イッキュウさん、演出家として一緒にアニメを作らないか――。
イタリアから帰国したマコが、そう勧めてきました。
彼女はアニメ制作の会社を興していたのです。
まだ小さいけれど、テレビ漫画の企画には下山の合流も決まっている。
マコの野望がついに動き始めました。
『マコの野望・アニメ』
漫画映画ほど凝ったものはできない。
今は絵をあまり動かさないのがカッコいい。
マコはさらりと、最新のアニメトレンドを語ります。
勉強を重ねてきたのでしょう。
感受性、独自のアニメ理論、そしてイタリアで感じ取ったヨーロッパのセンス。
これからアニメで、ルネサンス(再生・復興)を実現する気概を感じます。
「それでいいなら、やる?」
そう問われ、なつは表情豊かでニコニコしています。
一方で、イッキュウさんは無表情。これは演技演出が下手なわけではなく、わざと。個性表現ですね。
どうして黙っているのか、となつは尋ねます。
「マコさんと一緒にやったら、君はどうなる?」
そう言うイッキュウさんに、それはあとあと考えたらいいとなつは言います。
「生まれてからでは遅い」
彼はそう力強く言うのです。
呑気に喜んでいる場合じゃない。
マコはこう来ました。
「なっちゃんは辞められない?」
「はい……それはいきません」
「なっちゃんも誘いたかった。誰よりも、真っ先に誘いたかった」
マコは、しみじみとそう言います。
そういえば、マコさんのクレジット順が移動しましたね。今日は最後でした。重要な役回りなのでしょう。
そんなマコさんは、今日も行動の順番がちょっと違う。
まずなつを誘うのではなくて、照れを克服したようなタイミングで、しみじみと切り出すのでした。
そんなマコは、子供はできなかったそうです。
それで、旦那と相談して好きに生きようと決めたのだと。
「別れたんですか?」
なつが驚くと、円満に別れていないと言いますが。
これはどうだろう?
疑うのもどうかとは思いますが、夫の話は最小限しか出てこないし、結婚指輪も確認できていない。イタリアと日本で離れているのであれば、何かが引っかかるんです。
それに……これは後にでも書きましょうか。
マコ・プロダクションという理想郷
マコは旧姓で仕事をしていて、名刺もそう。
社名は、マコ・プロダクションです。
「女性アニメーターが、母になっても安心して働ける職場」
会社を興す趣旨を語り、そういうことだから来て欲しいとなつを誘うのです。
将来的に会社があればの話だと自虐的な前置きをしつつ。
イッキュウさんも、できると思ったら来てもらう!
そうマコは言いつつ、イッキュウさんは以前と変わってものわかりがよくなったと言うのでした。
「イッキュウさんらしさを失って欲しくないけど……」
そうしみじみと言うマコに、予算と締め切りを守れないことか?となつは突っ込みます。
マコが否定すると、
「冗談です!」
と締めくくる。
マコさんはいいなぁ。
予算と締め切りだけじゃなく、モモッチの前で平然と読書を続行するとか。
結婚式でもくもくと食事を食べ続けるとか。
ダメ出しが結構きついとか。
精神的に煮詰まると壁をバンバン叩くとか。
適量が把握できないとか。
頑固でわがまま、自分勝手と思われそうな言動とか。
イッキュウさんには困った点は、たくさんあるのです。
それをひっくるめて、そこを丸めないで欲しいと言えるマコさんって、素晴らしい人だと思いますよ。
なつぞら103話 感想あらすじ視聴率(7/29)謀反の種は蒔かれたか?社長から予算と期日を守れと言われただけで、絶望していたイッキュウさんと神っち。
彼らの理想郷が見えてきましたね。
マコさんなら、理解しつつ叱咤激励してくれるはず。
そんな新君主・マコは颯爽と去るのでした。
変わらないで、一緒に考えよう
夫婦の寝室では、パジャマ姿の二人が話し合っています。
この場面で、イッキュウさんが枕カバーをつけているのがいいですね。今では旅館でもなかなかないような、レトロなものです。
本作はセリフがないところでも面白い動作をしているのですが、これひとつで時代感と生活感が出てきます。
そして、なつにだけにやらせない。
こういうことは全て妻任せという男性が多かった、あるいは多いでしょう。
それでも、夫婦の気遣いはある。
なつは、私のためにマコとの夢を諦めるのではないかと聞くのです。
イッキュウさんは、これも僕たちの子供のためだと言い切ります。
「ありがたいけど……どんどん変わってしまうのは、私は嫌だよ」
マコの言葉を聞いていて、なつも思うところがあるのかもしれない。
愛する相手が、自分色に染まること。
自分に合わせていくことが嬉しい心理はある。
独身前の友人関係、趣味、仕事、夢。
それを捨ててくれることが愛情だとか。
もらい特許〜もらい発明〜あなたとラーメン教団員♫
それこそが愛だと描いた何だかもありましたが、そうじゃないでしょ。
なつは違うんだ。
ありのままの彼が好きなんだ。
ありのままなんて好かれない、気取って、本心を隠して、周囲にとけこめと社会はまだまだ言うけれど。そういうものでしょうか?
「ならどうしろと? 昔みたいに、自分のことだけ考えろと?」
イッキュウさんは困っている。
合わせて変わることを受け入れたい気持ちがある。
ありのままに〜が暴走すると、アレンデールが氷漬けになるもんね。
「一緒に考えよう! 二人にとって、一番いい方法を」
そう言われて、イッキュウさんは真顔でこう返すのです。
「今は、今もらってる仕事をちゃんとやる! 君はちゃんと産まなくちゃならない! それが一番大事なことだ!」
これが彼なんだ……なつに感謝を告げて、ぎゅっと抱きしめる。そういうことは期待しないで! 目標確認をしてからでないと、安心できないんだ。
理解さえできれば、いい人なんですよ。
職場でも、家庭でも。
イッキュウさんは、マコにお茶を出していました。
しかも、なつの分はノンカフェインのものを別にちゃんと用意しています。そんな気遣いができる彼は、とても気がきくんですよ。
茜の家に彼も来ていた
なつは、茜の家に行きます。
本作は小道具やセットも昭和でして。
茜の家にあるタンスの上の人形とか。
ビーズジャラジャラした暖簾とか。
ボタニカル柄のグラスとか。
なつの部屋のランプシェードとか。
ぬいぐるみとか。
茜のエプロンとか。
なつのイヤリングとか。
レトロでめんこいんですよね。
明子ちゃんは今日も元気です。
こんなにかわいい赤ん坊ならばそれこそ天使だと言いたいところですが、かわいらしさと大変さはまた別です。
イッキュウさんを我慢させたくないと語るなつ。
茜は、子供を預けることの難しさを語ります。
0歳児を預けるとなると奇跡に近い。せめて1歳にならないと。
茜から突きつけられた一年間という現実に、なつは重いものを感じざるを得ません。
マコだって一年待たねばならないわけです。
茜に預ければいいっていうのは、なしですからね。
赤ちゃんの世話は楽じゃありません。
『半分、青い。』では、三オバがかのちゃんを預かっていました。
律とマァくんもそうでしたっけ。あれくらいでちょうどいいんじゃないかな? かのちゃんはちょっと大きくなっていたし。
昔の母はできていた!
なんてことはよく言われますが、乳幼児死亡数、事故は現在よりはるかに多いものでした。
その一例が、囲炉裏に転落し、大火傷を負った野口英世です。
ここで茜は、イッキュウさんはただ我慢しているだけではないと告げます。
なんと、イッキュウさんは茜の元へそっと来ていました。
浮気? んなわけないでしょ。
育児について学んでいるのです。
ミルク、おしめのこと、なんとオムツの作り方まで!
なつには恥ずかしいから、内緒にしてって、子供を待ちわびているんだそうです。
だから、マコの話の後、子供が生まれてからでは遅いと言っていたわけですね。
おおっ……イッキュウさん!
素晴らしい。これも彼なりの考え方なのでしょう。
「ママならではの発想で!」
「女性ならではのきめ細やかさ」
みたいなフレーズって、ありますけれども、男性だって、彼のようになれば取り入れられるのでは?
ついでに言えば、妄想が先行し、リアリティ欠如してしまう女性描写は、女性を排除した帰結とも言えませんか?
そんなことを考えてしまいます。
そうそう、当時は端切れや手ぬぐいを使った布おむつが主流でした。
ロボット掃除機や食器洗浄機、それに液体ミルクまで。
母や妻に楽をさせるなという反対論はありますが、じゃあ電気炊飯器や紙おむつがない生活を想像できるかということでもある。
普及の問題なのです。
生まれた時からあれば、反対する方が馬鹿馬鹿しいとなりますよね。
※続きは次ページへ
若い男が、働く女房にナイショで若い女のところに足しげく通って、さまざまな事を学ぶために家にあがりこんで日々しばらく過ごす。そのことが美談になる流れに、そんなわけあるかい、と考えてしまう私は汚れているんでしょうか。
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イッキュウさんは、マコにお茶を出していました。
しかも、なつの分はノンカフェインのものを別にちゃんと用意しています。そんな気遣いができる彼は、とても気がきくんですよ。
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「一人だけお茶が何か違うな」とは思っていたのですが、こちらのレビューを読んで腑に落ちました。己の浅慮を恥じるばかりです。
それともう一点、誤字脱字かもしれないのでご確認お願いします。
2ページ目 三人の芸術女神を探せ
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雪次郎が夕見子のために歌詞を作る
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イッキュウさんとなつの家。背後に時折響く踏切の音。鐘が「カンカン」と鳴る古いタイプの音色です。これを再現しているのは見事。
茜宅をなつが訪ねたシーン。当時も流行っていたのか、テーブルの上にも台所のほうにも、水栽培のヒヤシンス。昭和50年代初め頃にも小学校の理科の時間には定番でした。
この細かいところの仕事はやはり見事です。
それにつけてもアレは…
いや何でもありません。
いやぁ、このレビューで色々なことに気がつかされます。毎日の深い考察、恐れ入ります。今後の展開も楽しみになってきました。ありがとうございます。
しかしこのサイトに相応しくない、主人公叩きのコメントがまた出てますね。鈴愛に対して行われた理不尽なバッシングと同類です。今回もマコさんとなつの親しい関係から考えれば、全く違和感の無いセリフなのですが。本音をぶつけ合うような付き合いをしたことがない方の感じ方なのでしょうかね。
マコさんの結婚生活が円満なのが真実かどうかはさておき「別れたんですか」と訊くなつはどうかと思いますよー。