以前も書きましたが、牛に蹴られるとシャレになっていません。
搾乳中が最も危険です。
牛のキック、ヒグマの危険性、雪と寒さを過小評価すると、道産子を怒らせかねない。
下山はこの様子をしっかり見ているわけですが。照男がそれを見て、感心しています。
「うまいもんだなー」
さて、神っちは。
口をちょっと開けて、変な顔になって、首を斜めに傾けて見ている。
むしろスケッチをすると気が散るらしい。
「絶対忘れないよう、目で見る!」
ドヤァ……これも彼の個性なんです。
カメラで撮影するように、脳みそに五感で記憶できるのだ。
カッコいい〜天才〜!
と、そう思うのは結構ですが、怨恨関連でこれをやられると相手にとって大災難になりかねないので、そこは要注意ね。
おそらくや、彼がそういうモードのときに話しかけると、
「邪魔するなぁー! 今、いいところなんだーーーー!」
と、激怒されかねません。
はたから見れば、何がいいところなんだよ、意味がわからねえよ、なんかむかつくわ! となりかねない。
照男相手だろうが、暴走しかねないので、ちょっとハラハラ。
※似たタイプ、シャーロック・ホームズさんの例。集中時に話しかけられると塩対応します
そのころ、陽平は故郷を歩いて自然を見ています。
エゾリスも映るぞ!
うーん、エゾリスか。
これもアニメがテーマと考えますと、興味深いといえばそうなんだ。
というのも、アニメの影響でシマリスの人気がたかまりまして、ペットにしたいという欲求が出てくると。
しかし、あれは外来種なのです。
そう考えますと、エゾリスが映されることの意味を考えちゃうんだな。
キツネもそう。
あれもかわいらしく、本作OPでも駆け回ってはいるものの。
「キツネに触るな! 餌付けするな!」
と、道産子なら真顔になる。
理由は、エキノコックス症です。
『動物のお医者さん』
『銀の匙』
『ゴールデンカムイ』
といった、北海道を舞台としたフィクション。そこでは、人と動物の関わりが重要なテーマとなります。
北海道は【試される大地】だからだべな。
四国出身開拓者の運命
そのころ、なつたちは門倉夫妻の牧場へ。
リアル番長こと門倉が、たくましい腕を見せるタンクトップ姿でうれしそうに農具を見せています。
十勝生まれの「三畝カルチベータ」!
今では、そういうものもあったのか……となりそうですが。
大正時代、これがどれほど画期的であったことか。泰樹も喜んだことでしょう。
門倉の先祖は、香川生まれ。
そしてその妻・よっちゃんの先祖は徳島生まれです。
近県の子孫同士だなんて、運命だ。そう妻の肩を抱き寄せる夫。
演劇部に入ったのが運の尽きだと、照れ笑いする妻。
なんていい、道産子夫婦なんだろう!
なつぞら19話 感想あらすじ視聴率(4/22)女がダメなのかって聞いてんのさ!そうそう、この二人は四国ルーツなのですね。
四国の大きな課題。
それは渇水です。
近代化されて、ダムで改善された部分があるとはいえ、農業で食べていけない人々がいた。
そういう困り果てた人たちが、生きていくために、北海道へ来ました。
北海道移民のルーツも、いくつかあります。
・戊辰戦争における佐幕藩である東北地方(宮城、福島)
参考 ゴールデンカムイ18巻~門倉は会津藩士か仙台藩士か?ルーツを徹底考察!武将ジャパン・四国や北陸、自然災害や事故といった諸事情で、土地を失った人々
で、ここから先が憂鬱ではあるのですが。
開拓ができて、それなりに暮らしていけるようになると、当時の上流階級が、別荘地やリゾートとして北海道を買うようになります。
その極め付けともいえる、利権に突っ込んでしまったのが『あさが来た』の五代様こと五代友厚なんですね(「開拓使官有物払下げ事件」)。
朝ドラでは丸めておりましたが……。
そして本人の責任というより社会構造の問題もありますが……。
道産子の歴史からすれば、これはちょっとシャレになってないんだわ。
そりゃ、本作はNHK大阪をドラカーリスするよな――と納得できなくもありません。
だからこそ大河でも、北海道を舞台にして欲しいんですよね。
渋沢栄一も興味深いとは思いますが……ともかく吉沢亮さん、おめでとうございます!
リアル番長と優ちゃん
そしてモモッチは気づく。
「番長って、あの番長!」
そして、この番長は照れ始めるんです。
俺をモデルにしてアニメを作るなんて! と大感激。
なつは、原作がたまたま番長だったと説明しますが、聞いておりません。
まぁ、知らないほうが幸せなんでないかい。
そして、番長は知りません。
農機具で遊んでいる優の本心を。
だからこそ、ノリノリで番長の真似をするんです。
「うん、ママだいすき!」
「ママも、優大好き!」
「でも、『番長』嫌い……」
「番長はいい奴だよ!」
どうする……さあ、優ちゃんは空気を読めるのか?
「優ちゃん!」
「うん、番長大好きぃ!」
よかった、番長チャレンジ、うまくいってよかった!
「うんほら、いくべ、いくべ! よいしょ、ほれっ!」
上機嫌で優の肩車をするリアル番長でした。
これにはよっちゃんもほっとしています。
「これでしばらく、機嫌いいわ」
よかった。リアル番長チャレンジがうまくいってよかった。このためにも、番長がいてよかった。
心に届く何か
ここで、見ていくべきものも示されます。
それは開拓者たちが耕す古い写真でした。
写真にきっちりと撮影するようにとイッキュウさんもモモッチに伝えます。
これは使わないとね。もう当時も、トラクターの時代です。
なつは、馬で畑を耕していた泰樹の姿を思い出します。
そのころの陽平は――。
彼の目が見つめる姿。畑を耕す靖枝です。
天陽の命が蒔かれた大地を、耕す靖枝。これこそが、絆で結ばれた人の姿かもしれません。
天陽、靖枝、そして陽平。
それから彼のアニメを観る人まで。どんどん広がっていきます。
「開拓者が切り開かねば、見られなかった景色なのね」
そう北海道のことを回想するマコプロのアニメーターたち。
神っちもここでこう言います。
「俺たちがアニメを作らなければ、見られない世界もある」
イッキュウさんはこうだ。
「我々の作る景色も、いい景色にしましょう」
開拓者魂が、ラストスパートに向けてつながり始めます。
陽平がここに合流します。
ふーふーと綿毛を吹く優をスケッチする下山。
走るところを描きたいと彼はリクエストします。
そのとき、牛の姿が見えます。牛は臆病ですので、子供は危険なのです。
牛の恐怖心と子供の警戒心のなさ、そして体の小ささが災いします。
優に危険が――。
同時になつとイッキュウさんが走り出しますが、イッキュウさんは転びます。これはどじっこキャラ付けというわけでもなく、彼ならではの問題でもあるのでしょう。
娘を救えない彼だって辛いので、そこを「狙いすぎぃ〜」とか笑わってはいけない場面かと。
なつは、牛の前に立ちます。
「お〜お〜お〜」
興奮をなだめて、優しく撫でると、牛も落ち着きます。
「はいはい、大丈夫だよ」
グルーミングは、生きる物への愛を示す基本です。
狙いだの色気云々じゃないからね。
そんななつを、イッキュウさんは一心不乱に見ています。
これは神っちもそうですが、目を見開いて、じーっと見つめるところがちょっと独特ではあるのです。
中川大志さんにせよ、染谷将太さんにせよ、役を理解した上での演技のはずですよ。
なつよ、どうやらイッキュウさんたちにも、何か届いたようだぞ――。
父が語る中、明日へ。
十勝での堂々たるフィナーレへ
今日は圧巻でした。
北海道開拓史を、15分でここまでミッチミチに詰め込む。
圧倒されてしまいました。
・牛の危険性
・農耕と酪農の歴史
・開拓者の出身や苦労
・明治時代、孤児の境遇
・観光牧場への展望
何から何まで、道産子の歴史づくし。
まだ未回収のことも、これから触れることでしょう。
本作の見事なところは、十勝と新宿の世界観を、フィナーレで見事に結びつけたところだと思います。
開拓とアニメ。
これを絡ませろと言われても悩ましいところですが、ふたつのテーマがかっちりと噛み合っている。
2本の弦が噛み合った音が、ハーモニーを作り、やがて壮大な音楽になっていくような――そういう試みを感じます。
またお前はそれかっ!
そう言われることはわかっちゃいますが、どうしても思い出すのが『半分、青い。』のフィナーレです。
それまで、すれ違っていた鈴愛と律の運命がからみあって、新たな物語になって終わりました。
コロコロ変わって意味がわからないとは、NHK東京近年の二作品に言われることですが。
一本道ダンジョンは、まぁ、楽っちゃ楽ですけど。そもそもそれはダンジョン(=迷宮)ではなく、単なる廊下では?
そこはまあ、求めるものの違いっちゃそうですね。
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
なつぞら作中の地名でしたら、「音問別(おといべつ)」で合っていますよ。
北海道に実在するのは「音威子府(おといねっぷ)」です。
音威別だと思います