【魔王】の巣窟は今日も……!
イッキュウさんは、熱心に企画書を書きます。
そしてマコに提出しました。
マコは悟っています。
「それってもしかして……」
そう、それは奥原なつがその気になった。
奥原なつ、出馬です! ジャーン、ジャーン、ジャーン!
「それはつまり、うちに来るってこと?」
「おそらく辞めます!」
おい、イッキュウさん、おいっ!
独断専行型と言いますか、何をするにしても暴走傾向はありますよね。それで離職していますし。
「自分からやりたいと言いだした!」
「イッキュウさんのためでない?」
「自分のためッ!」
「なら大歓迎よッ!!」
このイッキュウさんとマコの会話も、重要だと思います。
本レビューでもさんざん書いておりますが、女性の社会進出すら、夫のため、我が子のためと言われるモノ。
あのバッドでビッチな「ノトーリアスRBG」ですら、日本だと良妻賢母に押し込められるからね。
◆米最高裁のレジェンド「ノトーリアスRBG」が“バッドでビッチ”な口紅に!
なつぞら66話 感想あらすじ視聴率(6/15)「あーた、あーた、あーた」女は、自分がやりたいことのために生きることすらできんの?
そこを、本作はぶっとばしてきた。
なーにが、「教祖からのもらい感情、付き合うあたしすご〜〜い?」だ。何もすごくねぇよ。
で、その背後では【魔王】神っちもいる。
もう転職済みかーい。
「東洋は泣くわよ……」
と、マコはニヤリ。
「泣かされてきたのはこっちじゃないかーーー!」
と、神っち。
怖いです。【魔王】コンビ。
こいつら、繰り返しますが邪悪極まりないっちゃそうですよ。
東洋動画は、割と話が通じる職場だった。
締め切りと予算を守れと社会人の基礎を言っただけで、絶望して謀反をめざす側がおかしいんだ。
もうこいつらはある意味規格外です。
モデルだの、労組だの、言うだけ無駄無駄無駄ァアア! という気がしてきました。
※こいつらを敵に回したくないっしょ……
常識人の下山は、辞めると決まったわけではないと言います。
彼なりに、東洋への同情はあると思います。
実際に、東洋動画の人たち。根っからの悪人はいませんよね。
私だって好きな人が多いもんなぁ。仲は聖人だし。佐藤部長あたりまで好きだわ。
ここで、イッキュウさんは大興奮だ。
「北海道で決めた! だから間違いないッ!」
うん。それはそうだ。
そこを本人確認取れればもっといいんだけどな。
マコは企画書を見ています。
「原作でなく、原案?」
イッキュウさんは解説します。
世界観を生かしつつ、翻案してゆく、北海道を舞台にして、生きてゆく物語。
これから生み出される、新たな物語なのです。
新しい物語が始まる
なつと優は帰宅しました。
「ただいま〜」
「パパいない」
「いなくても、パパにただいまって言いたいでしょ」
この短いやりとりも、重要ではある。
前述のとおり朝ドラは、子供が「ただいま」と母親に言えないことを断罪しまくってきましたからね。父親不在でもそれは同じでしょうよ。
イッキュウさんが帰宅して、天陽の包装紙を見ています。
「この少女は……」
「描いてみたくなった。そのあとの物語を、描きたくなった。それで、どうしても、描いてみたくなった」
イッキュウさんは、天陽からなつを託されたことを思い出しています。
なつぞら114話 感想あらすじ視聴率(8/10)絵を描く則ち排泄也なっちゃんと生きられるのは、イッキュウさんだけだと。
イッキュウさんと天陽。
なつを間に挟んで、不義だのああだこうだ言いたい層は想像つきますけど。
結婚は束縛でも、所有権の問題でもありません。
それとは別の、精神的な絆があるってことでしょう。
「パパ、おかえり〜!」
ここで、優があいさつをしています。
抱き上げられて、本物の馬を見てきたと言い切るのです。
それは天陽の絵。遺作でした。
それを見て本物だと思ったって。
「優、それが本物だって、よくわかったな。偉いぞ! そうか、お馬さんがいたか」
イッキュウさんは、なつに企画書を見せます。
そこには、北海道が舞台と書かれていました。
北海道を舞台にして、その物語を作るって。
なつよ、また新しい物語が、始まりそうだな――。
新軍師・明美推参ッ! その敵は?
そういえば、明美ちゃんはどうしているかな〜?
と思っていたら、想像以上にたくましくなって颯爽と戻ってきました。やったね!
女子アナ志願ではなくて、報道部を疾走しているらしい。
その戦場は、想像ができる。明美は毎日が、戦いなんだ。
「飲み会なんだからさ〜、お酌しなよ〜」
「女の子なんだからさ〜、女の魅力でネタをとってきなよ〜」
「あの議員さん、明美ちゃんがお気に入りだってさ〜」
「女の子でしょ? あの上司の隣に座りなよ」
「女はいいよな〜、困れば色気で釣ればいいし〜」
◆森達也が望月衣塑子を追った「i-新聞記者ドキュメント-」11月公開
そういう偏見を垂れ流されていると思えば、あのきついセリフも納得できる。
明美は現実と、偏見と、戦い続けている。
明美のセリフを聞いて、毒づいた人のこと。SNSで文句をつけている層も、想像がバッチリできる。
本作は視聴者を反射板にした社会実験である――。
以前にそう記したことがありましたが、まさにそうなっているとハッキリ実感できます。
人は、反論させるとよく喋る。
明美にぶつけられるであろう言葉こそ、彼女の敵なんです。
なんて壮大な社会実験!
なんて面白いんだ!
罵倒まで含めて、本作は面白さと刺激に満ち満ちています。
本作の前では、こんな記事なんて失笑ネタにしかなりません。あ、記事中の女性記者のせいじゃありませんよ。
◆ドラマ好き女性記者による女性のための2019夏ドラマ座談会
どうして女性だけなの?
どうして女の目線が大切なの?
海外のVODでは、ジェンダー項目をおすすめのアルゴリズムからはずし始めているのに?
まだこんな偏見の中でぐるぐる回っているの?
どうしてそうなのかな?
これもさ。リアル夕見子のような北村紗衣先生を、新聞ラテ欄では「美女!」と呼んでいましたからね。
彼女の容貌云々でなくてさ。北村先生が男性でも「イケメン!」って書きますかね。
いつの時代で止まってんだよ、テレビ業界。
このままじゃVODに焼かれるよ?
◆マツコが驚いたウィキペディアの「珍項目」「妖精さんの草取り」とは? #マツコの知らない世界 が話題
そこまで含めて、なにかがぶっ壊す前に、NHK東京朝ドラ班はドラカーリスしまくっていて、震えが止まりません。
ドラカーリス!!
狙いに狙って前作****教団ごと焼いてるんだな。
10年後まで通じる傑作への道
そして本作の、この構造的なややこしさよ。
北海道をどうして舞台にするのか?
複数のモデルをからめているのはナゼなのか?
ラスト一ヶ月。
組み合わせて、組み合わせて、北海道を舞台とした『大草原の小さな家』の姿がやっと見えてきました。
すごい。
壮大すぎて、想像できんかったわ。
これは、日本のアニメ界が、謝罪しているんじゃないかとすら思える。
『太陽の王子 ホルスの大冒険』からは、アイヌのルーツが消されてしまった。
あのスタジオジブリですら、女性の労働条件については疎かった。
レジェンドの妻は、結婚退社している。
アニメの歴史が、拾い損ねた声。
その声を、本作はすくいあげて、問題提起している。
北海道150周年ドラマであり、2019年の現代社会に挑んだ――壮大な傑作だと思えるのです。
NHK東京は、本気で朝ドラを変えようとした。
10年先を見据えた。
2030年になってもすごかったと思えることを、やろうとして挑んできた。
現実が追い抜いたら、それはそれでいい。
それが社会の進化だから。
そしてその冒険は、あと一ヶ月では終わらないのです。
来年以降も続くんだぞ!
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
私は、「イッキュウさんのために大草原に参加、イッキュウさんのためにマコプロへ」の会話は唐突に感じました。彼らなら、そんなこと考えもしない意識レベルじゃないかなと思います。
イッキュウさんのためにマコプロへ行く、なんて自己犠牲は、マコさんもイッキュウさんも望んでないし、アニメーターとしてのなつの自我を信じていないことにつながるからです。なつの自立精神を信じない、そういう2人ではないだろうと。
だからこそ、あの会話は制作側が視聴者に、夫に尽くす嫁に読み違えるなよ、と敢えてでも入れ込んだように見えました。
話としては唐突でしたが、その意気や良し!と感じました。
また、剛男の弱いふりをしている云々は、武者さんも時折指摘される男女逆転の典型だと思いました。
従うふりして、その実ダンナは嫁の手のひらで転がされてる、嗚呼よきかな的なノスタルジーが、どれほど実のない言い草なのかがあらわになりますね