信哉は、咲太郎に後悔を口にしています。
写真すら残したくない、そんな千遥のことを思い、いたたまれない様子。
咲太郎はそんな信哉にこう言い返します。
「いい写真を残してくれた。ありがとう、ノブ」
千遥の幸せを祈るしかできない状況は、今までと同じで変わりません。
それでも、以前とは違って確信をもって祈れる。それだけでいい。
そう自分に言い聞かせるような、咲太郎なのでした。
天陽との再会
「なつは牛の世話か?」と信哉に尋ねられた咲太郎は、昔の友達に会いに行ったと返答。
自転車で、天陽の元へと向かっていました。
声をかけようと上げたなつの手。しかし、やっちゃんと呼ばれる妻の姿を見て、天陽にかけようとしていた声が止まります。
見つめることしかできない。
「なっちゃん、なっちゃん!」
そんななつに、天陽が気づいて声を掛けてきます。
背後で妻・靖枝が頭を下げるのでした。
「帰ってきたんか。何年ぶりかい!」
「天陽さん、結婚おめでとう」
そう語り合うかつての友人同士です。天陽は妻に呼びかけます。
「おい、やっちゃん! あのなっちゃんだ」
靖枝は、結婚の祝電のお礼を告げるのです。
なつは、式に出られなかったと詫びるのでした。
「あがってもらえばいいべさー!」
靖枝がそう促します。
天陽も、靖枝も、すっかり十勝の酪農家です。北海道弁も自然だし、衣装もたたずまいも、よく出ています。
「仲良くやってまーす」と天陽の母役・小林綾子さん。天陽の妻・靖枝役の大原櫻子さんとスタジオ前でオフショット♪#朝ドラ #なつぞら #小林綾子 #大原櫻子 pic.twitter.com/hQNLHu0F1l
— 【公式】連続テレビ小説「なつぞら」 (@asadora_nhk) July 5, 2019
照男もそういう面が出てきました。
髪型はじめ、若い頃は田舎なりのおしゃれを意識していたんだなと。
咲太郎や信哉との差もありますよね。
仲、井戸原、下山、坂場……そんなアニメーターたちとも違います。服装に差がついています。
個性を、きちんと服装からも付けていく仕事がそこにはあります。
大原櫻子さんからは、昭和の北海道農家の女性という感じが出ています。
気候や作業内容をふまえた服装ですし、たたずまいもそんなところがあります。
天陽も、人間らしくなりました。
どうにも妖精さんというか、天使さんというか。
そういう儚さがあったんですけれども、地上に降りてきたような感覚が出てきました。
演じる役者さんは同じです。
吉沢亮さんの演じ分け。そして脚本や演出の効果も発揮されているのでしょう。
作品を作り上げていくまでの現場の雰囲気もよいのでしょうね。
千遥のこと、山田家の反応
なつは、タミの作ったそばがきを食べています。
「おばさんのそばがき、懐かしい」
山田家でそうしみじみとしているなつ。正治は牛乳を差し出してきます。
もう(柴田家で)飲んだだろうとふまえて照れつつ、嬉しそうに今は牛が二頭にまで増えたと語ります。
牛をもっと増やしたいけれども、サイレージ(乳酸発酵させた牧草などの飼料)が必要だし、牛舎も狭いという山田家事情。
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ロールベールラップサイロの点在する採草地/photo by Przykuta wikipediaより引用
牛舎で絵を描くからだべ、と正治が天陽につっこみます。
「お父さん! したって、それも大事だから」
台所に立っている靖枝がそうたしなめます。
彼女には夫の絵への理解がある。そして山田家でも、嫁に発言権がある。そんな風通しの良さを感じます。
なつの初里帰りを迎え、話をしたがる山田家の人々。
【妹が会いにきた】と、なつがその理由を語ります。
妹は結婚を前にして、別れを言いに来たのだと。
タミは千遥が18歳だと聞き、
「時間の流れは早いのね」
と語ります。
しかし、天陽の顔はこわばるのです。彼は直感が優れています。
「別れに来たって、どういうことだべ」
なつから千遥のことを聞いて、山田家の面々も衝撃を受けます。
靖枝は「そんな……」と絶句。彼女と同世代の北海道の人たちは、戦災孤児が本州より身近ではありませんでした。
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タミは「差別があるから……」と暗い顔を示します。
正治は怒りをあらわにします。
「戦争の被害者なのに、おかしな話だわ」
こういうひとつの状況に対して、どう反応するか。
そこで性格の差が出ていますね。
正治は、正義感由来の怒りを表明する人物です。仕方ないと諦めない、そういう心根があります。
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正治のキャラクター像やセリフは重要なことです。
受忍論ーー「そういうものだ」として我慢させようとする社会的な通念に対して、反発する姿勢があるのです。
これはある意味、現代人視点といえばそうかもしれません。
ただ、当時の人が内心そう感じていなかったとも言い切れませんよね。
「当時は誰もそこは疑念に思わなかった」
だけでは終わらせない、本作の姿勢を感じるのです。
なつは、千遥と会えなかったけれど、気持ちは通じ合ったとしめくくるのでした。
天陽君はさみしくないっしょ
タミはここで、こう言い出します。
「なっちゃんは東京で結婚するの?」
なつは考えていないと、即座に否定します。これは重要ですね。
先週土曜日も、結婚の話がうっすらと示されていましたね。
二週連続ということは、来週結婚がらみで何か大きなことがあるのでしょう。
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来週の新出演者から、なつの結婚相手が出る!
……と、予測しておきますか。七夕の翌日から、そうなると。
なつはタミたちを相手に、仕事のことだけ考えていると宣言。
東京に戻らなければならないといいます。
「また会えなくなるけど、さみしくないっしょ! 牛も二頭に増えたし、ふふふ」
なつはそう笑うのでした。
本心から笑っているかどうか、そこはさておき。
その後、なつは天陽のアトリエに向かいます。
馬の絵がありました。
最初の入賞作と、昨年の入賞作だと説明されます。
ここで思い出したように、天陽が『わんぱく牛若丸』を見たと言います。
なつと映画『ファンタジア』を見た、あの帯広の映画館でのことだとわかります。
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「なっちゃんが楽しんでたらいい」
天陽はそう言います。
彼は馬の絵を通して、なつの人生と繋がり続けるのですね。
こういう要素回収が本作は細かくて、考えることが楽しくなってきます。
ここで、十勝の思い出話になり、門倉番長とよっちゃんの名前が出ます。
待ってましたぁ!
名前が出るだけでも嬉しい。そういう脇役ですね。
てっきり結婚かと思ったら、青年団で演劇をしているんだとか。ハマったんですねぇ。
天陽は、そこで舞台美術を担当したそうです。
そこで、靖枝と出会ったのでした。
番長とよっちゃんが、恋の舞台を作るなんて。いいじゃありませんか!
「いかったね、いい人見つかって!」
なつはそう祝福します。
天陽は、父と母が喜んでいる、俺もよかったと思っていると語るのでした。
「開拓農家の娘だし、辛いことも楽しめるから」
そう語る天陽の言葉には嘘がありません。
心の底から、妻を愛しているのでしょう。
その靖枝がコーヒーを持ってきます。なつはそれを受け取り、飲みます。
「おいしい!」
「いかったー!」
靖枝って出番が短いのですけれども、人柄の良さが伝わってきますよね。
天陽も、なつに未練タラタラでなくてよかった。
前作****の職場窃盗常習犯は、缶詰アプローチをしていたヒロインに未練を見せていましたっけ。あれは薄気味悪かったなぁ……。
なんかこういう未練タラタラをロマンと言い切ったり、相手も望んでいると誤解している方もおられるようですが。
二人きりになったところで、天陽がそんなそぶりを見せたとしたら、それはキャラクター崩壊ですからね。
「したらな!」
「また来てくださーい!」
そう北海道のあいさつ(「したっけね」=バイバイ)で見送られるなつ。
笑顔から一転、複雑な表情が浮かんでいます。
広瀬さんの演技は、無言であっても素晴らしいものがありますね。
身振り手振り、大仰な演技、怒鳴り声。
こういうわざとらしい動きを、「キャラクター付け」と勘違いしている方、おられませんか。最近SNS投稿を見ているとそういう趣旨の意見が目立ちます。
本作が「薄い」という評価も、そういう勘違いベースの「キャラ付け」由来ではありませんか。
広瀬さんはじめ、本作の俳優は雄弁だと思います。
くどい振り付けやセリフ読みに頼らない、深い演技がそこから感じられます。
寂しいのはわしもじゃ
帰宅したなつは、総大将・泰樹の元へ向かいます。
困ったら賢者に聞けというわけか。
「じいちゃん、ただいま。私も手伝う」
「いいから。天陽におうて来たんか」
「いいお嫁さんだった。千遥の結婚も、あんな風になるといいな……」
泰樹に、なつはしみじみとそう語ります。
「やっぱり手伝う!」
なつはそう言い出します。
手を動かしていると、脳内が整理できるタイプかもしれませんね。
そして、賢者が胸を貸すタイムがやって来ます。
「じいちゃん……もし私がここに残って酪農続けてたら、じいちゃんはうれしかった?」
「そったらこと考えんな。そったらこと考えるなつにはなって欲しくない」
「けどじいちゃん。私だって……寂しいんだわ。じいちゃん、寂しくて、寂しくて、たまんないんだわ。じいちゃん……」
「なつ……わしだって寂しい。お前がおらんようになって、ずーっと寂しい。寂しくてたまらん」
「じいちゃん……」
「人間が一人で生きようと思えば、寂しくなるのは当たり前だ。それでも、一人で生きなきゃいかん時がくる。誰といてもそう。家族といたって一人で生きなきゃならん……」
はいっ、ここからハイパー泰樹ジジイフィーバータイムです!
※続きは次ページへ
思い出したのは、比嘉さんの「どんど晴れ」で旅館の板場に女が立つかについての葛藤がありました。
男女の立場は逆でしたが。
>わんわんわん様
ご指摘ありがとうございます!
写真入れ替えさせていただきました。
今後もご愛顧よろしくお願いします。
劇中でのタミさんの台詞そのものは「サイロもまだできてないし」だったと思います。
牛の飼育には常に粗飼料(牧草など)が必要 → 牧草等の生えない冬期間の粗飼料はどうするか → 採れる時期に確保し貯蔵しておく → 牛が増えると大量の貯蔵が必要となる → 乾し草は天候にも左右され、大量に安定確保しにくい →雨を避けて積んでおき乳酸発酵させる方法が良い
ということで、夏が短く、かつ霧等で日照時間も限られやすいため乾し草を使いにくい北海道(特に道東)でサイロの導入が進んだ。というようなことを、小・中学校の社会科・地理で教わった記憶があります。
「植物を乳酸発酵させて保存性を高める」というと、漬け物には同様な性質のものは少なくないです。漬け物も、冬季の野菜類の確保のために作り出されてきたものですし、牛も人間の漬け物類似の食べ物で冬を乗り切っていると考えると面白いです。
「牧草を発酵させて栄養分が豊富になった牧草ロール」の写真。思いっきり違いますよ。これは牛舎や厩舎で牛や馬の敷料に使う麦稈(刈り取った後、乾燥させた麦の茎の部分)ロールです。
サイレージにするときは、こんな風にロールにした牧草を黒や白のビニールでラッピングします。(”ロールベールサイレージ”や“ラップサイレージ”で検索してみてください。)
もっとも「なつぞら」の時代には、サイレージはサイロで作ってたので、そもそもロールのサイレージなんて存在してませんけどね。
実家って帰りたくなるし、懐かしいし、ホッとするんだけど、帰ったら帰ったで、辛い記憶が追加されるだけなんだよなぁ。なんでだろ。
BS 美の壺で、草刈さんが、
和菓子を食べたあと、お茶が欲しい…
って言ってました!(笑)
天陽君の絵、
崖で振り返る後ろ姿の馬から、
草原で正面からの馬に変わってましたね。色彩も柔らかい。筆づかいも変わっているよう。馬の表情が優しい。
絵からも天陽君が変わったことがわかりました。良かったね!