信楽の家に泥棒が入った。えらいこっちゃ!
そう思ってしまう喜美子は、仕事に身が入りません。
こぼした絨毯拭き取り指導を受けておりますが、どうにも集中できない。
重曹入りの水でぽんぽんぽんぽん……そう指導されても、ぼーっとしてしまうのです。
「ぼーっとしてんと、ちゃっちゃとやんなはんかいな!」
そこへ小包が届きます。
さだの試着品です。大久保が受け取ります。
キジバトが鳴く春の日――喜美子の頭の中では、あの信作の電話がぐるぐる頭を回ってしまいます。
「ご苦労はんでおます」
そう宅配員を見送る大久保は、ジョーに気づきます。
ジョーーーーーー!
信楽もええけど、大阪で見たかったぁ!
デレデレできないアホなお父ちゃん
今朝も荒木荘では三毛猫がにゃーん。
体型からして日本猫ですね。
こういう典型的な日本猫かつ、柄が濃くてハッキリとした三毛猫は最近ちょっと珍しいかもしれません。
猫にしても、妥協していないと思います。どんな猫でもそこにいるだけで可愛らしいけれども、そこは昭和の三毛猫を出したいのでしょう。
ここで、ジョーがあがってきます。
昭和らしい柄入りのガラス戸が背景にあります。
ぽんぽんと汚れを取る喜美子――それを見るジョー。娘を見守る優しい父になっております。
ここで喜美子が父に気づき、驚いております。
前借り宣言がありますからね。
娘がこちらに気づいたとわかった瞬間、ジョーの父としての顔も険しくなる。
咳払いして、眉をちょっとしかめ、腕組みして、脚を開いて椅子に座る。昭和のおっちゃんです。
アホやな……娘の前でデレデレできないアホな父です。
『なつぞら』の剛男と比較しましょう。
同年代の道産子かつ、義父・泰樹や戸村父子から頼りないと思われていたあの人です。
彼のように素直に妻子に接し、妻を「富士子ちゃん」と呼んでしまうような男は、軟弱者扱いされるんですわ。
で、ジョーが典型です。
アホやろ? 昭和のおっちゃん、アホやろ?
それにしてもこの場面でしみじみと思いました。
ええキャスティングです。目鼻立ちがキリッとした北村一輝さんと戸田恵梨香さんが、親子としてちゃんと似ていると思えるのです。
演出、脚本、表情、言葉、そして演技もあるんでしょうね。
「今日は魚屋はん来えへんな。どないしたろ」
ここで大久保が戻ってきました。
手にはカブ。ではなく、関西弁ですとカブラ。
玄関で覗いてはった姿に気づいたんだとか。カブラはお土産です。
大久保は、わざわざ仕事のついでに、娘の顔を見るために寄ったと思っているようです。ジョーは説得を頑張りましたね。カブラも持ってきたわけですし。
お茶を淹れようとする大久保を、全力で喜美子が止めます。その迫力を、大久保は照れだと誤解しているようですが。
「やっぱりうちが! うちが淹れます! お座りください!」
椅子を引いて、大久保を座らせるのです。
しかも、二度目になるのにジョーと大久保の紹介をしようとする。喜美子は、ここでいろいろ、ぜ〜んぶ教わっていると言います。
荒木社長は東京出張だし。ほやからほやら! 父が話あるそうです!
そう丸める喜美子。父には口をバッテンするマークを出しています。まだ泥棒のことは言っていないということかな。
戸田恵梨香さんがヒロインに抜擢された意味が、よくわかる。
喜美子はハイテンションになるわけですが、そこでもやりすぎない関西弁で抑えていて、自然なんですね。
ジョーは、切り出そうとします。
「喜美子の……喜美子のですね……」
大久保は、まさか前借りとは思わないまま、喜美子を褒め始めます。
最初などないなるかと思ったけど、まあまあやってはる。
若いさかい気が利かないこともある。教えることもある、まだまだ半人前。それでも、こう言い切るのです。
「ええお嬢ちゃんでんなぁ」
わずかなお給金に文句を言わない。辞めさせてくれとも言わない。よう働いている。
夏には奈良の娘の所に引っ越すから、そろまで全て引き継ぎをするつもりだとか。
お給金夏にはアップやーん!
ついに出た本音に、喜美子は感極まった顔になります。
「ついでに言うとく。ストッキングな」
追加分も部屋置いていったとさだは言い切ります。
ストッキング修理は一足12円やで
そして、ついに、あのストッキング地獄の意味が明かされます。
こういう仕事のお給金は、昇給を期待できない。ある程度で頭打ち。
ならばどうする?
「合間で内職しまんねん。わてもよぉやりました。弟の学費、半分内職で稼いだくらいだっせ」
それや!
喜美子のペン立て作りを否定するだけでなく、この器用さならこの内職がええと考えていたと。
はぁ〜、すごいなぁ。
そうやって稼いだ金が弟の学費というあたりも、切ないものがあります。
大久保さんは、家族みんなから尊敬される立派な女性なんでしょうね。
えらいッ!
感動した!!
と、感動させっぱなしではない。それが本作です。
ジョーはそもそもストッキングがわかってへん。
「すと……すと……なんじゃ?」
女の靴下。男は履けへんやろ。そう大久保が言うところで、喜美子はこう来ました。
「股引の、うっすい、うっすいやつ!」
お、おう。せやな。
大久保は、喜美子の手先の器用さを見込んで任せたそうです。だからやらせてみた。
「なんぼあったか覚えてるか?」
喜美子が思い出そうとしていると、こう来ました。
「そんなん、ちゃんと覚えとかなあけへんで!」
これも経験あってのことでしょう。
自分では100と認識していたのに、発注側は80の報酬を払ってくる――そういうピンハネがあったのかもしれません。
身を守るためにも、そこは重要です。
中抜き許さないように――そこは皆さんも気をつけましょう!
喜美子は考えます。
「100はあって、追加で28。128!」
「せや、ようやった!」
大久保は褒めます。
それからこう来た。
「ほんまは封筒に入れたけれども、裸で渡すの失礼か……」
「かまいまへん!」
ここで喜美子も、そしてジョーも必死になる。このテンポがたまりません。
「ほな12円、一足な」
「一足12円!」
親子が垂涎の眼差しで現金を見ています。こんなにええ顔で現金を見る朝ドラ、なかなかないんちゃう?
128足×12円で……1536円! 月給の1.5倍やん!
ゲスな宣伝頼りでもない。クリエイター気取りでもない。病院食なら根を吊り上げられるとゲスな発想をするわけでもない。
汗水垂らして得る。そういう金に目を輝かせて何が悪いのか。
NHK大阪が、現金の素晴らしさをよい意味で押し出して来ました。
受信料のええ使い道を、じっくり考えていそうなドラマや。
大久保さんはええ人
「お父さん、なんのお構いもしませんでごめんやす」
大久保がそう見送る中、喜美子はほなそこまで送って、すぐ戻ると出て行きます。
父子二人で商店街へ。
ここで、二人の険しい顔がだんだんと緩んで来るのです。
※続きは次ページへ
朝ドラをより深く楽しめるレビューを、いつも有難うございます。
私も…「スカーレット」の背後には、作り手である女性の確かな視点と温かい信念があるのを感じます。今まさにたくさんの愛情を丁寧にかけて育てられている、ほんまもんの大阪発ドラマであり、武者さんの期待を信頼していればこそ、実に楽しみです。
家庭や社会の厳しさはリアルに、理想はとことん理想的に描かれ、笑える楽しいシーンが多くちりばめられ…、観るほどにこちらの心が浄化されるようです。頑張り屋さんなヒロインと自分を無意識に重ね合わせているのか(無謀にも)、関係ないはずの私の人生までも昇華させてくれる感覚があります。
地道な努力が報われていくのを見るのは、やはり、嬉しいですね。
荒木荘の面々にはピュアな温もりがあり、実家を出るすべての若者の周囲にいてほしい人たちですね。
また、今回描かれた父と娘、そして大先輩と”私”に流れる「情」には目を瞠りました。目で人を動かそうとする父親、覚えあったなあ~笑。
表情の細やかさと関西ならではのコトバの変化球、濃いけれど、逃せません。
武者さん、これからも宜しくお願いします。
せや!