ時期に青春を送った層に、トレンディなんてもう終わったと突きつけたようで、神経を逆なでされたのでは?
あのドラマは、何も考えていなかったわけじゃない。
それどころじゃない、深い何かがある。
一緒に遊んでいた仲間が、突然、読書に目覚めて遠ざかる――置いていかれる側にはそういう不快感があった。
富野氏が、オタクに萌えばかりじゃダメだと言ったせいで、反発されたのと同じ構造がある。
「何も考えずに浮かれていないで、もっと人生と向き合え」
「表面的なことばかりでなくて、深く見ないと」
「考えなければ、いいエンタメにならないんですよ」
そういきなり飲み屋で言われて、バブリーな世代(※および、そんなバブリー上司対策を身につけてきた世代)は驚愕し、不快感をたぎらせ、誰かを無性に殴りたくなった。
でも、NHK東京はそれを楽しんでいるようにすら見える。
人は反論させた時こそ、一番よく喋る。
眺めて、どこをどう攻めたらいいのか理解して、再度挑んできた。
そんな風に思います。
昨日、ナウシカがもう出ているのかもと書き、そして、そのことを考えていました。
もう出ていますよね?
とっくの昔に。
確信できるまで、答えは書かないけど。わかってきた!
今日の描写にも、そのヒントがあったんだな。
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
昨日・今日と見ていて、確かに「咲太郎=ルパン」「亜矢美=不二子」という位置付けはピッタリくると思いました。そうなると、マダムも「クラリス」ですね。
野上さんは、解釈が分かれるでしょう。「銭形警部」という見方もあるようですが、私には「クラリスの園丁の老人」のような感じも受けます。
関係があるのかはわかりませんが、剛男が復員してきた回で、晩に剛男が「富~士子ちゃん」と呼びかけた言い方が、ルパン三世を連想させるもので妙に印象に残ってしまった記憶があります。遠~い伏線だったのかも?