リンゴとおみかんが空から降ってくる絵。
直子ちゃんは食いしん坊ですね。
「お姉ちゃん、ほんまの絵描きになったらええのん」
「絵描きさんか」
「お姉ちゃんやったらすぐなれるで、上手やから」
「そんなん考えたこともなかった。うちには夢なんてないわ。夢より大根がちゃんと炊けたんかどうか、それが大事やわ」
喜美子は若干の戸惑いを見せています。
夢を知ってしまったら、引き返せないのかもしれない。
大根を炊く。標準語なら大根を煮るとなるところ、関西弁のやさしさ感じる言い回しですよね。
ここで、マツがおいしくお大根が炊けたと告げるのでした。やっぱり、やさしい言葉だなぁ。
優劣ではなく個性の問題ですが、『なつぞら』のパワフルな北海道女性たちとは違いますよね。
どちらも違って、どちらもいい。
こういう地域性を出すことが素敵です。
草間さんのために、これ、備え付けたってや
そのころ柔道を習う子の親たちが集まっていました。
「柔道のおかげで、礼儀正しくなって姿勢もよくなった。それでも謝礼を受け取らんし……」
そう切り出されます。
中央にいるのは草間宗一郎先生。労いの宴会です。
「品物で返そうと聞いた。間借りしているおたくに不満がある。どうしても備え付けたいものがある」
そう話されて、宗一郎を間借りさせているジョーがムッとするような顔になります。
「どうしても備え付けてやってーな。これはみんなからの気持ち」
備え付けて欲しいものとは?
なんと、ラジオです。
「あ、これ、な、なんで?」
ジョーもこれには驚くばかり。
「川原さんにとちゃいますよ。草間さんに」
「そういうことで」
「そういうことでかんぱ〜い!」
「かんぱ〜い!」
ジョーは照れるような顔になって、その横で宗一郎はニッコリしています。
ええなぁ。
関西の魅力って何? そう問われて、即座に答えを返せる人はいないと思うのです。
でも、これではありませんか。
からかうようで、一本取るようで、機転をきかせてお礼をする。それを笑いでひっくるめてしまう。
やられたと照れ笑いする。それでええことになる。
そういう人情みがあふれていて、とても素敵な場面。
誰もがみんな、幸せになっています。
で、そう終わらせてもええのですが。
ジョーカスや。
ジョーの男の意地なり、誇りなり。傷つけないように、周囲は目一杯気遣っています。
まさにこういうことが【男を立てる】ということでしょう。
それはそれで人情味があってあたたかい。
けれども、時に迷惑だということは考えましょうね。
きみちゃんならそう言ってくれると思った
その後、喜美子は林で宗一郎相手に話しています。
「そうか、草間さん、東京戻るんか」
「茶の間にあったの見た?」
宗一郎はうれしそうです。ラジオのことでしょうね。
直子は大喜びだったものです。
「あっ、あっ?」
そう言い、夢中で触っていました。喜美子は?
「ラジオよりも草間さんいなくなるの、衝撃やわ、東京いかはるの何かあるん?」
ここで宗一郎は、妻を探すと告げるのです。
「結婚してたん!」
喜美子は驚きます。
宗一郎の妻は四年前、満州から海路で帰国していました。
大阪で探したものの見つからず……。そこで今度は東京の友人、親戚を訪ねるのだと宗一郎は語るのです。
「それやったら。はよ行かな。四年も経って奥さん今頃カンカンや!」
喜美子は鬼が角を立てる仕草をしてそう言います。
宗一郎は吹き出します。
「笑っとる場合やないで。戦争で連絡つかなくなって、困っている人よういてるからな」
「きみちゃんならそう言ってくれると思った。普通は、大概の大人はね、満州から戻って四年も行方が戻らないとなると、亡くなったって思う。もう生きてはいない。諦めたらいい。ほとんどの人がそういう。けどきみちゃんは、ちゃんと生きているって言ってくれた」
はよ見つけんかい、と言ってくれたきみちゃん。
宗一郎が一番聞きたい言葉を言ってくれた、そんなきみちゃん。
「見つけるよ、いつか必ず」
「いつか必ず。それが草間さんの夢やな」
宗一郎はここで、結婚式の写真を見せるのです。
喜美子は偉そうな口調でこうきた。
「ふ〜ん、まあまあやな」
「ブハッ、フフフッ、そうか!」
宗一郎は心の底から笑います。
妻の写真を見て、こんなに笑うのはきっと久々のことでしょうね。
次の場面――照子が走っています。
その後ろからは息遣いの荒い男。
直後に、道場へ場面転換。照子の母・和加子が慌てて入ってきます。
「すみません! 信作君、照子しらんけ? いいひんのです。きみちゃんしらん? 照子が、照子がいなくなったんや!」
照子の運命は? こいつが草津の人攫い? こんなハラハラする展開でええの?
そんな朝ドラ、続きは明日!
助け合うこと
本作は『なつぞら』と構造やテーマに共通点があると思えます。
私の趣味と言われればそうかもしれませんが、今日はっきりと感じたのは、宗一郎と喜美子のことです。
年上の男性である宗一郎が、喜美子という少女を救っているようで、そうではない。
お互い救いあっていると思えるのです。
性別や年齢を超えた心の交流があればこそ、宗一郎は一番聞きたかった答えを聞けた。
年上の男性が少女を指導するとなると、ゲスな下心満載の流れが多いとは思う。あるいは見下すとか。
そうではなく魂と魂で交流して、嘘偽りがないからこそ、お互い救われていると思うのです。
北海道と信楽。互いの性格。色々と違うけれども、泰樹となつのような、あの素敵な関係を思い出しました。
テレビのボリュームゾーン問題
『スカーレット』関連記事を見ておりまして、民放プロデューサーの言葉とやらにギョッとしてしまいました。
・『なつぞら』のアニメーターは若者向け
→ん? あの作品のモデルはもう70代以上や故人も多いですよ。主人公の作るアニメモデル視聴者は、もう50代あたりでは?
・女はイケメンしか見ないのに、本作は地味
→まーた脳内主婦層ヒアリング能力発揮してます。NHK大阪前作でセクシー拷問ホイホイ投稿していたSNSユーザー、それを取り上げて提灯記事書いた側にも責任ありますね。
『大草原の少女ソラ』の視聴者あたり、つまり50代前後が若者になってしまうって、どういうこと?
【テレビや新聞のボリュームゾーンは70代前半】って、やっぱり真実ですね。
確かにそこを狙えば堅実でしょう。
しかし、未来には残らない。そういうことではある。
本作は視聴率は伸び悩んでいます。
それは、こういうテレビ業界の分析はもう役に立たないということでは?
今のボリュームゾーンに媚びを売れば、十年後どうなるか。
明白です。滅亡あるのみ。
『なつぞら』の神っちは、新しいことをやるには時間がかかると言っておりました。
朝ドラもそういう挑戦をしているのだとは思います。
『なつぞら』も、本作も、むしろボリュームゾーン(および彼らへの迎合層)にはブッ刺さる価値観を叩きつけてきそうではある。
そこに期待しています。
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
スカーレット/公式サイト
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